「帽子で世界を幸せに」30代で独立開業した女性作家のビジョンと「夢を叶えるマインドセット」とは。

起業時の課題
事業計画/収支計画の策定, 集客、顧客獲得, 仕入先確保, マーケット・ニーズ調査

レトロカルチャーが息づく大阪・中崎町で装飾専門の帽子屋「Fairy.Hat」を経営している伊藤友香さん。現在では全国の百貨店などを飛び回り催事に出店するだけでなく、中国や台湾にも販路を拡大中。しかし、開業当初は多くの失敗も経験されたそうです。

「失敗も経験と前向きに捉える」「いつもご機嫌でいれば人も夢も引き寄せられてくる」と笑顔で語る伊藤さんに、開業までのストーリーと、夢を叶える秘訣について、たっぷりと語っていただきました。

会社プロフィール

業種 小売業(アパレル)
事業継続年数(取材時) 6年
起業時の年齢 30代
起業地域 大阪府
起業時の従業員数 0人
起業時の資本金 100万円

話し手のプロフィール

伊藤 友香
Fairy.Hat 代表
1981年大阪生まれ。奈良育ち。幼少期に、祖母から針縫いを習う。関西福祉大学在学中にリハビリメイクに興味を持つ。卒業後、美容室で働きながら通信で美容師免許を取得。8年間美容室で働き、ミュージカルの世界に憧れ、劇団四季の床山に勤務。大阪に戻り、ユニバーサルスタジオジャパンでフェイスペイント、ヘアメイクに従事。
その後、ミュージカルの世界で見た華やかな帽子に憧れ、装飾専門の帽子屋「Fairy.Hat」をオープン。「帽子を通して、人を幸せにする」をモットーに、現在は、百貨店催事をメインに活動中。いつか舞台の帽子を製作するという目標のため技術習得、学習も続けている。

目次

「帽子で人を幸せにしたい」かぶるだけでかわいくなれる魔法の帽子屋。

事業の概要を教えていただけますか?

大阪の中崎町で、装飾専門の帽子屋を経営しています。大阪の中崎町にアトリエを兼ねた店舗を構えていて、現在は百貨店での催事や、台湾・中国のお客さまへの販売をメインに展開しています。

“装飾専門“とはどういうことでしょうか?

既製品の帽子をそのまま販売するわけでも、1から手作りするわけでもなく、メーカーさんから仕入れた帽子にリボンやレースをあしらって、オリジナルの帽子を制作販売しています。1から帽子を作ると価格が高くなってしまうので、できるだけ手が届きやすい価格を維持しながら、かわいさとオリジナリティを兼ね備えた帽子屋のスタイル選びました。「帽子で人を幸せにしたい」というビジョンのもと、帽子作りに取り組んでいます。

「Fairy.Hat」というブランド名は、文字通り「妖精の帽子屋」という意味です。例えばディズニー映画など、おとぎ話の中の妖精は魔法をかけて女の子をかわいく変身させてくれますよね。そんな風に、かぶるだけで“かわいい”を作れる帽子屋でありたいと思っています。

「自分の商品が売れた!」帽子屋開業を決意した日。

帽子屋を開業するまでのキャリアについて教えていただけますか?

学生時代までさかのぼってお話しすると、大学では社会福祉学を専攻し、卒業論文を執筆した際、テーマに「リハビリメイク」を選び、先駆者からたくさんの学びを得ました。リハビリメイクとは、外観に損傷を負った方が傷やアザをカバーし、心のケアを高める技術のことです。そのことがきっかけで美容に興味を持ち、大学卒業後は8年ほど美容師をしていました。

それと、昔から舞台が大好きで、テーマパークのショーアトラクションや有名劇団の舞台をよく観に行っていました。次第にその世界で働いてみたくなり、劇団の床山(役者がかぶるかつらを結ったり手入れをしたりする仕事)や、テーマパークでのフェイスペイントやヘアメイクの仕事も経験しました。

そこから帽子屋開業の道を選んだ背景には何があったのでしょうか?

テーマパークで働いていたとき、フェイスペイントの同僚がイベント出店して自分の描いた絵を販売していたんですね。「こういうお金の稼ぎ方もあるのか」と感銘を受けたのと同時に、組織で働くことに違和感を抱き始めていたので、見よう見まねでイベント出店に挑戦してみたんです。そこで自分で作ったものを販売する経験をしたことで、「自分のお店を開いてみたい」という思いを強くしました。

商品として帽子を選んだのは、もちろん帽子が好きだという理由もあるんですが、帽子の可能性を強く見出した経験があったからです。美容師をしていたときに、抗がん剤治療で髪の毛が抜けてしまったお客さまがいらっしゃったんですね。その方が、帽子をかぶっただけで気持ちが前向きに変わった瞬間を目の当たりにしたんです。「帽子で人を幸せにしたい」という思いは、このころから私の信念となっています。

数十万円の損失も?初めての起業で失敗から学んだこと。

店舗の開業準備について詳しくお聞かせください。

開業準備としては、物件の賃貸契約と、内装工事、材料の仕入れなどを含めておよそ100万円の自己資金を投じました。当時を振り返ると、ランニングコストをもう少し用意しておけばよかったと思っています。今のように催事での売り上げが軌道に乗るまでは、1年ほどカフェで早朝のアルバイトをしながら生計を立てていましたね。

「装飾専門の帽子屋」とお伺いしましたが、帽子本体の仕入れ先はどのように見つけられましたか?

帽子メーカーをインターネットで調べて連絡し、装飾して販売することに了承をいただけた所と取引を始めました。当時は必死だったので、仕入れ先探しに苦労したかどうか記憶が定かではないんですが(笑)、割と大きい失敗もしましたね。海外製作の帽子をOEMとして発注したのですが、仕上がりがサンプルと全く違って数十万円も損失を出したこともありました。とはいえ、今ではその失敗も経験の1つとして前向きに捉えています。海外の工場に製作依頼する場合は、指示書の入念なチェックが必要だと学びました。

数十万円の損失は痛いですね。それでも失敗も経験とポジティブに捉えられる姿勢が素晴らしいです。売上の管理や会計業務はお1人でされていたんでしょうか?

そうですね、青色申告も会計ソフトへの仕訳入力も自分で行っています。ただ、完全に1人で行っていたわけではなく、税務に強い兄や経理に強い友人に相談し、詳しく教えてもらいました。私の考え方として、会計にしろ商品の撮影にしろ、何でも1人で抱えようとせず、専門の人に助けを求める姿勢を大切にしています。分業スタイルと言いますか、人を頼れる部分は頼って、自分にしかできない仕事にいかに注力できるかという視点を大切にしていますね。

百貨店、そして海外へ!出会いを引き寄せ開いた新たな扉。

店舗開業してから売上が軌道に乗るまでに工夫されたことや、百貨店催事の出店に至った経緯を教えていただけますか?

開業当初は、Instagramに新商品の写真をアップし集客しながら、店舗とイベント出店で販売するという営業スタイルでした。しかし、オープンから1年ほど経過しても思うように売上が伸びず、百貨店の催事出店の道を模索し始めます。その後ご縁に恵まれ、企画会社の方から声をかけていただいたため、百貨店での催事に出店することが決まりました。

百貨店のバイヤーや企画会社の担当者は、外部のイベントに足を運んで出店者を探している場合があります。とはいえ、どの企画会社が希望する場所の催事に販路を持っているのか、その情報は待っていても手に入りません。さらに企画会社の担当者さんも毎年のように変わります。

そこで私は、仲良くなった作家さんを始め、たくさんの方に自分の希望する出店先を公言し続けました。「あそこに出店したいんですけど、どなたが担当かご存じないですか~!」といった具合です(笑)。不思議なもので、公言し続けた結果2〜3年後には出したかった場所で出店できていましたね。

さらに百貨店での催事を通じて、中国や台湾のバイヤーさんとのご縁にも恵まれました。そこからFairy.Hatの販路は海外へと広がっていったのです。本当にありがたい出会いでした。

伊藤さんのお人柄が良い出会いを引き寄せたのかもしれませんね。海外に向けた販売の手応えはいかがでしたか?

強い手応えを感じています。特に台湾のバイヤーさんとのつながりは、販路拡大の可能性を示してくれた貴重な出会いだったと感じています。

台湾での現地販売に加え、年に2回ほどFairy.Hatの店舗でライブ配信をしていただいて、台湾のお客さま向けに販売をしていただいています。いわゆるライブコマースです。もともと帽子好きのバイヤーさんということもあって、熱量高くFairy.Hatの帽子をPRしてくださり、売り上げをサポートしていただいています。本当にありがたい限りです。

ここ数年、日本ではミニマリストが流行するなど、華やかさよりもシンプルなファッションが好まれる傾向にあると感じます。一方、中国や台湾ではファッションで自分らしさを表現する意欲があると言いますか、日本とは違った活力があるんですよね。そういう意味では、「かぶるだけでかわいくなれる」を追求したFairy.Hatの帽子は中国・台湾の方に受け入れられていると感じますね。

私はこれまでの経験から、自分の商品に価値を感じてくれる人がどこにいるのか、常に意識することが大切だと学びました。もし私がイベント出店に固執し続けていたら、今も集客に苦しんでいたかもしれません。視野を広げれば、自分の販路を広げてくれる人は周りにたくさんいます。海外のお客さま、中国・台湾のバイヤーさん、企画会社さん、同業の作家さんなど、すべてのご縁が今の私を支えてくれています。

人とのつながりをつくるうえで大切にしている2つのこと。

企画会社の方や海外のバイヤーさんなど、人脈を広げていくうえで意識していることはありますか?

こればかりは出会いのおかげ、ありがたいご縁だったと言うほかないかもしれません。ただ、人とのつながりにおいて常に心がけていることが2つあります。

1つは、オープンマインドでいることです。イベントにおいても催事においても、周りの方とこれでもかっていうくらいに仲良くなります(笑)。これは、過去の美容師やテーマパークでの接客経験が大いに活きていると感じますね。お客さまから話しかけられやすい雰囲気づくりや、見た目の清潔感も大切だと思います。

たとえ商品が魅力的でも、売っている人の性格や態度が悪かったら、買いたくなくなりますよね。そうならないためにも「数字で一喜一憂しない」「瞑想をして自分を整える」といったパーソナリティを磨く習慣を心掛けています。いつもご機嫌でいると、その波動にいい人が引き寄せられる気がするんです。

そしてもう1つは、当たり前のことを当たり前にやる、ということです。約束は必ず守る。風邪を引かない。「指定された時間、指定された場所に必ず伊藤はいます」という姿勢が信頼関係の構築につながると信じています。「この人と一緒に仕事したい」と思ってもらえるよう、この姿勢を前提に仕事をしています。

特に開業後2~3年は、どんな出店依頼に対しても恐れずに、お声がかかれば二つ返事で「出ます」と答えるイエスマンの姿勢を貫いていました。本当に掴みたいチャンスが来たときにいつでも掴める自分でいられるように、自分自身を育てている感覚ですね。もちろん、今も成長の過程です。

信じていれば、夢は叶うもの。

今後の展望や目標についてはどのようにお考えですか?

まずは売り上げを安定させるという意味でも、海外への販路を育てていきたいと考えています。そのためにも、お客さまを飽きさせないように商品展開のバリエーションを拡大していくつもりです。

とはいえ、帽子の作り手を雇ったり、弟子を育てたりすることは今のところ考えていません。Fairy.Hatの帽子は、私の頭に浮かんだイメージをそのまま形にしていて、装飾の配置もミリ単位でこだわっているので、他の人に伝えるのが難しいんですよね。それでも、帽子愛用者の割合、いわゆる着帽率を上げたいという夢もあるので、これからも帽子の魅力を広く伝えていきたいです。

そして、室内用帽子の販路についても徐々に拡大していきたいという思いもあります。室内用帽子とは、抗がん剤治療などによる脱毛に悩む患者さん向けの帽子のことです。これまでも細々と販売してきたものの、新たな販路を作っていけるよう少しずつ準備を進めています。「帽子で人を幸せにしたい」「帽子を通して、その人らしく生きるお手伝いをしたい」という思いは、お客さまが健康な方であろうと、闘病中であろうと変わらないんです。

さらに、これも昔からの夢ではあるんですが、舞台や映画、テレビドラマなどで使われる帽子を手がけたいですね。帽子作家として活動を続けていれば、業界の方やお付き合いのある作家さんからお声がけいただける可能性もゼロではありません。ですので、これまでと同様に声がかかったら二つ返事で「できます」と言えるよう、自分自身の制作技術を高めたり、帽子の時代背景を学んだりと、スキルアップに努めています。

伊藤さんのお話を受けて、帽子にはファッションの側面だけでなく、福祉やアートなど、さまざまな可能性を秘めていることを強く感じました。それでは最後に、起業を検討している方にメッセージをお願いします。

自分の力で地道に働いて生計を立てられるようになれば、自分の可能性はどんどん広がっていくと思うので、諦めないでほしいです。自分のニーズはどこにあるのか、これは行動してみないとわかりません。可能性を狭めず、何でもトライする気持ちを大切にしていれば、夢は叶うもの。私もそう信じています。

取材協力:創業手帳
インタビュアー・ライター:間宮 まさかず

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