僕、子育てしながら起業しました。両立のコツや苦労を小島芳樹氏に聞く
執筆者: 阿部桃子
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働く時間や場所が自由に選べるイメージのあるフリーランス。「いつか子育てするときが来たら、自分もフリーランスになり、在宅で仕事を」と考えている方もいるかもしれません。
でも実際のところ、フリーランスや個人事業主を行いながら育児を両立させるのはそう簡単なことなのでしょうか?
今回は、会社員を経てパートナーの出産を機にフリーランスとして独立、在宅ワークと育児の両立に奮闘しながら会社を設立した小島芳樹さんに取材しました。育児×仕事のリアルを伺います。
ちょっと株式会社
代表 小島芳樹
1986年生まれ。会社員としてWebデザイン・ディレクション・事業開発・マーケティングの仕事に携わる傍ら、いくつものスタートアップを支援。2018年5月に独立し、子育てをしながらフリーランスとして複数の会社でWeb制作・新規事業の立ち上げに関わる。2019年4月にちょっと株式会社を設立・代表取締役に就任。現在は子育てと経営の両立を目指して奮闘中。
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育休か専業主夫か。選んだのは「フリーランスとして独立」という選択肢
小島さんは2018年3月に第一子が生まれ、同年4月末に会社を辞めてフリーランスになられたんですよね。会社員時代はどのようなお仕事をされていましたか?
小島芳樹さん(以下、小島):実は僕、10~20代前半は劇団に所属して、プロの俳優を目指していました。でもその夢が叶わず、25歳でWeb業界の企業に入社。
最初のキャリアはWebデザイナーとフロントエンドエンジニアとしてスタートしました。数年間キャリアを積んだあとにWebディレクターとなり、事業開発や企画にも携わりました。
最初は未経験でWeb業界に飛び込まれたのですか?
小島:いいえ、学校に通ったこともあり、もともとWebデザインのスキルは持っていました。またWebディレクター時代も、副業ではWebデザイン、コーディングなども手掛けていましたね。
順調にキャリアを積まれていたようですが、会社を辞めてフリーランスになろうと思ったきっかけは何だったのでしょう?
小島:勤めていた会社のプロジェクトがひと段落したタイミングで、子どもが産まれることになりました。しかし妻は出張も多く、仕事が忙しくて産休・育休が長く取れない状況。最初は僕が育休を取って頑張るか、あるいは専業主夫をするか、なども考えていました。
そこでちょうど、副業でお付き合いのあった会社から大きな案件をいただいたのです。それは週2~3日くらい自宅で仕事をして、しばらく食べて行けるくらいの案件でした。そんな偶然が重なり、思い切って会社を辞めてフリーランスになったのです。
育児と仕事の両立に苦戦も「子どものそばにいられたのは本当に良かった」
実際お子さんが誕生されて、仕事と育児の両立はいかがでしたか?
小島:産まれた直後は妻の実家にお世話になり、いろいろな人が育児を手伝ってくれたのでありがたかったですね。それにうちの子はそんなに手がかからなくて。0歳のときは寝ている時間も長いですし、時々夜泣きするくらいでした。その都度生活リズムを建て直せばなんとかなりましたね。
ただもちろん、大変なときはありました。昼間に一人で面倒を見ていてどうしても泣き止んでくれなかったり、夜中の12時頃に起きてしまって朝の4時ごろまでずっと泣きぐずっていたときなどは、本当にどうすればいいかわからなくて途方に暮れたこともありました。
やはりワンオペは大変ですよね。
小島:でも、この時期に子どものそばにいられたのは本当に良かったですね。赤ちゃんのときは1週間毎に顔や体型は変わっていくし、どうして泣くのか、何に喜ぶのかなど、毎日のように発見がありました。
しばらくして、子育てと仕事の両立のために保育サービスの利用を検討しました。ただ当時、僕が住んでいた自治体は待機児童が多く、保育園の入園は難しい状況で。そのためベビーシッターと子供を預けたい家族のためのマッチングサービスを活用して、週に1~2回はベビーシッターさんにお願いしました。
その後、子どもが動き回る年齢になった頃にコロナ禍で妻もリモートワークになり、子育てを2人体制でできるようになりました。それでうまく生活を回していけるようになった感じですね。
お子さんを保育園に預けずに、週1~2回ベビーシッターさんに託して乗り越えられたんですね。ちなみにクライアントには、子育てをしながら仕事をしていることを伝えていたのですか?
小島:はい。伝えつつ、それでもよければ新規の仕事を受けます、というスタンスでした。お客さんのところに行くときも、「子どもを連れて行ってもいいですか?」と聞いていましたし。
でもそもそも子連れで外出は難しいですから、対面でする仕事は減りました。あとコロナ前だと、夜の会食も参加は諦めていましたね。
ただ、コロナ禍で時代が僕に追い付いた感じがします(笑)。コロナ前は「オンラインミーティングに子どもが入ってきているけどなんなの!?」みたいな目で見られたこともありましたけど、今は「家に子どもがいるときはどうやって仕事するの?」と相談されるようになりました。
育児と仕事の両立で一番大変だったことは何ですか?
小島:コロナ禍の前はリモートワークの限界を感じ、お客さんのオフィスに子連れ出勤していた時期がありました。
子連れ出勤となると、パソコンを持って、おむつや着替えなどのベビー用品を抱えて、もちろん子どももいて、JRと地下鉄と乗り継ぐわけです。しかも最寄り駅にエレベーターがないうえ、地下鉄は上下移動が多かったり、エレベーターがあっても動線から離れた場所にあったりして移動が本当に大変でした。
お客さんの会社自体は理解があり、子連れ出社を歓迎してくれましたけどね。子どもが僕と離れると泣いて、仕事に支障をきたすこともありましたし。くたくたになって、よくタクシーで帰ってきていました。
社会的信頼向上のため法人化。オフィスを構え、社員も雇用
そんななか、フリーランスになってから1年弱で会社を設立されたのですね。
小島:はい。コロナ禍をきっかけに、苦しんでいる人の力になりたい、もっと広く、多くの人のためにできることをやりたいと思うようにって、法人化して規模を広げることにしました。
それまでのWeb制作の仕事だと、スポットで仕事が終わってしまうことが多かったんですね。今後、継続的な収入を得るためにも、メディアの運営やWebサービスの提供を開始したいと考えたのですが、契約上、法人化が必要でした。これも法人成りを後押ししました。
オフィスを構え、社員さんも5人雇われたそうですね。
小島:前述のとおり、リモートワークの限界を感じていまして。Web制作やシステム開発において、ある程度決まったものを作ることはリモートでも確かにできます。ですが、多くの方法を見たり比較したりしながら、よりよいものを創り出すことはリモートでは難しかったですね。
オフィスを構えて、社員とのコミュニケーションが濃密になったことで、新しいアイデアや意見が次々と出てくるようになりました。「こういう方法もあったのか!」という発見が毎日あり、ものづくりには最高の環境になっていると思います。
収入面の変化はいかがでしょうか?
小島:会社員からフリーランスになったときは、会社員のとき以上の収入があり、家族で食べて行けるくらいの余裕もありました。でも会社を設立して人を雇用するとなると、教育しやすいようにオフィスを構えたり、新規事業のための先行投資をしたりと、コストがかかるんですね。
給料的には今までと変わりませんが、もし会社が傾いたら自分の給料を諦めて、社員のみんなに払わなきゃいけないという責任もありますし。むしろフリーランスでいたほうが、気持ちにもお金にも余裕があったかもしれません。
育児と仕事を100%で両立は無理。頼れることは他人に頼るのがコツ
経営者としての苦労を経験されているのですね。そんななか二人目のお子さんも誕生されて、忙しい毎日だと思いますが、1日の仕事と育児の流れを教えてください。
小島:朝、子どもたちを預けて昼間は仕事。夕方迎えに行ったあとは、風呂に入れて、晩ご飯を食べさせて、20時位に寝かしつけながら子どもたちと一緒に寝落ちしたり、23時位にハッと起きて慌てて仕事のメールを返したり。
……我ながら、全然キラキラしてないですね。
(笑)。では、仕事と育児、両立のコツはありますか?
小島:両立ですか……。正直、どちらも100%で両立って無理なのかなぁと。諦めた仕事も諦めた家事もあるし、でも前に進まなければいけないので、無理矢理進んでいる感じですね。
ただ、頼れることは他人に頼ること、これがコツですかね。例えば僕は、確定申告はフリーランス1年目から税理士さんにお願いしていました。
ちなみに、諦めた家事とは?
小島:掃除です。綺麗にしなきゃとは思っているのですが、もう破綻しています(笑)。
会社員とフリーランスや会社経営者で、どの形態が一番子育てしやすいと思われますか?
小島:フリーランスや会社役員だと時間に融通が利くので、朝夕の子どもの送り迎えをしたり、病院に連れて行ったりすることができます。これが会社員時代の自分だったら難しかったと思います。
ただフリーランスは正社員に比べて年金や保険といった社会保障面で不利なことが多いですし、有給休暇もないです。また子どもに関するお金や情報は会社を通じて届くことが多いですが、独立していると自分で情報を得る努力をしないと損してしまうことも。
どちらがいいではなく、自分にはどちらが向いているかだと思います。
この記事の執筆者阿部桃子
早稲田大学卒業後、出版社、テレビ局勤務などを経てフリーランスに。専門分野は教育・育児支援、ビジネス、キャリア。『日経トレンディ』『AERA with Kids』『Bizmom』などで執筆。2児の母。活字好きの子どもを増やすべく、地域で読書ボランティア活動にも励んでいる。