「主婦起業」×「姉妹経営」の実際とは?両親との別れが教えてくれた“違和感”を事業アイデアに。
- 起業時の課題
- 事業計画/収支計画の策定, 集客、顧客獲得, マーケット・ニーズ調査, バックオフィス業務
従来の慣習にとらわれないお供え物ギフトの開発で、新たな供養の形を提案する「スゥール合同会社」。姉の的場和子さんと妹の渡辺直子さん、姉妹で共同経営をしています。
今回の記事では、創意工夫あふれる商品開発の背景や開業の準備、そして主婦起業ならではの工夫と姉妹経営の実際について詳しくお伺いしました。お2人のエピソードには、これから起業を考える方にとって、一歩を踏み出すためのヒントがたくさん詰まっています。ぜひ最後までご覧ください。
会社プロフィール
業種 | 小売業 (家具・インテリア) |
---|---|
事業継続年数(取材時) | 2年 |
起業時の年齢 | 50代 |
起業地域 | 東京都 |
起業時の従業員数 | 0人 |
起業時の資本金 | 100万円 |
話し手のプロフィール
- 的場和子(写真右)
- スゥール合同会社 代表社員
- 短大卒業後服飾関係に就職、結婚を機に退職。子育て中にプリザーブドフラワーに出会いその美しさに惹かれる。花店でのパート勤務を経てフリーランスとなり販売、レッスン等を行う。当初仏花とは無縁だったが年齢とともに両親を見送った経験から身近なものとなった。従来のしきたりにとらわれないデザインや新しい供養の形を提案しようと妹と共にお供えに特化したネットショップ「フルールcube」を開設。その後スゥール合同会社として法人化。
- 渡辺直子(写真左)
- スゥール合同会社 代表社員
- 短大卒業後金融機関へ就職。結婚を機に退社。子供のアレルギーを機に趣味だったお菓子、パン作りを本格的に学ぶ。その後個人事業主としてお菓子教室、製造販売を始める。その傍ら香りに興味を持ちアロマコーディネーターの資格を取得し現在に至る。フルールcubeではアロマストーン、不祝儀袋などを担当。
目次
- 従来のしきたりが今の暮らしにフィットしない?ふと抱いた疑問から起業へ。
- 両親の他界が起業への後押しに。
- 主婦起業だからこそ、「手の届く範囲での事業運営」を大切に。
- 二人三脚で挑む会社経営。家族の応援と姉妹の絆が支えに。
- 事業を通じて「手を合わせる心」を紡いでいきたい。
従来のしきたりが今の暮らしにフィットしない?ふと抱いた疑問から起業へ。
まずは現在の事業内容について教えていただけますか?
的場さん:私たちの主な事業は仏花やお線香、アロマストーンなど、お供え用のギフト販売です。実店舗は持たず、主にECサイトで販売しています。特に需要があるのはお盆と、喪中はがきが届く12月ごろで、お客さまの層としては40代以上の世代が多いですね。
ECサイトでの販売を始めてから3年ほどで法人化しました。社員やスタッフは雇っておらず、姉妹2人による共同経営です。私がフラワーデザイナー、妹がアロマコーディネーターとしてのキャリアを活かして、役割分担しています。
渡辺さん:主力商品は「フルールcube」という、プリザーブドフラワーとお線香のセットです。コンセプトは、桐箱ごと飾る“可愛い仏花”。上段に仏花としてのプリザーブドフラワー、下段にお線香を封入した重箱スタイルのお供え物です。その他、従来のものより燃焼時間が短いショートタイプのお線香や、お線香を焚くことに抵抗のある方向けのアロマストーンなど、供養をより身近に感じられるような商品を提案しています。
一般的に「仏花は生花が望ましい」とされる風潮もあります。プリザーブドフラワーを採用したのはなぜでしょうか?
的場さん:従来の風潮を重視する方もいる一方で、実際には手入れの手間がかからず長期間美しさを保てる仏花があると嬉しい、というニーズがあると考えたからです。適切な環境のもとでは、プリザーブドフラワーは1年から2年程度その美しさを保てます。また、生花と違って水を換える必要もありません。
花の種類に関しても、「お供えの花は地味な色を選ぶべき」「トゲがあるから薔薇は避けるべき」といった従来のしきたりにはとらわれず、「フルールcube」では多様な花を用意しています。実際のところ、時代の変化と共に、仏花に対する消費者の捉え方も多様化していると感じますね。
また、桐箱や花、ラッピング用品などの仕入れに関しては、個人事業での経験や人脈が活きました。ほとんどが知人の紹介によるもので、自然とご縁がつながっていきましたね。「こんな事業をしたい」「こんな商品を作りたい」という想いを、積極的に人へ伝えることを心がけていたので希望が実現したと感じています。
両親の他界が起業への後押しに。
お2人それぞれの起業前のキャリアについて、教えていただけますか。
的場さん:最初はアパレル業界に就職し、その後、繊維を扱う専門商社に勤めました。結婚後は専業主婦として子育てに専念。その間にプリザーブドフラワーに関心を持ち、パートとしてプリザーブドフラワーのWebショップ運営に携わり始めました。
しかし、子育てをしながらの勤務が難しかったため、個人事業として、細々とお花のネット販売を始めたんです。その後、子育てが落ち着いたタイミングでお花の事業を本格化するために、木工職人だった父の木工所を改装してアトリエを構え、お花のレッスンを始めました。
渡辺さん:私はもともと保険会社に勤務しており、結婚を機に退職しました。子供のアレルギーをきっかけに食への関心が高まり、お菓子の製造販売で個人事業主として開業。姉と同じアトリエを拠点に、お菓子作りの教室やネット販売をしていました。香りやアロマにも興味があったので、事業のかたわら、アロマを勉強してアロマストーン製作にも取り組むようになりました。
お2人はそれぞれ個人事業をされながら、一緒にアトリエでお花とお菓子の事業をされていたのですね。現在のお供え物の専門店を始められたきっかけは何だったのでしょうか?
渡辺さん:きっかけは、両親の他界でした。仏壇は姉の家にありましたが、私も家で両親に手を合わせて心を落ち着かせるための場所を作りたいと思ったんです。しかし、私の住むマンションに大きな仏壇は置けません。一方で、リビングに置けるような小型の仏壇は市場にはありませんでした。その想いから、「時代に合った供養の形を提案したい」というコンセプトが生まれました。
的場さん:一方で私もフラワーコーディネーターとして“可愛い仏花”に関心を持っていました。というのも「仏花は地味でないといけない」という風潮には疑問があり、かわいらしい仏花があってもよいのでは、と考えていたんです。
個人事業を営んでいた当時、母の日の贈り物として、桐箱を重ねた重箱スタイルのフラワーギフトを販売していました。従来、重箱はおめでたい場面で使われることが多く、「重ねる」という意味からも仏事では好まれません。しかし、“かわいらしい仏花”としてフラワー教室の生徒さんに提案してみたり、実際にWebショップで販売したりしたところ、思いのほか好評で。「仏花の形も多様化すべきだ」と感じるようになったんです。
業界には「仏花専門のフラワーショップ」は少なく、ニッチな分野だと思いつつも「仏花専門」と看板を掲げることでお客さまに安心して選んでいただけるのではと考え、ショップを立ち上げることにしました。
主婦起業だからこそ、「手の届く範囲での事業運営」を大切に。
開業準備について詳しく教えていただけますか?
的場さん:まず、開業資金に関しては、融資を利用せず自己資金だけで始めることを2人で確認し合って準備を始めました。事前にアトリエを構えていたことも、開業資金を抑えられた要因でしたね。自己資金のみでの開業を、私たちは特に重視していました。
そのため、できる限り外注せず、商品デザインから印刷まですべて自分たちで行いました。商品写真の撮影やホームページ制作に関しては、過去に単発のレッスンを受講して学んでいたものの、不足する知識に関してはすべて独学です。わからないことがあれば、何でもすぐにインターネットで検索していました。
広報活動やバックオフィスに関しても同様です。プレスリリースは、設立間もない企業向けの無料配信期間を活用して配信し、雑誌掲載は知人の紹介で実現しました。さらに会計ソフトは無料のものを利用。経理の知識はほとんどありませんでしたが、必要に応じて検索して調べながら対応しています。わからないことがあれば税務署に相談しながら、ほとんどの会計処理は自分たちで行っています。唯一、「フルールcube」のロゴデザインだけはプロに依頼しましたね。
いわゆる“おばちゃん根性”といいますか、「多少の準備不足でもまずは行動してみて、困ったら誰かに相談すればいい」という気持ちで何とかやってきました。なんて計画性がないんだろう、と恥ずかしく思うこともありますが(笑)。
その行動力は本当に素晴らしいです。あまり世の中にない商品を販売していく中で、ご苦労されたことはありましたか?
的場さん:価格設定には苦労しました。販売開始当初は今より低い価格でしたが、自分たちで1から開発したからこそ「売れること」自体が嬉しく、それが適正価格でないと気付けずにいました。しかし会社として継続的に運営するとなると、当然ながら利益を上げ続けなければなりません。そのため、私たちは計算式を見直し、半年から1年かけて現在の価格に設定しました。趣味やハンドメイドから一歩前進し、ビジネスとして根拠のある価格設定をすることの重要性を学びましたね。
また、イベント出店での経験も印象に残っています。友人の紹介で出店したイベントで、思うように販売につながらなかったんです。このとき「私たちが扱う商材は必要とされるタイミングが限られているから、イベント出品には向いていない」と、改めて実感しました。これも“見切り発車”だと言われればそれまでですが、チャレンジしたからこそ得られた教訓だと捉えています。
二人三脚で挑む会社経営。家族の応援と姉妹の絆が支えに。
起業に対するご家族からの反応はいかがでしたか?
的場さん:家族から反対されることはなく、むしろ応援してもらっています。融資などで資金を借りずに事業を継続していることも、応援してもらえる要因かもしれません。逆に、夫から「もっと大胆に事業を展開しては?」とはっぱをかけられることもあるくらいです。
起業して以降、私たちが毎日楽しそうに笑っているのを見て、家族も安心しているようです。子育てが一段落してからの起業は、私たちにとっても家族にとっても良い影響を与えているかもしれませんね。
素敵ですね。姉妹経営についてはいかがでしょうか?メリットやデメリットがあれば教えてください。
渡辺さん:姉妹で物事を見る視点が違うので、1つの問題に対して異なるアプローチで解決策を検討できる点が最大のメリットだと感じます。例えば、売れ行きの悪い商品があった際、私は「売れる商品は何だろう」と考えるのに対して、姉は「どうすればこの商品は売れるんだろう」と考えるんです。「売上を伸ばす」という目的は同じでもアプローチ方法が異なるので、2人で経営するメリットはとても大きいですね。
的場さん:お互いのよい面と悪い面をよく理解してカバーし合えているので、正直メリットしか感じないんですよね。実際、喧嘩もありませんし…。私たち、仲がいいんです(笑)。
事業を通じて「手を合わせる心」を紡いでいきたい。
今後の商品展開や事業の方向性について教えてください。
渡辺さん:現代の価値観や生活スタイルや多様化しており、これまでも「線香の匂いが苦手」「赤ちゃんやペットがいるので線香が焚けない」「長い線香を焚く時間がない」といった声に応えて、「アロマの香りのお供え物」を提案してきました。私たちは今後も、時代に合った商品を提案し続けたいと思っています。
的場さん:特に若い世代では、従来の形の仏壇を家庭に置くことは少なくなっていくと感じます。起業して仏具業界に関わったことで、この変化をより強く感じます。
しかし、故人に想いを馳せる時間としての供養は、大切に残しておくべきだと思うんですね。仏壇や仏花の形は変わっても、故人を偲んで手を合わせる場所は暮らしの中に溶け込んでいてほしい。私たちの事業を通じて、若い世代にも「手を合わせる心」を伝えていきたいです。
渡辺さん:そのために、お供え物の販売だけでなく、従来の仏壇の代替品としてリビングにも馴染む商品を展開し、新しい供養の形を提案したいと考えています。
私たちが社名に掲げている「スゥール」は、フランス語で「姉妹」という意味です。老後まで仲良く、この事業を続けていきたいですね。叶えたい想い半分、勢い半分でここまでやってきましたが、私たちの経験が起業を志す方にとって1つでも参考になれば嬉しいです。
取材協力:創業手帳
インタビュアー・ライター:間宮 まさかず
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