未経験の領域で起業チャレンジ!そこにかけた想いと成功の秘訣とは。

起業時の課題
起業/法人成り関連手続き, 集客、顧客獲得, 製品/サービス開発

毎日の仕事が楽しく感じられないという方は少なくないでしょう。しかし本来、仕事は人を幸せにするためにあるものではないでしょうか。

そんな思いから独立し、個人・法人向けのキャリアコンサルティングやポジティブ心理学セミナーなどを提供しているのが、株式会社ラシク代表取締役の黒野正和さんです。「ラシク」という会社名には、その志が秘められています。

黒野さんがその志を抱いたのは、前職時代にご自身が経験したハードな労働環境ゆえでした。安定を求めて大手企業の会社員として働いていたはずの黒野さんがなぜ起業に踏み切ったのか、経験のない領域でどう事業を広げていったのか、詳しくお話を聞いていきます。

会社プロフィール

業種 教育・学習
事業継続年数(取材時) 6年
起業時の年齢 30代
起業地域 滋賀県
起業時の従業員数 0人
起業時の資本金 300万円

話し手のプロフィール

黒野 正和
株式会社ラシク 代表取締役
日本郵便株式会社(旧 日本郵政公社)において13年間勤務。主に近畿支社にて主任として施策立案や人材育成などに従事。独立後、LACIQUEを創立。
近年では企業におけるSDGs導入支援を通じ、メディア発信を含めた企業ブランドの構築のほか、企業理念の浸透により従業員の意識変容を起こすプログラムを展開。
また、ポジティブ心理学の創始者セリグマン博士及びタル・ベン・シャハー博士が顧問に就任しているJPPI認定ポジティブ心理学トレーナーとしてチームビルディングやウェルビーイング向上などの研修・セミナーを実施。
他に、ポジティブ心理学をオンラインで体系的に学べる「ラシクアカデミーのポジティブ心理学プラクティショナー養成講座」も開催しており、メディアにも多数取り上げられている。

目次

組織で働く中で見えてきた大切なもの。

事業概要について簡単にお聞かせください。

主軸は企業研修の講師業です。また、ハローワーク主催の再就職支援のセミナー・研修や、大学生を対象とした合同企業説明会などの就職支援、個人向けにポジティブ心理学のオンラインスクールも運営しています。

なるほど。では、起業に至るまでどのような道のりをたどったのか、これまでのキャリアをお聞かせいただけますか。

最初は京都にあるアパレル商社に勤めていました。芸能人を呼んでパーティーをするなど華やかな世界で、1日に数百万円使うようなお客さまもたくさんいました。楽しかった一方で、当時は就職氷河期と呼ばれていた時代だったので「こんな現実離れした業界にいても大丈夫なのだろうか」と不安になってしまったんです。

「もっと安定したい」と思うようになり、アパレル商社は1年半で辞め、公務員試験を受けることにしました。日本郵政公社がこれから民営化するというタイミングだったこともあり、「面白そうだな」と思って受験しました。そこから13年日本郵政公社(現 日本郵便株式会社)で勤め、その後起業しました。

なぜ安定した職を辞めてまで起業しようとお考えになったのでしょうか。安定とは真逆のキャリアにも思えます。

私自身、日本郵政公社に入職してからがむしゃらに働き、出世コースを歩んでいました。そのままいけば何歳になったらどんな役職に就くということも見えていたんですね。よほどのことがない限り、将来安泰という状況でした。

周囲からは羨ましいとも言われましたが、ポストの数が限られていて席取り合戦になるのは見えていて、精神的にも苦しい状況でした。上司を見ていても辛そうにしていて、仕事のあり方に違和感を覚えていたんですね。また、そのころは、深夜まで働く日もしばしばあり、体力的にも限界でした。

さらにそこでは、38歳の年になると管理職になるかどうかの試験を受けることが暗黙の了解になっていました。管理者試験の申請書類をもらったとき、「このまま管理者の道に進むと辞めにくくなる」と思って、そのタイミングで退職に踏み切りました。

他の企業へ転職というお考えはありましたか。

いえ、退職後どこかの企業に属するという気持ちはありませんでした。30歳ぐらいから将来は独立したいという思いを持ちながら働いていたので、独立するならそろそろかな、というタイミングでもあったんですよね。

退職後、自分に何ができるのかを模索していく中で、キャリアコンサルタントの存在を知りました。本来、仕事は自己実現だったり自分の生活を豊かにするためだったりするはずなのに、仕事のせいで苦しんでいる人がいる。それはおかしいと思い、誰もが自分らしく働ける世の中にするために何かできないかなと思っていたときに、キャリアコンサルタントの仕事を知り、「これだ!」と思ったんです。そこから資格を取得し、個人事業主として活動を始めました。

独立後、キャリアコンサルタントの国家資格取得だけではなく、ポジティブ心理学やSDGsなどさまざまなことを学んできましたが、すべて目的は一緒です。すべての人が自分らしく生きられる世界を作りたい。自分を理解して、自分に合った仕事を皆さんが考えられるようになってほしい。だからこそ、そのために使えるさまざまなスキルを学んできた、というわけです。

退職されて未経験の業界での独立は、ご家族から反対されませんでしたか?

いえ、両親や家族は最初から応援してくれていました。前職でかなり厳しい労働環境にいましたので、心か身体か、どちらが先に壊れるかという状況まで追い詰められていて、むしろそのまま働き続ける方が心配されていたと思います。

いよいよ未経験領域でキャリアスタート!事業を広げたとっかかりは?

資格取得のために、退職後に専門学校などに通われたということですか。

そうですね。キャリアコンサルタントを養成する講座に3〜4か月通いました。退職金をその講座受講の費用に充てるなどしました。無事に試験に合格し、「LACIQUE」という屋号で個人事業主での活動を始めました。

資格取得後はどのように仕事に繋げていかれたのでしょうか。

キャリアコンサルタント資格を取得して個人事業主として開業したのは良かったのですが、実は周囲にロールモデルとなるような人もいなくて、どんな仕事から始めたら良いのか全然わからなかったんです。模索している中で、キャリアコンサルタント講座の運営スタッフの募集に応募し、その仕事からご縁が広がって受験サポートなどで個人事業主としての活動が始まりました。

ただそれだけではなかなか収入が安定しないので、「研修講師業がしたい」と思い、講師養成講座にも通っていました。養成講座での同期や、キャリアコンサルタント仲間も徐々に増えていくにつれ、周りから研修講師の仕事を紹介してもらえるようにもなっていきました。研修講師のオーディションを受けたこともありましたが、今でも継続しているのは、ほとんど周囲からのご縁でいただいたお仕事です。

SDGsについてもSDGsビジネススクール「Start SDGs」の第1期生として学んだのですが、そのご縁で企業研修の仕事を紹介してもらうこともありました。

そのため、ほとんど営業活動のようなことはしてきませんでした。

営業活動などはされずに、人から紹介してもらうためのポイントなどがあればお聞かせください。

Facebookに自分が日々学んでいることや活動していることについて発信していたところ、それを見た知人からお仕事を紹介していただくことも多かったです。日頃から自分の活動を発信することは大事だと実感しました。

でも、独立してからすぐの時期は1日精一杯働いても日給が1万円あるかないかという状態で、ほとんどボランティアのような仕事も受けていたんですよね。売上が思うようについてこない最初の時期はやっぱり精神的にキツかったです。地道な活動を経て、今は登壇できる機会が増えてきたので、次の課題としてなるべく自分の拘束時間を減らして、かつ時間単価を上げられるようにしたいと思っています。

法人化のタイミングはどう見極めた?

個人でお仕事を受けていた黒野さんが、法人を立ち上げられたきっかけを教えてください。

行政機関と仕事をするときに法人格が必要になったためです。仕事を発注するのに「個人事業主では契約が難しい」ということで、そのタイミングで法人設立をしました。そこから信用が上がったのか、研修会社を紹介いただける機会も自ずと増えました。

おかげさまで一昨年は年間で227もの講演・研修に登壇させていただき、売上も1000万円を超える目処が立ってきていて、規模が大きくなってきたので法人化するタイミングとしてちょうど良かったと思います。それまでの売上などを資本金に充て、資本金300万円で株式会社ラシクを設立しました。基本的に1人社長でやっていますが、大きなプロジェクトでは外部委託で講師の方に依頼して進めることもあります。

お1人で会社を経営されている中で、バックオフィス業務などはどうされていますか?

請求書発行などは自分でやりますが、会計業務は税理士さんにお任せしています。本業に専念できるので助かっています。

大学の非常勤講師や細かい仕事は今でも個人事業の方で受けているのですが、個人事業主の確定申告は「やよいの青色申告 オンライン」を活用して自分でやっています。

受講者が皆元気になる「ポジティブ心理学」とは?

「ラシクアカデミー」についても詳しくお聞かせください。ご自身でもポジティブ心理学を学ばれたということですが、ポジティブ心理学とはどのようなものなのでしょうか。

ポジティブ心理学は、最近注目されている「ウェルビーイング」について研究している心理学です。従来の臨床心理学はネガティブなもの、苦しみを取り除いてフラットにすることを目指したものでしたが、ポジティブ心理学はどうしたらより良くなるのか、幸福になるのかという点にフォーカスして研究された心理学体系です。

感謝をすることによって幸福度が上がるといったことや、今ある強みを活かしてどう幸せになるのかなど、さまざまな知識・ノウハウがあります。

そもそも、なぜポジティブ心理学を学ぼうと思われたのでしょうか。

アメリカからポジティブ心理学の創始者が日本にやって来てセミナーをする機会があったんです。そのイベントのアシスタント募集にエントリーしたのがきっかけです。当日はアメリカのペンシルべニア大学から3人の教授が来日して、ファシリテーター候補としてレッスンを受けました。

そこでせっかくポジティブ心理学を学んだので、その知識をアウトプットしたいと思っていたところ、キャリアコンサルタント仲間がセミナーを多数実施していたコワーキングスペースを紹介してくれて、そこでセミナーをスタートさせてもらったのが、私の講師業のスタートにもなりました。毎月少人数で2時間ほどのセミナーを、1年ほど続けさせていただきました。最初は資料を読むので精一杯でしたが、毎回取っていたアンケートでの意見を参考にし、数を重ねていくことで場慣れして、ある程度スムースに話せるようになりました。リピーターの方も来てくれて、その方がどんどんポジティブになっていくのを見るのが嬉しかったですね。

そのポジティブ心理学を体系立てて学べるカリキュラムが、「ラシクアカデミー」の講座です。受講者には、社会人1年目の方もいれば、学校の先生や、企業の人事担当者の方もいます。全15回の講座ですが、最初は自信がなかったり、笑顔が少なかったりするような人も、回を重ねるごとに皆さん笑顔になっていくんです。それが嬉しくて、やっぱりポジティブ心理学を学んで良かったなと私も感じています。

仕事が楽しいと誰もが言える社会を実現したい。

独立して良かったな、と感じることは何ですか。

毎日決まった場所に決まった時間に行かなくても良いことや、好きなことをしているのでやらされ感がないことなどたくさんあります。

今は好きなことを仕事にしているので、「休みの日は何をしたいですか?」と聞かれたら「仕事」と答えるぐらい、本当に仕事のことばかり考えています。そして、それが苦になりません。

仕事の意義も感じやすくなり、楽しく働けています。人の人生に大きく関わる仕事なのでそれだけ責任も大きいですが、やりがいも大きいです。

充実されているのが伝わります。受講生から直接フィードバックをいただけるのもすごく嬉しいですよね。では、独立する前にやっておけば良かったと思うことは何かありますか。

キャリアコンサルタントの資格などの勉強は、退職する前にやっておけば良かったかなと思います。準備期間に学んでおけば、無収入の期間がなくて済んだはずなので。

あとはもっといろいろな人に会い、人脈を広げておけば良かったとも思いますね。それが営業活動にもつながっていたはずだと思います。

最後に、現在の課題やこれからの展望をお聞かせください。

関東圏での仕事をもっと増やしていきたいです。関西圏とは市場規模も異なりますので、挑戦したいですね。

あとは、コロナ禍でほぼ全ての仕事がなくなってしまい、慌てて企画した企業研修の年間プログラムがあるのですが、今この年間プログラムが軌道に乗ってきたんです。一度だけの研修よりも、年間を通じて関わると、その企業の経営層と社員層の関係もガラッと変わることに気付きました。そうした成功事例を今後、書籍などにもしたいですし、もっと多くの人や企業のお役に立てるよう力を入れていきたいと思っています。

また、「ラシクアカデミー」の修了者を対象にオンラインサロンを展開しているのですが、そのサロン会員ももっと増やして安定的な事業の柱として強化していきたいとも思っています。

これからも、「仕事って辛い」ではなく、「仕事って楽しい!」と誰もが言える社会を実現するために、自分ができることに取り組んでいきたいと思います。

取材協力:創業手帳
インタビュアー・ライター:樋口 正

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