日本初のマイクロブタ事業。
前例のないビジネスで成功するための事業戦略とポジショニング構築。
- 起業時の課題
- 資金調達, 事業計画/収支計画の策定, 製品/サービス開発
イギリスで出会ったマイクロブタさんに魅了され、「日本でも飼いたい」という想いから始まった「mipig」。株式会社Hooome代表の佐藤拓矢さんは、共同創業者である皆川竜二さんとの何気ない会話から、日本のペット市場にマイクロブタで参入することを決意。2017年の創業後、わずか6年で、販売匹数1,000匹を超え、マイクロブタと触れ合えるカフェを9店舗運営するまでに事業を急成長させています。答えのない新市場を創るにあたってどのような苦難があり、どう乗り越えていったのか、詳しく伺っていきます。
会社プロフィール
業種 | サービス業 (ペット関連) |
---|---|
事業継続年数(取材時) | 5年 |
起業時の年齢 | 20代 |
起業地域 | 東京都 |
起業時の従業員数 | 2人 |
起業時の資本金 | 200万円 |
話し手のプロフィール
- 会社名
- 株式会社SaLaDa・株式会社Hooome
- 代表取締役社長
- 佐藤拓矢
1991年生まれ。グロービス経営大学院卒業。起業を志し会計事務所に勤務。
中小企業の会計指導や決算処理、税務申告の他にも、新規事業立ち上げ、資金繰りのサポートから清算まで経営に関する業務に従事し、多くの経営者と接することで経営の喜びと苦悩を身近で経験。2017年11月に、日本初のマイクロブタさんの事業「mipig(マイピッグ)」を立ち上げる。マイクロブタさんの誕生から、販売、アフターサポートを行う。国内にファームを3拠点、マイクロブタカフェ「mipig cafe」を全国で9店舗運営(2023年4月時点)。
目次
- ペットとして飼える!日本初上陸のマイクロブタを事業の軸に。
- 起業ネタの発見は共同創業者との何気ない会話から。
- 金融機関から融資が受けられない!資金繰りのピンチを救ったのは……
- 初輸入直後に流行した豚熱。発想の転換でリスク回避に成功。
- マイクロブタさんが生きやすい社会「mipig経済圏」を作る。
- 起業家に必要なのは、逆境でもやり抜く力。
ペットとして飼える!日本初上陸のマイクロブタを事業の軸に。
御社では、ブタさんと触れ合えるカフェというユニークな事業を展開されていますよね。まずは御社の事業の軸となっている「マイクロブタ」について教えていただきたいのですが、そもそも、普通のブタとはどこが違うのでしょうか。
佐藤さん:ブタは体重によって名称が変わりまして、マイクロブタと呼ばれるのは、体重40kg以下のものです。一般的に家畜のブタは100〜300kg程度、一時期流行したミニブタも100kg以下のものを指します。これらは家庭でペットとして飼うのはあまり現実的ではありませんよね。
当社が扱っているのは、マイクロブタの中でもイギリス発祥の20kg前後のブタさんです。大きさとしては、中型犬ぐらいですね。
ペットとして飼うときには、だいたい犬と同じイメージを持っていただければと思います。マイクロブタさんはトイレの場所もよく覚えますし、人懐っこく、賢いです。「おすわり」などの芸も覚えます。
ただ、ペットとして育てている人が非常に少ないために飼育情報が少なかったり、対応できる病院が少ないなどのデメリットもあります。
なるほど。では、御社が展開されている事業についても詳しく教えていただけますか。
佐藤さん:まず、イギリスから輸入してきたマイクロブタさんを自社で繁殖させています。ファームは国内に3か所ありまして、そこで生まれたブタさんを、カフェに移して来店されたお客さまと触れ合えるようにしています。当社では、カフェのことを「保育園」と呼んでいて、そこでトレーニングを積んだブタさんを、お客さまに販売しています。ブタさんを購入されたお客さまには当社のアプリを通じてサポートし、マイクロブタ専用のご飯をお届けしたり、飼育相談を承ったりするなど、日々の暮らしをサポートするサービスを展開しています。
繁殖、トレーニングから販売、ペットとしてのブタさんのケアまで、一気通貫でサポートされているんですね。
佐藤さん:はい。当社のミッションは、「with pig -ブタさんとヒトが幸せに共生できる未来の実現-」です。将来的には、ブタさんも犬、猫と同じように、ペットとして生きられる社会を作っていきたいと考えています。
これまで家畜としてしか育てられなかったブタという生物にも、寿命を全うできる権利を与えてあげたい。そのために、マイクロブタさんの飼育をトータルサポートできる企業を目指しています。
起業ネタの発見は共同創業者との何気ない会話から。
創業前はどのようなキャリアを歩まれてきたのでしょうか。
佐藤さん:会計事務所で4〜5年働いていました。もともと起業志向が強く、読書も好きで、日本マクドナルド創業者の藤田田(ふじたでん)さんの著書に「簿記ができない人は経営もできない」と書かれてあったのを見て簿記の勉強を始めたのがきっかけでした。
会計事務所で学んだバックオフィスの流れや経営の実務は、起業するときにすごく役立ちましたね。法人設立の登記手続きや経理の実務などについても理解していたので、専門家に頼むコストも削減できました。
mipigは2名で創業されたとのことですが、共同創業者の皆川竜二さんとはどのようなお知り合いだったのですか?
佐藤さん:私と彼は高校の同級生で、仲が良く、卒業後も定期的に会っていたんです。
皆川は動物好きで、爬虫類の繁殖をやっていたこともありました。そんな彼があるとき「マイクロブタさんを飼いたい」と言い出したんです。
当時、私はちょうどMBA取得のために大学院に通っていました。フレームワークなどを勉強していたので、それにマイクロブタのことを当てはめて試しに事業プランを考えてみたんです。それ以前にもいろいろな事業を考えてみてはいましたが、マイクロブタさんのペット市場はいわゆるブルーオーシャンで、日本にはまだない事業だったので、参入するのにとても良いタイミングだと感じました。そこで、「マイクロブタさんのファームを作ろう」と皆川を説得し、共同創業することになったんです。
業界未経験での起業に不安はありませんでしたか?
佐藤さん:なかったです。ペット業界のトレンドや今後の動向を分析することにより、マイクロブタさんが犬猫と同じようにオーナーから愛される未来が明確に思い描けていました。ペット業界未経験だからこそ、見えてくる業界の問題点などもありましたし、ユーザー目線で考えられたので、より可能性を感じられたのかもしれません。
ただ、未経験であるがゆえに、獣医師にアドバイザーとして参画していただいたり、養豚経験者を採用するなど、業界に精通した多くの方々にご協力をいただきました。
友人同士で起業するのはリスクがあることだと思われがちですが、その点はいかがでしょうか?
佐藤さん:皆川はどちらかというとアーティスト気質で、私とは全くタイプが違うんです。経営の実務に関しては基本的に私が全て見ています。彼は事業責任者としてマイクロブタさんの繁殖や生体管理などをしていて、役割分担がしっかり機能しているので、良い関係性を保ったまま進められています。
金融機関から融資が受けられない!資金繰りのピンチを救ったのは……
ファーム設立には相当な資金もかかるかと思います。資金調達についてもお話をお聞かせください。
佐藤さん:最初に行った資金調達は、マーケティングの意味合いもあったのですが、クラウドファンディングでした。20匹限定で出したのですが、即完売となり、そこでもマイクロブタビジネスの可能性を再認識しましたね。目標金額200万円に対して達成率236%(472万9,000円)で、クラウドファンディングサイトの中でも話題を呼びました。
一方で、創業にかかる費用が想像以上にかかったんですよね。私の見積も甘く、輸入の検疫やファーム建設で数千万円かかることがわかりました。経験もない私が簡単に融資してもらえるわけもなく、資金調達にはとても苦労しました。
さらに、会社の事業内容に繁殖が入ると保証会社が付かないらしく、金融機関からの融資は全く受けられませんでした。
最終的には個人のエンジェル投資家の方々に出資してもらうことができて、なんとか切り抜けました。クラウドファンディングをきっかけに連絡をくれた投資家が何人かいたんです。間一髪でした。当時はまだクラウドファンディング自体が珍しかったので、そこで注目を集めやすかったのもあると思います。
初輸入直後に流行した豚熱。発想の転換でリスク回避に成功。
ファームを作るプロジェクトとして事業を始められたと思うのですが、そこからマイクロブタカフェ事業を始めた経緯についても教えていただけますか。
佐藤さん:もともとは、イギリスのように大自然の中にブタさんたちが走り回っていて、そこを観光客も訪れることができるようなファームを作ろうと思っていたんですね。ファームを観光地化して、お客さまにファームにきてもらい、そこでマイクロブタさんと触れ合ったり、販売したり、ということを考えていました。
しかし、ちょうどそのころ、日本で26年ぶりに豚熱(ブタ熱)が流行り出したんです。豚熱に1頭でも感染してしまうと、ファームにいる全頭殺処分しなければならなくなってしまいます。苦労して輸入したブタさんを一気に失う可能性が出てきたんですね。
実は、豚熱は人が媒介してくるケースが多いんです。車や靴の裏に付いた泥にウイルスが付着し、感染を広げてしまうので、繁殖の現場に人を呼ぶのはリスクが大きすぎると思いました。当初計画していた形でのファーム運営は断念しましたが、生体の引き渡しは対面で行わなければならないため、ブタさんと触れ合える場所がないとクラウドファンディングで購入していただいたお客さまに引き渡しもできません。そのため、急いで拠点を作る必要がありました。そこで急遽、東京でマイクロブタカフェをやることに決めました。
2017年の11月に決めて、12月には店舗の内装に着手し、2018年の2月にはプレオープンしていましたね。
すごいスピードですね。そのときはまだ売上がなかったと思いますが、資金調達はどのようにされたのでしょうか?
佐藤さん:先ほど言ったとおり、ファームの事業では資金調達がしづらいこともあり、飲食事業用に株式会社Hooomeという子会社を設立して、そちらで融資を受けました。
また、カフェ事業でのクラウドファンディングも実施しました。こちらも資金調達よりもマーケティングの意味合いが強いですが。
出店場所についてはどのように決めたのでしょうか。
佐藤さん:立地は、目黒の駅から15分ほど離れたところにしました。その理由はいくつかあり、まずマイクロブタさんの保育園に適した一軒家の物件が比較的安く借りられたこと。日本のペットショップのようにアクリルケージに入れるのではなく、ブタさんが自由に歩き回れるようにしたかったので4階建ての一軒家は理想的でした。
また公園が近くにあって、ファミリー層が多く住んでいることもよかったです。動物カフェというと、原宿や池袋などに作ることが多いと思うのですが、当社の場合は生体販売があるので、メインターゲットであるファミリー層が多くいるエリアにしたかったんです。若年層が多いエリアは集客に有利ではあるものの、タピオカのように一過性の流行として消費されてしまうことも懸念されるので、あえてアクセスがやや不便でも、目的を持ってわざわざ来店してもらえる場所に作りました。
アクセスが不便な立地にあえて作ったとのことですが、それでもオープン後の早い段階からかなり売上は好調だったんですよね。
佐藤さん:そうですね。クラウドファンディングの支援者の方々が来店してくださったのと、オープン間もなくテレビで取り上げていただいたこともあり、おかげさまで連日大盛況でした。
現在は複数店舗を展開されていますが、2店舗目以降の店舗作りで気を付けたことはありますか。
佐藤さん:2店舗目は原宿にしましたが、目黒店とは異なり、こちらは認知の拡大が大きな目的でした。
また、原宿店以降の店舗は、海外からのお客さまも意識し、非言語でも伝わる世界観やストーリーを見せるため、グリム童話や絵本をモチーフにしながら内装をデザインしています。また、マイクロブタさんは人懐っこいので、自ら人の膝の上に乗ってくるんです。そんなときに思わず写真を撮りたくなるような空間作りを心がけています。
海外のお客さまも多くいらっしゃるんですね。
佐藤さん:多いですね。原宿店など、平日はほとんど海外のお客さまで予約は埋まってしまいます。海外には「動物カフェ」という文化がないらしく、日本特有の文化として海外にも紹介されているそうなんです。これは想定していなかったので、ラッキーでした。
マイクロブタさんが生きやすい社会「mipig経済圏」を作る。
マイクロブタさんの販売の面で気を付けていることはありますか。
佐藤さん:マイクロブタさんが生きやすい社会を実現するためにも、まずは販売を強化して市場を拡大させるというのは重要です。ですが、私たちは、企業理念を作ったと同時に「飼育放棄ゼロ」も掲げています。例えば、過剰に繁殖させて売れ残りを出したり、無責任なオーナーに引き渡してしまったり、悪質な類似業者が蔓延したりすると、ブタさんの未来を壊すことになってしまいますよね。そうならないためにも、販売する際には、まずブタさんが飼える家庭なのかヒアリングをきちんとして審査をします。さらに、去勢避妊手術を徹底し、全ての生体にマイクロチップを入れて、飼育放棄されて保護されたときに、飼い主が判定できるようにするなど、ブタさんの生活を守るための対策もしています。
これから力を入れていきたいことは何ですか?
佐藤さん:当社のキャッシュポイントは大きくカフェ、生体販売、mipig ownersでのサポートの3つがあり、今はカフェの売上比率が大きいのですが、ゆくゆくはmipig ownersの売上比率を大きくしていきたいですね。オーナーさま向けに提供しているマイクロブタさんの健康管理や飼育相談、ご飯やおやつが注文できるサービスがありまして、これは月額8,800円、2年間の定期契約という形で販売しています。マイクロブタさんがもっとたくさんの方に迎え入れていただけるようになれば、サブスクリプションでの収益も増え、ブタさんやオーナーさまにとってより良いサービスを開発することに投資ができます。
現在はオーナーさま向けのサービスやアプリの機能拡充などにも力を入れています。先日、目黒にブタさん専用のホテルもオープンしました。1泊2,000円で泊まれるんですが、都内のペットホテルとしては破格なんですよね。こうした施策も含めてオーナーさまの満足度と継続率を上げられるような取り組みを続けていきます。
そしてゆくゆくは、「mipig経済圏」を大きくしていきたいです。例えば、アプリ内で事業者さまに出店してもらってブタさん用のグッズが買えるようになったり、オンラインでマイクロブタさんの診療ができるようにしたりなど、さまざまなことをしていきたいですね。
起業家に必要なのは、逆境でもやり抜く力。
これまで事業を続けてこられた中で、最も大変だったのはどんなときでしたか?
佐藤さん:やはり豚熱と新型コロナウイルスが発生したときですね。新型コロナウイルスが蔓延しはじめたころは、カフェ営業もストップせざるを得なくなったので、そのときはかなり焦りました。ただそのときは生体販売に注力しようと切り替えるなど、その時その時でできることをしてなんとか乗り越えてきました。
ピンチをチャンスに変える力は起業家にとって非常に重要ですよね。
佐藤さん:大事ですね。私は、何が起きても、何に対しても感謝するように心がけているんです。どんなに大変な状況に置かれても自己成長につながるチャンスと捉え感謝できるようになれば、境遇に支配されずに環境を活かせるようになると実感しています。これは、脳科学者の茂木健一郎先生が翻訳している『「脳にいいこと」だけをやりなさい!』という本に書いてあり、自分に取り入れている考え方です。
最後にこれから起業する人にメッセージをお願いします。
佐藤さん:何をするにせよ、行動力は大事だなと思います。あとはやり抜く意志の強さですね。
私が起業するときも、命を扱うビジネスなので、批判もかなりくるだろうなと思っていました。実際にSNS上などで批判を浴びることもありましたが、お引渡をしたご家族のもとで幸せそうに暮らしているブタさんの様子や、オーナーさまからの感謝の言葉が原動力となり今日まで続けられています。周りの皆には本当に感謝の毎日です。
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