事業承継における種類株式の活用方法

2023/06/06

はじめに

事業承継の際に「種類株式」を活用することが多々あります。例えば、「株式自体は後継者に今すぐにでも譲渡したいが慣れるまで議決権行使を完全に任せるのは不安だ」「株式を取得したいという相続人がいるが、経営には興味がなく配当金のみが目的である」といった場合です。このような時にどのように活用していくかを本コラムで説明していきます。

種類株式の種類

種類株式の内容としては下記の9種類が法定されています。

  • 譲渡制限株式
  • 取得請求権付株式
  • 取得条項付株式
  • 配当優先株式
  • 残余財産優先株式
  • 議決権制限株式
  • 全部取得条項付株式
  • 拒否権付株式
  • 役員選任解任権付株式

これらの株式について、もう少し詳しく説明します。

①譲渡制限株式

自社の株主が自社の株式を他人に譲渡する際に、会社機関の承認を要する必要がある。という株式です。発行する全ての株式についてこの譲渡制限が設定されている会社を「非公開会社」と呼び、多くの会社は非公開会社となっていることかと思います。もし、家族経営をしている会社などでこの譲渡制限が設定されていない場合には、今後、予期せぬ第三者が株主として入ってこないように、発行する株式に譲渡制限を設定することを検討するのが良いでしょう。

②取得請求権付株式

株主が会社に対して、当該株式の取得を請求できる株式です。買取請求を受けた場合には、あらかじめ定めている対価(現金やその他種類の株式、社債など)を交付します。なお、対価として現金を支払う場合には、分配可能額内でのみ取得ができるという点には注意が必要です。事業承継ではあまり使用しない種類株式です。

③取得条項付株式

一定の事由が生じた場合に会社が株主から強制的に株式を取得することができる株式です。一定の事由は会社が決定します。取得の対価は何になるかという点は前述の取得請求権付株式と同じです。事業承継では現経営者の所有する株式について現経営者の死亡や後見開始の審判を条件とした取得条項付株式が使用されます。

④配当優先株式

剰余金の配当について、普通株式に配当される金額(割合)と異なった金額(割合)で配当される株式です。普通株式に配当される金額よりも多い額を普通株式に優先して配当されるように設定されたりします。事業承継では、この後にでてくる「議決権制限株式」とセットで使用されることが多いです。

⑤残余財産優先株式

会社を清算した際の残余財産について普通株式に分配される金額(割合)と異なった金額(割合)で分配される株式です。事業承継においてはあまり使用しない種類株式です。

⑥議決権制限株式

原則として株主は株主総会でその所有株式に応じて議決権を行使できますが、この議決権について制限された株式のことをいいます。何について議決権を制限するのかは会社が決定する形となりますが、「一部の事項に関してのみ議決権を行使できない」と定めることも「株主総会における全ての議案について議決権を行使できない」と定めることも可能です。事業承継で使用する際は、例えば株主になって配当をもらいたいものの、経営には全く関与する気がない相続人や既存株主がいる場合に使用されます。なお、その場合にはただ単に議決権を制限する内容とするのではなく、前述の配当優先株式の内容とセットとすることが多いです。

⑦全部取得条項付株式

株主が持っている株式を株主総会の決議によって、全部買い取ることができる株式のことをいいます。取得の対価は何になるかという点は前述の取得請求権付株式と同じです。事業承継においては少数株主を排除したい場合などに使用される種類株式です。

⑧拒否権付株式

通称「黄金株」と呼ばれるものです。株主総会や取締役会で可決されたある決議について否決することができる権限をもつ株式のことをいいます。何の決議について否決する権限を持たせるかは事前に決定することになります。事業承継で使用する際は、現経営者に当該株式を所有させ、拒否内容として「取締役の報酬決定、事業譲渡・合併、高額融資や会社の解散」などを定めることにより、後継者が万が一誤った判断をした際に拒否できるような形とすることが多いです。

⑨役員選任解任権付株式

取締役や監査役(いわゆる役員)の選任は、株主総会で選任する必要があるところ、この株式を発行している会社の場合は、当該種類株式を所有する株主における種類株主総会で取締役や監査役を選任することになる株式です。事業承継で使用する際は、現経営者に役員についての選任解任権は持たせておきたい。という場合に使用することがあります。

事業承継で使用される代表的な種類株式の組み合わせ例

拒否権付株式+取得条項付株式

後継者に現経営者が所有している株式の大部分を譲渡し、後継者に普段の経営を任せる時に使用します。後継者に経営のほとんどを任せるとしても現経営者としては重要な決定をする際には心配な面もあるかと思います。そのような際に、現経営者は拒否権が付いた株式を1株保有することにより、後継者は万が一誤った判断による決議をした場合には、拒否権を行使して当該決議を否決することができます。どの様な内容について否決する権限を持ちたいかは前記⑧にも記載したとおり、拒否権付株式を発行する時点で決定しておく必要があります。なお、現経営者が拒否権付株式を保有したまま急死した場合には当該株式が相続対象となってしまうため、現経営者の死亡や成年後見開始の審判を条件として会社が当該株式を強制取得することができる取得条項を一緒に定めておきます。

議決権制限株式+配当優先株式+取得条項付株式

現経営者以外にすでに株主がいる場合や現経営者の相続人の中で経営には基本的に関わらないものの株主になりたいという方がいる場合に使用します。経営に基本的に興味がない株主に通常の株式を持たれると株主総会に出席をしなかったり、出席してもその時の感情のみで議決権を行使されたりと、会社としてスムーズな意思決定が出来なくなる可能性があります。そういった際に当該株主に保有させる株式については「株主総会における全ての議案について議決権を有しない」といった内容の株式とし、その代わりに配当金について通常の株式よりも優先した配当をもらえる内容を付けた株式にし、さらには、当該株主が死亡した際などにその相続人に株式が分散しないように取得条項も一緒に定めておきます。

まとめ

本稿では、事業承継における種類株式の活用方法について解説しました。ここでは種類株式の内容と複数の種類株式を組み合わせる方法を記載しましたが、実際にどのような種類株式を組み合わせてどのように発行するかはケースによって異なります。また、先々まで考えて種類株式を組み合わせないと先々こんなはずではなかった。ということにもなりかねません。よって、種類株式を使用した事業承継を考える際には、現にどのような問題があり、後々どのような問題が起きる可能性があるかを弁護士や司法書士と一緒に考え、種類株式の内容を設計することが大切です。

著者:飛渡 貴之(弁護士)

弁護士法人キャストグローバル代表弁護士。滋賀県生まれ、関西大学総合情報学部卒業後、パチプロをしていたことで、パチンコメーカーに就職し、新商品の企画開発に5年間携わる。
勤務中、土地家屋調査士の資格を取得し、独立を目指し司法書士の勉強を始め、退社後、合格。司法書士業務をするも、より質の高い法的サービスを提供したいとの思いから、弁護士を志す。
一般企業での会社員経験と定期的に国内外の優良企業を視察して得られた知識経験を生かしたコンサルタント色のある提案が多くの企業に喜ばれて、多数の企業を顧問に持つ。

著者:椛島 慶祐(司法書士)

司法書士法人キャストグローバル在籍。福岡県生まれ。日本大学法学部法律学科卒業後、2014年司法書士試験合格。
2015年司法書士登録し、司法書士法人キャストグローバルに入社以来「企業法務、法務支援」に特化して創業者や中小事業、大企業の法務手続きを精力的に支援。これまでに500社以上の登記手続きやコンサルティングの実績がある、中小企業から大企業まで取引先は多岐に渡る。

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