吸収合併、新設合併の手続きの流れ

2022/09/05

吸収合併では、合併によって吸収される会社を消滅会社(吸収合併消滅会社)、吸収する会社を存続会社(吸収合併存続会社)といいます。新設合併では、合併によって設立される会社を新設会社(新設合併設立会社)、新設会社に権利義務を引き継ぐ会社を消滅会社(新設合併消滅会社)といいます。
本稿では、吸収合併、新設合併ごとに分けて、全体の流れと各当事者に必要な手続きについて解説します。これに加えてM&Aの流れを合わせて検討する必要があり、M&Aの流れは複雑になるため、別稿に記載します。また、吸収合併と新設合併では手続に重複する点が多いので、吸収合併を詳細に解説し、新設合併については、相違点を中心に解説します。
なお、一般的な流れの解説に主眼を置くため、株式会社同士の合併であること、各当事会社が公開会社でないこと、有価証券報告書の提出が不要であること、種類株式を発行していないことを想定しています。当該事情がある場合には手続や流れが一部異なるので注意しましょう。

吸収合併の手続き

一般的な吸収合併の流れは、①事前準備・交渉 ②合併契約の締結 ③合併契約に関する書面の事前備置き ④株主総会における承認決議 ⑤反対株主・新株予約権者への通知または公告 ⑥債権者に対する官報公告および各別の催告等 ⑦吸収合併の効力発生 ⑧吸収合併に関する書面等の本店備置き ⑨登記となります。
以下で各手続について解説します。

(1)事前準備・交渉

消滅会社であれ存続会社であれ、どの会社と合併するのか、どのような条件で合併するのか、そもそも合併の必要があるのか等、社内で十分な検討が必要です。また、交渉に向けて、自社だけでなく相手会社の財務状況、事業状況、将来的なリスク等を十分に検討しておくことが求められます。

(2)合併契約の締結

合併をするには、合併契約の締結が必要です(会社法748条)。この合併契約では、両者の商号および住所、吸収合併の効力発生日、合併対価を交付する場合にはその関連事項といった法律上定めなければならない事項があります(749条1項各号等)。これらに加えて、協議規定や契約の変更・解除規定といった一般的な企業間の契約で定める事項を任意で定めることができます。

(3)合併契約に関する書面の事前備置き

両当事会社は、合併契約締結後、吸収合併契約で定めた事項を、書面または電磁的記録で備え置く必要があります(782条1項、794条1項)。
消滅会社では、後述の株主総会承認決議の2週間前、債権者や株主等への通知または公告の日等の日から、合併の効力発生日までの間が備置きの期間となります。
存続会社では、備置きの開始は消滅会社と同様ですが、効力発生日から6か月が経過するまでの間までの備置きが必要です。

(4)株主総会における承認決議

両当事会社は、原則として、吸収合併の効力発生日の前日までに株主総会で合併契約の承認を受けなければなりません(783条1項、795条1項)。そして、この承認決議は、株主総会の特別決議による必要があります(309条2項12号)。
しかし、これは原則であり略式手続(784条1項、796条1項)、簡易手続(796条2項)、要件が加重される場合というと例外があります。
略式手続は、両当事会社が特別支配関係(一方が90%以上の議決権を有している関係)にある場合に行うことができます。存続会社が消滅会社の特別支配株主であれば、消滅会社での株主総会における承認決議は不要となります。消滅会社が存続会社の特別支配株主であれば、合併対価が譲渡制限株式でない限り、存続会社での株主総会における承認決議は不要となります。
簡易手続は、存続会社が消滅会社の株主等に交付する合併対価が存続会社の純資産の5分の1を超えない場合に行うことができます。この場合、存続会社での株主総会における承認決議は不要となります。
株主総会における承認決議が加重されるのは、当事会社が公開会社である場合や、種類株式を発行している場合なので、ここでは割愛します。

(5)反対株主・新株予約権者への通知または公告

株主総会における承認決議に先立って反対する旨を当事会社に通知し、株主総会でも反対をした株主や、略式手続や簡易手続で反対する機会のなかった株主は、当該会社に対して、自己が所有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができます(785条1項、797条1項)。
このような買取請求権が行使できるよう、当事会社は原則として合併の効力発生日の20日前までに吸収合併をする旨の通知をしなければなりません。なお、株主総会の承認を得た場合には、通知ではなく公告でも可能です。
通知をする場合であっても公告に代える場合であっても、その後20日間は反対株主の買取請求が可能な期間となるので、合併契約の段階から、この期間を念頭に置いてスケジュールを調整する必要があります。

(6)債権者に対する官報公告および各別の催告等

両当事会社の債権者は、吸収合併につき異議を述べることができ、異議が述べられた会社は弁済や担保の提供をする必要があります(789条1項、5項、799条1項、5項)。
そのため、両当事会社は吸収合併をする旨や一定期間異議を述べることができる旨等を官報に公告し、知れている債権者には格別に催告をする必要があります(789条2項、799条2項)。異議を述べることができる期間は1か月以上必要なので、この点にも注意が必要です。

(7)吸収合併の効力発生

これまで記載した手続を経て、合併契約で定めた効力発生日を迎えると、吸収合併の効力が発生します。しかし、登記をするまでは、紛争等において消滅会社が解散したことを第三者に主張することはできないので注意しましょう。

(8)吸収合併に関する書面等の本店備置き

存続会社は効力発生日から遅滞なく、消滅会社から承継した権利義務等を記載した書面または電磁的記録を作成し、株主および債権者からの閲覧や謄本交付の請求に対応できるようにしなければなりません(801条1項、4項)。

(9)登記

効力発生日から2週間以内に消滅会社の解散登記、存続会社の変更登記をする必要があります(921条)。

新設合併の手続き

(1)事前準備・交渉

事前の検討が必要なことは吸収合併と同じですが、特に注意が必要なのは新設会社の株式保有比率です。新設合併では、両当事会社が対等な関係に近いことが多く、経営上の決定権を誰がもつのかは慎重な検討と交渉が必要です。

(2)合併契約の締結

新設合併でも消滅会社間での合併契約が必要です(748条)。吸収合併との違いは、必要的記載事項です。新設会社の目的、商号をはじめ、通常の会社設立の際の定款作成と同様の事項の記載が必要です(753条)。また、新設合併の効力は、新設会社の成立の日に生じますが(754条1項)、会社の成立は設立の登記をすれば認められるので(49条)、吸収合併と異なり、合併契約で効力発生日を定める必要はありません。

(3)合併契約に関する書面の事前備置き

これについては吸収合併消滅会社と同じです(803条1項)。重複を避けるため、割愛します。

(4)株主総会における承認決議

吸収合併と同様、消滅会社は、新設合併契約について、株主総会における承認決議を得なければなりません。吸収合併と異なるのは、略式手続や簡易手続がないという点です。

(5)反対株主・新株予約権者への通知または公告

吸収合併と同様、消滅会社株主で、合併に反対する者には株式買取請求権があります(806条1項)。そのため、吸収合併の場合と同じく、場面に応じて反対株主への通知または公告が必要です。

(6)債権者に対する官報公告および各別の催告等

これも吸収合併の場合と同様です(810条2項、3項)。

(7)新設合併の効力発生

新設合併契約の点で前述したとおり、新設会社設立の登記によって合併の効力が発生します。この点が吸収合併とは大きく異なります。また、新設会社の定款については、消滅会社が作成することとなっている等、通常の会社設立とは異なる点が多いので注意が必要です(814条)。

(8)合併契約に関する書面等の本店備置き

新設会社は吸収合併存続会社と同様、成立の日から遅滞なく、消滅会社から承継した権利義務等を記載した書面または電磁的記録を作成し、株主および債権者からの閲覧や謄本交付の請求に対応できるようにしなければなりません(815条1項、4項)。

おわりに

本稿では、吸収合併と新設合併の流れを解説しました。はじめに述べたとおり、あくまで一般的な流れを解説したものであり、種類株式を発行している場合や公開会社であるといった場合には部分的に手続が変わります。
しかし、大まかな流れという点では場面が異なっても大きく変わることはないので、合併を利用したM&Aを考えるうえでの参考になればと思います。

著者:飛渡 貴之(弁護士)

弁護士法人キャストグローバル代表弁護士。滋賀県生まれ、関西大学総合情報学部卒業後、パチプロをしていたことで、パチンコメーカーに就職し、新商品の企画開発に5年間携わる。
勤務中、土地家屋調査士の資格を取得し、独立を目指し司法書士の勉強を始め、退社後、合格。司法書士業務をするも、より質の高い法的サービスを提供したいとの思いから、弁護士を志す。
一般企業での会社員経験と定期的に国内外の優良企業を視察して得られた知識経験を生かしたコンサルタント色のある提案が多くの企業に喜ばれて、多数の企業を顧問に持つ。

著者:椛島 慶祐(司法書士)

司法書士法人キャストグローバル在籍。福岡県生まれ。日本大学法学部法律学科卒業後、2014年司法書士試験合格。
2015年司法書士登録し、司法書士法人キャストグローバルに入社以来「企業法務、法務支援」に特化して創業者や中小事業、大企業の法務手続きを精力的に支援。これまでに500社以上の登記手続きやコンサルティングの実績がある、中小企業から大企業まで取引先は多岐に渡る。

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