私たちがいつも見つめているのは、技術を生み出し、
まだないものを生み出そうとしてチャレンジし続ける人たち。
ここでは、そんな人たちのSTORYをご紹介します。
モーハウスさんはどのようなことをしている会社でしょうか?
授乳服を作っている会社です。授乳服は“乳を授ける服”と書きますが、お母さんが赤ちゃんに母乳をあげやすくするために工夫をした服のことを指します。今でこそ単純に穴を開けたようなタイプの授乳服も出回っていますが、私たちの場合は“どこで母乳を飲ませても周りから見えず、「たった1秒」で赤ちゃんに飲ませることができる服”を授乳服と呼んでいます。
そもそも、なぜ授乳服を作り始めたんですか?
2人目の子どもがまだ赤ちゃんだった頃、一緒に電車に乗っていたんです。そのときに子どもが泣き始めちゃって…。どうしても泣きやまず、「母乳を飲ませるしかない」と思って、電車の中で皆が見ている中で授乳をしました。これは、私にとって強烈な体験でした。その当時、まだ日本には授乳服なんて概念も商品もなかったのですが、「もしかしてこれは解決できることなんじゃないかな?」と思ったのが授乳服を作る大きなきっかけでした。
商品を見ると授乳服にはとても見えませんが、あえて見えないように作っているんですか?
もちろん、それが狙いです。授乳していることが分かってしまうだけでも周りの人が気を使ってしまうじゃないですか?それに、お母さんも目立ちたくない気持ちがあると思うんですね。ですから、ただ抱っこしているだけに見えるけど、実はおっぱいを飲ませている。授乳服があれば、とても手軽にできますよね。授乳室や赤ちゃんルームを探す手間もなく、赤ちゃんはもちろん、一緒にいる家族や友人を待たせることもない。周りも人も気づかない。そんな授乳服をつくることが、私と同じ体験をしているお母さん達の悩みへのすぐにできる解決方法だと思っているんです。
他のメーカーとは違うモーハウスさんの授乳服で、世のお母さん達は何を得ることができるのでしょうか?
それは“自由”ですね。実際、子育てをしていた私が授乳服を最初に着たときに感じたのは自由でした。子どもを優先するのは当然ですが、そうしながらも「どこでも行けるし、なんでもできるな」と。自分のライフスタイルがイキイキしたものに変わっていくのがわかりました。
起業されるまではどんな経緯がありましたか?
縫製業の知識もなにもありませんでしたが、周りの人に声をかけて、助けを借りながらスタートしました。最初はビジネスになるとは思っておらず、「授乳服を着ることで、子育てがイキイキしたものに変わるんですよ」ということを伝えるのが目的だったんです。そのために、自分だけでなく周りの人にサンプルを着てもらって、どうすればいい服を作ることができるのかをモニターし続けました。今一緒に仕事しているスタッフのほとんどは授乳経験がある母親たちなので、その経験を聞きながら作っています。究極の使い手視点なので、使いやすさや着心地は説得力があり、評価いただいています。
商品以外で、モーハウスさんと他社との違いはどのようなところですか?
モーハウスは普通の会社とは“逆”なんです。普通は、赤ちゃんができると休みに入ったり、仕事をやめたりしますよね?だけど、モーハウスは「赤ちゃんができたら入社する会社」です。私たちは、赤ちゃんを連れて出勤することができる“子連れ出勤”を積極的に取り入れているんです。だから、赤ちゃんが大きくなって卒業したけど、また次の子どもができて入社した・・・なんてスタッフもいます。その分他の会社よりも入れ替わりが激しく、常にスタッフを募集し赤ちゃんがいるけど働きたいという人たちを応援しています。
子連れ出勤を取り入れたのは大きな挑戦だと思いますが、失敗談は?
前例のないことなので、もちろん沢山失敗しました。例えば、大きな子どもが会社の中を走り回ってしまったり、子どもたちが会社の隣にある花畑の苗を勝手に抜いちゃってお詫びに行ったり…。でも、色々な失敗をしてきたこそ、その解決方法を考えながら、社内のルールもアップデートしています。これから子連れ出勤をしてみたいと考えている企業には、そんなノウハウをお渡しして、少しでも多くの方にさまざまな選択肢があることを伝えていきたいです。
沢山の失敗をされてもなぜ、子連れ出勤を広めていきたいと考えるようになったのですか?
この仕事を始めた頃、お母さんのグループに授乳服を見せる機会がありました。そのときは「きっと皆が喜んでくれる」と思っていたんですけど、実際は誰も振り向いてくれませんでした。理由を聞くと「外出することで授乳に困るのであれば、外出しないようにすればいいこと。」という答えが返ってきたんです。たしかに私自身も、出産前に働いていた頃は「子どもを産んだら仕事はやめなきゃならない」と思っていました。皆がそう思い込んでいて、潜在的なニーズはあるけど、お母さんたちが子どもたちともっと自由に外に出たいという気持ちは、押し込められてしまっているんです。その状況は今も変わらないと思います。ですから“授乳服を着れば子育てがイキイキしたものに変わり、さらに子連れ出勤ができれば子どもがいても仕事を続けられる”ということを知ってもらって、押し込められている気持ちを開放してもらいたいと思うんです。
「授乳服」や「子連れ出勤」を知ってもらうために、どのような取組みをされていますか?
授乳服がまだ認知されていなかった20年前は、「授乳服を着て外に出ることは、お母さんにとっても子どもにとっても凄くいいことだ!」ということを伝えるため様々なイベントを開催しました。例えば、銀座の歩行者天国で授乳しながら歩くようなイベントを行いました。それを見て「こんなことをしてもいいんだ」と思ってくれたお母さんもいたようです。もう一つは、東京・青山のショップでも、子連れ出勤を実現していることです。本社がある、つくばというエリアに限定せずに、赤ちゃんを抱っこして授乳しながら働いている様子をお客さまに見てもらう。モーハウスの商品PRというよりも、「授乳服を着るという、たったそれだけで働ける」ということ、子育てと仕事は両立できるもので、子どもを産んでも働くことができることに気づいていただくためのアプローチだと考えています。
「授乳服」や「子連れ出勤」が少子化対策にもなるということですか?
もちろんです。例えば私たちのお店では、スタッフが授乳服を着て、子どもに母乳をあげながらリラックスして楽しそうに仕事している。その姿を見た人には「子育てと仕事の両立ってそこまで難しいことじゃないのかな。」と感じてもらえるから、妊娠・出産することに対する抵抗がなくなると思っています。また、ほとんどの赤ちゃんは欲しがるタイミングで母乳をあげれば、非常にリラックスします。そうなれば、子育てそのものや、仕事との両立だって楽になってくるはず。そういうことを知ってもらうためにも、世のお母さんには授乳服を着て、どんどん赤ちゃんを連れて外に出てもらいたいんです。そうやって皆に希望を見せることは、皆の意識を良い方に変えるという意味で社会貢献になると思うし、結果として少子化対策になると思うんです。
より多くの方に授乳服を知ってもらうための工夫をされていますか?
実はまだまだ、この服のよさをお母さんたちにうまく伝えることができていないと感じています。授乳服の存在自体は高校の教科書に載るほど広めることができたのですが、お母さんたちの固定観念はまだ全然壊れていない。これを打ち破ることが、一番挑戦しなければいけないことです。そのために、例えばご主人から、上司から、仕事仲間から授乳服をプレゼントするような環境づくりを行政も巻き込んで進めています。子どもができたら社長から授乳服をプレゼントする。それは「また戻ってきて一緒に働いて欲しい」というメッセージにもなるはずです。私たちはこの取組みを“服一枚でできる働き方改革”と呼んでいます。ありがたいことに、経済産業省の働き方改革の事例集の中に載せてもらっているんです。
今後、さらに挑戦したいことはなんでしょうか?
全ての女性が自分自身で社会とつながり、希望すれば仕事にも戻って行ける社会にしたい。例えば私たちの商品である「モーブラ」は、授乳中のお母さんだけでなく、乳がんで胸がデリケートな状態の方にも使われ始めています。こんな風に私たちの取組みはお母さんを対象としていますが、他のすべての方に役に立てていただける可能性があるのではと感じています。一方でまだまだ、自分がラクになることにお金を使う(授乳服や専用ブラを自分で買う)のをためらう、というメンタリティの女性が多くいらっしゃることも事実です。その方たちの背中を押すためのツールとして、モーハウスの商品を渡してあげられる環境をつくること。子どもを持つ女性だけでなく、様々な状況の女性を視野に入れた働き方、ライフスタイルを発信していきたいと思っています。
最後になりますが、挑戦し続けるために最も大事なものとは何だと思いますか?
ワクワク感ですね。新しいことに挑戦しようとすると、とてもワクワクします。ポジティブにとりあえずやってみよう、やらない後悔よりやった後悔の方がいい、という気持ちがあるからこそ、とにかく挑戦することができているんだと思います。
有限会社モーハウス
母乳育児を応援するモーハウスでは、「授乳服があれば 子育てはもっと楽しめる」をモットーに、授乳服と授乳用インナーの製作・販売を行っています。モーハウスは授乳服のパイオニアとして、品質の高い商品の開発に努めています。また、授乳服を着用したママと赤ちゃんがステージの上で、授乳しながらトークする「授乳ショー®」を全国で開催。授乳タイミングを気にせず、いつでもどこでも授乳ができることを見ていただくことで、授乳中のママたちの悩みの解消に取り組んでいます。