フリーランスから法人化へ。口コミと紹介のみで仕事が回る「一人社長」の極意とは。
- 起業時の課題
- 起業形態(個人/法人)の決定, 起業/法人成り関連手続き, 人材確保、維持、育成, 集客、顧客獲得
ウェディングプランナーとして顧客一人ひとりに合ったオーダーメイドの結婚式を提供されている株式会社Colorfraiseの岩田美生さん。フリーランスとして独立したのち、集客活動をほとんどせずに口コミや紹介で仕事を獲得し、独立2年後には法人化されています。今回は、そんな岩田さんに自分のやりたい仕事を精一杯やるための一人起業のポイントをお伺いしました。
会社プロフィール
業種 | サービス業 (冠婚葬祭) |
---|---|
事業継続年数(取材時) | 2年 |
起業時の年齢 | 40代 |
起業地域 | 東京都 |
起業時の従業員数 | 0人 |
起業時の資本金 | 100万円 |
話し手のプロフィール
- 会社名
- 株式会社Colorfraise
- 代表取締役
- 岩田 美生
株式会社オリエンタルランドにて現場の第一線でサービスに従事し、人材開発部にてハピネスを生み出すキャストへの社内研修講師を務める。株式会社ミリアルリゾートホテルズにて「ディズニーブランドホテル」の開業プロジェクトに携わり、開業後はディズニーホテルのフロントにて勤務。同社退職後、株式会社べストブライダルにて約2,000組のカップルの結婚式をプロデュースし、店舗支配人も務める。
フリーランスのウェディングプランナーとして独立し、オーダーメイドウェディングをプロデュースする事業を行う傍ら、ブライダルの専門学校講師も務める。
のちに法人化し、株式会社Colorfraise設立。
目次
- オーダーメイドで企画提案からサービス提供まで。
- 運命的な転職によってライフワークが見つかった。
- 集客活動はほぼゼロ。それでも仕事が舞い込んだのはなぜ?
- コロナ禍での法人化。結婚式のキャンセルが相次ぎ綱渡りの状況に……。
- 結婚式を挙げる場所ではなく、結婚式のプランニングをする人を選んでもらいたい。
オーダーメイドで企画提案からサービス提供まで。
株式会社Colorfraiseが展開されている事業の概要をお聞かせください。
岩田さん:メイン事業はウェディングのプロデュースです。これから結婚するカップルにヒアリングをして、その方にぴったりの場所や内容の提案、手配、結婚式当日のディレクションまでを担当します。すべてのウェディングについて、私がプロデュースを担当させていただいています。
他の結婚式場との違いはいくつかあります。まず、コストが安いこと。大手結婚式場のウェディングプランナーができないことを提案できること。時間の制約がないので、打ち合わせも自由にできます。一般的な結婚式場ですと、打ち合わせの回数や場所も決まっていますが、私の場合、個人でやっているので回数も場所も制限がありません。オンラインでも良いですし、近くのカフェやホテルのラウンジ、カップルのご指定の場所など、打ち合わせ場所は柔軟に対応できます。
なぜ価格を抑えられるのでしょうか?
岩田さん:一般的な結婚式場の場合、お花屋さんや写真屋さん、司会者さんなどのさまざまな業者と提携していて、最終的なサービスの価格にそこのマージンがだいぶ加わります。しかし弊社の場合ですと、そのマージンの部分を抑えることができるんです。
どのようなお客さまが多いのでしょうか?
岩田さん:弊社では、大手の結婚式場では叶わない自由度の高い結婚式ができるので、例えば友達とは違う結婚式をしたかったり、式場だけでなくカメラマンやお花なども含め結婚式に対していろいろなこだわりがあったりするような方にも喜んでいただいています。
あとは、障がいをお持ちの方やLGBTQの方々のウェディングを手がけることも多いです。既存の結婚式場ですと、どうしてもお断りせざるを得なかったり、できることが限られたりする部分もあるのですが、弊社では打ち合わせの場所や回数、結婚式をする場所などを自由に設定できますので、他の方に会いたくない、または打ち合わせ場所に行くのが困難、という方への対応もフレキシブルに行っています。ユニバーサルマナー検定、LGBTQ基礎理解検定も取得しているため、安心いただいています。
ウェディング事業以外の事業もされているのでしょうか?
岩田さん:そうですね。株式会社オリエンタルランドの教育者であった経験を活かして企業研修の講師などの教育事業も行なっています。具体的には、ブライダル会社向けに、スタッフさんの成約率を上げるための研修など、その他の企業では、営業能力向上研修、ホスピタリティ研修、問題解決研修などを行なっています。また、ブライダル会社の成約率向上やオペレーション改善のコンサルティングもしています。
運命的な転職によってライフワークが見つかった。
起業されるまでのキャリアについてお聞かせください。
岩田さん:東京ディズニーリゾートを運営している株式会社オリエンタルランドにてキャリアをスタートさせ、そこから10年ほど勤務しました。現場のアトラクション運営とスタッフの人材育成を主に担当し、人を直接笑顔にできることが楽しくて仕事を続けていたのですが、ディズニーブランドホテルの開業準備室に異動したことが転機になりました。
私はもともと絵の大学に行っていたり、ゼロから何かを作り出すことが好きなので、ホテルの開業準備はすごく楽しかったんです。ですが、ホテルがいざオープンした後、フロントの仕事を任されるようになり、そこでの仕事が自分に合わず、退屈に感じてしまっていました。自分の力で人を幸せにしている実感が全然持てなかったんですね。そこで「自分は人が喜ぶ姿が見える仕事がしたいんだ」と気付きました。
そんなことを思いながら仕事を続けていたのですが、私自身が結婚をすることになって結婚式場へ見学に行ったとき、ウェディングプランナーの仕事を見て「これだ」と思いました。「この仕事なら、私の想いが実現できるぞ」と、ビビッときてしまったんです。それで、自分の結婚式を挙げるよりも前に、結婚式をプロデュースしている株式会社ベストブライダルに転職することに決めました。
そこから13年ほど、おおよそ2,000組ほどのカップルのウェディングをプロデュースしました。その中で、もどかしい思いをした経験も多くありました。
例えば、ウェディングプランナーが結婚式当日に立ち会えないことです。ウェディングプランナーの仕事って、当日までの手配の仕事は忙しいですが、式の当日は料理人やカメラマン、お花屋さんやヘアメイクさんなどのプロがいるので、プランナーが対応する業務はあまりありません。そのため、ブライダルフェアにくるお客さまの接客に回ることが多く、それまで担当したカップルの結婚式当日に立ち会えないこともしばしばありました。でもせっかくウェディングのプロデュースをしたんだから、私は当日も見届けたかったんです。
また、既存の枠組みでは対応できないことが多くあることにも気付きました。例えば、LGBTQのお客さまから貸し切りで式をしたいと問い合わせがあった際、「他のお客さまと絶対に会わない」というのが不可能だったことから断らざるを得なくなったこともあります。まだLGBTQという言葉もなかった時代で社会的な理解が不十分だったこともあるのですが。
また、式場側では打ち合わせの回数や時間は決められていることがほとんどですが、特別なケースではカップルやゲストへさまざまな側面で配慮が必要ですし、そのために打ち合わせを何回もしなければいけません。私は身内に障がいを持つ人がいて、結婚式をお手伝いしたことがありまして、このときも既存のウェディング業界の枠組みだと時間がなくて十分に対応できないことを改めて実感しました。障がいをお持ちの方の結婚式などでは専門的な知識も必要になってくるので、一般的な結婚式場のいち担当者ができることではないと感じたんです。
これらのことを解決したいと思い、フリーランスとして独立することに決めました。
長く会社員を続けられてから独立するのは勇気もいることだったと思います。
岩田さん:そうですね。独立することにしたもう1つの決定打は、私自身が子宝に恵まれなかったことです。私は今夫婦2人と猫で暮らしているのですが、もし子供がいたら起業する選択肢は取っていなかったと思います。「子供」という守るべきものがない分、自分の人生を精一杯生きたいと思って、独立に踏み切ることができました。
集客活動はほぼゼロ。それでも仕事が舞い込んだのはなぜ?
フリーランスとして独立されるまでには、何か準備はされていたのでしょうか?
岩田さん:どちらかというと勢いで独立してしまったので、「個人事業主」という言葉すら知らず、とりあえずフリーで仕事を始めようと走り出しました。後で「そうか、自分は個人事業主に当たるのか」と知ったくらいです(笑)。
ただ、会社を辞めるときにはもう次の仕事は決まっていました。前職の上司からレストランオーナーの方をご紹介いただいて、3店舗くらいのレストランとウェディングプロデュースの契約をさせていただいたんです。その他にも、前職の後輩からブライダル専門学校の講師としての仕事をいただいたり、やはり前職の元上司から企業コンサルティングの仕事もご紹介いただき、それだけで十分生活できるほど、ありがたいことにお仕事には困らなかったですね。
会社を辞めると決めてから次々にお話が舞い込んできたんですね。それはすごいです。
岩田さん:私の場合は、これまでのキャリアに助けられている部分は大きいですね。株式会社オリエンタルランドや、ブライダル会社での「即決率全国1位」の実績があった経験から、自信や信用が積み上げられていたので、独立後も多くのご縁をいただけたのかなと思います。
レストランでのウェディングプロデュースは結婚式場とは違う点も多いと思いますが、ギャップを感じたことはありませんでしたか。
岩田さん:実は、ブライダル会社での勤務経験の中で、「楽婚」事業部門に配属されたことがあり、そのときの経験がすごく役に立っています。「楽婚」は、自社の式場ではなく、契約しているホテルやレストランで結婚式を行い、自社ではプロデュースのみをするという形の事業で、そこで初めてあちこちの結婚式場に式をしに行くようになりました。「ウェディングプロデュースってこんな感じでやるのか」と多くを学びましたね。
ご経験を糧にされているのですね。逆に、フリーランスとして独立した際に苦労されたことはありましたか?
岩田さん:フリーのウェディングプランナーからの持ち込みを断る式場は多いので、場所探しに苦労することは多かったです。なので、既存の結婚式場ではなく自ら素敵な場所を探す工夫をしたり、オリジナリティーを求めるカップルを探すようにしたりしています。
あとは、人をマネジメントすることの難しさを痛感した経験もあります。仕事関係の方から「ウェディングプランナーを外注したいんだけど良い人いないですか」と聞かれ、私が受注して他の人に再委託していた時期があったのですが、これは何度やってもうまくいきませんでしたね。依頼した方がいきなり連絡取れなくなってしまったこともあり、結構大変でした。
フリーランスのときの会計業務などはご自身でやっていらっしゃったのでしょうか。
岩田さん:税務の知識が本当になかったので、独立して最初の確定申告は市がやっている無料相談に行きました。そこですごく親切に対応していただいたので、2年目も同じように行ったんですね。ただ、そのとき対応してくださった税理士さんから「この売上は無料相談にくるレベルじゃないですよ。来年は税理士さんにお願いしてください」と言われまして。3年目以降は税理士さんにお願いするようになりました。
コロナ禍での法人化。結婚式のキャンセルが相次ぎ綱渡りの状況に……。
数々のご苦労はあれど、順風満帆に事業が軌道に乗っていったように感じます。法人化しようと思われたきっかけは何ですか?
岩田さん:フリーランスになったときから、もともといつかは法人化しようとは思っていました。それは、いただくお仕事に頼るだけでなく、自社で集客したいという想いがあったからです。ただ、なるべく融資を受けず、自己資金で運営していきたかったので、資金を貯める意味でも2年間くらいかかってしまいました。
法人設立の際、登記手続きなどはどうされましたか。
岩田さん:前職を退職する際に、お世話になったドレスサロンの方からブライダル専門の行政書士法人を紹介していただいたんです。フリーのときからすごくお世話になって、法人設立の際の手続きもそこにお願いしました。
さまざまな法人格がありますが、株式会社を選んだ理由はありますか。
岩田さん:結婚式のプロデュースというビジネスをするにあたっては、社会的信用が重要です。日本ではまだフリーランスのウェディングプランナーに依頼することは一般的ではないので、カップルの親御さまや親戚から不安視されることもあるんですね。社会的信用を得るためには、一般的に信用が高い株式会社が良いのかな、と思い、株式会社にしました。
最初は親御さまを安心させる意味合いが強かったですが、実際にビジネスを進めていく中で、意外なメリットも出てきました。結婚式場と契約するときには法人格がないと契約できないところも多かったり、他にも、法人設立後ホームページを公開したことで、それを見た昔の仕事仲間の人から結婚式場のコンサルティング依頼が入ったりもしました。
法人設立することで、活動が広がっていったのですね。
岩田さん:そう思っていたんですが、実はちょうど法人化しようと思っていたころに新型コロナウイルスの第一波が直撃したんです。外出制限が出てきたりしていたので少し様子を見ようと思って延期しました。次第に、いつまで待っていてもしょうがないと思い法人設立しました。ですが、ちょうどその時期から結婚式が次々キャセルになり、専門学校の授業もしばらくなくなり、企業研修もなくなり、コンサルティングの仕事だけギリギリ残っていた状態でした。
それは大変でしたね。その期間はどう乗り越えられたんですか。
岩田さん:仕事のキャンセルが相次ぎ、あまりに時間ができたので、異業種交流会に参加しました。いろいろな知り合いが増えて、顧客を紹介していただいたり、ホームページ制作やSNSマーケティング、補助金の情報などもそこでのつながりから得ることができました。
“ウィズコロナ”も徐々に浸透し、やっと結婚式が挙げられる状況になってきて、また口コミでお問い合わせいただくことも増えてきましたね。
なるほど。補助金も受けられたんですか。
岩田さん:はい。小規模事業者持続化補助金で100万円給付いただきました。非対面接客で申請して、オンラインでの集客、接客ができるような仕組みを整えるために使いました。書類は基本的に自分で1か月ぐらいかけて作成したんですが、慣れない作業ですごく大変でした。さらに、採択されてからの方がもっと大変で、領収書なども細かくチェックされたり、いろいろ対応してやっとお金が降りたという感じでした。それも全て良い経験ですね。
結婚式を挙げる場所ではなく、結婚式のプランニングをする人を選んでもらいたい。
今力を入れていることはありますか。
岩田さん:SNS集客です。花嫁はInstagramから情報を仕入れることが多いので、Instagram集客に力を入れていきたいです。Instagramのアカウントは以前から持っていたのですが、最初はウェディングのことやプライベートのこともバラバラに投稿していて全然ブランディングできていなかったので、今少しずつ整えているところです。
前述のSNSマーケティング専門家からのアドバイスが活きたんですね。それでは、今後の展望をお聞かせください。
岩田さん:私の最終的な目標としては、日本でもウェディングプランナーから結婚式を選べるようにしたいんです。つまり、フリーランスのウェディングプランナーがたくさんいて、それぞれの希望に沿ったプランナーが、希望通りの結婚式をプロデュースしてくれるような、そんな文化を作りたいですね。そのために、将来的にはウェディングプランナーのスクール事業もやっていきたいです。
また、ウェディング以外のお祝い事にも関われるように発展できたら良いな、とも考えています。最近、自分自身でも死ぬときのことを考えるようになったんですが、私が死んだとき、お葬式では生前お世話になった人にお礼を言えないじゃないですか。お葬式って遺された人のためにあると思うんですよね。だったら、生きている間にお世話になった人にありがとうを言えるような「感謝祭」のようなものやりたい。生前葬というよりも、より皆がハッピーになるパーティをプロデュースしたいと考えています。
生前葬ではなく「感謝祭」という言葉も素敵ですね。最後に、事業をしていくうえでご自身の信念があれば教えてください。
岩田さん:そもそも、結婚式がなくても夫婦は幸せになれるじゃないですか。でも、結婚式をすることでお守りのような思い出ができて、それを思い返すことで少し心が休まったり、幸せな気持ちになったりすると思うんです。そんな夫婦の拠り所になるようなセレモニーを提供していくことで、世の中が今よりちょっと幸せになる、そう信じて活動しています。
生きるうえでの信念という意味では、私は美しく生きると書いて「美生」という名前を授かっていますので、自分の名に恥じない生き方をこれからもしていきたいですね。
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