美容業界でも子育てしながら働き続けられる環境作りを!
- 起業時の課題
- 資金調達, 事業計画/収支計画の策定, 人材確保、維持、育成, 集客、顧客獲得, マーケット・ニーズ調査
三軒茶屋でヘッドスパ専門店“頭皮と肌の専門店~希翠(きっすい)~”を経営する「フェリコ株式会社」。代表の赤羽 亜希さんは、「子育てしながら働き続けられる環境を作りたい」という創業時の想いを胸に、身体的にも過酷な美容業界の働き方を見直し、スタッフにとっても顧客にとっても理想のお店作りを目指しています。
同社の取り組みは業界でも注目されており、健康経営優良法人を3年連続で取得、2021年はブライト500※にも認定されました。そこで今回は、赤羽さんに仕事とプライベートの両立がしやすい環境作りや、店舗経営における集客・リピート率向上の秘訣についてお伺いしました。
- ※健康経営優良法人(経済産業省が優良な健康経営を行っていると認定した法人)の中でも優れた企業、かつ地域において健康経営の発信を行っている優良な上位500法人
会社プロフィール
業種 | サービス業(理・美容院/エステ/美容関連) |
---|---|
事業継続年数(取材時) | 6年 |
起業時の年齢 | 40代 |
起業地域 | 東京都 |
起業時の従業員数 | 3人 |
起業時の資本金 | 500万円 |
話し手のプロフィール
- 会社名
- フェリコ株式会社
- 代表
- 赤羽 亜希
フェリコ株式会社 代表取締役
商社に勤めた後、結婚・出産を経て美容業界で社会復帰し、3人の子育てをしながらブライダルエステやヘッドスパの専門店の立ち上げ、スタッフ100名の管理・育成に15年間従事。せっかくキャリアを積みながらも結婚や出産を機に美容業界を離れてしまう女性があまりにも多いと感じ、結婚・出産後でも仕事と家庭を両立できて、女性が活躍できる会社の運営を目指して2015年11月起業。
目次
- 乗り越えたかったのは、女性ならではの働き続ける難しさという壁
- 社員自身も自由に発言!最初からこだわり抜いた「スタッフが働きたいお店作り」
- 広告費をかけずに集客を保つ秘訣とは
- 新たな客層獲得のきっかけは新型コロナウイルス?!
- 売り上げアップの秘訣は「予約を詰め込まないこと」?!
- 健康経営を業界全体へ推進することで社会貢献につなげたい
乗り越えたかったのは、女性ならではの働き続ける難しさという壁
赤羽さんは起業前、美容業界に長く勤めていらっしゃったそうですね。
赤羽:はい。脱毛やブライダルエステを展開する会社でマネージャーとして働いていました。その会社では、せっかく向上心を持って入社しても結婚や出産を機に辞めてしまう社員がほとんどでした。美容業界は遅い時間の勤務もあり、技術者の身体への負担も大きいので、ライフステージの変化に合わせて働き続けることが難しかったんだと思います。
私自身も、子供を3人育てながら働いて、子育てと仕事の両立にとても苦労しました。それもあり、プライベートでもいろいろな状況が重なったタイミングで、15年近く働いた会社を退職することを決意したんです。退職することを知った前職の部下から、「お店をオープンしてくださいよ」などと言われていたのですが、最初は「お金もないし無理だと思う。でもできたらいいね」と軽く答えていました。その時は自分で起業しようとは思っていなかったですね。
もともと独立は考えていなかったと。起業に至ったきっかけは?
赤羽:お世話になった方々に退職のご連絡をしているとき、POSシステムの会社の社長さんから「せっかくキャリアがあるのにもったいないよ。資本金出すから試しにお店を出してみれば?」と打診をいただき、さらに、銀行の紹介までしてくれたんです。ありがたいお話ではあるし、「もしお金が集まらなかったら止めればいい」という感覚で事業計画を提出したら、なんと銀行から融資が下りたんですよね。
同時に、立ち上げを共にやってくれたスタッフから「良さそうな物件ありましたよ」と報告が来たり、前職の部下は「亜希さん本当にお店オープンしますか?もしやるなら、亜希さんのところへ行きます!」と言ってくれるなど、すごく周りの方々が応援してくださいまして。最初は軽い気持ちで「こんなお店があったらいいよね」と言ったことが、どんどん現実的になってきて、ここは腹をくくってやらなきゃいけないな、と店舗開業を決心しました。
個人事業主としてサロン経営をされている方も多いと思いますが、法人設立をした理由を教えてください。
赤羽:私自身、美容業界に長くいたものの、人事担当だったので、施術の経験はないんです。「お店を作るなら、私は経営に専念して、スタッフに気持ちよく働いてもらいたい。従業員を雇うのであれば、きちんと福利厚生を整えて雇用したい」そう考えて、法人にしようと思いました。
あとは、資金調達ですね。お店をオープンするには、施術用のベッドが1台100万円するなど設備投資にすごくお金かかるので、個人よりも借りられる額が大きい法人を選んだというのもあります。
社員自身も自由に発言!最初からこだわり抜いた「スタッフが働きたいお店作り」
それでは、資金調達についてもう少し詳しく教えていただけますか?
赤羽:まず、出資してもらったのは500万円でした。加えて日本政策金融公庫からは設備投資費用として1,500万円、銀行から運転資金として500万円の融資を受けました。
出資金500万円と融資2,000万円、やはりサロン開業は初期投資が多くかかりますね。
融資を受けるまでの準備も大変そうです。
赤羽:そうですね。金額もかなり高額だったので、とにかく銀行に何度も足を運んで、事業計画を詰められるところは全部詰めましたね。どんなメニューを提供し、どのくらい売り上げを上げて、どういう計画で返済していくのか具体的な数字を提出していくうちに、銀行の融資担当の方が「このお店に行ってみたくなりました」と言ってくださり、無事融資が下りました。
資金を借りられた後、店舗の契約や内装工事などを約2か月間で準備してオープンしました。
かなりのスピード感ですね。資金調達後の開業準備も大変だったのでは?
赤羽:前職では1年に1店舗ずつ店舗展開しており、各店舗のオープンにほとんど立ち会ってきたので、店舗を出すことに対しての知識が身に付いていたんだと思います。業者さんとも仲良くなっていたので、「私の店の内装をお願いできますか?」と依頼すると、すぐに「いいですよ。この価格でやります」とスムースに話が進みました。
これまでやってきたご経験を活かせたんですね。
赤羽:はい。ただ、前職ではブライダルエステのオプションとしてヘッドスパも提供していたものの、「ヘッドスパ専門店」というのは私にとって初めてのチャレンジです。“本当にヘッドスパだけで生き残れるのか”という不安があり、リサーチには力を入れましたね。
ヘッドスパを提供しているお店の技術チェックにも行きましたし、実際にメニューを作るうえでは、施術時間や使用するケア用品も含め、技術スタッフと共同で考えていきました。
技術スタッフさんというのは、赤羽さんが退職される際に声をかけてくれた方々ですか?
赤羽:はい。オープニングスタッフとして、前の会社を既に辞めていたスタッフを2名雇用しました。信頼関係は構築できていましたし、求人費もかけることなく良いスタートが切れたと思います。ですが、2名とも既婚者だったので、勤務時間の捻出が懸念点ではありましたね。
確かに、スタッフさんが働きやすい環境作りを第一に考えると、まず勤務時間が検討事項に入りますね。店舗の営業時間はどのように設定されたのでしょうか?
赤羽:最初は10時~19時にしていました。しかし、オープン後に赤字が続いて、社員もすごく心配してくれました。お客さまからは仕事帰りの遅い時間のニーズもあったので、社員が「結婚したばかりだけど、まだ子どもがいるわけじゃないので夜もオープンしましょう」と提案をしてくれて、営業時間を21時までに変更したんです。
ただそうすると、子供が欲しくて会社を辞めた子にしてみたら、ここに転職してきた意味がなくなってしまいますよね。そこで遅番ができるスタッフを採用し始め、オープンから2~3か月遅れで3人、4人と徐々にスタッフを増やしていきました。
広告費をかけずに集客を保つ秘訣とは
店舗型のビジネスは集客も重要ポイントだと思います。新規集客についてどのようなことに取り組まれましたか?
赤羽:オープン当初は、まずは近隣の人に知っていただこうとチラシを作ってご近所さんに挨拶回りをしました。あとは、美容サロンの検索サイト(ポータルサイト)に登録して、認知を広げていきました。
先ほど最初は赤字とおっしゃっていましたが、損益分岐点を越えるまでにはどのくらいかかったのでしょうか?
赤羽:損益分岐点を越えるのには10か月かかりました。夜に営業するようになったことで、来客数は右肩上がりになっていったものの、お店が認知されるまでは“新規の方は何千円引き、紹介してくれたら30%オフ”など、結構大きな割引をしていたのと、予約もポータルサイトに頼っていたことで、媒体手数料を差し引くとどうしても単価が下がってしまいまして…。
ポータルサイトを利用すると、売り上げは上がるけれど出ていくお金も多くなるので、徐々に掲載媒体を減らしていき、最終的にホームページと一番手数料が低い媒体以外は全部止めました。現在は、リピーターや紹介、ホームページからの予約がほとんどです。
ポータルサイトの契約を止めるのもすごく勇気がいることだったと思います。では、新規のお客さまにリピーターになってもらうため、何か工夫していることがあれば教えてください。
赤羽:月に1度、お客さまを入れない日を作り、全員出勤での勉強会を開いています。知識や技術を向上させることで、例えば、お客さまの頭を触って「固いですね」で終わりにするのではなく、「この部位に赤みがありますが、こういう症状はありませんか?」と問いかけることができるようになります。お客さまも「そうなの。実は最近……」と話してくださり、信頼関係ができるんですよね。ただ頭皮を綺麗にするのではなく、“ここに通うと健康に導いてもらえる”と思ってもらえるようなサービスを提供することで、徐々にリピーターが増えてくるようになりました。
カウンセリングや施術の向上によって、ヘッドスパを通じて「お客さまの健康のサポート」もできるんですね。
赤羽:はい。あとは、お客さまを飽きさせないことも重要です。例えば、お肌を気にされているお客さまには、「今回はくすみを消すフェイシャルプランもやりませんか?」と提案するなど、毎回お客さまの症状に合わせて違うオプションを提案することで、「毎回新しいことを案内してくれるから飽きないわ」とお客さまに言われています。マッサージだけじゃなく、常在菌を整える機器を使ったり、季節によってシャンプーの提案も変えています。常にお客さまの症状や体質と向き合い、季節に合わせた提案をするためにも、スタッフの勉強会はとても大切にしています。
お客さまを楽しませるオプションの用意やサービス提案と、質の高いサービスを提供するための社員教育が、リピーターを増やしていく秘訣なんですね。
新たな客層獲得のきっかけは新型コロナウイルス?!
2020年は新型コロナウイルス感染拡大によって美容サロン業界にも大変な影響があったと思います。売り上げや店舗の状況などいかがでしたか。
赤羽:新型コロナウイルスが発生した2020年は予約数を減らしたり、営業時間を短くしたりしたので、売り上げはガクッと下がりました。ですが、2021年は徐々に持ち返しましたね。
来客層にも変化がありました。コロナ前の来客層は40~50代の方が多かったのですが、コロナ禍で20代~30代前半の方の来店がオープン当初と比較すると15%も増えたんです。
それは興味深いですね。売り上げの復調や来客層の変化の要因には何があるとお考えですか。
赤羽:“コロナ抜け毛”というキーワードでテレビの取材を受けたのが大きかったと思います。抜け毛の原因は加齢だけではないんですよ。リモート会議などによる眼精疲労や首・肩こり、血行不良により、若い人でも抜け毛が増えることがあるんです。血行不良からくるものは持ち直すことができるので、そういう提案をしていきたいと思い、“コロナ禍で、血行不良による抜け毛にお悩みのお客さまが増えてきた”というプレスリリースを出してみたんです。そうしたら、テレビ局の目に留まって、取材を受けることになりました。
時流に乗った、独自の切り口での広報戦略ですね。
赤羽:ありがとうございます。お店のオープン当初は、近隣への営業だけ行っていたのですが、なかなか予約にはつながらなかったんですよね。ただの営業じゃだめだと思い、メディアに気づいてもらえるようPR TIMESなどで発信するようになりました。プレスリリースを出したときは一気に閲覧してもらえますし、やはりメディアは影響力がありますから、すぐには反響がなくても、じわじわとお客さまが増えていくのを実感しました。テレビ以外にも、雑誌の取材も来てもらったので、「テレビでも雑誌でも見て、ずっと行きたいと思ってたんです」というお客さまも多くいらっしゃいます。
売り上げアップの秘訣は「予約を詰め込まないこと」?!
起業のきっかけとなった、美容業界における働く環境の改善に関してはどのような取り組みをされていますか?
赤羽:有給は使いたい放題ですし、残業は分単位で付けていて、休憩もお客さまの予約を止めて1時間しっかり休めるようにしています。また、立て続けにお客さまの予約を入れるのではなく、しっかりとカルテを記入する時間も確保しています。前職でもそうだったのですが、予約はどうしても詰め込みたくなるんです。ただそうすると、空いた時間でまとめてカルテを記入しなくてはいけないので、3、4人目のお客さまを施術した後には1人目のお客さまの記憶があいまいになっているんですよね。すると、カルテの内容が薄くなり、次にご来店いただいたときに「このお客さまはどんな方だったっけ?」とお客さまの情報がわからない状態になってしまいます。
これを防ぐためにも、例えば60分の施術に対して、2時間枠確保しています。その時間で準備、片付け、カルテ記入をする。なかなか美容業界で休憩時間やカルテ記入の時間を確保するために予約を切る勇気はないと思うのですが、そうすることによってかなり働きやすい環境が作れていると思います。結果的にサービスの質が上がり、リピート率の向上にも繋がっていると感じています。
次から次へとお客さまがいらっしゃる多忙な状況で働くのではなく、1人ひとりのお客さまと向き合えるゆとりを確保することが、結果的に従業員の働きやすさとリピート率の向上に繋がると。しかし、最初は経営者として勇気が必要だったのではないでしょうか。
赤羽:そうですね。ただ、不健康なスタッフがお客さまに健康を提案しても説得力がないので、まずはスタッフに食事と休息をしっかり取ってもらうことを考えました。“健康状態が良好な人が、お客さまにしっかりと自分の実体験も踏まえながらご提案する”というのを目指したかったので、まずはスタッフの健康からという思いでしたね。
ゆとりや余裕を持ってスタッフを一番大切にしながらも、売り上げを向上できるサイクルを構築できた秘訣は何でしょうか?
赤羽:経営目線に傾きすぎず従業員が働きやすい環境を整えることを大事にできたのは、「私が技術者じゃない」というのが一番大きいかもしれないですね。結局、技術者なしでは店を経営できないわけですから。例えるならば“彼女たちがタレント”という感じでしょうか。彼女たちがいるから、私が経営できているので。そこでバランスを取ることができました。
健康経営を業界全体へ推進することで社会貢献につなげたい
既に美容業界の働き方改革に取り組まれていますが、今後、会社として重点的に取り組んでいきたいことは何でしょうか?
赤羽:現在、健康経営優良法人を3年連続で取得していまして、2021年はブライト500にも認定されました。まずは、これを継続しながら、経営者と雇用者側のバランスを保つ健康経営について、同業のオーナーさんや経営者に向けて発信していきたいと思っています。
弊社も、健康経営に取り組み始めた1年目はまったく効果を感じなかったのですが、2年目になってだんだんと安定してきました。やはり健康だと仕事のパフォーマンスも上がるので、自分自身も経営が楽になりますし、スタッフとの信頼関係も構築でき、売り上げを上げるためのアイデアがスタッフからいろいろ出てくるようにもなります。
人口が減ってきて、これからの社会は女性が働くことが社会貢献にもなりますし、健康寿命を伸ばすことも社会貢献になってくると思うので、その一助になるような動きをしていきたいです。スタッフもお客さまも健康に導く、良い循環を生んでいけたらいいですね。
取材協力:創業手帳
インタビュアー・ライター:稲垣ひろみ
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