「人生経験すべてが武器になる」。直感で起業を決意したその日から、人生が動き出した話
- 起業時の課題
- 集客、顧客獲得, マーケット・ニーズ調査, バックオフィス業務

「起業は難しい」そう思っていませんか?福島県で地域密着型の旅行業を営む小室さんの経験は、そんな不安を和らげてくれるかもしれません。
ガソリンスタンド勤務、英語講師、国際交流活動——。多彩な経験を持つ強みと、「考えすぎると進まない」というモットーを胸に起業を実現。地域の魅力発信に加えVR技術の活用にも意欲的ですが、起業を志したのは少しのきっかけを見逃さず、恐れず前進した結果でした。
小室さんの先入観のない好奇心と、その場の感情や出会いを大切にしながら前に進む柔軟さが印象的だった今回のインタビュー。「これだ」と信じて突き進む力強さが言葉の端々から感じられる、等身大の起業ストーリーをお楽しみください。
会社プロフィール
業種 | サービス業 (旅行・レジャー・アミューズメント関連) |
---|---|
事業継続年数(取材時) | 4年 |
起業時の年齢 | 40代 |
起業地域 | 福島県 |
起業時の従業員数 | 0人 |
起業時の資本金 | - |
話し手のプロフィール
- 小室雅喜
- みやびストリートツーリズム 代表
- 福島地域通訳案内士
- 家業であるガソリンスタンドで働きながら「国内旅行業務取扱主任者」の資格を取得し、みやびストリートツーリズムを開業。主に福島県の魅力を伝える募集型企画旅行や、お客さまの要望に応じた旅行プランの策定などを行っている。趣味はサイクリング。

目次
- 地域密着型の旅行サービスで福島の魅力を伝えたい。
- 人生を起業に活かす!意外なキャリアが仕事に繋がるまで。
- 決意から行動に移すまで。スピード感のある起業の秘訣とは。
- 起業して実感した旅行業界のリアル。課題克服のためにどのような工夫を?
- すぐに成果がでなくても大丈夫。大きく成長する瞬間は必ず訪れる。
地域密着型の旅行サービスで福島の魅力を伝えたい。
みやびストリートツーリズムの事業内容についてお聞かせください。
小室さん:主な事業内容としては、募集型企画旅行、受注型企画旅行、旅行相談、インバウンド事業、そしてレンタサイクル事業があります。
募集型企画旅行では、じゃらんなどのプラットフォームを活用して、さまざまなユニークな自社企画のツアーを販売しています。例えば、福島県須賀川市の特撮関連施設を巡る「特撮ツアー」があります。須賀川市は、ウルトラマンを生み出した円谷英二の生まれ故郷であり、特撮をテーマにしたスポットがいくつもあり、そういったスポットを訪れるツアーです。また、高級な納豆を製造するメーカーや蕎麦屋と提携し、工場見学と納豆を使った特別なランチを楽しむ「納豆体験ツアー」なども行っています。これらは個人向けのツアーが中心です。

一方、受注型企画旅行というのは、お客さまのご依頼を受けて旅行を企画し、手配・旅程管理するツアーのことです。お客さまのご希望により、添乗員としてツアーに同行することもあります。主に団体向けの旅行で、地元の方々や近隣の町村からのご依頼が多いです。
例えば、地元の商工会に所属する団体からの研修旅行の依頼や、近隣の町村からの団体旅行の企画依頼などがあります。これらは主に大人数での旅行で、会社の研修旅行のようなものが多いですね。
福島県の観光の魅力について教えてください。
小室さん:福島県は本当に魅力的な観光資源がたくさんあるんですよ。海もあれば山もある。伝統芸能や美味しい食事もあります。私が特に好きなのは裏磐梯(うらばんだい)ですね。磐梯山の裏側の景色はとても綺麗ですし、夏は涼しくて過ごしやすいのも魅力です。
また、東日本大震災後に生まれた「ホープツーリズム」という取り組みにも少し関わりました。これは、主に津波や原発事故の被害を受けた浜通り地域で行われているもので、震災からの復興の現状を学ぶ観光旅行です。
特におすすめのツアーはありますか?
小室さん:サイクリングツアーです。サイクリングツアーは、地域の自然や文化をより深く体験できるうえ、健康的で環境にも優しい観光の形として注目されているんです。私自身も、ダイエット目的で自転車を始め、10年ほど前に本格的なロードバイクを購入したことをきっかけに自転車イベントに参加するようになり、そこから本格的にハマっていきました。サイクリングツアーは、サイクリングの魅力と福島県の魅力を同時に味わえるので、これからもいろいろと企画していきたいです。
近年では桧原湖を1周するサイクリングツアーがおすすめです。

このツアーでは、美しい裏磐梯の景色を楽しみながら、爽快な走行を体験できます。季節を問わず磐梯山の絶景を楽しめるのが魅力です。
福島県の魅力は、私自身もまだまだ味わい尽くせていません。だからこそ、国内外のお客さまに福島の魅力を伝えていくこの仕事にやりがいを感じています。
人生を起業に活かす!意外なキャリアが仕事に繋がるまで。
小室さんが旅行業を始めるまでのキャリアについて教えていただけますか?
小室さん:起業前はさまざまな経験をしました。大学在学中は東京で演劇活動をしていました。その後、福島県に戻ってきて、海外派遣事業に参加したり、国際交流の活動をしたりしました。他にも、バルーンアートや塾の英語講師、草木染めなども経験しましたね。
その一方で、家業でもあるガソリンスタンドでも長らく働いています。私の祖父が戦後に立ち上げたスタンドです。みやびストリートツーリズムを始めたときは、ガソリンスタンドの仕事、英語講師、そして旅行業の準備と、トリプルワークでした。

3つも同時に仕事をこなすのは大変だったのではないですか?
小室さん:そうですね。特に英語講師をしていた時期は精神的にも体力的にも厳しかったです。ただ、仕事の場が変わることで気分転換になる面もありました。旅行業に関しては、特に最初のころは書類作成などが大変でしたが、すっかり慣れましたね。
通訳案内士の資格も取得されているそうですが、そちらについても教えていただけますか?
小室さん:起業に向けて福島県限定の通訳案内士の資格も取得しました。この資格取得後、県内のさまざまな観光地を訪れる機会があり、そこでの出会いが現在の仕事にもつながっています。例えば、ある地域のブランディング事業者と知り合い、一緒にモニターツアーを実施したこともあります。
小室さんのキャリアを聞いていると、さまざまな経験が旅行業につながっているように感じます。
小室さん:そうですね。振り返ってみると、これまでの経験すべてが現在の事業に活きています。例えば、国際交流活動や英語講師の経験は、現在のインバウンド事業に直接活かされていますし、赤坂のシティホテルでのアルバイト経験も、旅行者の気持ちを感じ取るのにとても役立っています。
英語力、接客スキル、地域とのつながり――、これらすべてが、今の私の仕事の基盤になっています。
決意から行動に移すまで。スピード感のある起業の秘訣とは。
小室さんが旅行業を始めようと思ったきっかけを教えていただけますか?
小室さん:実は、大学時代から自分のビジネスを持ちたいという想いがあったんです。20代から30代後半まで、興味を持ったことにがむしゃらに挑戦しましたが、結果を出せず、すべて中途半端に終わりました。旅行業に特化したわけではなく、さまざまな可能性を模索していました。むしろそのころは、旅行業にまったく興味はありませんでした。
ずっと自分のビジネスを探していた中で、国内旅行業務取扱管理者という国家資格があることを知って、軽い気持ちでテキストを買って、ざっと読んでみました。読み進めるうちに「これは今までの経験が活かせる」ということを感じ、その後本気で勉強して、その年のうちに無事合格しました。勉強している最中に「これを仕事にできるかもしれない」とイメージが湧いてきたんです。資格を取得したことで、旅行業への道が見えたような感覚でした。

資格取得から実際に事業を始めるまでの経緯を教えていただけますか?
小室さん:資格に合格後すぐに旅行業の登録手続きを始めました。調べて準備を進め、5か月後には登録が完了しました。振り返ると、かなりスピーディに進めたと思います。
そのスピード感の秘訣は何だったのでしょうか?
小室さん:私の場合、あまり頭で考えすぎないことが大切だったと思います。「理屈で考えすぎると進まない」というのが私の考えで。リスクを恐れすぎたり、あれこれ理詰めで悩みすぎたりすると、チャンスを逃してしまいます。私は「問題が発生したら、そのときに考えればいい」という姿勢でした。
資金調達は行われましたか?
小室さん:日本政策金融公庫から融資を受けました。というのも、旅行業の登録には一定の資産があることを証明する必要があるんです。そのため、借り入れをして口座に入金し、証明書を作成しました。
旅行業は形のない商品を扱うビジネスなので、お客さまの信頼を得るためにも、一定の資産を持っていることを証明する必要があるんです。これは旅行業特有の決まりで、安全と取引の信頼性を確保するための重要な要件なんです。
その他にどのような初期費用がかかったのでしょうか?
小室さん:旅行業は他の業種と比べると、仕入れや設備投資が少ないので、そこまで大きな資金は必要ありません。ただ、旅行業特有の初期費用はあります。例えば、旅行業登録の費用、旅行業協会の年会費、保証金などですね。
他には、棚など什器類の購入や視察費用として活用しました。旅行業を始めるにあたって、実際に県内の旅館に泊まったり、観光地を回ったりする必要があったんです。
この視察は非常に重要でした。自社で扱う観光地や宿泊施設の状況を直接確認し、お客さまに自信を持っておすすめできるようにするためです。また、通訳案内士として、外国人のお客さまにご説明できるように、事前に現地を知って英語の台本を作る必要もありました。視察のおかげで、現地の方々とのネットワークを構築する良い機会にもなりました。
個人事業主にするか法人にするかで迷いはありませんでしたか?
小室さん:日本の旅行会社はすべて5年ごとに旅行業登録の更新をしなければならず、その都度、会社に所定の資産がある証明書を出さなければいけません。ある程度の利益を確保し続ける確証がない限り、はじめのうちは個人事業主の方が好都合だと判断し、個人事業主でスタートしました。
起業にあたって、何か地元の強みのようなものはありましたか?
小室さん:そうですね。私は、これまでの実績や、地域で起業した心意気、行動力が認められ、地元の商工会の理事に任命されましたが、そのつながりがとても大きいです。小さな町なので、他にもいろいろな形でつながりができるんです。このつながりが起業時にも大きな助けになりました。
具体的にはどのように役立ちましたか?
小室さん:まず、地元に旅行会社がなかったので、「あそこで旅行の看板を掲げている」と自然と広まったんです。これが仕事にも活きていて、まったく接点のなかった方からも仕事をいただくことがあります。地域のつながりが、スムーズな起業と事業展開の大きな力になりましたね。
起業して実感した旅行業界のリアル。課題克服のためにどのような工夫を?
旅行業を始めて、どのような課題に直面されましたか?
小室さん:一番の課題は集客です。起業時に、想定顧客がいたわけではありませんので、ほとんどゼロからの顧客開拓でした。ツアー商品販売時には、Instagramで発信したり、地元広報紙に広告を掲載したり、オンライン・オフラインともにツアー商品の告知をしましたが、お客さまが集まらず中止になることも度々ありました。企画を立てるのは楽しいのですが、企画したものをお客さまに体験していただいてこそ、弊社の使命を達成できるというものです。集客の難しさは大きな課題ですね。
対策として、現在ランディングページを制作しており、今後はSNSやYouTubeを活用したり、きちんとしたホームページを立ち上げたりなど広告プロモーションに力を入れようと考えています。

また、ツアー商品を造成する際の「持続可能性」も大きな課題となっています。サイクリングツアーをはじめ、弊社のツアー商品は、提携先との協力があってはじめて成り立つものです。地元のお店や観光地、宿泊施設、ときに農家と連携して、魅力あるツアーを作ろうとしますが、その連携がなくなると、ツアーを持続できなくなります。これまで企画したツアーの中には、農家と連携が難しくなったり、利用していた宿泊施設が廃業したなど、提携関係が崩れ、実施できない状況になっているものもあります。こちらは正直、解決策が見出せない状況です。
なるほど、それは難しい問題ですね…。その他、事業運営で工夫されていることはありますか?
小室さん:いくつか検討していることがあります。例えば、決済方法についてです。現在は振り込みや当日現金払いが主なのですが、クレジットカード決済ができれば、お客さまにとってもっと便利になると思うんです。また、旅行業約款や旅行取引条件書といった、お客さまに同意いただく必要がある書類もネット上で掲載できれば、業務効率化にもつながります。
さらに最近は新しい技術の活用も検討しています。Apple Vision Proというゴーグルタイプのデバイスを使ってVRコンテンツを開発できないかと考えています。例えば、パノラマ撮影した映像や立体的な画像を使って、福島の魅力を伝えるコンテンツが作れないかと。まだアイデア段階ですが、可能性を探っているところです。
会計管理のために何かツールを活用していますか?
小室さん:「やよいの青色申告オンライン」を使っています。ガソリンスタンドでも弥生のソフトを活用していたので、操作自体はそれほど難しくありませんでした。最初のころは仕訳の仕方に戸惑いましたが、インボイス制度への対応も思ったより簡単にできて、とても助かっています。
旅行業を始めてから、業界内での情報収集や連携はどのように行っていますか?
小室さん:弊社は全国旅行業協会(ANTA)に加入していまして、これが大きなメリットになっています。例えば、GoToトラベルや県民割といった施策に参加しやすくなりました。また、業界内の横のつながりができるのも大きいですね。経験が浅い分、同業者の方々からいろいろな話を聞けるのはとても参考になります。
協会からは最新の情報も届きます。そういった情報を活用して、新しい旅行企画にチャレンジすることもできています。やはり、このような情報網があるのは、事業を進めるうえでとても心強いですね。
すぐに成果がでなくても大丈夫。大きく成功する瞬間は必ず訪れる。
起業を考えている人に向けて、何か参考になる考え方はありますか?
小室さん:私がよく考えるのは「成功曲線」というものです。これは、縦軸に成果、横軸に努力した時間をとったグラフです。普通に考えると、努力すればするほど成果が上がると思いがちですよね。でも実際は、成果と努力した時間は正比例しません。
つまり、最初のうちは努力してもなかなか成果が出にくいものなんです。お客さまも来ないし、経費ばかりかかって赤字が続く。でも、ある時期を過ぎると少しずつ成果が出始めて、最終的には努力以上の成果が出るようになる。そんなイメージです。

多くの人は、最初の成果が出ない時期に諦めてしまうんです。「こんなに頑張ってるのに全然ダメだ」って。でも、それは誰もが通る道。私の場合、3年目くらいから少しずつ芽が出てきました。だから、諦めずに継続することが本当に大切だと思います。
小室さんは今、その成功曲線のどのあたりにいると感じていますか?
小室さん:まだまだブレークスルーポイントの手前にいると感じています。横軸からちょっと離れた程度かな。最初のころは「旅行業ごっこ」をしているような感覚もありましたが、ようやく事業らしくなってきました。

起業を迷っている人に対して、具体的なアドバイスはありますか?
小室さん:頭でっかちになりすぎないことですね。失敗したらどうしよう、家族にどう説明しようか、そんなことばかり考えているとなかなか起業できません。
もちろん、リスクをまったく考えないわけではありませんが、極端な話、人間は生きているだけでもリスクと隣り合わせなんです。例えば、家を買うときでも同じことがいえます。ローンを組んで家を購入しても、将来払えなくなるリスクはありますよね。でも、そのリスクがあるからといって、誰も家を買わないわけではありません。
起業も同じで、確かにリスクはありますが、そのリスクを理解したうえで、どう対処していくかを考えることが大切です。リスクを考えすぎると、何も始められません。
起業の苦労も実感していますが、それでも、自分の直感を信じて進むことが大切だと思っています。私自身、まだまだ成長の途中。これからも挑戦を続けていきたいです。皆さんも、自分の直感を大切にしながら、一歩一歩前に進んでいってほしいなと思います。
取材協力:創業手帳
インタビュアー・ライター:間宮 まさかず
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