『所得税確定申告モジュール』というのが、正式名称です。これまでずっと『弥生会計』に内蔵されてきた所得税申告機能を、外部モジュールとして分離したのです。
外部モジュールとして分離できるのであれば、.NET Frameworksで所得税申告機能を組み直すことが可能ではないか、.NETを使えばWPFと呼ばれる新世代の描画エンジンを使用できるのではないか、と考えました。WPFなら、ベクトルグラフィックと呼ばれる画面をつくることも容易です。拡大してもきれいに表示されます。また、帳票の上に入力用のコントロールを置けるのではないかとも考えました。しかし、いままでやってきた入力の機能、たとえば差額を表示するような機能は失うわけにはいきません。それをどうやって補完しようか検討しながら、草案がまとまってきました。
もともと『弥生会計』の確定申告画面というのは、確定申告用紙をベースにしてレイアウトを考えています。それでもまだわかりにくいところがあるので、やはり本物に近づけたほうがわかりやすいかもしれないと考えました。
けれど、たとえば文字コードについて言うと『弥生会計』はShift_JISしか対応してないんですが、.NETはUTF-8というUnicodeを使用しています。そのあたりの整合をどうやって取るか、つまり、お客様は前のデータを使って『弥生会計11』のデータも使えるし、そのままアップグレードしても使えるという前提も必要になってきます。実験を繰り返しました。
なにもかもが大変でした(笑)。基本的に全部つくり直さなくてはいけないわけです。集計処理も含めて。
でも、すごい楽しそうにやってました、ふたりは。アイデア出すのとか、すごい楽しそうで……。
最初に、帳票オリエンテッド、つまり帳票指向のかたちでやっていこうというのは決めていました。それがベースというところで設計方針はブレずにきましたね。
夏ごろまでには一通り要素技術は調べたりしてました。ですから、最初に絵を描いた案を、どうやったら実現できるかっていうのはずっと調べてました。
品質の部分を安定させるのに……そうとう苦労しました。
つくったプログラムをテストをするんですね。テストをして、修正して、テストをしてということを、ずっと繰り返して品質を担保していくわけです。
やってみたらぜんぜん動かないっていうのもあります。たとえば、ショートカットキーが『弥生会計』本体と組み合わせてみたら急に動かなくなったりとか(笑)。
そのへんはテストしてる人にすごくがんばってもらったと思います。
ひとりだと解決できないことも出てきました。何人かで、ああでもないこうでもないって話をしていると、ぽっとひらめいて解決策が出てきたりします。問題究明がすごく上手なメンバーが何名かいまして、彼らのおかげでかなり助かりました。
最初は、印刷のとき印刷ダイアログがぽんと小さく出るだけの予定でした。でもプレビュー画面はつくらなきゃいけない。それをどうやって表現しようかって話になったんです。そのとき、誰かが年賀状ソフトみたいなかたちにしてみたらどうだろうって言いだして、いろいろ検討していくと、いままでの弥生ではちょっとなかったような印刷のプレビュー画面と、印刷につながる部分の画面をつくることができたんです。それがけっこう、ブレークスルーの瞬間のひとつでした。
会議室に集まって、みんなで議論を繰り返す。そうしていくと、モヤモヤして雲みたいだったアイデアがキュッと締まっていって、かたちになってくる。それがバチッて組み合わさるようになって……壁を超えた瞬間でした。
日ごろ自分の担当するところしか動かしてないので、ある日、何気なしに印刷ダイアログを押したら「おおお」って思いました。「すごい」とか思って。つくってる側もびっくりした。
まずは画面が帳票そのまま、なおかつズームができて美しい、というところは大きいですね。まったくズレないんです。そこはとっても押したいポイントですね。
デザインです。色とかデザインについては、ひたすらこだわりました。ほんとにミリ単位のマージンとか。あと1ドットずらしてくださいみたいな(笑)。ボタンの大きさとか、配置とか色味とか、かなり凝ってます。
印刷ですかね。最終的な印刷がすごいきれいというところです、個人的には。あと、画面の動きとか、『お知らせボックス』とか。
そう、『お知らせボックス』! ものすごいんですよ。『お知らせボックス』という機能があるんです。従来のメッセージボックスとかメッセージダイアログに代わるものなんですが、いままでにない感じに仕上がりました。
画面の右下に、赤い枠だったりピンクの枠だったりブルーの枠だったり、ユーザーに知らせたい情報をポッと出すんです。
エラーの場合は赤く出すし、警告の場合はピンクで出す、情報の場合は青で出すとか、色味にも意味をつけてるんです。基本的には赤いものを消してもらうというのを最初のコンセプトでつくったんですが、それが評判がよくて……。この赤いのを消していけば申告できるということに気づいたのです。そこから「赤を消せ」みたいなプロモーションのアイデアになっていくわけです。このエラーをどんどん消すように埋めていけば、確定申告書ができあがるんですよ、みたいな。
『弥生会計』のキャッチフレーズとして「かんたん、やさしい」と言っているのですが、誰にとって「かんたん」というのはすごく意識します。また「やさしい」というのはどういうことだろうと、つねに考えています。ふわっとしたキーワードではなく、より具体的にイメージするようにしてます。
ユーザーのなかには、当然最初からぜんぜん知らないかたもいらっしゃるし、会計事務所などのすごい詳しいかたもいらっしゃるし、あと企業のユーザーさんでずっと長年使ってこられたかたも……いろんなユーザーさんがいらっしゃいます。誰にとってやさしいのかと考えると、人によってやさしさってぜんぜん違うことに気づきます。
ほんとに初心者のかたをターゲットにしてしまうと、上級者にとってはすごく不満に思うようなものになるだろうということは以前から感じていました。ですから、まったくの初心者にフォーカスするっていうのは、最初はしないんです。まずは上級者向けに土台をしっかり固めて、次に初心者が徐々にステップアップしながら使いこなせる機能にすることを目指します。
今回の『所得税確定申告モジュール』も、お客様にしてみると、見たことある申告書が出てくるわけです。そういう意味では、すごくシンプルというか、「なんでこれがなかったの?」くらいのものです。最終的には、ソフトを使うという意識はしないでもらえるものに仕上げたいですね。空気みたいな存在感がいいと思っています。
そういう感覚で思ってもらえたら、いちばんうれしいですね。現実世界でやってることと同じ感覚で、ふつうだなっていう感覚。
でも、現実世界にあるものがそのままいいかっていうと、またそれはべつの話です。たとえば、私自身も確定申告書をばっと見せられて、きちんと記入しろって言われたらどうしようって思うわけですよ。そこをサポートしてくれるのはソフトの力だろうというふうに思います。そういう、現実世界プラスアルファの部分をサポートするのは、ソフトで実現していきたいところですね。

















