会計事務所の市場概況 株式会社実務経営サービス 代表取締役 中井 誠 氏

会計事務所を取り巻く環境の変化

会計業務のビジネスモデルは50年続いていたことから大きな変化がなく、安定していた会計業界でしたが、平成14年の税理士法改正により大きく変わることとなりました。
改正により大きく変わったこととしては3つあります。

・広告宣伝の自由化
本来の会計事務所は地域密着型で、積極的な営業活動はできなくてもお客さまを他に取られることがなく安泰でした。しかし改正により広告宣伝が自由になったことから、今ではテレビCMや地下鉄の社内広告、新聞広告など様々なところで会計事務所の広告を見るようになりました。

・税理士法人制度の導入
改正前までは個人で行っていた業務が改正後に法人化が可能になったことから、支店展開をする事務所が増え、営業範囲がボーダレスに広がりました。
大きなところである辻・本郷税理士事務所はM&Aを基調とし、全国57の支部を展開しています。大きな事務所であってもこのように支店を持つようなことは改正前までは考えられませんでした。

・顧問料の価格競争
先ほどの広告宣伝の自由化にもあるように最近ではテレビCMなどでも顧問料3,980円~という価格を目にします。インターネット環境が普及し、情報がオープンになったことからお客さまは会計事務所の顧問料やサービス内容などすべてネットから見て判断することが日常的となってきています。つまり、お客さまが会計事務所を選ぶ時代になったといえます。

また他にも「人の変化」「システムの変化」「お金の変化」も目立ってきています。
事務所の職員のメンタリティも大きな問題の一つですが、市場でみると中小企業の数つまりお客さまの数は徐々にシュリンクしてきています。逆に会計事務所の登録数は増加してきており、市場の取り合い、競争化が進んできているのが現状です。
金融とITの融合としていわれるフィンテック(FinTech)のように、金融情勢もIT、テクノロジーが進み、さらにシステムはクラウドが普及してきております。
そのように時代の流れによって何が変化しているのかを見極めることが第一歩だと考えます。そしてその変化に適応することで事務所は大きく成長していくでしょう。

環境変化の主な要因

冒頭でもお話ししたとおり、会計業界のビジネスモデルは50年と続いてきており、新しい環境に変えなくてもまだまだ十分に今のままでやっていけるという気持ちも強い事務所もあると思います。特に年齢が高くなるにつれて変化への対応も難しくなってきます。
開業税理士の年齢構成をみると、20代は0.6%しかおらず、50代から80代までで全体の約7割を占めています。長期間の受験生活により、試験合格まで時間がかかることから税理士試験の受験者数は減少しており、若い税理士が不足する中、高齢化は進む一方です。
先生からは生涯現役で税理士を続けたいという声をよく耳にしますが、変化の激しい税制、改正がある中でワントップで一人の先生が事務所を正しく導き、誰にも迷惑をかけず顧問先を支援していくことは、高齢化が進む中、非常に厳しくなってきていると思われます。
そんな中、企業の経営環境の悪化や企業倒産もあり、国内においては新設事業者よりも閉鎖・廃業する事業者が増えてきていることから顧問先の平均数は年々減少傾向にあります。一方税理士数は毎年着実に増え、さらに税理士法人の増加に伴い、会計事務所の大型化も進んできています。
つまり、会計事務所も競争が激化してくることが背景からも読み取れます。
弊社で関東地区の事務所536件にアンケート調査をした結果、多くの事務所は減収傾向にあり、既存の顧問先に対する他事務所からの安価な業務提案などにより顧問先の移動も発生してきています。従来型のサービスを今までどおり提供している事務所では、事務所の存続さえ厳しい状況にあり、記帳代行や給与計算などの異業種参入が進み、業界の価格体系の崩壊、低価格競争が進んできているといえます。

環境に適応するためには

では、お客さまを増やすためのマーケティング活動や営業活動、広告活動など何かしているのかを聞いてみると、積極的に活動する事務所も出てきてはいましたが、それでも8割近くの事務所は何も行っていませんでした。お客さまが減少傾向にある中、営業やマーケティング活動をする事務所としない事務所では新規の顧問先獲得に大きな差が出てくることでしょう。

さらに、お客さまが会計事務所に何を求めているのかを見極めることも大切です。何を求めているのか、それは節税や資金などのお金の問題や会計税務以外の相談、ノウハウ提供など、会社の全体にかかわってくる経営や戦略、改善などです。
お客さまが会計事務所を選ぶ時代になった今、会計事務所には経営助言などの高付加価値サービスを求めるようになってきています。実態として経営助言を行う事務所は全体の3割程度です。
今こそ会計事務所は、社長のニーズに応えられる、社長の真の相談相手となることが必要ではないでしょうか。数字だけをみる過去会計から会社の将来をみて助言する未来会計へと業務を変化していくことが重要だといえます。

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