石橋を叩いて渡らなければ10回は倒産していた。コロナ禍という圧倒的な逆境でも生き残れた理由。
- 起業時の課題
- 資金調達, 事業計画/収支計画の策定, 人材確保、維持、育成, 集客、顧客獲得, 製品/サービス開発
実店舗とオンラインを組み合わせたOMO(Online Merges with Offline)型フィットネスジムを運営する「株式会社ファノーヴァ」。代表の舟久保匡佑さんは、2019年にインバウンド関連サービスで起業するも、コロナ禍で大逆風に遭ってしまいます。
しかし、それでも不屈の精神でめげず、フィットネス事業に業態を転換した結果、現在は堅調に会員数を伸ばされています。舟久保さんは当時のことを振り返り、「石橋を叩いて渡る性格じゃなかったら、たぶん10回くらいは倒産していた」と言います。普通の人なら諦めてしまうような圧倒的な逆境を舟久保さんはどう乗り越えたのか、「倒産しない」起業のやり方を伺いました。
会社プロフィール
業種 | サービス業(理・美容院/エステ/美容関連) |
---|---|
事業継続年数(取材時) | 3年 |
起業時の年齢 | 30代 |
起業地域 | 東京都 |
起業時の従業員数 | 2人 |
起業時の資本金 | 350万円 |
話し手のプロフィール
- 会社名
- 株式会社ファノーヴァ
- 代表
- 舟久保匡佑
株式会社ファノーヴァ代表取締役社長
一橋大学卒業後、外資系国際見本市主催会社にてBeauty&Health Care領域のオーガナイザーとして企画・マーケティング・新規事業開発に従事。その後グロービスで大手からベンチャーまで幅広い企業に対しての組織開発・コンサルティング業務を経て、オランダ美容室事業の創業取締役COOに就任。
2019年、株式会社ファノーヴァを創業。
目次
- OMOセミパーソナルフィットネスジムFLATTEとは?
- ビジネスを創り出すことを学んだ新卒時代
- 副業で始めた海外事業サポートの経験が起業アイデア着想のきっかけに
- 準備万端で起業するも、想定違いの連続で業態転換を迫られる
- 事業の存亡に関わる危機をなんとか耐えしのいだ方法
OMOセミパーソナルフィットネスジムFLATTEとは?
現在の事業内容を教えていただけますか?
舟久保:「FLATTE」という、トレーナー1名で少人数のユーザーをグループ指導するオフラインのトレーニングジムと、オンラインでの食事指導やトレーニング指導を合わせたOMO型のセミパーソナルフィットネスジム事業を展開しています。オフラインのトレーニングは音楽に合わせて自重メインのファンクショナルトレーニングやサーキットトレーニングが中心になっていて、楽しみながら取り組めます。自重トレーニングが中心のサウンドフィットネスなので、オンライン動画を見ながらご自宅でも楽しくトレーニングできる、という仕組みです。
「FREE PLAN」では、店舗レッスンとオンラインレッスンが受け放題(1日1回まで)、LINEで相談もし放題で、13,200円/月(税込み)
- ※現在実施中のキャンペーン価格で提供させていただいています。他にも、月4回の店舗レッスンが受けられる「4 TIMES PLAN」、月1回の店舗レッスンが受けられる「スキマ PLAN」があります。
オンラインでのサポートについて、より詳しく教えていただけますか?
舟久保:オンラインサポートは、Instagramで情報発信をしたり、LINEのチャットでトレーニングや食事指導についての質問を受け付けたりと、時代背景に合わせた手段で展開しています。あとは、チケットをご購入いただければさらに献立指導などのオプションも追加可能です。他にも、会員の方々にはさまざまなチケットをご紹介しています。
ビジネスを創り出すことを学んだ新卒時代
いつごろから起業を目指されていたんですか?
舟久保:高校生くらいのときから「将来は起業したいな」と漠然と志していました。でもそのために何か特別にやっていたというわけではありませんでした。地方出身なのですが、もともと美容に興味があって、「おしゃれになりたいな。だったら東京に行かないとな」と、東京の大学を受験して晴れて上京してきました。かなりミーハーだったと思います。
大学卒業後はどのようなキャリアを積まれていったのでしょうか。
舟久保:まず、美容に興味があったのと、ビジネスの企画から営業・マーケティングまで、そして大勢の人を巻き込んで事業を推進する手触り感のあるリアルビジネスに携われるということで、新卒で国際展示会を主催する企業に就職しました。
入社してからは、展示会の企画から営業・プロモーションまで、全て自分1人で携わることができて、すごく良い経験になりましたね。自信も付きました。
企画の立ち上げから関われるのは、起業に近い経験ができますね。
舟久保:そうですね。例えば、企画を作る際には、世の中の構造やマーケットのニーズを調査するところから始めて形にしていきます。「展示会」という枠は外せないにしても、やはりゼロから事業を作る感覚に近いですよね。新規事業の展示会として健康飲料展の開発を0から起案者・責任者として経験させてもらったこともありました。その中で、業界団体にヒアリングしたり、コミュニティを作っていくなど、起業してからも役立つような地道なことをたくさん経験しました。
自信が付いたとおっしゃいましたが、まだ起業するには至らなかったんですね。
舟久保:はい。私は石橋を叩いて渡るタイプなので、自信はあったものの、まだ起業のネタが定まってはいなかったのと、企画展示会以外の世界も見てみたいということで、起業するのではなく、転職活動を始めました。
さまざまな事業を俯瞰できる立場に身を置いてみたいという考えからコンサルティングファームを中心に受けていたのですが、その中で事業経営の現場を経験できて、ベンチャー投資もやっていて、経営教育にも携われる株式会社グロービスに出会い、「いろいろな事業を見ることができる」「事業経営を俯瞰できる」「経営にも携われる」など複数の理由からグロービスの法人事業部に転職することに決めました。
副業で始めた海外事業サポートの経験が起業アイデア着想のきっかけに
グロービスではどのようなお仕事をされていたのでしょうか?
舟久保:グロービスでは人材育成や組織開発という領域のコンサルティングサービスを提供していました。人材育成するためにはどういう組織構造にしなければいけないのか、逆算して設計したりしていましたね。お客さまの社員さんのキャリアロードマップを作ったり、経営層の研修を設計したりもしていました。
起業する上で役に立つ知識やノウハウは身に付きましたか?
舟久保:いわゆるMBA的な知識は身に付いたと思います。財務諸表の読み方やマーケティングの知識などですね。これらは今でも役に立っています。あとは、一線で活躍するビジネスパーソンの方々とコミュニケーションを取ったり、渡り合ったりする中で、「自分でもやっていけそうだな」、という自信が付きました。「起業家」というと凄そうに聞こえますけど、実際に近くで見たら「自分と同じ人間なんだ」と実感できたというか。
なるほど。それは転機となりそうな気付きですね。
舟久保:そうなんです。具体的に「起業家」という生き物の実態をつかめるようになった、というイメージですかね。だから起業したい人は起業家に実際に触れ合ってみると良いかもしれません。あと、グロービスにいた時期に副業をしていたのも大きかったです。
副業では何をされていたのでしょうか?
舟久保:オランダで美容室を立ち上げたいという知人から声をかけられて、取締役として事業立ち上げ段階からサポートしていました。彼は現地で実際に美容室を営み、私は財務や法務、人材の採用やマーケティングなど、日本にいながら幅広い経営支援を担当しました。約1年半やっていましたね。地道になんでも経験できたことが、起業してからも役立っています。
ある意味では、その段階で起業を経験されたということですね。
舟久保:そうですね。「日本のきめ細やかな美容体験は海外でも通用するのではないか」という仮説を持って事業を始めましたが、その仮説が見事にハマり、美容室事業は堅調に伸びていきました。仮説は間違っていなかったと感じたことが、起業アイデアを見出すきっかけとなりました。
起業アイデアはどのようなものだったのでしょうか?
舟久保:日本の美容体験は海外にも通用するものである一方、国内の美容室事業者は供給過多であまり潤っていない。それであれば、海外から日本に来る訪日観光客には日本の優れた美容サービスで喜んでもらい、美容室には訪日観光客を送客して潤ってもらう、そのようなプラットフォームを作れば良いのではないか、と思ったんです。そして、日本の厳選美容サロンと訪日観光客を繋ぐ美容体験プラットフォーム事業「Borderless Beauty」を立ち上げました。
なるほど。副業で美容室をやったことがアイデアにつながったんですね。
舟久保:その通りです。同時進行でグロービスのMBAの授業を受けていたんですけど、授業を受講していた起業家でもある講師の方にその起業アイデアをぶつけにいったら、好評だったんですね。そこで「こんなに有名な起業家に評価してもらえる起業アイデアならイケる」と思い、すぐに起業準備に入りました。
準備万端で起業するも、想定違いの連続で業態転換を迫られる
起業準備はどのようなことをしたのか、詳しく教えてください。
舟久保:はい。まずはエンジニアとつながりを持ち、ゆくゆくはビジネスパートナーに結び付けば、という気持ちからプログラミングスクールに入学しました。最悪、エンジニアが見付からなくても自分で作れば良いと思って。ですが、幸いプログラミングスクールに行っている期間に後にCTO(最高技術責任者)となるエンジニアと出会うことができました。ただ、そのエンジニアの方はプログラミングスクールで出会ったわけではなく、紹介してもらったのですが。
その後、エンジェル投資家の方から投資を得られそうということがわかったタイミングで、そのエンジニアと私とで、会社を立ち上げました。
最初からエンジェル投資家を入れていたということは、将来的に株式上場や売却などを意識されていたのですね。
舟久保:はい。他にも、税理士さんにも早い段階から顧問として入ってもらい、日本政策金融公庫から2,000万円の創業融資をしてもらったり、サイバーエージェントキャピタルさんからも出資いただいたりと、早い段階から資金を得るために動いてはいました。グロービスのアクセラレーションプログラムにも参加するなど、資金調達については抜かりなく準備をしました。
ところが、サービスを正式ローンチしたあたりで、コロナ禍がやってきました。
インバウンド事業となると、コロナ禍は最悪の出来事でしたね。
舟久保:最悪ですね。最初は、「半年くらいは耐えられるかな」と思っていたのですが、徐々にメンバーが辞めていってしまいました。「最悪、コアメンバーさえいれば乗り切れる」と思って何とか続けるつもりでいましたが、最終的には、そのコアメンバーたちまで続々と辞めていってしまったことをきっかけに、事業そのものを見直すことに踏み切りました。
事業の存亡に関わる危機をなんとか耐えしのいだ方法
事業内容を変更するとなって、まず何をしたのでしょうか?
舟久保:投資もしてもらっていたので、確実に儲けが出て、かつ株式上場や売却も見込めるビジネスモデルを探そう、と思いました。それまでは「市場にない新しいビジネスを生み出したい」というモチベーションだったのですが、ステークホルダーに納得してもらえる結果を出さないといけないですからね。とにかく形になりそうなものを探そうと必死でした。
そこで、1日50個のビジネスモデルを検索して検討する生活が始まりました。海外のビジネスモデルも検索する中で、「ビジネスモデルマニア」みたいな存在になっていましたね。2か月間の調査、検討を経てようやく今のOMO型のジムのアイデアにたどり着きました。
ジムという領域に決めたのはなぜでしょうか?
舟久保:大前提として、市場選択とタイミング、顧客ニーズとソリューションなどそもそものビジネスモデル、社会的意義やインパクト、そして自身が情熱を注げる領域かどうかといった観点で自分の中で腑に落ちたプランがこのOMO型ジムだったことがあります。そのうえでなのですが、世の中にジム経営をされている方はそれなりにいるじゃないですか。だから、その競合相手に対して、マーケティングや財務などのビジネスの基礎的な能力で負けていなければ、最悪、倒産はしないと思ったんです。そういう意味で、「形にしやすい」と思ったのも決め手でした。
この期間は無給のまま死に物狂いでやっていました。アイデアが固まってから半年以内に物件探しを始めとする準備を整え、クラウドファンディングのプロジェクトを立ち上げ、無事目標を達成し、サービスの提供を開始することができました。
これ以上の危機は今後来ないでしょうね。
舟久保:そうであってほしいです(笑)。サービスローンチの段階でも、「リリースして反応がなかったらどうしようか」と追い込まれていましたが、幸いローンチ後は堅調にサービスが伸びて、3か月ほどで黒字化できました。そこでようやく少しだけ安心できましたね。ただ今でも大なり小なり不安やトラブルと戦う毎日ではあります(笑)。
起業家に訪れる突然の危機を切り抜けるために重要なことは何でしょうか?
舟久保:身も蓋もない点で言えば、お金と頼れる人がいることは大事だ思います。起業したいのであれば、起業前からこの2つについては意識しておいた方が危機を乗り切れる可能性は高まると思います。その上で最も大事なことは、絶対なんとかしてやるという気持ち、レジリエンス、やりぬく力なのかなと。これらは凄いと思える起業家は総じて持っているなと日々感じています。
起業を目指す方に、メッセージをお願いします。
舟久保:やっぱり、「起業家」というと遠い存在に感じますが、意外とそうでもないよ、ということですかね。私はグロービスにいた際にそのように感じたことが、起業に踏み切るきっかけになったと思っています。きちんと石橋を叩いて準備していけば、起業するチャンスは訪れると思います。
取材協力:創業手帳
インタビュアー・ライター:樋口 正
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