少子高齢化・情報化社会の今、不動産業でどう生き残る?

起業時の課題
資金調達, 事業計画/収支計画の策定, 起業/法人成り関連手続き, 集客、顧客獲得

取締役まで務めた不動産会社を退職し、50代で株式会社MOVE’Sを創業した小山田 孝さん。現在は不動産相続コンサルティングと不動産売買を専門に会社を経営されています。

これからの不動産業界においては、業界知識や幅広い知識に加え独自の専門性を活かした「T字型」の仕事のやり方が重要だと、小山田さんは語ります。今回は、そんな小山田さんに起業までの経緯や専門性を高める工夫などについてお話を伺いました。

会社プロフィール

業種 不動産業
事業継続年数(取材時) 1年未満
起業時の年齢 50代
起業地域 東京都
起業時の従業員数 0人
起業時の資本金 300万円

話し手のプロフィール

会社名
株式会社MOVE’S
代表

小山田 孝

代表取締役社長

エネルギー会社にて用地部門に約12年間携わった後、賃貸管理・仲介、売買仲介(任意売却含む)、不動産特定共同事業、リノベーション企画、不動産開発・運営(宿泊施設、霊園)など、複数の分野で約23年間の不動産職種を経験し、2020年12月15日に株式会社MOVE’Sを設立、同社代表取締役に就任。

目次

コロナ禍で飲食事業は断念。「やるしかない!」と会社設立

まず、現在の事業内容を教えていただけますか?

小山田:不動産会社を経営しています。中でも、不動産相続コンサルティングと不動産の売買仲介を専門に事業を行っています。

もともと不動産業界で長く働いていらっしゃったのですか?

小山田:社会に出て、最初に入社したのはエネルギー会社です。用地管財部門というところで事業用用地の取得、買収など不動産に関する仕事を10年ほど経験しました。ずっと不動産関係のことをやっていると、次第に業界にも興味が湧いてきまして、思い切って不動産会社へ転職しました。

転職後の不動産会社では、まず賃貸の管理・仲介から業務を始め、少しずつ知識を身に付けながら、売買や開発など、不動産業に関するほとんどの業務を経験することができました。また、その会社は飲食業も展開しており、私も最後は取締役として現場の社員の方々をサポートする日々を過ごしていました。

充実してはいたのですが、もともといつかは起業したいと思っていたことと、自分のお店を持ちたいという気持ちもあり、飲食業×不動産の場を提供するサービスをやろうと決意し、退職しました。

飲食業と不動産業の兼業で起業される予定だったのですね。

小山田:はい。不動産業だと、売買仲介の場合、収入があるかどうかは0か100かなんです。でも、飲食は毎日少しずつでも収入を得ることができるじゃないですか。なので、カフェ&バーの形態で飲食を経営しながら不動産業を立ち上げようと、バーでアルバイトをしながら店舗物件を探すなどの開業準備をしていたんです。ところが、そんな最中に新型コロナウイルスが流行り始めてしまって。飲食業の開業を断念し、私1人で会社を設立して不動産業のみに絞ることにしました。

コロナ禍での起業に戸惑いはありませんでしたか?

小山田:飲食業と不動産業の兼業起業が難しくなったとき、もちろん不動産会社に再就職をするという選択肢もありました。ですが、経営者になろうと思って前の会社を辞めていましたし、コロナ禍で転職活動も苦労するのではないかなという懸念と、50歳を過ぎて今さら会社員か、という気持ちもあったんです。それであれば、当初の思いを前面に出して「経営者として何とかやっていくしかない!」と、そういう思いでした。

コロナ禍で起業することに対して多少ためらいはありましたが、こういうときは、自分が今までやってきた経験、強みを活かすのが一番だと腹をくくりました。

相続コンサルティングと売買仲介を専門にした理由

相続と売買仲介を専門にされた理由は何でしょうか?

小山田:前職で取締役を務めさせていただいたときに、創業者が他界されて創業家の相続と会社の事業承継という場面を取締役の立場でお手伝いさせていただいたことがあったのです。それを機に、故人の思いを尊重できて、なおかつ残されたご家族も幸せになる相続、誰も不幸にならない相続をサポートしたいと思うようになりました。

相続は、長いお付き合いを続けながら対策や問題解決を行っていくので、長期的にはいいのですが、実は収益の面では追い付かないところがあるんです。そのため、不動産業でいろいろと経験してきた中でも特に奥が深いと感じていた売買仲介も並行して行っています。

売買仲介の奥の深さとは、どのようなものなのでしょうか?

小山田:賃貸は、賃料などもともと貸し借りの条件が決まっているものをお客さまに紹介するというシンプルなものですが、売買の場合は、価格も流通性もその物件によって全く違ってくるんです。同じような大きさの一戸建てであったとしても、「道路付け」といって、面している道路によって価格が全然違ってくるなど、ちょっとした違いで不動産の査定、評価が変わります。マンションに関しても、向きや階数、室内の状態によって価格が異なる。そういう1つとして同じものがないのが売買の奥深さだなと思います。

設立登記は専門家に依頼。公庫融資も受けての創業

ここからは具体的な起業の手続きなどについてお聞かせください。まず、会社設立の手続きはご自身でされましたか?それとも、士業の方に依頼されたのでしょうか?

小山田:会社を設立するために必要な手続き自体は、スタートアップ企業支援サイトなどの情報で、何が必要かは把握できました。

ただし、今後、定款変更や登記変更をするときには、再び司法書士に依頼をするとコストがかかってしまうので、オンライン登記ができるサービスを利用して自分でやろうと思っています。

1人での起業とのことですが、個人事業主ではなく株式会社にされたのはなぜですか?

小山田:宅建業の場合、高額である不動産を扱うため、顧客や金融機関からの信用という面から法人にしたほうが良いと判断しました。また、いつまでも1人でやり続けるのではなく、組織化を目標に置いているというのも理由の1つです。

起業時の資金はどのように用意されましたか?

小山田:資本金は、すべて自己資金で300万円を用意しました。ただ、事務所を準備するだけでかなりの自己資金を使ってしまうことになるため、その後の運転資金が不安になり、日本政策金融公庫の創業融資も受けました。

起業資金としてはどの程度の支出があったのでしょうか。

小山田:事務所賃借と必要な備品を揃え、会社設立登記費用や営業保証分担金なども合わせると150万円前後かかりました。宅建業の場合、レンタルオフィスではなく、自社専用の事務所を借りて、デスクや電話などもすべて設置したうえで免許申請をしなければいけないんですよね。

なるほど。では、事務所を決めるときに重要視されたことは?

小山田:チェーン展開している不動産会社は、集客をしやすくするために1階に店舗を構えていることが多いと思います。でも、そういう路面店はどうしても賃料が高くつくので借りるのを断念しました。そうなると、雑居ビルや事務所使用が可能なマンションの一室での創業になるのですが、「ここの不動産会社大丈夫かな?」と思わせるような、奥の方に入っていく雑居ビルの一室や、「ここはマンションじゃないの?」と思わせる建物だと入りにくいですよね。お客さまから見たイメージを大切に、なるべく入りやすいところで、外観がオフィスビルのように見えるところを探しました。

お客さまから見たイメージを重要視するのは大切ですね。

起業から1年を振り返り、反省していることとうまくいっていること

起業に際し、もっと準備しておけばよかったと思う点、反省点はありますか?

小山田:集客ですかね。同業種で独立する場合、まだ会社に勤めているうちにある程度お客さまを確保できるケースもあると思うのですが、私の場合はもともと、飲食業を始めようとしていたこともあり、退職後1年以上間が空いてしまっての起業だったんです。

今までお付き合いがあったところに営業に行っても、1年以上空いていると、他との取引実績ができてしまっています。そのため、自分でコストをかけてネット上に広告を出して新規集客をしたり、士業の先生に「不動産の相続でお困りごとがあればお手伝いします」といった営業をかける必要がありました。集客は今も課題ですね。

では逆に、事業を運営していくなかでやっておいてよかったと思われる部分はどういったところですか?

小山田:売買仲介と相続を専門でやると決めてから、それに関する外部研修を受けたり、いくつか専門的な資格を取得しました。そこでの知識や今までの経験が、お客さまとの会話で信頼づくりの役に立ったり、サービス内容や価格にご納得いただくためのスムースな提案に繋がっていると思います。

具体的にはどのような資格を取得したのでしょうか。

小山田:不動産業において最低限必要な資格は「宅地建物取引士」なのですが、それは前職の不動産会社に転職したときに勉強を始め、取得していました。独立時には、宅建士の上位資格である「公認 不動産コンサルティングマスター」を取得し、さらに「相続対策専門士」という派生資格も取得しました。あとは、「家族信託コーディネーター」の資格も持っています。

すごいですね。

小山田:事業と関連性がありそうな資格は積極的に取得するようにしています。自分自身の勉強にもなりますし、お客さまに説明する際の説得力や信頼度が増すのではないかとも思うので。税理士や司法書士の先生へ営業するときも、資格を含めて不動産相続を専門的にやっているとアピールができるのも強みだと感じています。

着目した専門分野がニーズにマッチ!「T字型」という仕事のしかた

不動産業界の今後については、どのようにお考えですか?

小山田:今は、インターネットで情報が簡単に手に入ります。そうすると、どういう物件があるかも全部ネットに載っていますし、不動産査定のシステムに沿って入力すれば、金額の目安が出てくることが当たり前になっているんです。従来の不動産業は早いもの勝ちだったり、「実はこれ出てない情報なんですよ」という話術を用いる手法もあったのですが、今後はそういう手法が通じなくなってくると思います。

これからは、単純に情報を提供するだけの不動産屋ではなく、どれだけ専門的な強みがあるかが重要になってくると思います。もちろん、不動産業に関する広い知識はあった方がいいのですが、それに加えて何か特化した専門知識を持って、T字型のような仕事のやり方をしていかないと難しいのかなと思います。

私の場合は、それが「相続」ですね。相続は、単純に売買仲介だけをやっているとなかなか対応しきれない分野なので、他社との差別化になっているとも感じます。

なるほど。専門性を高めることで選ばれる存在になるということですね。

小山田:はい。実際に今、高齢化社会が進み、「相続をしたけれど、どうすればいいのかわからない」「相続をするかもしれないけれど、どうしようか」などのご相談が徐々に増えてきています。なので、自分が知識や経験を活かしてやりたいことと、世の中のニーズが一致しているのかなと感じますね。

小山田さんにとっての起業の醍醐味は何でしょうか?

小山田:やったことが全部自分に返ってくることが醍醐味であり、プレッシャーでもあります。集客をするにしても、営業をするにしても、当然、会社員とは違う意識でやらないといけません。誰かが仕事をくれるわけではありませんから、仕事を自ら取っていかなきゃいけない。お客さまの信頼を勝ち得なければいけない。特に扱うものが高額の不動産ですから、なおさらそういうところにプレッシャーを感じながらやっています。

その分、ちゃんとお客さまにお話ができて、お客さまが納得されたときはやっぱりやっててよかったと、自分の知識や経験が役に立ったことを実感します。

しっかり自己分析して、自分の強みを活かした起業を!

今後の展望についてお聞かせください。

小山田:まずは売買仲介を軌道に乗せながら、長期的には相続コンサルティングも重点的にやっていきたいです。

また、今は1人会社なのですが、規模を拡大させて社員とともに事業を行っていきたいですね。ずっと1人だと楽な面もあるのでしょうが、せっかく会社を立ち上げたので、ちゃんとした組織作りも経験したいです。

それでは最後に、これから起業される方へメッセージをお願いします。

小山田:会社員経験が長ければ長いほど、そこから飛び出すのは勇気がいることではあります。でも、自分でやったことを結果として見てみたい方や、「会社員としてこれだけ頑張っているのにこんなもんか」と不満を持っている方はトライしてみてもいいのではないかと思いますね。

また、ある程度仕事をしていけば、誰しも自分の強みはわかってきます。たとえば、営業であっても、ガツガツいく営業スタイルなのか、お客さまのお話を聞く営業スタイルなのか、自分の向き不向きみたいなものですね。私の場合は、自分から積極的に提案するよりも、お客さまの悩みごとを聞きながら、お力になれることを見つけていくスタイルなので、相続のご相談には向いているのではないかと思っています。そういった強みを自己分析して、ご自身の事業に活かしてほしいです。

今はお金をかけない起業の仕方もたくさんあるので、ぜひチャレンジしてほしいです。

取材協力:創業手帳
インタビュアー・ライター:稲垣ひろみ

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