災害・疾病等、環境変化による緊急時の資金調達(4)

2020/04/17(2021/9/15更新)

災害が発生した場合、政府はどういう施策を実施するのか?

地震や台風等の災害が発生した場合、主に「災害救助法」及び「激甚災害制度」に基づく中小企業対策が実施されます。つまり、災害においては、ある程度、支援の型が定まっていることになります(疾病については、新型コロナウイルス感染症が収束したら支援の型が定まってくると思われます)。それぞれの概略を確認してみましょう。

1. 災害救助法

災害などが発生して事業者が被災を受けた際には、災害救助法に基づいて中小企業支援が実施されます。災害救助法とは、災害直後の応急的な生活の救済などを定めた法律のことをいいます。具体的には、災害救助法が適用された地域に対して、経済産業省は、一般的に、以下の被災中小企業・小規模事業者対策を実施します。

1)特別相談窓口の設置

適用地域の日本政策金融公庫、商工組合中央金庫、信用保証協会、商工会議所、商工会連合会、中小企業団体中央会及びよろず支援拠点、並びに全国商店街振興組合連合会、中小企業基盤整備機構、経済産業局に特別相談窓口が設置されます。

2)災害復旧貸付の実施

災害を受けた中小企業・小規模事業者を対象に、適用地域の日本政策金融公庫及び商工組合中央金庫が運転資金又は設備資金を融資する災害復旧貸付が実施されます。

3)セーフティネット保証4号の適用

災害救助法が適用された適用地域において、災害の影響により売上高等が減少している中小企業・小規模事業者を対象に、信用保証協会が一般保証とは別枠の限度額で融資額の100%を保証するセーフティネット保証4号が適用されます。

4)既往債務の返済条件緩和等の対応

適用地域の日本政策金融公庫、商工組合中央金庫及び信用保証協会に対して、返済猶予等の既往債務の条件変更、貸出手続きの迅速化及び担保徴求の弾力化などについて、災害により被害を受けた中小企業・小規模事業者の実情に応じて対応するよう要請がされます。

5)小規模企業共済「災害時貸付」の適用

災害救助法が適用された適用地域において被害を受けた小規模企業共済契約者に対し、中小企業基盤整備機構が原則として即日で低利で融資を行う災害時貸付が適用されます。

イメージとして、テレビ、新聞などの大手メディアなどで大々的に報道される程度の災害の場合は、この「災害救助法」に基づく支援策が実施されると認識してくださって結構です。そして、さらに被災が拡大したり、災害規模が甚大であると判断されると、次に説明する「激甚災害」制度による対応策が実施される場合があります。

2. 激甚災害制度

激甚災害制度とは、地方財政の負担を緩和し、又は被災者に対する特別の助成を行うことが特に必要と認められる災害が発生した場合に、中央防災会議の意見を聴いた上で、当該災害を激甚災害として指定し、併せて当該災害に対して適用すべき災害復旧事業等に係る国庫補助の特別措置等を指定するものです。指定されると、地方公共団体の行う災害復旧事業等への国庫補助のかさ上げや中小企業事業者への保証の特例など、特別の財政援助・助成措置が講じられます。(※出典:内閣府 激甚災害からの復旧・復興対策より新しいウィンドウで開く

具体的には、激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律に基づき、災害救助法が適用された地域等の中小企業者等に対し、以下の通り、中小企業信用保険の特例措置、災害復旧貸付の金利引下げ等が実施されます。

1)中小企業信用保険の特例措置

市町村長等から事業所または主要な事業用資産に係る「罹災証明」を受けた中小企業者が事業の再建に必要な資金を借り入れる際、一般保証とは別枠での信用保証を利用することのできる特例措置が実施されます。(借入債務の額の100%を保証)。

中小企業信用保険の特例措置
一般保証限度額 災害関係保証限度額
普通保険 2億円 2億円
無担保保険 8,000万円 8,000万円
小口保険 2,000万円 2,000万円

2)日本政策金融公庫による災害復旧貸付の金利引下げ

市町村長等から事業所または主要な事業用資産に係る「罹災証明」を受けた中小企業者等を対象に、日本政策金融公庫が実施している災害復旧貸付について、特段の措置として金利の引下げが実施されます。

参考:「平成30年7月豪雨」の際の実施概要(平成30年7月24日公表)
概要
資金使途 運転資金又は設備資金
貸付限度額 中小企業事業:別枠で1.5億円
国民生活事業:各貸付制度の限度額に上乗せ3千万円
貸付金利 基準利率(中小企業事業1.16%、国民生活事業1.36%)
(貸付期間5年以内の基準利率(平成30年7月11日現在))
金利引下げ 貸付額のうち1千万円を上限として、貸付金利から0.9%を引下げ(貸付後3年間)

激甚災害の指定がされて実施される金融施策については、「罹災証明」が必要になります。よって、甚大な被災を受けた際には、即「罹災証明」の手続きをしておくことをお勧めします。できれば平時に行政書士などの専門家から手続きの指導を受けておき、いざというときには迅速に行動できるように準備をしておきましょう。

3. 災害救助法、激甚災害による中小企業対策が実施されない場合は?

災害救助法や激甚災害指定などに基づく中小企業対策が実施されない場合においても、政府や自治体は中小企業向けの施策を実施します。たとえば、「山形県沖を震源とする地震」(2019年(令和元年)6月18日)の際は、以下のような対策を講じました。

  • 1)
    事業継続のための金融支援の強化
    • 日本公庫によるセーフティネット貸付
    • 信用保証協会によるセーフティネット保証4号
    • 政府系金融機関・信用保証協会に対する配慮要請
  • 2)
    設備復旧等のための県と連携した補助金の拡充
  • 3)
    風評被害の払拭・環境需要の回復支援
    • 地元産品・食材を活用した観光イベントの開催等支援
    • ジェトロによる地域産品等の情報発信やバイヤー等との商談機会の提供
  • 4)
    商工団体等の相談窓口

概略を把握することで、対応に役立てていきましょう。

著者:吉田 学(財務・資金調達コンサルタント)

株式会社MBSコンサルティング代表取締役。1998年の起業以来、「資金繰り・資金調達支援」に特化して創業者や中小事業者を支援。これまでに1,000 社以上の資金調達相談・支援を行い、その資金調達支援総額は20億円超。
主な著書に、「社長のための資金調達100の方法」(ダイヤモンド社)、「究極の資金調達マニュアル」(こう書房)、「税理士・認定支援機関のための資金調達支援ガイド」(中央経済社)などがある。

また、全国の経営者・士業などを対象にした会員制の資金調達勉強会「資金調達サポート会(FSS)」を主催している。

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