源泉税(源泉所得税)とは?税率の計算方法や納付書・納付期限について解説
2020/01/31更新

この記事の執筆者渋田貴正(税理士、司法書士、行政書士、社会保険労務士)

企業の経理担当者や事業者として給与計算をする人であれば、誰でも「源泉税(源泉所得税)」という言葉を聞いたことがあるでしょう。言い換えれば、給与や賞与から天引きされる所得税のことです。給与計算をする人にとって必須の知識である源泉所得税。
また源泉所得税は給与や賞与以外にもかかる場合があります。今回は、どのような支払いに源泉所得税がかかるのかということや、金額の決め方などについて詳しく解説します。
POINT
- 源泉所得税とは、給与や賞与などから天引きする所得税のこと。
- 源泉徴収の対象となるのは、給与や賞与の他に士業やデザイナーなど特定の仕事への支払いも対象
- 源泉所得税の納期限は、原則として支払った月の翌月10日
そもそも源泉所得税とは?所得税との違い
従業員の給与を計算する人にとって、源泉所得税について知っておくことは必須です。そもそも源泉所得税とは、給与や報酬を支払う際に、本人に代わって源泉徴収し、天引きする所得税のことです。
給与天引きするのは、所得税以外にも、住民税や社会保険料、雇用保険料などさまざまです。この中でも特に所得税の給与を天引きすることを「源泉徴収」と呼び、給与天引きする所得税のことを「源泉所得税」と呼んでいます。
源泉所得税とは何か?所得税との違いは?
給与天引きした所得税は、従業員本人に代わって、事業主が国に納付します。事業主が納付するといっても、そのお金の出どころは従業員に支払うべき給与から天引きした分です。つまり、源泉所得税で納めているのは従業員の所得税ということです。
所得税を源泉徴収するのは、主に従業員への給与や賞与の支払いですが、このほかにも税理士などの特定の士業への支払いや、デザイナーやライターなど、特定の仕事への支払いについても源泉徴収が必要となります(支払先が法人である場合を除きます)。このような「支払いを受ける者が個人の場合で、源泉徴収の必要がある仕事」の対象範囲については、以下の国税庁のページをご覧ください。
一方、個人事業主のように、確定申告によって納付する所得税のことを「申告所得税」といいます。源泉徴収する所得税も、確定申告で納める所得税も、所得税には変わりありませんが、納める方法が異なるため、区別してこのように呼び分けています。
源泉徴収義務者の条件について
所得税を源泉徴収しなければならない者のことを「源泉徴収義務者」といいます。従業員など支払いを受ける側ではなく、支払いをする側のことです。
会社などの法人だけでなく、個人事業主であっても、従業員を雇用する以上はその給与から所得税を源泉徴収する義務があります。一人社長の会社で、社長に対して支払う役員報酬についてももちろん源泉徴収の対象です。
例外的に、以下のような人のみ源泉徴収義務を免除されています。
-
1.給与を支払っていない個人(人を雇わず、一人で事業をしている個人事業主など)
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2.常時2人以下の家事使用人だけに給与を支払っている個人
2)はよほどのお金持ちの話なので、多くの人が該当するパターンは1)でしょう。例えば、一人で仕事をしている個人のライターが、デザイナーにデザインを外注してお金を支払っても、源泉徴収をしなくてもよいということです。
簡単にまとめると、法人はもれなく源泉徴収義務があり、個人事業主は人を雇っていれば源泉徴収義務があるということです。
源泉所得税の対象となる「所得」「報酬」「料金」とは?
源泉徴収「義務」というからには、源泉徴収する支払いに該当すれば、源泉徴収をしなければいけません。特に給与以外の支払いで、相手方の請求書に源泉所得税の記載がなくても、源泉徴収すべき支払いに該当すれば源泉徴収する必要があります。
相手の手取りが減るからといって源泉徴収せずに満額で支払った場合、税務署に指摘されたときにペナルティを課せられるのは事業主自身です。源泉徴収が義務である以上、源泉徴収せずに支払ったことの責任を負うのは支払った事業主なのです。
このため、どのような支払いが源泉徴収の対象となるのかということを知っておくことがまず必要なことです。源泉所得税の対象には、「所得」「報酬」「料金」などの区分がありますが、重要なのはその中身です。
まず、給与・賞与などの所得から所得税を源泉徴収しなければならないということは誰もが知っていることだと思います。受け取る従業員としても、所得税を源泉徴収されて抗議してくる人はいないでしょう。また、退職金を支払う場合でも、金額によっては退職金も源泉徴収の対象となります。
もう一つ、定期的に源泉徴収が発生するのが、税理士や弁護士、社会保険労務士への顧問料(報酬)です。顧問の先生が個人事業主であれば、顧問料から源泉徴収が必要となります。
また、顧問でなくても司法書士や弁理士などへのスポットの支払いも源泉徴収の対象です。個人事業主として仕事をしている士業への支払いは、基本的に源泉徴収が必要と思っておけばよいでしょう。
これらの職業の個人事業主は、もともと源泉徴収されることが当たり前なので、請求書にも源泉徴収する金額を明記してくれることが多いです。ただし、行政書士への支払いは源泉徴収の対象外となっています。行政書士に仕事をお願いして、請求書に源泉徴収の金額が書いてなくてもそのまま支払って大丈夫です。
給与・賞与や士業の人への支払いについての源泉徴収すること自体はそれほど迷うことはありませんが、「その他の支払い」については注意が必要です。
まずはどのような種類に対する支払いが源泉徴収の対象になるのかということを知っておく必要があります。と言ったものの、源泉徴収の対象となる支払いは幅広く、そのすべてを把握することは税理士のような専門家でも難しいものです。
源泉徴収の対象となる主なものとしては、広告やチラシ、商品のデザインなどの業務や、原稿料、講演料などがあります。わからなければ、都度顧問税理士などに確認することが望ましいですが、最低限、自社の業務に関係する範囲くらいは知っておくとよいでしょう。
源泉徴収義務を判断するのは、人ではなく「仕事」に対してです。個人事業主のAさんが、ある会社では源泉徴収されたと言っても、自社でも源泉徴収する必要はないかもしれません。結局どのような仕事をAさんにお願いしたのかということで源泉徴収するかどうかが決まるのです。
裏を返せば、これらの支払いに該当しなければ、個人への支払いであっても源泉徴収は不要ということになります。
例えば、週1回オフィスのお掃除をしてくれる個人の清掃事業者がいたとします。この人への料金の支払いについては、清掃という業務が源泉徴収の対象となっていないため、個人への支払いであっても源泉徴収不要です。「対象がよくわからないから、とりあえず個人への支払いは源泉徴収しておこう」ということはやめたほうがよいでしょう。源泉徴収したのはいいものの、所得税の納税を忘れてしまって未納扱いになってしまった、なんてことになってはもったいないです。
個人の場合の対象範囲と法人の場合の対象範囲
上記のとおり、個人への支払いであれば、給与・賞与のほか、士業への支払いや、デザイナーなど一定の業務への支払いが対象となります。これに対して、法人が支払先であれば源泉徴収の必要はありません。税理士法人や弁護士法人、デザイン会社などへの支払いは一切源泉徴収が不要です。法人相手に源泉徴収するのは、「馬主である法人に支払う競馬の賞金」だけとなっています。まずほとんどの人は関係ないですね。
また、株式の配当や、金融機関が支払う利息についても、支払先が法人であっても所得税の源泉徴収の対象となるものですが、このあたりも証券会社や金融機関でもない限り気にする必要はないでしょう。
源泉所得税額の税率と計算方法

源泉所得税の計算自体は、それほど難しいものではありません。項目ごとに分かれているので、支払いの種類に応じて、どの計算方法で税額計算するのかを確認しましょう。
給与の源泉所得税の税率と計算方法
給与の源泉所得税については、「給与所得の源泉徴収税額表(月額表)」という表を用いて計算します。この表は、国税庁のホームページからダウンロードできます。
毎年1月に表が改訂されますので、1月支給の給与計算のときには、新しく表をダウンロードして入手しましょう。ちなみに日額表というものもありますが、こちらは主に日払いの人などに払うときに使います。月額表に比べて出番が少ないので、ここでは月額表をベースに解説します。
月額表は、まず自社で年末調整を受ける場合は甲欄、他社で年末調整を受ける場合(自社が副業の場合)は乙欄に分かれています。さらに甲欄は被扶養者の人数と、社会保険料を引いた後の給与の金額によって金額が決まっています。月額表は、計算するというよりは、表に当てはめて天引き額を確認するものです。
また、月額表とは別に、給与計算ソフトを使っている場合には、「電算機計算の特例」という計算方法も使えます。月額表のように表から源泉徴収する金額を確認するのではなく、決められた計算方法によって計算する方法です。やりやすい方法を使えばよいでしょう。
賞与の源泉所得税の税率と計算方法
賞与については、「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」という表を使って計算します。この表も国税庁のホームページからダウンロードできます。甲欄と乙欄に分かれているのは給与と同じです。甲欄については、被扶養者の人数と、前月の給与(社会保険料を引いた後)の金額によって所得税率が変わります。
ただし、月給の10倍を超えるような賞与を受け取る際には表は使えず、特別な計算が必要になる場合があります。
退職金の源泉所得税の税率と計算方法
退職金の源泉所得税の金額は特殊です。まず退職所得を受け取る退職者から「退職所得の受給に関する申告書」という書類の提出がなければ源泉所得税額は一律20.42%となります。とはいえ、このような書類の存在を退職者が知っているわけもないので、通常は支払う会社側で準備してあげることになります。
この申告書が出された場合は、源泉所得税といっても、通常の所得税の計算と同じ方法で計算します。
なぜなら、退職金はその他の所得と合算せずに所得税を計算するため、退職金を支払う時点で対応する所得税の金額も確定するからです。この点、給与や賞与から源泉徴収する所得税はあくまで年末調整をするまでの仮の金額であるのと異なります。
退職金は、所得税上「退職所得」と呼ばれます。退職所得の源泉所得税、つまり退職所得にかかる所得税は勤続年数によって大きく異なってきます。具体的な所得税額については国税庁のホームページなどを参考に支払の都度計算することになります。
報酬の源泉所得税の税率と計算方法
士業やデザイナーなどへの源泉所得税(報酬の源泉所得税)は表のようなものはありませんが、計算自体はシンプルです。所得税を引く前の支払金額が100万円以下であれば(支払金額×10.21%)、100万円を超えるなら(支払金額×20.42%-102,100円)の2パターンです。
士業やデザイナーなどへの報酬の源泉所得税
- 所得税を引く前の支払金額が100万円以下……支払金額×10.21%
- 所得税を引く前の支払金額が100万円以上……支払金額×20.42%-102,100円
士業であれば最初から請求書に記載してくれることが多いですが、請求書に源泉徴収する金額が明記されていない場合には自ら計算する必要があります。この場合でも都度で計算式を確認すればよいでしょう。
源泉所得税の納付書と納付方法について
源泉徴収した所得税は、あくまで従業員や支払先から国に納付するために預かったものであり、納期限までに納付をしなければいけません。まずは納付方法について見てみましょう。
源泉所得税の納付方法には以下の方法があります。
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1.納付書による方法
税務署から郵送される、または税務署に常備されている納付書を使って納付する方法です。 -
2.e-Taxによる方法
e-Taxを使って、口座から自動で引き落とされる方法(ダイレクト納付)や、ペイジーという金融機関のメニューを使って納付する方法です。 -
3.クレジットカードによる方法
「国税クレジットカードお支払サイト」を利用してクレジットカードで納付する方法です。納付時に所定の手数料がかかります。
納付書による方法であればパソコン操作がいらずもっともシンプルですが、金融機関や税務署窓口に行く必要があります。その点2)、3)ならオフィスや自宅からでも納付が可能です。
納期の特例について
源泉所得税は原則として、支払った月の翌月10日までに納付が必要です。しかし、給与(会社の場合は役員報酬も含む)を支払う人数が常に10人未満である事業所の場合は、税務署に申請書を提出して承認を受けることで、給与・賞与・退職金及び士業への支払いについては、7月と翌年1月の年2回、つまり6ヵ月に一度、半年分をまとめて納付すればよいという特例を利用することができます。
少人数の間は、毎月源泉所得税を納付すのは手間ですし、納付回数が多いと、うっかり納付忘れということもあるかもしれません。そのため、この「源泉所得税の納期の特例」は税務署に申請することをオススメします。
ただし、常時10人以上に給与を払うようになれば、この特例は使えなくなります。繁忙期にたまたま10人以上になったという場合はさておき、規模が拡大して、およそ10人以上に給与を払うようになりそうなら、通常どおり毎月の納付に切り替えましょう。
源泉所得税の納税期限はいつまで?
源泉所得税の納付期限は、支払った月の翌月10日(※翌月10日が土日祝であれば後ろ倒しになります)です。会計上、費用に入れた月ではなく支払った月です。
源泉徴収は支払ったタイミングで行うものなのです。例えば6月末締の7月払いといった場合には、会計上は6月の費用となりますが、支払いが7月であれば、納期限は8月10日ということになります。
ただし、「源泉所得税の納期の特例」の承認を受けている場合で、給与・賞与・退職金および士業への支払いについては、毎年1月から6月までに支払った分は7月10日、7月から12月までに支払った分には翌年1月20日に半年分まとめて納税すればよいということになります。ただし、これ以外の支払い(デザイナーなど)については、原則どおり翌月10日が納期限となりますのでご注意を。
源泉所得税は、納期が一日でも遅れると不納付加算税というペナルティがかかることになります。これは、遅れた日数に関わらず納税額の5%となります(不納付加算税が5,000円未満の場合や、直近1年以内に源泉所得税の納付漏れがなく、かつ納期限後1ヵ月以内に納付した場合には、免除されます)。
いずれにしても、源泉所得税の納期限には細心の注意を払っておきましょう。
photo:Getty Images
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この記事の執筆者渋田貴正(税理士、司法書士、行政書士、社会保険労務士)
税理士、司法書士、社会保険労務士、行政書士、起業コンサルタント®。
1984年富山県生まれ。東京大学経済学部卒。
大学卒業後、大手食品メーカーや外資系専門商社にて財務・経理担当として勤務。
在職中に税理士、司法書士、社会保険労務士の資格を取得。2012年独立し、司法書士事務所開設。
2013年にV-Spiritsグループに合流し税理士登録。現在は、税理士・司法書士・社会保険労務士として、税務・人事労務全般の業務を行う。
著書『はじめてでもわかる 簿記と経理の仕事 ’21~’22年版』
