不動産仲介ブランドの創設の裏側をのぞき見。縦横にビジネスを広げる行動力と発想力の源を探る。

起業時の課題
資金調達, 節税対策, 人材確保、維持、育成, 集客、顧客獲得

「もっとやりたい、という気持ちを制限されるのは嫌だな」「誰かに指図されるのは苦手だな」。そんな想いで起業に踏み切る方もいるのではないでしょうか。王鞍拓真さんもその1人。
同じ想いを持った仲間とともに、関西で新しい不動産ブランド「sumo-T(スモッティ)」を創設。ブランド認知面では協力しあいつつも、各自で法人を構え、法人ごとに独自の経営を行っています。今回は、ブランドの創設の裏側から、王鞍さんが経営する株式会社rety-Rについて、お話をうかがいました。

会社プロフィール

業種 不動産業
事業継続年数(取材時) 6年
起業時の年齢 20代
起業地域 大阪府
起業時の従業員数 5人
起業時の資本金 300万円

話し手のプロフィール

王鞍 拓真
株式会社rety-R 代表取締役
株式会社Roots 取締役
全日本不動産協会大阪府本部北大阪支部役員
大工、引っ越し業、不動産賃貸仲介業にて、住宅領域での経験を積む。特に7年勤めた大手賃貸仲介業者では、持ち前のコミュニケーション力と負けん気も相まって、営業力が開花。常にトップセールスをキープし続け、27歳で店長に就任。退職を機に、仲間と「sumo-T」ブランドを創設し、「sumo-T」の看板のもとで株式会社rety-Rを経営。

目次

仲間と共に賃貸仲介ブランドを立ち上げ。フランチャイズを選ばなかったのはなぜ?

事業概要について簡単にお聞かせください。

不動産の賃貸・売買の仲介業がメイン事業です。その他、不動産管理や引っ越し、リフォームの請負、遺品整理、立ち退き案件のお手伝いなどもしています。

店舗は「sumo-T」というブランドで展開しています。「sumo-T」ブランド全体では大阪府で約20店舗、兵庫県で6店舗展開しているのですが、そのうち私は3店舗の運営に携わっています。

フランチャイズということでしょうか。

いえ、フランチャイズではありません。「sumo-T」は、一緒に独立した仲間数名と立ち上げたブランドでして、その仲間の会社が他の店舗を経営しています。

それは珍しい形ですね。独立時、フランチャイズは考えなかったのでしょうか。

考えていませんでした。もちろん集客の面などでは助かる部分もあるのでしょうが、費用対効果を考えたときに、フランチャイズ料を払うほどの効果が見込めるのかが正直疑問だったのと、せっかく独立しても制約が増えて雇われオーナーのようになってしまうのも懸念していました。

なるほど。御社の現在の形は信頼のおける仲間がいてこそできることだと思いますし、複数法人でブランドを共用することで認知が拡大するスピードも加速しますよね。一方で、複数法人で同じ「sumo-T」ブランドを掲げるとなると、共通ルールなども必要になりそうな気がします。そのあたりはどう調整されましたか。

「sumo-T」のブランド名は共通して使っていますが、実は基本的にブランドのルールは定めていません。店舗の運営方針は、運営会社に完全に委ねられている状態です。

例えば、私の店舗ではお相撲さんのようなマスコットキャラクターを採用していまして、これはデザイナーである私の兄に作ってもらって使用しているものなのですが、他の店舗は使っていなかったり、「使ってもいいですか?」と聞かれたところには共有したり、本当に自由ですね。

基本的にはそれぞれのオーナーが責任を持って運営しつつ、ブランドとして連携を取る場面では協力するなど、良いバランスが取れているのですね。

もともと独立志向は全くなかった。それでも起業に踏み切った理由とは。

現在では「sumo-T」3店舗を経営されている王鞍さんですが、起業に至るまでの経緯をお聞かせいただけますか。

最初は、工業高校を卒業した後、大工をやっていました。楽しかったのですが、給料が安すぎて1年ちょっとで栄養失調になってしまいまして、高校生のときにアルバイトしていた引っ越し会社に社員として転職しました。そこでは、同世代が多かったこともあり、周りに負けたくない思いで必死に働きました。当時は現場をいかに早く綺麗に終わらせられるかが評価の対象でもあったので、同僚がお昼ご飯を食べている最中に別の現場に行ったりしていましたね。

約2年半そこで働いていたのですが、たまたま不動産会社に勤めている方の引っ越しを担当したときに「不動産屋に興味ないか」と言われまして、引っ越し当日に作業をしながら、その方の上司ともお話しさせていただきました。私自身、年齢や経歴関係なく、実力だけで昇進していける世界に興味があり、ご縁もいただいたのでその不動産会社に転職することにしたんです。

仕事中に別の業界の人からスカウトされるのはすごいです。その方も王鞍さんに対して強く惹かれるものがあったのでしょうね。不動産会社へ転職後はどのように働いていかれたのですか。

不動産営業は未経験でしたが、2か月研修を受けて、入社3か月目には約1,000人いる営業の中で全体の17位の成績を出し、いきなり月収100万円を超えました。そのとき、改めてすごい業種だなと思いましたね。

すごいですね。営業成績が残せた要因はご自身では何があるとお考えですか。

営業スキルは持っていませんでしたが、人と仲良くなる力はもともと備わっていたのかもしれません。昔から友達が多いタイプでしたし、引っ越し会社時代のセールスドライバーや現場での経験から、短い時間で人の懐に入る術も学びました。負けず嫌いなのは幼少期から変わりません。

それからは、「稼ぎたい」というよりは「負けたくない」という気持ちで必死でした。同僚とも、「給料100万円で売上最下位か、給料20万円だけど売上トップかどちらがいいか」という話題になったときがあって、私は後者だなと思っていました。最初は敬語の使い方も知らないぐらいだったので、先輩から怒られることもありましたが、売上を上げ続けられたのは周りに良いライバルがたくさんいたからだと思います。その会社で約7年半勤めて、28歳の年に独立しました。

バリバリ働いて満を辞して独立、という印象も受けますが、ご自身はもともと「独立したい」という思いはあったのでしょうか。

いえ、むしろ父親が商売をして失敗したのを目の当たりにしていたので、そういう辛い思いは絶対したくないと思っていました。

では、起業の直接的なきっかけは?

勤めていた会社が上場を目指す中で、業務改善に取り組むことになり、残業などがしづらくなっていったんです。プライベートを重視したい人にとっては素晴らしいことだと思いますが、私は、仕事に没頭したいタイプで、やったらやった分だけ評価されたいという思いがあり、もどかしさも感じていました。

そんなタイミングで、同僚が「一緒に会社をやらないか」と誘ってくれたんです。誘ってくれた同僚の他にも何人か集まり、「sumo-T」の看板を立ち上げました。そのときは、今の株式会社rety-Rはまだなく、株式会社Rootsという別の法人を、元同僚と2人で創設しました。

順調に店舗数が増えたことや節税対策など、いろいろな理由があり、1年後に「それぞれの会社を持った方が良いよね」ということで、私が株式会社rety-Rを創業し、別々の会社になりました。今は、株式会社Rootsと株式会社rety-Rで3店舗を一緒に運営しているほか、新規事業の策定・実施も2法人で協力して行っています。

他ブランドとの差別化、集客の工夫。

株式会社rety-R設立時の資本金はおいくらでしたか。

300万円です。税理士さんの助けを借りながら、日本政策金融公庫の創業融資を受けて資本金に充てました。株式会社Rootsでも、運転資金の借り入れを受けたことがあったので、大まかな流れは掴めていた分スムースに融資申請を進めることができたと思います。

画像:sumo-T江坂店スタッフ

創業時のメンバーは何名でしたか。

私を含めて5名の営業と、事務の方1名で始めました。事務の方は、前職の同僚で、不動産会社の事務を15年ほどされていたプロフェッショナルな方で、退職後もたまに連絡を取り合っていたんです。独立するときに報告すると、「経理とかどうするんですか。私できますよ」と言ってくれて、お手伝いいただけることになりました。その方が経理や労務など一手に引き受けてくださっています。税務に関しては、株式会社Rootsでは弥生会計を使い日々の記帳を行っています。株式会社rety-Rでは税理士さんにすべてお願いしています。

初めからバックオフィスを任せられる方がいるのは心強いですね。不動産仲介業の店舗集客はどのようにされているのでしょうか。

現状はポータルサイトからの集客が主体です。

私がこの業界で仕事を始めたころはまだアナログ集客がメインでした。物件の写真を印刷して店の外に貼り出して、お客さまが来店してからは紙を印刷して提案して、といった感じです。しかし、今は飛び込みのお客さまはあまりいなくて、ほとんどがメールやWebからの予約です。たった10数年でネット集客の時代になり、ポータルサイトからの問い合わせが主流になりました。そして今またその時代も移り変わろうとしていることを感じています。

ポータルサイトの一極集中ではなく、弊社でも3〜4年前からSNS運用に力を入れようと、TikTokやYouTube、Instagramでの集客を本格的に始めました。いろいろ試行錯誤して、最近になってようやく、TikTokとInstagramから問い合わせがくるまでに育ちました。ゆくゆくは全部、自社集客できたらと思っています。SNSからすべてのお客さまを集客できるようになれば、1か月1店舗あたり120〜130万円ほどかかる広告宣伝費用も不要になり、従業員の給料にも還元できるようになるので、メリットが大きいですよね。

それは大きいですね。SNS運用は無料でできますが上手に活用できているところとそうでないところの差が大きいと感じます。御社がSNS集客で大切にしていることは何でしょうか。

根気よくコツコツとやること、結局これが一番大事です。

最初は本当にいろいろ試しました。流行りに乗ってお笑い系のアカウントを目指してみたことなどもあります。ただ、再生回数といいねが増えても、結局来店にはつながりませんでした。我々の目的は契約をしてもらうことなので、途中から方針転換して、物件をしっかり紹介する形で真面目にコツコツ続けてきたところ、ようやく成果が出てきました。

画像:【大阪賃貸】sumo-T | TikTok

事業を多角化できたのは全て「人」があってこそ。

現在では3店舗を経営されていらっしゃるとのことでしたが、店舗展開のお話も少しお聞かせいただけますか。

株式会社rety-Rを設立した際、当時2店舗を運営していたところから、もう2店舗出しました。しかし、そのうちの1つは1年ほどで撤退したんです。

そうだったんですね。始めるよりも辞める方が勇気のいることだと思いますが、差し支えなければ撤退された理由も教えていただけますか。

その店舗に関しては、実ははじめから長くやろうと思っていなかったというのはあります。直接的な撤退理由は人材不足ですね。人さえ揃っていれば続けられたのかもしれませんが、当時まだ2店舗しかなかったところを、さらに追加で同時に2店舗オープンしたために、戦力が分散されてしまい、結局撤退することになりました。場所が良いので「何とかなるかな」という期待があったんですが、ダメでした。ただ、最初から撤退の可能性も考えていたので、損失はそれほど出なかったのが幸いです。

最悪を想定したうえで挑戦するというのは、頭で理解していても実践するのが難しいことだと思うので、素晴らしいです。では、株式会社Rootsと株式会社rety-Rの2法人で3店舗になると思いますが、社員数は全部で何名いらっしゃいますか。

今は2法人合わせて社員が20名です。

多くの社員を抱えるときに、マネジメントのコツや心がけていることがあれば教えてください。

これも、一度失敗しているんです。一時3店舗で40名まで社員数を増やしたんですが、目が行き届かなくなったり、私たちの想いが社員に伝わらなかったりで。社員数を増やそうとしていたころはとにかく社員に歩み寄って優しく接していました。ですが、経営をしていくうえでは売上を上げなければならないし、そのためには自分の想いをしっかり伝えなければならない。同じ方向を向いて頑張ってくれる人と一緒にやらないと意味がないと気付いたんです。

最近では、目標達成ができなかったときは、できなかった理由を一緒に考えて計画を立てて、それでもできていない人には厳しく伝えることもあります。経営者として、自分の意見や想いを伝え続けることを意識しています。

社長の想いが浸透させるのは根気のいることだと思いますが、その分社員一丸となって目標に向かうことができますよね。さらに現在では、不動産仲介業だけでなく、引っ越しやリフォームなど、ワンストップでさまざまなサービスを展開されていますが、新しい事業を始めるきっかけや背景なども教えていただけますか。

これまでいろいろなことに挑戦してきましたが、引っ越しやリフォームも、もともとやろうと思っていたわけではないんです。ただ、経営していく中で、下請けに回すなどで社外にお金が流れていくのがもったいないなという感覚はあるんですよね。そのうえで、ニーズがあるもの、かつ事業を任せられる人材がいるときに、新しい部署を立ち上げています。例えば、今弊社の幹部になってくださっている方は、引っ越し会社で働いていたときの上司で、引っ越しのノウハウや経験もある方なんです。その方の紹介で弊社に入社したスタッフも何名かいたのですが、不動産営業の数字がいまいち伸びずにいて、せっかく入社してくれたのに結果が出ないからといって辞めてもらうのは嫌だなと思ったので、引っ越しの部署を作ったらいいんじゃないかと始めたのが引っ越し事業の成り立ちです。

リフォーム事業も同じ感じで、もともと営業志望で入社した人がリフォーム経験者で、コロナ禍で賃貸の仕事がなくなったとき、リフォームの需要はあったので、下請けに流さず自社の事業として始めようと思い、部署を新たに作りました。

不動産仲介から多方面に広がっていき、ワクワクしますね。

でも、うまくいかなかったものも多くありますよ。例えば、エアコンクリーニングや遺品整理は、事業部として大きくしようとしたんですけれども軌道に乗らずに、今ではそれぞれリフォーム事業部、引っ越し事業部の中の1サービスとして縮小しています。

2年前には、外国人の方々を8人雇って、外国人向けの不動産賃貸仲介事業を始めたり、社員向けの英会話教室をやったときもありましたが、これも結局は撤退しました。日本に来る外国人の多くはもともと日本語が話せるので、外国人専門サービスのニーズが限られることや、留学生を対象にすると需要のある時期に偏りができ安定した受注につながらないこと、紹介できる物件も少なく、事業としての採算が取れないと判断しました。

そのとき入った社員の方がもともとYouTuberをやっていたので、弊社でもYouTubeチャンネルを開設して広告収入を目論んだりもしましたが、なかなか登録者数が増えずにこれも辞めました。

適任者がいたから新しい事業にチャレンジできたんですね。

はい。新しい人を採用する際は、もしも営業として成績が伸びなかった場合、どんなことができるのか、まで見ています。

会社名に込めた想いを大切に。

これから力を入れていきたい事業は何かありますでしょうか。

今は物件を買い取って自社で管理することや、再販することに力を入れています。不動産会社として今後やっていくには仲介業だけではやはり肩身が狭くなっていくと思いますので、自社保有物件を増やしていって、仲介手数料、広告料の他に、家賃収入などのより安定的な収益を得られる体制を作っていきたいです。

画像:創業記念の祝賀会にて

これまですごくたくさんのチャレンジをしてこられた王鞍さんですが、次々と事業を思いつく発想の源泉はどこにあるのでしょうか。

すべて人ありきです。いつも人を起点に新しい事業が始まります。もともと人との繋がりを大切にしたいという想いで、「Related to You」の頭文字を取って「rety-R」という会社名を付けました。ちなみに最後のRは、登録商標マークの「🄬」を模しています。「本物」や「格」の意図で、一緒に看板を立ち上げた仲間の信念から、「sumo-T」の看板を掲げている法人の名称には、すべて大文字の「R」を法人名に付けることになっています。

会社名に込められた想いの通りに、周りを大切にしながら事業を拡大されているのがすごく伝わります。

私がこれまで事業を続けてこられたのも、いろいろ波があった中で、大変なときに助けてくれた周りの人たちがいるからこそです。もうそれに尽きると思います。おかげさまですね。

取材協力:創業手帳
インタビュアー・ライター:樋口 正

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