70歳で叶えた二度目のログハウスの夢。人生100年時代における、私の選んだ「起業」という道。

起業時の課題
資金調達, 事業計画/収支計画の策定, 集客、顧客獲得, バックオフィス業務, 家族の同意

工藤哲男さんは70歳で起業し、長野県白馬村で1日1組限定の「KuDo's Lodge」を経営しています。

人生100年時代の充実した生活と自らの経済的自立を見据え、若いころからの夢だったロッジ経営で起業を叶えた工藤さん。70歳で2000万円の融資を受け、家族の反対をされながらも歳の離れた妻や子供たちに将来遺せるものを作りたいと、新たな挑戦に踏み出しました。夢のロッジ建設は、自ら建築の一部を担い、随所にこだわりを詰め込んでいます。工藤さんのお話からは、その決断力と行動力、そして、ボーイスカウトや海外経験で培ったアウトドアを楽しむ心と社会貢献の信念、自分で道を切り拓く力など、力強い起業家精神が感じられます。理想と現実、両面を叶えた工藤さんの起業ストーリーは、年齢を問わず多くの方の心に響くのではないでしょうか。

会社プロフィール

業種 サービス業 (旅館・ホテル)
事業継続年数(取材時) 4年
起業時の年齢 70代
起業地域 長野県
起業時の従業員数 0人
起業時の資本金 -

話し手のプロフィール

工藤哲男
KuDo's Lodge 代表
22歳から6年間かけ世界45カ国を放浪する。放浪生活の結論として、小さな土地でもいいから、地の底から天空の彼方まで自分の世界を作り上げることを夢見るようになる。帰国後、知人を頼って白馬村に移住し、スキー場勤務やホテル従業員などとして働くかたわら丸太小屋の制作に取り組むも、結婚、育児のタイミングが重なり思うように時間を掛けられず、約3分の1ほど積んだところで丸太が傷み出し継続を断念。それから30年後、基礎だけが残った家をロッジとして蘇らせることを決意し再挑戦。長年の夢だったロッジを完成させ、一棟貸しの宿泊施設「KuDo's Lodge」を開業。新型コロナウイルスの5類移行後は順調に売上を伸ばし、Airbnbのスーパーホストにも認定されている。
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目次

日本を飛び出し世界中を旅した結果、白馬村で見つけた夢とは。

起業までにどのような経験をされてきたんでしょうか?

工藤さん:私は20代の頃に6年間かけて世界45か国を放浪していました。当時、社会的な現象として日本を飛び出す若者が多く、私もその1人でした。本当にいろいろな経験をしましたね。命の危険に晒されるような場面も多数ありましたが、同時に多くの人に助けられ親切にしていただきました。

両親には日本には帰ってこないと伝え、祖国に帰ってくるつもりはありませんでしたが、6年経って「日本人以外のものにはなり得ない」と気付き、日本に戻ることを決意したんです。そして日本が世界に誇る美しいリゾート地、長野県白馬村に移り住みました。

白馬村に来てからはもう40年以上になります。最初は知り合いが経営する宿の手伝いをし、その後スキー場に22年勤め、60歳を過ぎてからは大きなホテルで施設管理マネージャーを主の仕事として9年間働き、接客のノウハウを学びました。

長年、観光業に携わってこられたんですね。そこからロッジ経営を始めようと思ったきっかけは何だったんでしょうか?

工藤さん:実は、白馬村に来た当初から、自分で丸太小屋を作る夢を持っていたんです。少しずつ作り始めていたのですが、子育てや社会的な役割を担うようになり、そんな状況の中で中断せざるを得なくなりました。70歳を目前にして、その夢が諦めきれず、ついに実現させようと決意したんです。長年温めてきた夢だったので、年齢に関係なく挑戦しようと思いました。

70歳の誕生日に2000万円融資!家族の反対を乗り越えた開業への道。

ロッジ経営を始めるにあたって、資金調達はどのようにされたのでしょうか?

工藤さん:ロッジの開業には2000万円ほどの資金が必要でした。最初は地元の銀行に融資を申し込んだんですが、あっさり却下されてしまったんです。銀行からは「家族の賛成と後継者の存在が必須条件だ」と言われました。しかし、実は妻から反対されていたんですよ。

「70歳で2000万円も借りて、どうやって返すの?」と。私たち夫婦は2人の子供を大学まで行かせて、貯金はほとんどありませんでした。妻は私よりかなり年下で、まだ老後の生活への実感が薄かったのかもしれません。安定した仕事に就いている妻には、私の考える老後の不安が十分に伝わらなかったようです。

なるほど。奥様の心配もごもっともですね。それでも開業にこぎつけたのはなぜですか?

工藤さん:銀行で断られた日の午後、商工会の方が日本政策金融公庫を紹介してくれたんです。そして、70歳の誕生日に最後の書類を提出することができて、融資が決定したんですよ。涙が出ましたね。

70歳で2000万円の融資はかなり珍しいケースのようにも感じますが、融資に際し、事業計画書のほかに、何か特別な準備が必要だったものはありましたでしょうか。

工藤さん:私の所有する約300坪の土地と自宅の全てを担保にしました。返済期間は10年です。

無事に融資が決定したものの、起業を家族に応援してもらうのは難しかったです。子供たちには家族会議で説明して、なんとか了解してもらえましたが、妻は最後まで首を縦に振りませんでした。

そこで、できる限り自分の力で形にしようと決意を固めたんです。例えば、内装工事では壁塗りやタイル貼り、さらには家具や照明の選定など、自分でできる部分は全て自分で行いました。DIYに関して私は本当に素人なんですが、1つ1つ丁寧に作り上げていきました。

工事の間は誰も見に来てくれませんでしたが、完成して家具を搬入する段階になり、家族に手伝いを頼んだんです。そのとき初めて中に入った家族は「すごい!」と驚いて、やっと現実を目の当たりにして協力的になってくれました(笑)。家族の理解が得られて本当に嬉しかったですね。それからはすっかりと家族は協力をしてくれていますよ。

開業時の資材や家具家電の調達について、ホテル勤務時代などのつてが活きたのでしょうか。それともご自身で調べたりしながら進められたのでしょうか。

工藤さん:開業時の調達については全くつてはありませんでした。業者さまについては、少しだけ関係のあった水道関係だけお願いしましたが、あとは新規に開拓しました。

オープン直後から訪れた悲劇…!3年間の経営難を救ったものとは。

開業当初に直面した課題があれば教えていただけますか?

工藤さん:実は、新型コロナウイルスの流行と開業のタイミングが重なってしまって、本当に厳しい船出でした。人の動きが完全になくなってしまって、せっかく開業したのに、お客さまを受け入れられない状況が長く続いたんです。

この時期は収入がなかったので、知人の紹介で建設現場の手伝いに行っていました。融資の返済について頭を悩ませていましたが、日本政策金融公庫が返済の猶予をしてくれたんです。経営の厳しい状況が続いていた中、結果的に3年間の返済猶予をいただきました。これがなければ、事業を続けるのは難しかったでしょう。本当に国民のための機関だと実感しました。

開業当初は別の計算違いもあったんです。知り合いや友人が「絶対行くね!」と言っていたので来てくれると期待していたんですが、実際にはそう簡単にはいきませんでした。皆それぞれの事情があり、なかなか時間が取れないものです。特に私の年代では、友人たちも旅行する機会が減っていることもあります。

コロナ禍もあり集客にご苦労されたんですね。その後、状況は変わりましたか?

工藤さん:新型コロナウイルスが5類に移行してからは状況が大きく変わりました。お客さまの層も幅広くなってきて、ご家族連れもいれば、お友達同士の若者たちもいます。ときには子供会のグループで10数人になることもあります。会社の仲間同士で来られる方もいて、年齢層も幅広いですね。

特に大きな変化は、外国からのお客さまが急激に増えたことです。もともとインバウンドをターゲットにしていたので、ようやく本意に叶ってきた感じです。開業当初は厳しい状況でしたが、今ではようやく当初描いていた姿に近付いてきました。身近な人だけでなく、幅広いお客さまを想定して準備することの大切さを学びました。

4年で売上5倍を達成!世界一周の旅が教えてくれた大切なこと。

集客や売上を伸ばすために、工夫されたことがあれば教えてください。

工藤さん:開業から2年目に入ったころ、集客方法を大きく変えました。それまではホームページからの予約をメインで受け付けていたところ、OTA(Online Travel Agent)を活用することにしたんです。じゃらんやAirbnbなど、現在9社と契約しています。これが転機になりました。

OTAの活用で、徐々に予約が増えていきました。毎年着実に売上が伸びていって、嬉しかったですね。特に今年は、4月と7月にAirbnbでスーパーホストに認定されたんです。これをきっかけに、予約が急に増えた気がします。スーパーホスト認定後、売上が2割ほど増えたんじゃないでしょうか。

Airbnbのスーパーホスト認定にはいくつか基準があるようですが、特に重視されるのが、お客さまからのレビューです。5点満点で平均4.8以上のレビューが必要なんです。

それはすごいですね!

工藤さん:ありがとうございます。でも、何も特別なことはしていません。ただ世界一周で経験した、「おもてなし」の心を大切にしているだけです。旅先で多くの人に親切にしてもらった経験があるので、今度は自分が旅行者に親切にすることで恩返ししたいと思っているんです。それが伝わっているのかもしれません。

工藤さんの経験が、お客さまへの対応に活きているんですね。

会計は苦手でも工夫次第!?1人で経営を回すための工夫とは。

会計管理については、どのように取り組まれていますか?

工藤さん:正直、会計は苦手なんです。お金のことを考えるのが苦手で、できれば関わりたくないと思っていました(笑)。でも、事業を始めたからには避けて通れません。

最初の3年間は、Excelで収支を管理していました。収入と経費を表に入力して、それを商工会に持っていくと、商工会の方が弥生会計に入力し直して処理してくれていました。

しかし3年目が終わるとき、商工会から「そろそろ自分でやってください」と言われまして(笑)。それで昨年からインストール型の「弥生会計」を使い始めました。仕訳入力の際にどの勘定科目を使えばいいのかなどわからないこともありますが、電話での仕訳相談や操作サポートだけでなく、PC周辺ソフトウェアサポートも受けられるトータルプランに加入しているので、今後も相談しながら処理を進めていくつもりです。

他の経営管理はどうされていますか?

工藤さん:例えば、業者への支払いはほとんどネットバンキングでしています。お客さまからの支払いは80%が事前決済で、残りは現金やAirペイというサービスを使ってカード決済で受け取っています。

その他、パソコンやインターネットに関してはリモートサポートを受けられるサービスに加入しています。1人で何でもやらなければならないので、困ったときにすぐに相談できる体制を整えています。

「成功」の反対は「失敗」ではなく〇〇。

今後の目標についてお聞かせください。

工藤さん:今年の売上目標はすでに達成できました。商工会の方から、私の規模のロッジならこれくらいが限度だと言われていた金額にも、あと一歩のところまで来ています。

今後は、アウトドア体験の充実に力を入れたいと考えています。バーベキューだけでなく、焚き火やダッチオーブン料理など、さまざまなアウトドアクッキングの体験を提供したいですね。これによって、リピーター率を上げ、さらなる成長を目指しています。

お客さまに「次に来たときにはこんなことをしてみたい」と思ってもらえるような、魅力的な体験を提供し続けることが大切だと考えています。70歳を過ぎてからのスタートでしたが、まだまだ挑戦し続けたいと思っています。

70歳からの起業というのは、多くの人にとって勇気のいる決断かと思います。リスクも大きそうですが、それを乗り越えられた原動力は何だったのでしょうか?

工藤さん:私の座右の銘があります。「成功の反対は失敗ではない。やらないことだ」という言葉です。これは若いころから大切にしてきた考え方です。

世界一周の旅をしていたときから、「やって失敗するよりも、やらずに後悔する方が嫌だ」と思ってきました。命を懸けてでも挑戦する価値があると。この考えが、70歳での起業を後押ししてくれました。

ロッジを作ることは昔からの夢だった、という理由に加え、老後の生活への不安が大きかったというのも起業の大きな理由の1つでした。人生100年時代と言われている中で、実際に100歳まで生きるとすると、夫婦の年金だけでは生活が心もとないと感じていて。それで、自分で稼ぐ手段を持たないと生活していけないと思ったんです。

工藤さんの口から聞くからこそ説得力がありますね。最後にこれから起業を考えている人たちへ、メッセージをいただけますか?

工藤さん:まず、若ければ若いほど、失敗を恐れる必要はないということです。私も何十回も失敗してきました。でも、その経験が今に活きています。やらずに後悔するくらいなら、やって失敗する方がいい。そう思って一歩を踏み出してほしいです。

それから、夢は諦めなくていいんです。私が35年前から抱いていた夢は、途中で中断することもありましたが、最終的に70歳で形にすることができました。

起業は確かに大変です。でも、自分の夢を追いかける喜びは何物にも代えがたいものがあります。私自身、まだまだ新しいことにチャレンジしていきたいと思っています。皆さんも、自分の可能性を信じて、一歩踏み出してみてください。きっと新しい道が拓けるはずです。

取材協力:創業手帳
インタビュアー・ライター:間宮 まさかず

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