孫の世代にやさしいイノベーションを。キャリア35年で開拓する新たなSDGs事業。

起業時の課題
集客、顧客獲得, マーケット・ニーズ調査

35年勤めた会社を退職し、58歳で起業した佐々木康雄さん。山梨県の伝統工芸である和紙とカーボンを組み合わせた特殊素材を使用した床暖房システムの販売で事業を軌道に乗せています。さらに佐々木さんはこの特殊素材を活用し、SDGsに貢献する新しい事業開発にも積極的に取り組んでいます。

これまでのキャリアが現在の事業にどう活きているのか、そして今後の展望について、佐々木さんに詳しく話を伺いました。

会社プロフィール

業種 建設・工事業(設備工事)、卸売業
事業継続年数(取材時) 8年
起業時の年齢 50代
起業地域 山梨県
起業時の従業員数 0人
起業時の資本金 -

話し手のプロフィール

佐々木 康雄
佐々木・プランニング 代表
視聴覚システム、半導体などを販売する商社にて35年間勤める。退職後、佐々木・プラニングとして独立。床暖房システムの販売や、床暖房シートの特殊素材を活用し、乾燥庫や農業用プランターに使うヒーターなどの商品開発にも取り組む。

目次

山梨発!人と地球にやさしい床暖房システムでSDGsに貢献を目指す!

現在の事業内容についてお聞かせください。

佐々木さん:床暖房システムの卸売り手掛ける会社を経営しています。私たちの床暖房の大きな特徴は、従来の商材に比べて環境にやさしく、ひたなぼっこと同じ仕組みで身体を温めます。一般的な床暖房は温水式や電気ヒーター式などが主流ですが、私たちは山梨県の伝統工芸である和紙とカーボンを融合させた約0.4mmの薄い特殊シートを使用しています。このシートは、1981年にNASAが発見した育成光線(4-4μ)の遠赤外線で無駄なく熱を放射するため、従来の床暖房システムに比べて消費電力を大幅に削減できるのです。

主な販売先は建築会社で、現在、富士山麓や八ヶ岳界隈で約30社の企業と取引をしています。床暖房の設置依頼を受けた建築会社から問い合わせをいただき、私が図面を作成し、施工会社と連携して設置を行います。

とても興味深い商材ですね。どのような経緯でこの商材の販売を始められたのですか?

佐々木さん:もともとは兄の紹介でこの特殊シートを製造販売しているメーカーを知りました。私はこの「遠赤外線の放射熱による暖房システム」という仕組みが非常にユニークで、おもしろいと思ったんです。さらには地元・山梨の伝統工芸品と最新の技術を組み合わせた商材であること、SDGsに貢献できる商品であることから強い関心を抱き、取り扱いを始めました。ちなみに、私の自宅でも使っているのですが、床暖房効果や電気代などのデータを取得し、ホームページで公開するようにしています。

35年の勤続を経て独立へ!58歳から起業に挑戦した理由とは?

佐々木さんのこれまでのキャリアについてお聞かせください。

佐々木さん:私は35年間、音響・映像関係のセンサーやその他の電子部品を取り扱う商社で営業職に従事していました。その会社ではさまざまな経験をさせていただきましたが、門前の小僧もなんとやらと言いますか、営業スキルは自然と身につきましたね。特に飛び込み営業での度胸は鍛えられました。外資系の電磁素材メーカーと協力し、大学の研究室などを対象に市場開拓をした経験はいい思い出です。

ただ、入社当初はまだまだ小規模だった会社も、次第に大企業へと変貌を遂げました。それにともなって人間関係は複雑化し、社内の分業化も進み、私個人の裁量も小さくなっていったんです。

50代半ばごろ、会社都合で退職しました。当時、長女は既に結婚していましたが、息子はまだ大学生で、経済的には厳しかったです。その後、友人の紹介で半導体装置会社や画像技術会社に転職したのですが、長年勤務した会社と異なり、仕事の進め方、社内人間関係になじめず過ごしていたところ、会社が倒産しました。

(販路など情報提供支援をいただいている山梨県よろず支援拠点の田中忠コーデイネーターと)

そこで、中小企業診断士の仕事をしていた実兄に複数の企業を紹介してもらい、再就職活動をしていきました。

もともと起業をするつもりではなかったんですね。

佐々木さん:そうですね。独立準備をしていたわけではありませんでした。兄が紹介してくれ、現在取り扱っている床暖房製造会社と出会ったのが独立のきっかけです。

地元山梨の材料が使われ、床暖房だけでなく農作物の栽培や乾燥など更に大きな可能性があることを教えていただき、これなら事業の可能性があると思いました。まずは、サンプルと資料を頂き、県内の別荘エリア近くの建築会社にサンプルシートを持って紹介に歩きました。

数日後に、その建設会社より、大型ログハウスのリノベ―ションで床暖房を検討したいのですぐに見積して欲しいとの話をいただき、受注をすることができました。

長年の営業経験の賜物ですね。さすがです。

佐々木さん:床暖房会社からは、雇用契約ではなく取引関係を望まれたため、個人事業主登録をし、今に至ります。徐々にお客様の件数も増加し、エリアも富士山から八ヶ岳、軽井沢へと拡大しています。

開業にかかるお金や運転資金などはどうされていましたか。

佐々木さん:開業当初は自己資金でやり繰りしていましたが、事業が成長するにつれて融資が必要になり、今は地元の信用金庫や日本政策金融公庫から支援を受けています。ホームページを作成する際には補助金を利用し、制作会社に依頼して作りました。会社員を長くやっていましたので、事業計画書の作成はあまり苦なく自分でやりました。

また、会計ソフトは商工会のすすめで『弥生会計 オンライン』を、請求書の処理は『クラウド請求書ソフト Misoca』を導入しています。BS/PLも自動で作成でき、インボイス対応の請求書作成機能も助かっていますね。おかげで経理処理が格段に効率的になり、事業運営に集中できるようになりました。

“お肌にやさしい床暖房”?ベテラン営業マンの「商品の売り方」。

会社員時代の経験も踏まえて、商品を売るために大切なマインドとは何だと思いますか?

佐々木さん:営業で大切なことは、商品の仕組みや構造を深く理解し、それを相手にどのように伝えたら喜んでもらえるかを考えることです。同じ商品でも、売り方にはさまざまな工夫ができます。

例えば、私がこの床暖房を女性に紹介する際には「お肌にやさしいですよ」と紹介しますね。従来の床暖房では部屋が乾燥しやすいため、加湿器を併用している家庭は少なくありません。しかし、加湿器の電気代や湿気によるカビの問題もあります。

一方、私たちの床暖房システムは遠赤外線の波長を利用しており、部屋が乾燥しにくいのです。体内の水分子を振動させ、内側から温めますからね。このように商品の仕組みを理解して、お客さまに合った魅力の伝え方を常に心掛けています。

企業に長年勤めた佐々木さんだからこそできる、起業を志す方へのアドバイスをぜひお願いします。

佐々木さん:経営の全体像について勉強できる環境に身を置くことが大切だと思います。私自身、前職でのさまざまな経験が今の事業に大いに役立っています。例えば、入社当初の経理部での経験や、海外支店の支店長としての業務など多岐にわたる業務に携わることができ、実践的な学びがありました。

また、忘れてはいけない大事な視点としては、自分1人で何ができるのか、本当の自分の実力を自分で理解することがとても大切です。特に長期間同じ会社に勤めていると、達成した成果がまわりの人々の協力の賜物であることを見落としがちですからね。つい、成功が自分の力だけによるものだと勘違いしてしまいます。しかし実際には、会社の存在と周りの人々の協力があってこそ、その成果を上げることができた。このことを忘れてはいけないなと思います。

それから、地域の支援体制を利用することも大切ですね。私も、会社員時代には知らなかった地元金融機関や商工会や県よろず支援拠点や県立産業技術センター・産業支援機構・産福連携コーディネーターより、販路・技術的評価などさまざまな支援をいただいており、大きな支えとなっています。

そして最後に、おもしろいと思えることをやる。これが最も大切です。自分が取り組んでいる仕事の在り方に執着してしまうと苦しくなるじゃないですか。どうしてもこれをやらなくちゃいけない、なんて言っていたら続きませんから。難しく考えずに、おもしろいことをやる。結局はこれがすべてじゃないですかね。

夢は大きく、おもしろく。次世代に向けた挑戦は続く。

今後の展望をお聞かせください。

佐々木さん:現在は床暖房シートの技術を応用して、特殊な乾燥庫の開発に取り組んでいます。この乾燥庫は遠赤外線の波長を利用しており、食材内部の水分を効率的に取り除く乾燥プロセスの実現に最適なんです。

例えば、果物を乾燥させて粉末すれば、廃棄果樹も香る粉末として6次化が可能です。
アジの開きやシイタケ、お茶の葉など、天日干しが必要な従来の乾燥作業にも応用が可能です。天日干しは、朝夕の出し入れですが、乾燥庫なら24時間出し入れ無し、乾燥時間も短縮可能です。
特に、現場で作業を行う高齢の方々の負担軽減にもつながります。この乾燥庫で作った製品は香りが際立つと好評です。

現在は、山梨県内の障がい者就労支援施設へ乾燥庫の設置を交渉しているところです。県内数箇所に乾燥インフラを整備し、農家から農産物の乾燥委託(椎茸粉末・苺粉末など)を受け入れることで、障がい者就労施設の収入向上と、地元の6次化産業の創出、農家の収入向上を目指す取り組みを進めております。

また、今後の長期的な目標の1つは、現在ボイラーを使って温度管理されているものを当社の技術で代替することです。「ボイラーの使用を止める」ということは、私の大きな夢でもあります。

現在、農業ではビニールハウス内でボイラーを使用して温度を管理していますが、環境負荷が、大きな問題となっておりますが、脱化石燃料の具体的な検討が進んでおりません。
このボイラーの使用を止めることができれば、CO2排出量を大幅に減らすことができるのです。山梨の和紙を使ってこの変革が実現できる。そう考えるととてもおもしろい取り組みだと思い、友達に話したところ、具体的なハウス栽培ヒーターと制御システムを開発してくれました。今後も仲間と共にこの事業を推進していくつもりです。

私には孫がいますが、孫の世代の人がこれから生きていく時代について考えると、石油が使えなくなる未来は確実に近づいているわけですから、それに備えてまずは自分にできることを精一杯行うつもりです。それが私のやりがいであり、これからの展開に自分自身もわくわくしています。

次世代の人たちがより良い環境で生きられるための事業をされている。素晴らしい信念ですね。ちなみに、ご自身ではいつまで事業を続けたいですか?

佐々木さん:うーん…飽きるまで、でしょうね(笑)。おもしろければ続けるし、体力的に続けられなくなったら、それが辞めどきです(笑)。

そのあっけらかんとしたところが佐々木さんの魅力ですよね(笑)。

佐々木さん:もし私が広めた技術が社会に役立つと感じてもらえるならば、誰かに引き継いでもらってもいいかもしれません。私の取り組みが何らかの形で世の中に残れば嬉しいですね。何はともあれ、シンプルに、自分がおもしろいと思うことをこれからも続けていくつもりです。

取材協力:創業手帳
インタビュアー・ライター:間宮 まさかず

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