選手としてお世話になったアスリート界を盛り上げたい!創業直後の大ピンチを乗り越えられた秘訣とは。

起業時の課題
資金調達, 事業計画/収支計画の策定, 集客、顧客獲得, 仕入先確保, 製品/サービス開発

株式会社ニューレヴェルの緑川真治さんは、水泳選手として12年、その後は13年間水泳用品の関連企業で勤めた後に独立。水着やスポーツ用品の販売だけではなく、オリジナルデザインのユニフォームの制作や、水着ブランドを立ち上げるなど、アート×スポーツをテーマに事業を展開されています。

創業当初は多くの金融機関に相手にされず苦労された経験もありながら、最終的には創業融資として2,000万円の資金調達に成功。「事業への熱意を伝える努力が大切」と情熱たっぷりに語る緑川さんに、独立を選んだ経緯や、創業直後の危機を乗り越えられた秘訣などを伺いました。

会社プロフィール

業種 製造業(アパレル)、クリエイティブ(その他)
事業継続年数(取材時) 4年
起業時の年齢 30代
起業地域 神奈川県
起業時の従業員数 4人
起業時の資本金 500万円

話し手のプロフィール

会社名
株式会社ニューレヴェル
代表取締役
緑川 真治
株式会社ニューレヴェル 代表取締役
アイウェー株式会社 代表取締役
特定非営利活動法人Fun Place 39 理事
1983年横浜生まれ 湘南工科大学附属高校 水泳部出身
帝京平成大学情報学部卒
18歳まで現役競泳選手としてジュニアオリンピックやインターハイなどの全国大会に出場・入賞多数。14年間、水泳部やスイミングチームのユニフォーム製作や販売事業に従事。
2019年に独立し株式会社ニューレヴェルを設立。神奈川を拠点とし、全国のスポーツチームのサポートをメインにアート・デザインを前面に押し出したオリジナル商品や、障がい者を含めたすべてのスイマーをサポートするヒット商品【リヴォーン】【エヴァースリックスプレー】の企画開発も手掛ける。
別事業として障がい者スポーツ支援団体の理事や、訪問看護事業のスタートアップ支援も行う。

目次

デザインを通じてスポーツ選手を応援したい。

事業概要について簡単にお聞かせください。

緑川さん:オリジナルユニフォームやグッズの制作、Webでのスポーツ商品販売、水泳の大会会場でのブース出展の3つの柱で展開しております。

顧客にはどのような方が多いのでしょうか。

緑川さん:全国のスイミングクラブ、スポーツクラブをはじめ、学校水泳部、水球やアーティスティックスイミング、体操、トランポリンなどのチームがお客さまに多いです。

オリジナルデザインのグッズ制作をするうえで、収益化のコツやポイントがあれば教えてください。

緑川さん:例えば、スポーツチームがオリジナルのユニフォームを作りたいとなったとき、チームの中にデザインができる人がいないことが多いと思うんですよ。でも、せっかくだったら良いものが欲しいじゃないですか。当社は、テンプレートの中から選ぶよりもこだわりのロゴやデザインを入れたい、でもできればデザインは丸投げしたい、そんなお客さまの要望にも丁寧にお応えすることを心がけています。オーダーメイド商品に関しては細かなニュアンスを汲み取ったり、デザイン性を求められたりする場面も多いですが、妥協せずお客さまの満足するものを作れる自信があるので、単純に商品を売る以上の価値をプラスできると思っています。

実際に、水泳の大会などで当社が制作したユニフォームを見た別のチームの方から、「それかっこいいね、どこで作ったの?」と尋ねられて、紹介してくださるケースもあります。

同業界で独立した理由とは。

緑川さまは昔から水泳に携わられていたのですよね。

緑川さん:はい。学生時代から12年間、水泳をしてきました。高校卒業まで死に物狂いで競泳に取り組みましたが、日本代表になれるレベルではなかったので、大学入学後は、選手とは少し違った視点から水泳界を見てみようと、コーチやライフセーバーなども経験しました。

そうした活動を通して、「やっぱり自分は水泳が好きだ」と確信し、業界にずっと携わっていけるスポーツ用品販売の会社に就職しました。そこで10年ほど経験を積み、独立しました。

参考例:日本アクアラング(AQUASPHERE)ブランドとのコラボレーション作品

10年勤めた会社を辞めて独立するのは大きな決断だと思います。独立に踏み切ったきっかけは何だったのでしょうか。

緑川さん:会社員時代は神奈川営業所を統括していたのですが、営業所の事業部と会社とで運営方針の相違があり、分かり合えない部分が大きくなってしまったため、というのが正直なところです。事業部はもっとお客さまに寄り添いたかったけれど、なかなか叶わない部分もあり、最終的には会社を離れて自分たちで挑戦することにしました。

では、独立後も会社員時代にやっていた業務を中心にやっている形なんでしょうか。

緑川さん:事業内容は会社員時代にやっていた業務をベースとしながらも、会社員時代にはできなかった企業ブランディングに力を入れていきたい想いがありました。その中で、自分は学生時代からアートが好きだったのもあり、アートの力でスポーツ選手を支援していきたい、という軸が決まり、今のような形になっています。

アーティストのCorned Beef Chance(コンビーフチャンス)さんのイラストをブランドに取り入れているのも、そういった経緯なのですね。

緑川さん:はい。実は彼とは学生時代、一緒にバンドをやっていたのですが、その頃から私は彼のイラストのファンで、彼の作品に救われてきた部分も多くあります。卒業後も連絡を取り合っていて、アスリートをアートやデザインで支えるという会社のコンセプトを考えたときに、真っ先に頭に浮かんできたのが彼だったので、依頼させていただきました。

起業に際してご家族の反対はありませんでしたか?

緑川さん:前職を退職する2年ほど前から独立を考えていたのですが、その時点から妻には逐一相談していました。貯蓄から資本金を出さなければならなかったので、妻には独立して会社を興したい意志を伝えて、細かい数字を積み上げてプランを説得しました。子供も2人おりまして、借り入れをするとなるとリスクもあるので、説得するのは大変でした。もしかすると、今でも納得してもらっていないかもしれませんね(笑)。

ただ、妻ももともと水泳をしていて水泳業界への理解があるうえ、信用金庫に勤めていたこともありお金にかかわる知識があったので、今では当社で経理もしてもらっています。

3か月資金調達に奔走するも審査が通らない…最終的に2,000万円の創業融資が降りた理由は?

創業時の資本金や資金調達について教えてください。

緑川さん:資金調達には非常に苦労しました。まず、自己資金500万円でスタートしたのですが、従業員も4名雇っていましたし、商品仕入れもしなければならないので、2,000万ほどの資金調達が必要だったんです。そこで日本政策金融公庫に相談しに行きましたが、まったく相手にされませんでした。計画書を作り申請を出すも、審査の結果も早く、「1円も降りない」という状態でしたね。他の金融機関からも門前払いで、困り果ててしまいました。

1月に法人設立して本当は4月から販売をスタートしたかったのですが、4月の時点でまだ手元の500万円しかない状態でした。その時期が一番キツかったですね。「お金が足りなくなるストレスってこんなに苦しいんだ」と痛感しました。

満足に仕入れもできない状態ということですよね。そこからどう動かれたのですか。

緑川さん:あらゆる知り合いに声をかけて相談しに回りました。その中で、信用金庫に勤めている水泳選手時代の後輩が全面的に協力してくれることになったんです。おかげで、5月の中旬に最も安い利率で2,000万円の創業融資を無事受けることができました。

公庫で全く相手にされなかったところから信用金庫では融資が降りた、そのポイントはどんな点にあると思われますか。

緑川さん:協力してくれた彼には、「金融機関は最終的には人を見る」と言われました。信用のない新規創業の会社は、熱意や本気度、事業の実現可能性を伝えるために、具体的な営業リストや、これまでの実績など、思いつく限りのデータを集め、資料を積み上げて、いかに事業と真摯に向き合っているかを伝えるのが大切だと教わりました。最初の資金調達で失敗した理由は、事業にかける想いを伝える努力が足りなかったのだと思います。

前職の苦い経験を糧に上も下もないフラットな組織作りを。

会社設立の登記手続きはどうされましたか。

緑川さん:専門家にお願いしました。前職で一緒に働いていた同僚が先に起業していたのですが、その方の税理士さんをご紹介いただき、その事務所の方にすべてやっていただきました。すごく丁寧かつスピーディーに進めていただけたので、お任せして良かったです。

税理士も起業当初から顧問契約をしていますか。

緑川さん:はい。創業以来お世話になっています。会計ソフトはインストール型の「弥生会計」を使って入力作業は自社でしています。税理士の先生から「使いやすい」と勧められたことがきっかけでずっと利用しています。また、商品管理にはインストール型の「弥生販売」、給与計算にはクラウド型の「やよいの給与明細 オンライン」を使っています。「弥生会計」に「弥生販売」や「やよいの給与明細オンライン」のデータを連携できるので、バックオフィス業務の時短につながって助かっています。特に「弥生販売」は数万点の商品を登録するのも全く問題ないですし、機能が充実している点も気に入っていますね。

スタートアップ時の仕入れ先や顧客の開拓はどのようにされていきましたか。

緑川さん:独立の半年前くらいから、前職でお世話になっていた仕入れ先や提携先の工場、顧客などに話していました。応援してくださる方々がほとんどだったのですが、中には経緯を丁寧にお伝えしたものの縁が切れてしまったところもありました。それはしょうがないことですので、今お付き合いいただいているお客さまに真摯に向き合い、少しずつ信用していただけるようになるしかないですね。

創業時から従業員4名いたとのことですが、組織作りで気をつけていることはありますか。

緑川さん:当社は組織の上も下もなくフラットな関係性なんです。もちろんそれぞれの役割は違いますが、企業の目的をしっかり浸透させたうえで、チーム全員が目標を達成するために動き、目標を達成したら全員に還元します。

緑川さん:また、創業当初からチームメンバーに子供を持つ家庭が多かったこともあり、皆が快適に働けるよう、育児短時間勤務制度の対象者の拡大や、有給休暇の取得率の上昇などにも取り組んでいます。前職での苦い経験もあるので、一緒に働く人たちのことをいかに大切にできるかは常に心がけていますね。

起業するまでにしておけば良かったと思うことは何かありますか。

緑川さん:お金の勉強はもっとしておけば良かったな、と思いますね。税金の勉強は特にそう思います。

緑川さん:あとは、信頼できる仲間作りですね。もっと日頃からいろいろな人に会って情報収集したり、気軽に話を聞ける仲間を作ったりしておけば良かったとは思います。

スポーツの緊張感と経営の緊張感は似ている。

仕事において、アスリートと起業家の共通点などはありますか。

緑川さん:スポーツの緊張感と起業・経営の緊張感は似ていますね。全部自己責任でやっていくところは特に似ています。

ただ、どちらもそうですが、結局最後は、熱量が大きい人が勝つのではないかなと思っています。本当に心から好きで、ここで死ねる、と思えるくらいの熱量があれば、勝てるんじゃないですか。それはスポーツも起業も同じだと思います。

私自身は水泳のことが大好きで、自分を育ててくれた水泳に恩返しをすることが自分の使命だと考えています。ユニフォームを喜んで着ている選手を見ると嬉しいですし、すごくやりがいを感じます。

今後の課題や力を入れている点を教えてください。

緑川さん:当社のスタッフはほぼ30代後半から40代なので、今後5年〜10年のことを考えると、もっと若手の人材を採用して育成していきたいです。

緑川さん:既存のお客さまやお世話になっている地域の皆さまを大切にしながらも、日本のスポーツ業界の人たちが誰もやっていないようなチャレンジを今後もどんどんやっていければ、と思います。ユニフォームのデザインだけでなく、水泳選手の困りごとを解決させる道具なども作っていきたいと思っています。

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