ベンチャー企業と資金調達

2020/03/24

一般に、新しいことにチャレンジをし、成長を目指す企業を「ベンチャー企業」といいます。
ベンチャー企業はその志向から株式公開を目指すことが多くあります。株式公開は、IPO(Initial Public Offering)とも言われ、株式公開がされれば証券取引所を通じて株を一般の人に購入してもらうことができるようになります。多くの人が自社の株を購入することができるため、多額の資金調達が可能となります。
ここでは、IPOまでの一般的な道のりを通して、ベンチャー企業と資本による資金調達の関わりをみていきましょう。

ベンチャーキャピタルとエンジェル投資家

一般的な中小企業は、会社を設立した後、起業するまでに貯めた自己資金や金融機関などからの借り入れなどにより開業資金を調達します。

その後は会社を運営することで生じた利益(これを「内部留保」という言い方をするときもあります。)から、借り入れを返済したり、積み立てたお金の再投資を行ったりして、少しずつ事業を拡大していきます。

企業活動のサイクル【負債】債権者 借入 【資本】出資者 出資→集めたお金→【資産】車、商品 投下→【損益】営業活動 商品の販売、商品の仕入、備品の購入、給与の支払 利益→資本として再投下される資金へ

こういった事業活動のサイクルは、着実な成長ではありますが、大規模な事業を一気に行うには適しません。というのも金融機関にとって融資は回収可能性が最も重要であり、革新的なサービスや製品の発明など、将来の収益が読めないものには及び腰になりがちだからです。

そのため、実績がない企業が革新的な商品やサービスなどを事業化するには、その将来性を買い、資金を融通してくれる投資家を探す必要があります。

こうしたベンチャー企業の先見性を見出し、資金を融通してくれる出資者をベンチャーキャピタル(Venture Capital:VC)やエンジェル投資家といいます。

投資ラウンドと必要資金

こういったVC等は、上場に必要な資金をいきなり全部提供するわけではありません。というのも、上場するには事業そのものの成長に加えて、上場要件を満たす社内体制を整備する必要もあるため、資金提供したすべての企業が上場できるわけではなく、事業が頓挫することも十分考えられるからです。

そこでベンチャー企業としては、段階に応じて金融機関の借り入れなども利用し、少しずつ成長に合わせて資金調達を行うことが一般的です。このような投資における段階を示したものが「投資ラウンド」です。

投資ラウンド 時期 調達規模 主な調達先
シード 起業前 数百万 知人、金融機関など
アーリー 起業直後 数百~数千万 エンジェル投資家、金融機関など
シリーズA 市場生成期 数千万 エンジェル投資家、VC、投資ファンドなど
シリーズB 成長期 数億円 VC、投資ファンドなど
シリーズC 安定期 数十億円~ VC、投資ファンドなど

シード

ビジネスモデルや試作品が出来上がっただけの状態で、これを事業化するために会社を設立したり、開業のための設備や初期の仕入の費用をまかなうために資金を調達します。

アーリー

無事に開業できたとしても、事業を軌道に乗せるまでは赤字決算となってしまうでしょう。こうした事業を軌道に乗せるまでの必要資金をまかなうための資金調達がアーリー段階です。

シリーズA

市場を獲得するために大きなコストを掛ける段階で行う調達がシリーズAです。商品やサービスが認知され顧客を増大させる時期に当たります。一般的にはVCにプレゼンテーション(プレゼン)を行い、資金提供を求めます。もし見込みがあればVCが積極的に関与してくる可能性もありますので、これからの市場やそれによる収益の見込額、現状の課題、資金の使途などを、詳細な資料により具体的に説明できなければなりません。

シリーズB

事業が軌道に乗った段階で、広告宣伝などにより自社商品の知名度を高めたり、急な需要に対応するための設備を整えたり、人材を確保したりするための資金を獲得するのがシリーズBです。

なお、一つのVCのみから調達する必要はなく、目標額に対して様々なVCや金融機関を当たり調達を行います。シリーズBの資金調達を行う企業は数が少なく、VCにとっても規模が大きな案件になりがちなため、数年にわたる事業展開などを具体的な裏付けのある数字をもとに説明できることが重要です。

シリーズC

最終段階のシリーズCは、市場へのアプローチだけでなく、IPOを目指すための社内体制の構築に関する資金調達も行っていきます。

資金調達と起業家の役割

このように、自己資金でまかなえる金額以上の資金を集め事業を急拡大させたい場合には、自社の行う事業の可能性を見出し、増資を引き受けてくれる投資家を探さなければなりません。そのため、起業家(代表取締役)は自社の事業計画をまとめ、さまざまなVCやエンジェル投資家、金融機関をめぐり、プレゼンを行います。また、さまざまな機関が、こうした起業家たちと投資家を結ぶ起業コンテストを行うこともあります。

事業計画をしっかり作り、それを元に積極的に出資先を求め活動する起業家の頑張りが、IPOに向けた重要な要素といえるのかもしれません。

著者:小島 孝子(税理士)

早稲田大学 社会科学部,青山学院大学 会計プロフェッション研究科卒。
大学在学中から地元会計事務所に勤務し、その後、都内税理士法人、大手税理士受験対策校講師、大手企業経理部に勤務したのち2010年に小島孝子税理士事務所を設立。会計事務所、経理職員向け税務・経理に関するセミナー多数担当。

著書

  • 簿記試験合格者のための初めての経理実務(税務経理協会)
  • 税理士試験計算プラクティス消費税法解法の極意(中央経済社)
  • 3年後に必ず差が出る20代から知っておきたい経理の教科書(翔泳社)
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