譲渡制限株式の譲渡手続きについて
執筆者: 飛渡 貴之(弁護士) / 椛島 慶祐(司法書士)
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はじめに
株式は、原則として自由に譲渡することができます(会社法127条)。これは、基本的には会社に対して出資金の返還を求めることができない株主に対して、投下資本の回収の機会を与える趣旨のものであり、株式譲渡自由の原則と呼ばれています。しかし、特に株主が少数で、株主間の信頼関係が重視される会社にとって、株主が誰であるかは、重大な関心事であり、見知らぬ者を株主としたくないといった場合も考えられます。そこで会社法は、定款により、株式の取得につき、会社(取締役会設置会社では取締役会、それ以外の会社においては株主総会)の承認を要する旨を定めることを認めています(会社法107条1項1号、108条1項4号)。まず、このような譲渡制限株式を譲渡する場合について説明します。
譲渡制限株式とは
譲渡制限株式とは、定款に定めることで、株式の譲渡に会社の承認を要する制限をつけた株式のことです。
譲渡制限株式の譲渡
譲渡制限株式を譲渡しようとする株主、または株式を譲り受ける者は、会社に対して譲渡を承認するか否かについて、決定することを請求することができます(会社法136条、137条)。この譲渡等承認請求は、譲渡する株式の種類・数、および誰が譲受人になるのかを明らかにして行います。この時、会社が株式の譲渡を承認しない場合に備え、株式を会社、または会社が指定する買取人に、買い取らせるように請求することもできます。会社が株式を買い取るときは、株主総会の特別決議による必要があります。これに対し、買取人の指定は、取締役会設置会社では取締役会の決議、それ以外の会社では株主総会の特別決議により行います。譲渡等承認請求を受けた会社は、2週間以内に譲渡等承認請求者に対し、承認の有無を通知する必要があり、通知をしなければ、会社は譲渡を承認したとみなされます(会社法145条1号)。承認拒絶の通知をした場合でも、会社が株式を買い取るときは、承認拒絶の通知から40日以内にその旨を通知しなければならず、買取人を指定するときは、承認拒絶の通知から10日以内に指定買取人が、買取りの通知を行う必要があります(会社法141条1項、142条1項、145条2号)。会社、または指定買取人が、買取りの通知をしたときは、譲渡等承認請求者は請求を撤回することができなくなります(会社法143条)。売買価格は、当事者の協議によって決まりますが、協議が整わない場合には、当事者の申立により、裁判所が決定します(会社法144条)。
譲渡した場合の効力
では、株主が会社の承認なく株式を譲渡した場合に、その効力はどうなるのでしょうか。この点につき、判例は、会社の承認を得ない譲渡制限株式の譲渡は「譲渡の当事者間においては有効であるが、会社に対する関係では効力を生じないと解すべきであるから、会社は、…譲渡人を株主として取り扱う義務がある」と判示しています(最判昭和63・3・15判時1273号124頁)。例外として、株式の譲渡制限の目的が、他の株主の利益保護にあることから、一人会社の場合(最判平成5・3・30民集47巻4号3439頁)や、譲渡人以外の全株主が、譲渡に同意している場合(最判平成9・3・27民集51巻3号1628頁)には、株式の譲渡について会社の同意がない場合においても、会社との関係において株式譲渡が有効となります。
譲渡制限の内容
上述のような定款による株式の譲渡制限は、反対株主をも拘束し、また、将来の株主をも拘束するという強力な効果を持っています。したがって、株主に不測の損害を及ぼさないよう、譲渡制限の内容は、法律で画一的に定めておく必要があります。しかし、法律で定めることができる事項には限界があり、より柔軟な方法による譲渡制限(例えば、合弁事業を行う場合に、株式の先買権条項を付すといった場合や、合弁事業の相手会社以外に株式を売った場合の損害賠償額の予定をしておくといったもの)として、契約による株式の譲渡制限という方法が考えられます。契約による株式の譲渡制限は、契約当事者間にしか拘束力が及ばないため、契約自由の原則により、基本的には様々な態様の譲渡制限が認められます。
契約による株式の譲渡制限が、判例上問題となった事例として、従業員持株制度に関するものがあります(最判平成7・4・25民集175号91頁、最判平成21・2・17判時2038号144頁)。従業員持株制度は、従業員の士気高揚や福利厚生の目的で、従業員が会社の資金的援助を受けて、従業員持株会を通じて自社の株式を取得する仕組みです。この制度においては、従業員が会社を退職する際、保有株式を取得価額と同額で、持株会または、会社の指定した者に、譲渡することを契約上義務づけていることが多くあります。そこで、このような制限が、株式譲渡自由の原則に反するものであり、公序良俗に反して無効であるかが問題となりますが、前述の判例は認めています。
譲渡と権利行使の方法
以上が、譲渡制限のついている株式についての説明ですが、次に株式の譲渡と権利行使の方法を見ていくことにしたいと思います。株券を発行していない会社の場合には、民法の一般原則により、当事者の意思表示のみによって譲渡することができます。しかし、これでは、会社が、誰を株主として取り扱うべきか判断に困る事態が想定されるため、譲渡を会社、その他の第三者に対抗するには、会社に対し、譲受人の氏名・名称および住所を株主名簿に記載・記録するよう請求する必要があります(会社法131条1項、株主名簿の名義書換)。
株式の譲受人が、株主名簿の名義書換えを会社に請求するときは、原則として、当該株式についての名義株主と共同でする必要があります(会社法133条2項)。これは、虚偽の名義書換え請求を防ぐためです。名義株主が、名義書換請求に協力しないときは、譲受人は、名義株主に対して訴えを提起し、名義書換請求をするように命じる確定判決を得て、単独で会社に対して、名義書換えを求めることができます(会社法施行規則22条1項1号)。
株主名簿の名義書換え
これに対し、株券発行会社の株式の譲渡は、当該株式に係る株券を交付しなければ効力が生じません(会社法128条1項)。また、譲渡を会社に対抗するには、株主名簿の名義書換えが、必要となります(130条2項)。しかし、株券を発行していない会社の場合と異なり、譲受人は株券を会社に提示すれば、単独で名義書換請求ができます(会社法133条2項、会社法施行規則22条2項1号)。
株式の譲渡は、株主名簿の名義書換えをしなければ会社に対抗できません(会社法130条1項、同条2項)。もっとも、名義書換えは、譲渡の対抗要件にすぎないから、会社の方から名義書換未了の譲受人を株主として扱い、名義株主は、もはや株主として扱わないものとすることは可能です(最判昭和30・10・20民集9巻11号1657頁)。
では、株式の譲受人が、適法に名義書換請求をしたにもかかわらず、会社がこれに応じない場合には、どうすればよいのでしょうか。この点につき、判例は「正当の事由なくして株式の名義書換請求を拒絶した会社は、その書換えのないことを理由としてその譲渡を否認し得ないのであり、従って、このような場合には、会社は、株式譲受人を株主として取り扱うことを要し、株主名簿上に株主として記載されている譲渡人を株主として取り扱うことを得ない」(最判昭和41・7・28民集20巻6号1251頁)としています。
まとめ
このように、株式の譲渡には、それが譲渡制限のついたものであるのか否か、または会社が株券を発行しているのか否かによって、手続きや権利行使の方法について、様々なバリエーションが存在します。したがって、これらの問題は、単純に株式を譲渡するという問題にとどまらず、起業する際の制度設計の問題や、会社を後継者に譲る際の問題、および他社から買収を仕掛けられた際の防衛策の問題にも関わってくる重要な問題であるといえます。株式譲渡について、深く考えることが会社の発展に繋がっていくでしょう。
この記事の執筆者飛渡 貴之(弁護士)
弁護士法人キャストグローバル代表弁護士。滋賀県生まれ、関西大学総合情報学部卒業後、パチプロをしていたことで、パチンコメーカーに就職し、新商品の企画開発に5年間携わる。
勤務中、土地家屋調査士の資格を取得し、独立を目指し司法書士の勉強を始め、退社後、合格。司法書士業務をするも、より質の高い法的サービスを提供したいとの思いから、弁護士を志す。
一般企業での会社員経験と定期的に国内外の優良企業を視察して得られた知識経験を生かしたコンサルタント色のある提案が多くの企業に喜ばれて、多数の企業を顧問に持つ。
この記事の執筆者椛島 慶祐(司法書士)
司法書士法人キャストグローバル在籍。福岡県生まれ。日本大学法学部法律学科卒業後、2014年司法書士試験合格。
2015年司法書士登録し、司法書士法人キャストグローバルに入社以来「企業法務、法務支援」に特化して創業者や中小事業、大企業の法務手続きを精力的に支援。これまでに500社以上の登記手続きやコンサルティングの実績がある、中小企業から大企業まで取引先は多岐に渡る。