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従業員への事業承継に必要な資金は?諸問題とともに解説

2024/04/25更新

この記事の著者飛渡 貴之(弁護士)

この記事の著者椛島 慶祐(司法書士)

従業員承継とは

会社の従業員に事業を承継することを言います。従業員承継では、一般的に考えられる事業承継の問題点に加えて、承継する人が従業員であることで発生する特有の問題点についても対応が必要です。本稿では、その問題点と対応について解説します。
事業承継には、経営者としての立場のみを承継するケースと、会社の支配権ごと承継するケースがあります。従業員承継でも同じで、問題ごとにどのようなケースで特に問題となるか、どのように従業員承継をすべきかについても見ていきましょう。
なお、従業員承継の対象会社は、現経営者が全株式を保有している株式会社であることを前提として解説します。

従業員承継については下記の記事を参考にしてください。

従業員承継とは?会社を譲る方法や注意点、資金不足の際の対策方法も解説

従業員承継の2つの方法

上述のとおり、従業員承継には、経営権のみの承継と支配権の承継の2つの方法があります。どちらを選択するかは、将来的に現経営者が対象会社とどの程度の関わりを持ちたいか、が最も重要なポイントになるのと同時に、後述の問題点から現状に合わせて判断していくことになります。

経営権の承継

これは、現経営者が、対象会社の株式を保有したまま、対象の従業員を代表取締役や社長に就任させる方法です。現経営者が退任して対象従業員に経営を一任するだけでなく、代表取締役に残りながら対象従業員の経営を監督するという方法も可能です。また、将来的に親族への事業承継を考えている場合の一時的な対応としてこの方法をとることも考えられます。
どの方法をとる場合であっても、株式の移動を伴わないために支配権が残り、承継した従業員の経営手腕などを一定期間確認したうえで、適切な承継でなかったとしても、再度経営者に戻ることが可能です。

支配権の承継

現経営者が保有する対象会社の株式の一部または全部を対象従業員などに譲渡し、承継する方法です。株式の一部を譲渡する場合には、議決権の半数以上を譲渡し、大半の株主総会決議を対象従業員が単独でできるようにする場合や、議決権の3分の2以上を譲渡し、定款変更などの重要な決定をも単独でできるようにするという場合が考えられます。また、全部の株式を譲渡することで、現経営者は完全なリタイアをすることも可能です。
株式譲渡の具体的な方法には、売買や贈与があります。対象従業員が株式を取得するにあたり、SPC(特定目的会社)を活用するという方法もあります。

承継に必要な資金

経営権の承継

経営権のみを承継する場合、一般的には資金の必要はありません。

支配権の承継

支配権を承継する場合には、対象従業員が支配権の対価となる資金が必要です。
現経営者が保有する株式を対象従業員に売却する場合、その売買代金は相当程度高額になるのが通常であり、一従業員がそのような資金を有しているということは一般的ではありません。そこで、対象従業員は、金融機関などから融資を受ける方法があります。
また、その前提として、売買代金の決定という問題も発生します。非公開会社の株式算定の方法は複数あり、どの価格でなら現経営者が納得できるか、対象従業員が融資を受けることができるか、といった視点も重要となります。
現経営者が保有株式を対象従業員に対して贈与するという方法をとっても、対象従業員は贈与税を納めなければなりません。支配権を移転させる程度の株式を贈与する場合には、贈与税もある程度高額になることは当然であり、この場合であっても対象従業員が一定の資金を調達する必要があることが考えられます。

相続による株式の分散など

経営権の承継

経営権のみの承継をする場合には、承継後も対象会社の株式は現経営者が保有するので、現経営者に推定相続人が複数おり、現経営者が死亡した際には、対象会社の株主が複数人となることが考えられます。
このような株主が複数人に分かれた状態では、役員の選任を始めとする重要事項の決定が困難になり、新経営者に大きな負担となり得ます。
その対応として、遺産分割方法の指定と遺留分を算定するための財産の価額から除外(除外合意)するといった方法があげられます。

支配権の承継

現経営者と対象従業員との間で対象会社の全株式を売買した場合には、相続による株式の分散というリスクは発生しません。
一方で、株式を贈与した場合には、一定の要件を満たすと、生前贈与として遺留分侵害額請求の対象となる可能性があります。また、相続開始時に株式価値が高騰している場合には、遺留分侵害額について紛争が大きくなります。
このような事態に備えて、前述の除外合意や遺留分を算定するための財産の価額に算入する価額を合意時の時価に固定(固定合意)するといった対応が可能です。

個人保証の承継

会社が金融機関から融資を受ける際、経営者が個人として、当該債務を保証することが一般的です。個人保証についても従業員承継で問題となる点を解説します。事業を引き継ぐこと自体大きなハードルであるのに、個人保証までするとなると、従業員が事業承継を避けようとすることも多く、承継させる従業員がなかなか見つからないとなってしまいます。個人保証の問題は、従業員承継を難しくするポイントの1つでもあります。

(1)経営権の承継

経営権のみを承継する場合、現経営者は対象会社の支配株主であることに変わりはなく、個人保証を継続するということが考えられます。ただし、銀行のスタンスによって異なり、新社長が個人保証をしなければならないということもあります。一方で、承継後に新たな融資を受ける際には、対象従業員(新経営者)が個人保証をすることを求められることもあります。いずれにしても、承継を受けた従業員が、経営者になったといっても資産を持っているとは限らず、事前に銀行、現経営者と対象従業員との間で調整しておく必要があります。

(2)支配権の承継

支配権ごと承継する場合(特に株式の全部を譲渡する場合)には、現経営者は対象会社から見て第三者となり、個人保証も対象従業員に引き継ぐことが一般的です。
この場合であっても対象従業員は特段の資産がないことが通常であり、事前の調整や、金融機関との協議は必須となります。

まとめ

本稿では、従業員承継で主に問題となる点について解説しました。しかし、従業員承継においては、本稿で解説した以外にも、税務上の問題や他の従業員との関係での問題等、多方面から検討すべき問題点が存在します。また、支配権を承継しない場合は、結局重大な事項の決定には、前経営者への確認が必要となってしまうところも大きな問題です。
対象会社の状況、現経営者の退任予定時期、対象従業員の資産や能力、推定相続人の存在、金融機関のスタンス等によって最適な従業員承継の方法は異なります。主な問題点を把握したうえで、適切な利害調整を経て従業員承継を実現することが望ましいと言えます。したがって、多方面の専門家へ早めに相談することが大切です。

この記事の著者飛渡 貴之(弁護士)

弁護士法人キャストグローバル代表弁護士。滋賀県生まれ、関西大学総合情報学部卒業後、パチプロをしていたことで、パチンコメーカーに就職し、新商品の企画開発に5年間携わる。
勤務中、土地家屋調査士の資格を取得し、独立を目指し司法書士の勉強を始め、退社後、合格。司法書士業務をするも、より質の高い法的サービスを提供したいとの思いから、弁護士を志す。
一般企業での会社員経験と定期的に国内外の優良企業を視察して得られた知識経験を生かしたコンサルタント色のある提案が多くの企業に喜ばれて、多数の企業を顧問に持つ。

この記事の著者椛島 慶祐(司法書士)

司法書士法人キャストグローバル在籍。福岡県生まれ。日本大学法学部法律学科卒業後、2014年司法書士試験合格。
2015年司法書士登録し、司法書士法人キャストグローバルに入社以来「企業法務、法務支援」に特化して創業者や中小事業、大企業の法務手続きを精力的に支援。これまでに500社以上の登記手続きやコンサルティングの実績がある、中小企業から大企業まで取引先は多岐に渡る。

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