会社分割の手続きの流れを解説!会社分割のメリット・デメリットは?

2022/10/31

会社分割の手続きの流れ

会社分割は、事業に関して有する権利義務の全部または一部を他の会社に承継させるものです。承継する会社が新設会社であれば新設分割、既存の会社であれば吸収分割と言います。承継させる側の会社を分割会社と言い、権利義務を引き継ぐ会社を、新設分割では新設分割会社、吸収分割では承継会社と言います。
一般的な会社分割の流れは ①事前準備・交渉 ②分割契約の締結・分割計画の作成 ③分割契約・分割計画に関する書面の事前備置き ④株主総会における承認決議 ⑤反対株主・新株予約権者への通知または公告 ⑥債権者に対する官報公告および各別の催告等 ⑦会社分割の効力発生 ⑧会社分割に関する書面等の本店備置き ⑨登記となります。
本稿では、上記の会社分割全体の流れと各当事者に必要な手続きについて解説します。これに加えて、M&Aの流れを合わせて検討する必要がありますが、複雑になりすぎるため、M&Aの一般的な流れは別のコラムをご参照ください。
なお、一般的な流れの解説に主眼を置くため、株式会社同士での分割であること、各当事会社が公開会社でないこと、有価証券報告書の提出が不要であること、種類株式を発行していないことを想定しています。当該事情がある場合には手続や流れが一部異なるので注意しましょう。

(1)事前準備・交渉

新設分割によるM&Aは、1社を分割会社として分社化する場合や、数社を分割会社として、合併類似の効果を発生させる場合があります。吸収分割では、既存の会社が承継会社であるので、部分的な合併のような効果が発生します。
数社が分割会社となる新設分割や、吸収分割では相手方となる会社が存在する以上、リスクやメリットを十分に検討した上で交渉することが必要です。
分割会社が1社での新設分割では、外部的な交渉はなくとも、従業員を承継させる場合には誰がどの事業分野にどれだけ従事しているかという労務状況を正確に把握する必要があります。
従業員を承継させる場合には、会社分割では、従業員の理解と協力を得る努力義務(労働契約承継法7条)、労働契約承継法に定められる従業員や労働組合への通知義務(同法2条)、労働者との協議(商法等改正法附則5条)といった、会社法以外の法定の手続きが存在します。

(2)分割契約の締結・分割計画の作成

吸収分割では分割契約の締結、新設分割では分割計画の作成が必要です(会社法757条、762条)。この分割契約では、両者の商号および住所、会社分割の効力発生日、対価を交付する場合にはその関連事項といった法律上定めなければならない事項があります(758条1項各号)。これらに加えて、協議規定や契約の変更・解除規定といった一般的な企業間の契約で定める事項を任意で定めることができます。分割計画では、新設分割会社についての事項を中心に法律上定められた事項を定めます(会社法763条1項各号)。

(3)分割契約・分割計画に関する書面の事前備置き

分割会社および承継会社は、分割契約・分割計画で定めた事項を、書面または電磁的記録で備え置く必要があります(782条1項、794条1項、803条1項)。
分割会社および承継会社では、後述の株主総会承認決議の2週間前、債権者や株主等への通知または公告の日等の日から、分割の効力発生日後6か月を経過するまでの間が備置きの期間となります。

(4)株主総会における承認決議

分割会社および承継会社は、原則として、会社分割の効力発生日の前日までに株主総会で分割契約・分割計画の承認を受けなければなりません(783条1項、795条1項)。そしてこの承認決議は、株主総会の特別決議による必要があります(309条2項12号)。
しかし、これは原則であり略式手続(784条1項、796条1項)、簡易手続(796条2項)、という例外があります。
略式手続は、分割会社および承継会社が特別支配関係(一方が90%以上の議決権を有している関係)にある場合に行うことができます。承継会社が分割会社の特別支配株主であれば、分割会社での株主総会における承認決議は不要となります。また、分割会社が承継会社の特別支配株主であれば、承継会社での株主総会における承認決議は不要となります。
簡易手続は、承継会社が分割会社に交付する対価が存続会社の純資産の5分の1を超えない場合に行うことができます。この場合、承継会社での株主総会における承認決議は不要となります。また、承継する資産が分割会社の資産の5分の1を超えない場合には、分割会社での株主総会における承認決議は不要となります。
株主総会における承認決議が加重されるのは、当事会社が公開会社である場合や、種類株式を発行している場合なので、ここでは割愛します。

(5)反対株主・新株予約権者への通知または公告

株主総会における承認決議に先立って反対する旨を当事会社に通知し、株主総会でも反対をした株主や、略式手続や簡易手続で反対する機会のなかった株主は、当該会社に対して、自己が所有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することができます(785条1項、797条1項、806条1項)。
このような買取請求権が行使できるよう、当事会社は原則として合併の効力発生日の20日前までに吸収合併をする旨の通知をしなければなりません。なお、株主総会の承認を得た場合には、通知ではなく公告でも可能です。
通知をする場合であっても公告に代える場合であっても、その後20日間は反対株主の買取請求が可能な期間となるので、準備の段階から、この期間を念頭に置いてスケジュールを調整する必要があります。

(6)債権者に対する官報公告および各別の催告等

両当事会社の債権者は、会社分割につき異議を述べることができ、異議が述べられた会社は弁済や担保の提供をする必要があります(789条1項、5項、799条1項、5項、810条1項、5項)。
そのため、両当事会社は会社分割をする旨や一定期間異議を述べることができる旨等を官報に公告し、知れている債権者には格別に催告をする必要があります(789条2項、799条2項810条2項)。異議を述べることができる期間は1か月以上必要なので、この点にも注意が必要です。

(7)会社分割の効力発生

これまで記載した手続を経て、分割契約で定めた効力発生日または新設分割会社成立の日を迎えると、会社分割の効力が発生します。

(8)会社分割に関する書面等の本店備置き

分割会社は効力発生日から遅滞なく、承継会社と共同して、承継させた権利義務等を記載した書面または電磁的記録を作成し、株主および債権者からの閲覧や謄本交付の請求に対応できるようにしなければなりません(791条、811条)。
承継会社、新設分割会社は、効力発生日から遅滞なく、分割会社から承継した権利義務等を記載した書面または電磁的記録を作成し、株主および債権者からの閲覧や謄本交付の請求に対応できるようにしなければなりません(801条815条)。

(9)登記

吸収分割では、効力発生日から2週間以内に変更登記をする必要があります(921条)。
新設分割では、効力発生日から2週間以内に分割会社の変更登記、新設分割会社の設立登記をする必要があります。

まとめ

本稿では、会社分割の流れを解説しました。はじめに述べたとおり、あくまで一般的な流れを解説したものであり、種類株式を発行している場合や公開会社であるといった場合には部分的に手続が変わります。
しかし、大まかな流れという点では場面が異なっても大きく変わることはないので、会社分割を利用したM&Aを考えるうえでの参考になればと思います。

著者:飛渡 貴之(弁護士)

弁護士法人キャストグローバル代表弁護士。滋賀県生まれ、関西大学総合情報学部卒業後、パチプロをしていたことで、パチンコメーカーに就職し、新商品の企画開発に5年間携わる。
勤務中、土地家屋調査士の資格を取得し、独立を目指し司法書士の勉強を始め、退社後、合格。司法書士業務をするも、より質の高い法的サービスを提供したいとの思いから、弁護士を志す。
一般企業での会社員経験と定期的に国内外の優良企業を視察して得られた知識経験を生かしたコンサルタント色のある提案が多くの企業に喜ばれて、多数の企業を顧問に持つ。

著者:椛島 慶祐(司法書士)

司法書士法人キャストグローバル在籍。福岡県生まれ。日本大学法学部法律学科卒業後、2014年司法書士試験合格。
2015年司法書士登録し、司法書士法人キャストグローバルに入社以来「企業法務、法務支援」に特化して創業者や中小事業、大企業の法務手続きを精力的に支援。これまでに500社以上の登記手続きやコンサルティングの実績がある、中小企業から大企業まで取引先は多岐に渡る。

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