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フリーランスは賃貸を借りにくい?「フリーランス不動産」運営者に注意点を聞く

執筆者: 安田博勇

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収入が不安定だから、大家さんに働き方が理解されにくいから、フリーランスは賃貸物件を借りにくい。そんな問題点に目をつけ、フリーランス・個人事業主のための賃貸情報サイト「フリーランス不動産」を運営しているのが、株式会社R65の代表取締役・山本遼(やまもと・りょう)さん。

山本さんは、65歳以上の高齢者向け賃貸物件情報サイト「R65不動産」を立ち上げて話題にもなりました。フリーランスの知り合いも多い山本さんに、フリーランスが賃貸を借りにくい理由や借りるときの注意点についてお話を聞きました。

山本遼(やまもと・りょう) 株式会社R65 代表取締役

2012年に愛媛大学を卒業後、不動産会社に就職。その後独立し、2015年に高齢者向けの賃貸住宅を取り扱うサイト「R65不動産」を立ち上げる。2016年には法人化(株式会社R65)を行う。さらに、現在ではフリーランスに特化した賃貸住宅サイト「フリーランス不動産」も運営している。

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「フリーランスは賃貸を借りにくい」という声

山本さんが起業するに至ったきっかけは何だったのでしょうか。

山本遼さん(以下、山本):不動産会社で働いていたとき、65歳以上のシニアの方は不動産を借りたくてもなかなか借りられず、不動産会社も敬遠しがちだという現実を目の当たりにしました。そこに社会課題を感じ、一念発起して起業したのがきっかけです。

そして2020年には「フリーランス不動産」を立ち上げられました。シニア向けに続き、今度はなぜフリーランスに特化することになったのでしょうか?

山本:不動産会社に勤めていた経験やシニア向けの不動産事業を行う中で、フリーランスも賃貸住宅を借りにくい、という話も耳にするようになりました。

フリーランスは、収入が不安定であったり、働き方が理解されないということもあるかもしれません。でもそれ以上に大家さんがフリーランスに賃貸住宅を貸したことがないという不安から来ていることに気づきました。そこで、フリーランスや個人事業主に特化した不動産ポータルサイトを作ろうと思いました。

それが「フリーランス不動産」立ち上げのきっかけです。当社独自のノウハウでフリーランス・個人事業主の働き方に理解のある大家さん・不動産会社を集め、物件を掲載しています。

どうすればフリーランスでも借りられる?契約審査時の注意点

実際、フリーランスは賃貸物件を借りにくいものなのでしょうか?

山本:そうですね。やはり会社組織に在籍されている方に比べると入居審査が通りにくい傾向にあります。実際、フリーランスの入居希望者のうち20〜30%は審査に通らないというデータもあります。都心の物件だともう少し審査通過率の数字は上昇しますが、地方は特に落ちやすい傾向がありますね。理由としてはだいたい「①収入」と「②職業」に大別されます。

「①収入」を理由に審査を落とされるケースとは?

山本:基本的に入居審査では年収・職業・保証人などが審査の対象です。特に年収については“家賃支払い能力の有無”を調べるため「収入証明書」が必須です。会社員の場合、源泉徴収票、直近3カ月分くらいの給与明細などが収入証明書に該当しますが、フリーランスの方にはそれらがありません。そこで必要となるのが「確定申告書の写し」です。

ただこのとき注意しなければならないのは、大家さん・不動産会社・仲介会社、それから保障会社は「所得(=売上−経費)」の部分を見ているということ。たとえその年の売上が立っていても「所得」が低いと審査で落とされるケースがあります。

市区町村が出してくれる住民税課税証明書にも前年の所得が記載されていますが、担当者によっては所得が出るまでの構造・成り立ちを知りたがる場合もあります。

その点、所得税の確定申告書なら収支の成り立ちがひと目でわかりますね。

山本:そうですね。だから物件を借りる際には、直近の確定申告書の控えを用意しておいたほうがよいです。申告書作成時も「あれもこれも」と過大に経費計上すれば所得が下がります。正直に、現実に即したかたちで申告するのが一番です。

それから、青色申告の方は「所得」に注意が必要です。青色申告では、特別控除として課税所得から最大65万円を差し引けます。税金が安くなるメリットはありますが、所得が低く見えてしまいます。住民税課税証明書ではこの部分はわからないですから、確定申告書の方がいいですね。

「②職業」を理由に審査を落とされるケースとは?

山本:社会的に新しい仕事・職業の場合、大家さんや不動産会社に理解を得られにくいことがあります。今でこそだいぶ認知はされていますが、広告仲介からの収入で生計を立てるYouTuber、インスタグラマーなどが該当します。

ほかにも俳優・声優のお仕事をされている20代の方の例では、年収が1,000万を超えているのに「職業柄、収入が不安定では?」と大家さんに敬遠されてしまったこともありました。一部の職業ではまだ大家さんに「それで本当に食べていけるの?」と懐疑的に思われるケースが多く、入居審査での説明がなかなか大変なようです。

対策はありますか?

山本:職業に対する理解で言えば、ポートフォリオ(作品集・実績集)を作成しておくと理解を得られやすいかもしれませんね。ポートフォリオがあれば「このような仕事をしています。」「変な仕事をやっているわけじゃない!」というPRにもなりますから。

あとは、単発での事業収入の他に、取引先と業務委託契約等を結んだ定期収入があるのなら、それが「ご自身の実績」になることもあります。先方の安心材料になりそうなことは、何でも伝達することもよいです。

ところで、一般的には「家賃は収入の3分の1くらいを目安に」なんて聞いたりします。しかしフリーランスは月ごとの収入もばらばらなこともあり、先々の収入も保障がありません。家賃の目安は、どのように考えればよいか、参考までに山本さんの考えを教えてください。

山本:東京で暮らしているとたしかにそうした通説を聞きますが、実際のところ収入の3分の1を家賃に充てたら、結構生活レベルはぎりぎりですよね。

だからそれを「絶対の目安」にする必要はないと思いますよ。少し都心を離れた場所や地方ならば4分の1、5分の1……というケースもあったりします。正直「その人による」というのが個人的な見解です。

自分の働き方が与える影響を意識しよう

収入・職業のお話のほかに、入居審査時の“意外な盲点”はありますか。

山本:比較的しっかりした管理会社が間に入っていると、入居者のSNSの内容をチェックしていることがあります。SNSなどでセンセーショナルな活動をされている、いわゆる“炎上系”のウェブライターさんが入居審査を断られた、という話も聞きました。

フルネームで検索すれば、仕事のこと・日常生活のこと・その方の人柄……といった情報を得られる時代ですから、過去の書き込みやつぶやきなどは注意しておいたほうがよさそうです。

管理会社はその人のSNSまでチェックするものなんですか……!

山本:その人の性格まで細かくチェックされることはないと思いますが、不動産仲介業者が大家さんから「どういう人ですか?」とよく聞かれるのは事実です。そうしたとき仲介業者としては、入居希望者の率直な印象を大家さんにお伝えするようにしていますね。つまり、「いい人なのか」「きちんとした人なのか」「社会人として必要最低限レベルのことができる人なのか」などという点です。

ですので、書類のやりとりがあまりに遅れがちだったり、難しい交渉事を無理に通そうとされる方だったりすれば、大家さんや不動産会社の心証を悪くすることもあります。特にフリーランスや個人事業主が賃貸を借りようとするときは、不動産会社への印象を意識することが重要です。

私もそうなんですが、フリーランスだと「自宅兼事務所」として借りることも多いと思います。事務所使用の場合も申し出たほうがよいですか?

山本:ライターさんやエンジニアさんなど、事務所使用でも周辺環境や隣の部屋などに影響が出ない職業ならほとんど問題はなく、そこまで過敏になる必要はないと思います。本来的には事務所使用として契約するのがルールかもしれませんが、現実的にはそこまで厳しくチェックされることは少ないです。

ただ、部屋から音を発生しやすい仕事とかならば、事務所使用の申告とともに仕事の内容を伝えておいたほうがよいです。

やはり騒音はトラブルになりやすい?

山本:仲間複数人を部屋に呼んで動画撮影をされるYouTuberの方だと、審査に通らなかったりします。実際そうした方に貸した後、撮影時の騒音や人の出入りがクレームにつながり大家さんが困った、という話も聞きました。声優やナレーターなど声のお仕事をされる方に多いですが、騒音対策として部屋に簡易的な防音室を設けるなどの処置が必要かもしれません。

あと、これはフリーランスに限らない話になってしまいますが、早朝や深夜などの出入りが多くなりがちな職業に関しても、事前に申告しておいたほうがよいですね。例えばキャビンアテンダントや看護師の方など、夜勤で不規則な勤務形態を取られる方は「職業柄、夜遅く出入りすることがあるけど大丈夫ですか?」と一言言っておくと、大家さんは安心されます。

自分の職業・働き方が周囲に与える影響を意識し、「自分の仕事柄こういうことがあります!」と事前申告するのはとても重要な視点だと思います。

最近はリモートワークが増え、職業によっては、都市部にいなくても、距離に関係なく働ける状況が整いつつありますよね。「都心or地方」の観点、それ以外でもフリーランスが物件を探す場合、最近の傾向はありますか? また、これからのフリーランスの住まい事情はどうなると思われるのか、山本さんのお考えをお聞かせください。

山本:都心と地方の比較でいえば「借りにくい」のは地方です。やはり地方ではフリーランスという働き方、種々の業種・職種への理解を得られにくい側面がいまだ残っています。そのため「地方で部屋を借りたいのだけれど、大家さんに仕事に対する理解が得られない」「説明ができない」「部屋を借りられないと」いったケースがぼちぼちあります。

一方で都市部での“借りやすさ”は、だいぶフリーランスに寛容になってきている証拠だと感じています。

この先働き方への理解が広まり、フリーランスの地方進出が実現しやすい環境になればなによりですが、いずれにせよフリーランスの方が賃貸に関してそこまで悲観するような状況ではなく、今後はもっと借りやすくなっていくと思います。

この記事の執筆者安田博勇

1977年生まれ。大学卒業後に就職した建設系企業で施工管理&建物管理に従事するも5年間勤めてから退職。出版・編集系の専門学校に通った後、2006年に都内の編集プロダクションに転職。以降いくつかのプロダクションに在籍しながら、企業系広報誌、雑誌、書籍等で、編集や執筆を担当する。現在、フリーランスとして活動中。

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