好きなことを極め仕事に変える秘訣と原動力になったもの。

起業時の課題
人材確保、維持、育成, 集客、顧客獲得, 製品/サービス開発, マーケット・ニーズ調査, バックオフィス業務

「好きなことを仕事にできたら」と誰もが思うことでしょう。しかし、好きなことで生計を立てるのは現実的ではない、などという考えから諦めてしまっている方がほとんどなのではないでしょうか。

今回ご紹介する株式会社fancy sweetsの宇仁菅綾さん、通称「あやぺこ」さんは、ふとしたきっかけで本物のお菓子のように可愛らしい食品サンプル「フェイクスイーツ」の世界に出会い、一気にのめり込んでいった結果、趣味にとどまらず、百貨店での販売、フェイクスイーツ教室の開校、講師の養成と、どんどんと道を切り開いていかれました。

宇仁菅さんの、好きを仕事にするための行動力がとにかくすごい!キャリアが無くても起業ってできるんだ、と皆さんも勇気付けられることでしょう。

会社プロフィール

業種 小売業(家具・インテリア)、クリエイティブ(その他)
事業継続年数(取材時) 4年
起業時の年齢 40代
起業地域 兵庫県
起業時の従業員数 0人
起業時の資本金 100万円

話し手のプロフィール

会社名
株式会社fancy sweets
代表取締役
宇仁菅 綾
株式会社fancy sweets 代表取締役社長
劇団での小道具作りがきっかけでフェイクスイーツと出会い、百貨店などでの作家活動を経て、兵庫でフェイクスイーツ教室を開講。のちに「株式会社fancy sweets」を設立。現在は大阪教室の他、動画やオンラインで講座を全国に展開。受講生はのべ2万名。作家や講師の育成にも力を入れており、160名以上の作家・講師を輩出。教室業の他、フォトスタジオの撮影小物制作や、大手食品メーカーのサンプル制作も行う。著書『あやぺこの粘土で作るプチかわスイーツ』。

目次

人生を変えたフェイクスイーツとの出会い。

事業概要について簡単にお聞かせください。

宇仁菅さん:お菓子を作るフェイクスイーツ教室の運営、フェイクスイーツクリエイターの育成やイベントの企画、講師業、食品メーカーさんのサンプル制作やフォトスタジオさんの撮影小物の制作など、フェイクスイーツを軸に幅広く事業を展開しています。

そもそもフェイクスイーツとはどんなものなのでしょうか?

宇仁菅さん:フェイクスイーツは、粘土をはじめとした工作用の素材で作ったケーキやフルーツなどを指します。食品サンプルをイメージするとわかりやすいかもしれません。今から10年ほど前に、樹脂粘土という新しい粘土ができて、それを使うと、透明感のある本当のフルーツのようなサンプルが簡単に作れるようになったんです。

当時、ブログでその作り方を発信されている女性がいて、私もそのブログを見て同じようなものを作り始めました。

すでにその方が「フェイクスイーツ」と呼んでいたのですが、その方は本物そっくりにサンプルを作っていらっしゃいました。ですが、私のフェイクスイーツは、より可愛らしさにフォーカスしたものです。

なるほど。どのような経緯でその方のブログを見つけられたのでしょうか?

宇仁菅さん:それまで私は舞台女優として小劇場で活動していて、お手伝いで小道具作りもしていました。その中で誕生日用のホールケーキが7公演分必要になったことがあるのですが、本物だと予算がかかりすぎるし、ロスになるのももったいないと思い、何か本物のように見えるサンプルを作ろうと思って検索したところ、そのブログに出会ったんです。

見よう見まねでやってみたところ、できたものの可愛さと自分でも作れてしまったことに驚いて、一気にフェイクスイーツ作りにのめり込んでいきました。

ちょうどそのころ、大好きな父親が亡くなってしまったので、何かに没頭したい時期でもあったんだと思います。作ったものをブログやSNSにアップすると「すごい」「可愛い」なんて言ってもらえて、フェイクスイーツ作りの時間が本当に心の癒しになっていました。

それまでは、舞台女優の傍ら派遣社員の仕事をしていたのですが、父親の遺品整理のために一度仕事を辞めたんです。もう一度同じ仕事に戻るか迷ったときに、「フェイクスイーツが好きだから、もうこれを仕事に生きていく」と決めました。すでに作品販売を始めていて、好感触を得ていたことも後押しになりました。

作品制作開始から3か月で委託販売先が決定。キャリアの無い世界でロケットスタートが切れたのはなぜ?

フェイクスイーツを作り始めて、すぐに販売を始められたのでしょうか?

宇仁菅さん:そうですね。フェイクスイーツを作られていた先輩たちのブログを読んでいるうちに、その方々が作品を販売していることを知りました。そこで「自分もやってみよう」と思って、作り始めて3か月で委託販売を始めました。

いろいろとアンテナを張り巡らせて探していたら、一般の人でも作品を販売できる雑貨屋さんを2件見つけました。京都と、石川に1軒ずつです。京都のお店はSNSでつながり、店舗へ足を運んだ際に「販売をしませんか?」とお誘いを受けて始まりました。石川のお店には自分からメールで応募して、作品を置かせてもらうようになりました。

すごい行動力ですね。そのときから個人事業主を始められたんですね。

宇仁菅さん:いつの間にかそうなっていました(笑)。百貨店さんでも募集があったので、そこに応募して販売させてもらうなど、徐々に販路を広げていきました。

その後、フェイクスイーツ教室を開校されましたが、そのきっかけは何だったのでしょうか?

宇仁菅さん:販売を始めて2年半ほどして、販売開始してから数分で売り切れるなど、おかげさまで私の作品がすごく売れるようになっていたんですね。そこで「これ以上、私1人で作るのは難しいな」と思ったんです。限界が見えたタイミングでした。

周りからも「自分でフェイクスイーツが作りたい」とお声がけいただいていたので、「じゃあ、教室を作って、いろいろな人に作ってもらえるようになってもらうのはどうだろう」というアイデアが浮かびました。作られた作品を買うのも良いですが、作るプロセス自体も楽しんでもらいたかったんです。

また、単純に制作体験を提供するだけではなくて、私自身が経験した、商品が売れた喜びとかレッスンを提供できた感動を生徒さんたちにも味わってほしくて、はじめからクリエイターや講師を育てるというコンセプトで教室を始めています。

少しずつ活動の幅を広げていって売上も増えていき、税理士さんから「法人にした方が良い」と言われたタイミングで、法人化しました。

少し話は逸れますが、私は阪神・淡路大震災の被災者で、震災当時取材を受けました。当時、私は高校生で、仲の良い友人を震災で亡くしています。震災当日、いつもなら彼女はもう起きているはずの時間でしたが、まだ寝ていたようで、梁の下敷きになって亡くなってしまったんです。数日前に私の家でお泊まり会をしていて、暖房を付けたまま乾燥した部屋で寝たのが悪かったのか、その子は体調を崩していたんです。私のせいだ、と当時すごく落ち込みました。

そのときの記事を見た朝日新聞の方が「阪神大震災21年特集」で「あのとき10代だった高校生は、今何をしているのか」という企画で私にまた取材しに来てくれました。連載企画で他の方のインタビューも読んだのですが、多くの方が社会に貢献する素晴らしいことをされていて、感銘を受けたんです。「私も、あのとき亡くなった友人に胸を張って生きられるよう、社会のために何かしたいな」とそのとき、強く思いました。それも教室開校を後押ししました。

SNSで応援してもらうための重要ポイント3つ。

あやぺこさんは、『あやぺこの粘土で作るぷちかわスイーツ』(主婦の友社)という書籍も出版されていますよね。どういった経緯で出版されることになったのでしょうか?

宇仁菅さん:これも自分から持ち込んだんです。まず、本屋さんのハンドメイドのコーナーに行って、手芸関係の本を手に取り、その後ろのページに書いてある出版社の名前と編集者の方の名前を書き留めました。

ちょうどそのタイミングで、起業家仲間が、偶然その手芸本を出している出版社から本を出版されたんです。領域は違ったんですが、なんとかつないでもらえないかと思い、「私の企画書を、編集者の方に渡していただけませんか」とその起業家仲間にお願いしたところ、担当の編集者の手に渡って、連絡が返ってきました。

「いきなり本を出すのは難しいので、まずはWebサイトに載せてみませんか」とご提案いただき、Webサイトに私のフェイクスイーツレシピを掲載させていただけるようになりました。

そこから私も頑張っていろいろな方に見てもらえるように告知したところ、Webの企画の反応を見た編集者から、「雑誌に載せましょう」とご提案いただきました。そこでも地道にアピールしていった結果、本を出せることになった次第です。

行動力と計画性が素晴らしいですね。SNSやブログなどの発信も積極的にされていますが、気をつけているポイントなどあればお聞かせください。

宇仁菅さん:ポイントは大きく分けて3つあります。

1つ目は、何者でもないときから勇気を出して発信していくことです。

私もそうだったのですが、フェイクスイーツ作りを始めて間もない時期からブログで発信していました。試行錯誤や失敗を含めて発信してきたことで、多くの方に応援していただけるようになったんですね。そのご縁からお仕事をいただくこともありました。応援してもらえることで、孤独を感じず活動を続けられる原動力にもなりました。

そうやってさまざまな方とコミュニケーションを取る中で、自分が作りたいものと、求められているものとの差を意識できるようにもなっていきました。そこで得たものを作品作りにも活かせました。

2つ目は、完成品を作るまでのプロセスも併せて見せることです。今でも、イベントを開催するときの裏側なども含めて発信しています。それも、応援してもらえるようになる秘訣です。

3つ目は、テーマをぶらさずに発信し続けることです。私は「Kawaii」というテーマに絞って作品作りを続けてきたことで、多くの方に応援してもらえるようになりました。クリエイターとして発信するなら、自分の世界観はぶらさないで発信し続けることが大事かな、と思います。

何者でもないときからコツコツ続けるのは相当な覚悟が必要だと思います。1人でいろいろなことを同時並行で進めるのは難しい部分もあったのではないでしょうか。

宇仁菅さん:最初は1人でできる範囲のことを続けていましたが、売上が少しずつ上がってきて、今では周りにサポートしてもらっている部分もたくさんあります。経理関係はパートナーがやってくれていますし、SNS用の動画編集は弟が手伝ってくれるようになり、いつも本当に助かっています。

コロナ禍のピンチに闇雲に立ち向かったことが、新しいチャンスをつかむ結果に。

起業してから一番苦労されたことは何でしょうか。

宇仁菅さん:コロナ禍ですね。教室を持っているので、そこで雇用しているスタッフの給与や教室用に借りていたテナントの家賃などの固定費は毎月出ていくのにも関わらず、出口が見えず出費だけが増えていき、かなり追い込まれました。

そこで起業してから初めて金融機関から融資を受けることにしたんです。もともと税理士さんに経理をお任せしていたので、その方にも協力してもらい、日本政策金融公庫から800万円の融資を受けました。

また、既にレッスン料をいただいていた生徒さん300名に授業を提供しなければならなかったので、急いでオンラインでも受けられる動画授業を開発して提供しました。もともとアナログな人間だったので大変だったのですが、待ってくれている生徒さんのためになんとかしなきゃという一心で、壁を乗り越えられました。動画にして販売できるようになったことで、地方の方にもレッスンを提供できるようになったので、結果的には良かった面もあったかと思います。

そのときの苦労があったからこそ、オンラインで全国対応できる仕組みができたのですね。

宇仁菅さん:他にも、チームマネジメントには苦労してきました。個人の作品販売の延長線上でやってきたので、その場その場で仕事をしてきた面があったんです。

でもそれではスタッフの方々も混乱してしまいますよね。私が考えていること、ビジョンがわからないために、チームがバラバラになってしまうこともありました。

そこで最近になってようやく、ビジョンを作って事業に関わるスタッフに伝えるようになったところ、以前よりもマネジメントで苦労することも減ってきました。目線合わせができるようになったからだと思います。

待ってくれている人がいる。だから私は動き続けられる。

起業する前に「もっとやっておけば良かった」と思うことは何かありますか?

宇仁菅さん:もっと多くの人に会っておけば良かったかな、と思います。起業してからはしばらく組織のことや事業のことなど、内向きのことばかり考えるようになってしまったので、その後の仕事の広がりといった面で、損をしてしまったところがあるかと思います。

何か新しいお仕事が始まるときって、やっぱり人とのご縁からのことが多いんですよね。だからこそ、もっと多くの人とつながっておけば良かったかなと思います。

今の課題は何でしょうか?

宇仁菅さん:まだまだフェイクスイーツの知名度が低いので、より多くの方にフェイクスイーツを知ってもらうこと、そのための活動を拡大していくことが今の課題です。

フェイクスイーツ作りは、本当に癒されます。父が亡くなって苦しかったあのときの私のように苦しんでいる人に、ぜひフェイクスイーツ作りに出会ってもらい、癒されてほしいと思っています。

今後のビジョンを教えてください。

宇仁菅さん:私の教室は、よく生徒さんから「夢を叶える教室」と言ってもらえています。何でもない私が作品を作って販売できるようになったのも、その事例かなと思います。私のように、好きなことを仕事にできるクリエイターをもっと増やしていきたいです。

クリエイターが活躍できるよう、販売する場を作ることや、食品メーカーさん向けのサンプル制作の事業も拡大していきたいです。海外の方にももっとアピールしていきたいと考えています。

あやぺこさんのように、好きなことを仕事にするのは勇気が要ることかな、とも思います。

宇仁菅さん:そうですね。確かにそうかもしれません。でもいきなり1人でやるのが怖いなら、私の教室のように、他にも好きなことをしている人たちのグループに入ってまず一歩を踏み出してみる、というのもおすすめです。

お話を聞いていると、あやぺこさんの行動力に驚かされます。その原動力は何でしょうか?

宇仁菅さん:ありがたいことに、次の回を楽しみに待ってくれている生徒さんがいることが原動力になっています。目の前の生徒さんを喜ばせたい、来月も楽しみにしてもらえるメニューを作らなくちゃ、そういう気持ちでやっています。

取材協力:創業手帳
インタビュアー・ライター:樋口 正

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