“熊本の中から、熊本を元気にする。そんなチームに変えていく。”
熊本バスケットボール株式会社 | 代表取締役 湯之上 聡さん

YAYOI USER'S CHALLENGE STORY

私たちがいつも見つめているのは、技術を生み出し、
まだないものを生み出そうとしてチャレンジし続ける人たち。
ここでは、そんな人たちのSTORYをご紹介します。

熊本に夢を届けるプロバスケットボールチームを運営

熊本バスケットボールさんはどのようなことをしている会社でしょうか?

「熊本ヴォルターズ」というプロバスケットボールチームを運営している会社です。熊本で開催されるホームゲームに来ていただき、熊本の皆さんに感動をお届けすることを仕事としています。

湯之上さんが、プロバスケットボールを運営する会社を立ち上げるまでの経緯を教えてください

3歳上の兄の影響で小学校5年生の時にバスケットボールを始めて、バスケットボールに育てられたようなものです。そこで学んだ数多くのことを、こどもたちにも伝えたくて、学校の教員になりました。しかし、教育現場の難しさに直面し、指導の在り方について葛藤する日々を送っていました。そんな時、バスケットボールをもっと勉強するためにと、アメリカでの一週間の研修に誘われたんです。現地で目の当たりにしたのが、環境や指導の在り方の違いでした。日本ではスパルタで、できないことを指摘するスタイルが主流でしたが、アメリカでは、こどもたちが失敗するのは指導者の責任で、それをできるようにさせるのが指導者の役目だったんです。さらには、約2万人のお客さんが地元のNBAチームの試合に熱狂する姿を見て、こういうチームが地元熊本にも誕生すれば、こどもたちが夢を持ち、もっと人々が繋がり合うことができるんじゃないかと思い、2008年に活動をスタートさせました。

こどもたちのためとはいえ、教師という安定した職業を辞めることに不安を感じませんでしたか?

不安よりも、自分がどういう人生を歩んでいくべきかということを常に考えていました。20歳の時、私にバスケットボールを伝えてくれた兄が亡くなり、命の意味や尊さを痛感したんです。このまま教員でいいのか、本当にやらなければいけないことは何なのかを考えさせられて、見つけた答えが“学校でなくともバスケットボールを通して、こどもたちへの教育はできるはずだ”というチャレンジでした。

元教師からプロバスケットボールチームの経営者へ

プロチームを作るにあたり、まず取り掛かったことは何ですか?

まずは仲間を増やすことから始めました。アメリカでの研修に誘ってくれた人物、そしてバスケットボールを通じて地元のこどもたちをはじめとする人々に夢を与えたい、という想いに賛同してくれた仲間たちを加えて、10名ほどで発足したんです。当然、賛同者ばかりではなくて、「絶対に無理だよ」と言われたこともありました(笑)。実際、当時は想いだけが先行していて、運営などのノウハウも全くない状態だったので、各地でスポーツチームを運営されている方にも話を聞いて学んでいきました。

その後は、すぐに会社を設立することができたのでしょうか?

いえ、会社組織として立ち上げるまで4年以上の時間がかかりました。賛同者を増やす活動しかできない中で、朝5時から夕方4時までレストランでアルバイト、バスケットボールスクールのコーチをして何とか生活を繋ぐ日々を送っていた矢先、2012年に転機が訪れました。バスケットボールの新リーグが立ち上がることになったんです。そこで新チーム参入の公募があり、これでダメだったら解散しようという思いで準備を進めました。すると地道な活動実績に加え、くまモン人気や九州新幹線で盛り上がっていた熊本の情勢が追い風となって、参入が認められたんです。

リーグ参入が決まってから、チームとしての道のりを聞かせてください

1年目は6勝48敗という散々な戦績で、選手たちの意識もバラバラ、会社としても目標の売り上げにまるで届かず、朝方まで仕事に追われる毎日でした。それでも徐々に、良い方向に向かっていきました。試合以外でも「トリコロールキャラバン」というプロジェクトを企画して地域の方と触れ合い、学校の授業などに参加して、自分たちの活動をアピールしました。年間200回を目標に活動することで、ようやく認知していただけるようになったんです。それでも戦績は2年目も6勝48敗。でも3年目には強豪と呼ばれるチームにも勝利、過去を上回る勝ち星を重ねることができて、苦しい中でも手応えを感じていたんです。

チームとして良い方向へ向かっていた矢先に、熊本地震が発生

地域の理解を得ながら、その後は順風満帆に進んでいったんですか?

チームとして良い方向へ向かっていた矢先に、熊本地震が発生しました。特に被害の大きかった益城町を拠点としていたので、練習場所や試合会場が避難所となって何もできない状態となりました。試合ができなくなったために収入が途絶え、選手の給料や体育館を借りる費用が払えなくなるなど、精神的にも資金的にも非常に苦しい状況に陥りました。

そんな大変な時に、チームとしてはどのように活動していたのですか?

練習や試合ができない状況で自分たちにできることといえば、お世話になっている益城町のために行動することだけ。被災地域に物資を届けて、瓦礫を撤去する作業をお手伝いしました。また、ヘッドコーチの保田とアシスタントコーチの岐津の2人は被災して自宅にも戻れず、5月の終わりまで避難所に寝泊りしながら支援活動を続けていました。

支援活動を優先することに対して、選手も気持ちは一緒だったんですか?

状況が状況ですので、選手たちには「自分たちで考えて行動してくれ」と伝えたところ、キャプテンの小林が先頭に立って支援を募り、炊き出しや物資を届ける活動を続けてくれました。被災の当事者でもある自分たちにできることは何かを考えることで、シーズン中は「自分のため」という目的意識だったものが変化し、チームとして“熊本のためにできることをしよう”と、一つにまとまっていたと感じます。

それでも練習は必要だと思いますが、いつ頃から再開できたのですか?

震災の直後から資金不足になることは目に見えて分かっていました。チームの存続が危機的状況にあることを新聞に取り上げていただいて全国から支援を募り、多くの方からご支援をいただいたおかげでなんとかチーム消滅の危機は逃れたものの、会社としての規模を縮小しなければならず、残念ではありましたが何人かの選手がチームから離れていきました。そして、7月1日からは選手5人で練習を再開したんです。

残ってくれた選手たちに、どのような想いがありましたか?

よく残ってくれたという想いと同時に、複雑な想いもありました。なにしろ給料が払えるのかはっきりしていなかったので、内心とても不安だったんです。そうした状況でも、翌シーズンの開幕戦が9月24日と決まっていたので、そこに向けて新しい選手やトレーナーの獲得など、色々な準備に追われていました。会社としても資金を集めなくてはいけないので、支援していただける個人の方やスポンサーさんを募ることを第一に行動して、なんとか開幕戦を迎えられたんです。

そんな中で迎えた2016 - 2017シーズンはいかがでしたか?

毎年毎年、支援していただける方々のおかげで試合ができるという想いを抱いていましたが、開幕戦ではひときわその気持ちが強く、本当にありがたいことだと身にしみて感じました。その気持ちがプレーにも出たのか、44勝16敗という過去最高の戦績をあげ、チームの結束力も非常に高まったと感じたシーズンでした。残念ながらB1(一部)に昇格する目標は達成できませんでしたが、5千人収容のホームアリーナで、最終戦はほぼ満員となるお客様に来ていただきました。なにより会場の皆さんの盛り上がりや熱気を見て、私たちが届けたいと思っていた感動を味わってもらえたんじゃないかな、と思います。2017-2018シーズンはB1昇格に向けて、B2優勝を目指しています。

次なる夢は、こどもたちが「熊本ヴォルターズ」に入団するための環境を整えること

熊本ヴォルターズとしての今後の夢はどんなことですか?

とあるテレビ番組で小学校5年生の男の子が将来の夢をインタビューされて、「熊本ヴォルターズに入ること」と答えてくれたんです。それを見て、こどもたちに夢を作ろうとしてきたことは一つ形になったことを感じました。次なる夢は、その子が実際にヴォルターズに入る環境を整えて、将来チームの一員として「小学校五年生の時にチームが立ち上がって、その夢を描きながら努力して、今この舞台に立っています」とコート上で言ってくれること。そのために、日々の地域活動やチームの強化など、やらなければならないことを地道にやっていかなければなりませんね。

最後に、挑戦するために最も大事なものはなんだと思いますか?

「継続は力なり」です。この4年以上、地元熊本にバスケットボールの情熱や夢を届けるために一歩一歩、活動させてもらいました。たとえ人から「無理だよ」と言われても、一歩ずつ努力し継続することで、夢や目標が形になるのだと思います。

熊本バスケットボール株式会社

熊本が大好きだから、熊本に育ててもらったから、熊本に貢献したい。熊本のこどもたちに夢をもって欲しい。人とのつながりを創ることで、熊本をもっと元気にしたい。通算756回を数えるバスケットボールを通じた地域貢献活動は試合とともに大きな活動の軸となり、こどもたちに「プロバスケットボール選手になりたい」という夢を、そして無限の可能性をこれからも育んでいきます。

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