安定志向の元OLが飛び込んだ“深”世界!移住先で起業して見つけた“本当の自分”。

起業時の課題
人材確保、維持、育成, 製品/サービス開発, バックオフィス業務

静岡県沼津市で「深海魚」を詰め合わせにした「深海魚直送便」の販売を中心に事業を展開する青山沙織さん。希少な深海魚を求める研究者を始め、幅広い顧客層から好評を得ています。

もともとは安定志向だったという青山さんが、起業を志すようになったきっかけとは?前例のなかった「深海魚のオンライン販売事業」にチャレンジした青山さんの試行錯誤の歩みを紐解きます。

会社プロフィール

業種 農林水産業
事業継続年数(取材時) 4年
起業時の年齢 30代
起業地域 静岡県
起業時の従業員数 0人
起業時の資本金 -

話し手のプロフィール

青山沙織
SHINKAI 代表
兵庫県尼崎市出身。宝塚造形芸術大学ファッションデザインコース卒業後、神戸市役所・司法書士事務所・航空機メーカー勤務を経て、その後、オーストラリアでのワーキングホリデーをきっかけに、自分で発信して仕事がしたいと思うようになり、帰国後、沼津市地域おこし協力隊に就任。日本で唯一の深海魚担当の地域おこし協力隊として「駿河湾の深海魚アートデザインコンテスト」「深海魚フェスティバル」などを企画。地域おこし協力隊卒業後は、「深海魚直送便」の販売を中心に、深海魚の魅力を発信している。

目次

安定志向から起業家マインドへ変わったきっかけとは?

これまでのご経歴と、起業を志すきっかけについて教えていただけますか。

青山さん:大学を出てからは、アパレル販売員として1年半働きました。ただ、将来ずっとできる仕事ではないと感じていて、事務職に就きたいと考えるようになったんです。そこで、役所の臨時職員を数年経験した後、司法書士事務所で成年後見人の仕事を5年ほど続けました。

安定した仕事をされていたんですね。なぜ起業を志すようになったのでしょうか?

青山さん:実は私、両親が公務員で兄も大企業勤務という環境で育ち、自然と安定志向になっていたんです。でも、心のどこかで「このままでいいのかな」という迷いがあって。そんな時、ワーキングホリデーの年齢制限が迫っていることに気付いたんです。「今行かなければ、チャンスを逃してしまう」という焦りもあって、思い切って仕事を辞め、オーストラリアに渡りました。

このワーキングホリデーでの経験が、私の価値観を大きく変えるきっかけになったんです。現地の人々やワーキングホリデーで来ている日本人を見ていると、転職や起業に対する考え方の柔軟さや、自分の好きなことを仕事にしている姿勢に驚かされました。

それまで私は、起業は特別な人がするものだと思い込んでいたんです。でも、実際に見聞きしてみると、そんなに難しいことではないんだなと気付きました。そこで、「自分にもできるかもしれない」と思えるようになったんです。

帰国後は、本業の傍らで、アクセサリー販売など小さなチャレンジをしてみたりもしました。思うようにうまくいかない面もありましたが、自分のアイデアを形にすることの楽しさは感じられました。

安定は決して悪いことではないと思います。でも私は、それよりも自分のやりたいことに向かって一歩踏み出すことを大切にしたい。そう考えるようになったんです。

地域おこし協力隊での活動が新しいビジネスにつながった瞬間。

地域おこし協力隊に参加したきっかけを教えてください。

青山さん:地域おこし協力隊の活動をテレビで見たのがきっかけでした。地方の活性化に取り組む隊員の姿に刺激を受けて、自分にも何かできることがあるんじゃないかと感じたんです。

実は、私には海の近くで暮らしたいという思いがあって。地域おこし協力隊の募集を探す中で、まず海辺の地域に絞って探していきました。その結果、伊豆で募集しているところがあり、それが沼津市戸田地区でした。そしてその沼津市の募集ポジションが「深海魚担当」という珍しいものだったんです。
もしかしたら沖縄や伊豆諸島の募集に応募していたかもしれません。とにかく“海辺”にこだわって探していたんです。

全国の地域おこし協力隊の募集を見ていると、町おこしや観光振興など似たような内容が多いんですよ。でも、「深海魚」というキーワードが目をひいて。これなら他にライバルもいないし、新しいビジネスができるかもしれないと直感したんです。そして選考に無事合格し、沼津市の地域おこし協力隊として活動を始めました。

具体的にはどのような活動をされていたんですか?

青山さん:例えば、「深海魚アートデザインコンテスト」を企画して、全国から200点近い作品を集めました。集めた作品を展示する場所は、地元の博物館や喫茶店などを巡って交渉し、また地元の「深海魚まつり」に合わせて表彰式を開くなど、多くの人に関わっていただきながら運営することを心掛けました。

他にも、「深海魚大学」という沼津市のイベントと連携して、「深海魚フェスティバル」を立ち上げ、約3,000人の来場者を集めました。音楽アーティストを招いて会場を盛り上げたり、深海魚料理の屋台を出店したりと、深海魚を核にした町おこしの種をまいていきました。

イベントを通して、深海魚の魅力を発信していったんですね。

青山さん:はい。でも、新型コロナウイルスの影響で、イベントが軒並み中止になってしまって。そこで考えたのが、来てもらうのではなく、深海魚を直接お客さまに届ける「深海魚直送便」です。漁協の方に提案してみたら、「名前と場所だけは貸してあげる」との返事をいただきました。

以前から鮮魚ボックスの販売に興味があったので、これを機に具体的に動き出す決心がついたんです。まさに地域おこし協力隊の活動が、新しいビジネスのアイデアにつながった瞬間でした。

思わぬ反響にパンク寸前!乗り越えられたのは、地域の皆さまの支えがあったから。

事業を始めるにあたって、具体的にどのような準備が必要だったのでしょうか?

青山さん:最初は、漁師さんとどんな魚を詰め合わせにしたらいいか相談することから始めました。また、営業許可の取得も進めました。「深海魚直送便」スタート時は、漁協が持っている許可のもとサービスを行っていたのですが、今後もしっかり事業を続けていきたかったので、自分で営業許可が取れるように、設備などを整える準備を同時並行で行っていました。

私が取ったのは、魚介類販売業許可ではなく、水産製品製造業の営業許可です。これだと、生の魚も販売できますし、魚を加工した製品も販売できるんです。

許可を取るには、保健所の求める設備基準を満たす必要があって、シンクの数や、冷蔵庫の温度管理など、飲食店の営業許可と同じようなことが求められました。あとは、開業資金ですね。もともとあった自分の貯金と、地域おこし協力隊の卒業時に開業支援として100万円をいただいたので、それを元手に必要な設備を整えました。

「深海魚」の販売というのは、あまり一般には馴染みがないように思いますが、サービス開始当初の集客や販促活動などはどうされていたのでしょうか。

青山さん:サービス開始時にプレスリリースを出したところ、新聞やテレビで取り上げていただいて、開始直後から予想以上の反響がありました。珍しい取り組みだったこともあって、注文が殺到したんです。最初はGoogleフォームで注文を受け付けるところからスタートしたんですが、振り込み確認を通帳でチェックしたり、住所の入力ミスを1つ1つ電話で確認したり、すごく手間がかかって大変でした。今思えば、本当に手作業の連続でしたね。

梱包作業も1人じゃ間に合わず、漁協の方に協力をお願いして手伝っていただきました。

嬉しい悲鳴ですね。地元の漁師さんとの信頼関係が、事業を支えているようですね。

青山さん:そうなんです。私も地域のお祭りや清掃活動には率先して参加するようにしています。外に出て、顔を覚えてもらうことが大切だと思ったんです。そうした地道な活動が、いざというときの助けにもつながっているのかなと感じています。

会計処理などで気を付けたことはありますか?

青山さん:確定申告が必要になったので、青色申告に切り替えて、デスクトップ版の確定申告ソフト「やよいの青色申告」を使って処理しています。税理士には依頼せず、商工会の方に相談に乗ってもらいつつ、自分でなんとかやっています。起業当初は地域おこし協力隊の立場上、利益を出すことは許されなかったので、なるべく原価に近い価格で提供するよう心掛け、出た利益は漁協や漁師さんに還元していました。

“ヘンテコ”な深海魚が大人気!意外過ぎる需要とは?予想外の反響から生まれた、多様な顧客との出会い。

深海魚の魅力に惹かれるお客さまは、どういった方が多いんでしょうか?

青山さん:深海魚は、その独特の生態や特徴から、幅広い分野で注目を集めています。

例えば、医学や生物学の研究者から、新種の発見や治療薬の開発に向けた問い合わせをいただくことがあります。希少な深海魚のサンプルは、学術的な価値が高いのだそうです。

また、博物館や水族館などからも、展示用の標本として深海魚を求める声が寄せられます。普段は目にすることのない深海の生物に、多くの人が興味を持っているようですね。

食用以外の用途でも需要があるんですね。

青山さん:はい。実は「ヘンテコ深海魚便」という商品も用意しているんです。見た目のインパクトが強い、ヘンテコな深海魚ばかりを集めた詰め合わせなんですよ。「食べられません」と銘打っていますが、人気の高い商品ですね。

深海魚というニッチな分野に特化したことで、通常では見過ごされがちな多様なニーズを掘り起こせているのでしょうか。

青山さん:そうかもしれません。市場に出回らない希少な魚だからこそ、新しいビジネスチャンスにもつながっているのかなと感じています。

禁漁期間も商機に。深海魚で仕掛ける地域おこし大作戦!

深海魚を使った新しい取り組みや今後の展望があれば教えてください。

青山さん:はい。実は最近、漁獲量の減少が深刻な問題になっているんです。海水温の上昇や環境の変化が原因なのか、思うように水揚げ量が増えないんです。

だからこそ、深海魚の魅力を広めながら、事業の多角化を模索しているところです。具体的には、深海魚をテーマにした飲食店と宿泊施設の開業を準備しています。1階をカフェにする予定で、2階はすでに貸し切りの宿泊スペースとして営業しています。

深海魚の魅力を多角的に発信していくんですね。

青山さん:私が目指しているのは、「深海魚のテーマパーク」のようなものなんです。単なる物販スペースではなく、深海魚好きの方々が集うコミュニティの拠点になれたらと考えています。

今はその施設に水槽も設置して、生きた深海魚を間近で見てもらえるようにしているんです。それに加えて、深海魚を使った新メニューの開発にも取り組んでいます。将来的には、深海魚から抽出した酵母を使ったパンやビールなども提供できたらと夢を膨らませています。

もう1つ、漁師さんと協力して挑戦しているのが、深海魚専門の釣船事業なんです。実は、漁師さんにとっては、5月から9月頃までが禁漁期間でして。その間の新しい収入源になればと考えています。

地域の人々とも協力しながら、深海魚の魅力を広げていこうという取り組みなんですね。

青山さん:そうなんです。深海魚の魅力は、捕まえて食べるだけじゃないんですよ。生きた姿を観察したり、釣りの楽しさを味わったり。そういった体験まで提供することで、深海魚ファンの裾野を広げていければと思っています。それが地域活性化につながるはずですから。

「自分らしい人生」を追求する姿勢が起業の背中を押してくれる。

もともとは安定志向だったとおっしゃっていましたが、起業からこれまでをふり返ってみて、今はどのように感じていらっしゃいますか?

青山さん:今は、深海魚ビジネスの世界に飛び込んで本当に良かったと思っています。もちろん大変なこともたくさんありますよ。それでも、お客さまから喜びの声をいただくと、やってきて良かったなと心から思えるんです。

ご自身の経験を踏まえて、起業を志す方へのメッセージをいただけますか?

青山さん:人生は一度きりです。だからこそ、やりたいと思ったらとりあえずやってみるのが一番だと思います。

アイデアはあるけれど、どうしたらいいのか、うまくいくのか不安で一歩が踏み出せない人は多いと思います。でも、考えているだけでは何も始まりません。

だからこそ、行動に移すことができたなら、それだけですでに素晴らしいことだと私は思います。失敗したっていいじゃないですか。むしろ、失敗を恐れずにチャレンジすることのほうが大切だと思うんですよね。

皆、心のどこかでやりたいことがあるはずです。でもそれを「できない」「いけない」と自分で決めつけてしまうのは、もったいないです。自分の人生に悔いを残したくないのなら、一歩踏み出してみてください。たとえ小さな一歩でも、きっとその先に新しい世界が広がっているはずですから。

取材協力:創業手帳
インタビュアー・ライター:間宮 まさかず

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