事業承継における種類株式の活用方法~その2~

2023/08/16

はじめに

経営者の皆様の中で、別の企業に事業を引き継いでもらいたいけど、どういった方法が適切なのだろう、といったお悩みをお持ちの方はいらっしゃいませんか?
事業承継にはさまざまな方法があり、それぞれメリット、デメリットがあります。
今回は種類株式を使って事業承継を円滑に進める方法について、解説いたします。

種類株式とは

種類株式とは、一定の事項に、通常の株式と異なる条件がつけられている株式のことで、会社法107条・108条に規定があります。その中で、事業承継に用いられるものとしては、取得条項付株式、議決権制限株式、拒否権付株式があります。

取得条項付株式とは

取得条項付株式とは、株主総会の特別決議を経ることによって、会社が一定の事由が生じたことを条件として、取得することができる種類株式のことです(法108条1項6号)。
全部取得条項付株式は、株主総会の決議で、株式の全部を取得することが出来る種類株式のことです(法108条1項7号)。この株式を発行すれば、この株の持ち主の株式を全て会社が取得してしまうことができ、少数株主の排除やMBOなどに使われたりもします。
なお、株主総会の特別決議とは、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の三分の二(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数によって可決されなくてはならない決議のことです(309条2項)。

議決権制限株式とは

議決権制限株式とは、株主総会の全部または一部の事項について議決権の行使を制限することができる株式です(法108条1項3号)。これを発行すると、株式を発行して会社の資金を集めつつ、株主が経営に介入してくることを防ぐことができます。

拒否権付株式とは

拒否権付株式とは、定款で定めた特定の場合に、株主総会の決議のほかに、拒否権付株主で構成される種類株主総会の決議を必要とさせることができる株式で、黄金株とも言われます(法108条1項8号)。これを発行すれば、会社の経営に取って重要な事項につき、決議をコントロールすることができます。

種類株式を使うには

まず、取得条項付株式をはじめとした種類株式を発行するには、種類株式発行会社への定款変更を必要があります。そして、定款の変更に際しては、上述の株主総会の特別決議が必要です(会社法466条、309条2項)。

事業承継における取得条項付株式の活用

事業継承においては、特定の株式の会社支配権強化をする場合などで、相続によって意図しない相続人に継承されるのを防ぐために活用できます。社長が保有する株式の一部を取得条項付株式に種類変更し、その株式は引き続き社長が保有する一方で、普通株式については、後継者に承継させる。相続の発生を取得事由として、取得条項付株式を相続した者から会社がその株式を取得するという方法です。
なお、定款に相続人等に対する株式売渡請求規定を設けておくことでも対応可能です(法174条以下)。もっとも、売渡価格を予め定めることはできませんから、相続人等と株式価格について協議しなければならず、協議で決まらなければ裁判所に価格を決定してもらうことになります(会社法177条1項2項)。また、後継者と考えている者に対しても売渡請求が可能となってしまいます。この点、注意が必要です。

事業承継における議決権制限株式の活用

上述のように、議決権制限株式は、株主総会の一部の事項について議決権の行使を制限することができる株式です。後継者に議決権を承継させ、他の相続人には議決権を承継させないようにすることで、後継者による円滑な経営や将来的な議決権分散を防止することです。ただし、無議決権株式は、議決権は制限されますが、その他の少数株主権は制限されません、したがって、株主代表訴訟等によって、なんらかの経営への影響が出ることはあり得ます。経営継承円滑化法を利用して、そもそも株式を継承させない方法を検討することも大切です。

事業承継における拒否権付株式の活用

拒否権付株式は、定款で定めた特定の場合に、株主総会の決議のほかに、拒否権付株主で構成される種類株主総会の決議を必要とさせることができる株式であり、経営者の側がこれを持つことで、事業承継に非協力的な株主が行う決議を阻止できたり、意図しない事業承継を制限したりできます。対象となる事項は、定款で定めるため、その設計次第で極めて強力なものにすることが出来ます。
例えば、社長に拒否権付株式を新規発行し、会社の重要事項に関する決議については、社長の意見を求めるようにして、普通株式については後継者に承継する方法となります。ただし、相続によって望まれない株主に引き継がれる可能性、社長が判断能力を喪失した場合にデッドロックになってしまう可能性があるため、そのような時には、会社が拒否権付株式を取得することが出来る取得条項を付すことなどの対策を検討する必要があります。

最後に

種類株式は、場合によっては、事業承継を円滑に進めるのに役立つものです。
もっとも、上述のように、種類株式を使う方法は複雑な手続きが必要であり、また承継したい会社の状況によっては、種類株式の内容が適切かどうか検討する必要がありますので、法律家のアドバイスを得ることをお勧めいたします。

著者:飛渡 貴之(弁護士)

弁護士法人キャストグローバル代表弁護士。滋賀県生まれ、関西大学総合情報学部卒業後、パチプロをしていたことで、パチンコメーカーに就職し、新商品の企画開発に5年間携わる。
勤務中、土地家屋調査士の資格を取得し、独立を目指し司法書士の勉強を始め、退社後、合格。司法書士業務をするも、より質の高い法的サービスを提供したいとの思いから、弁護士を志す。
一般企業での会社員経験と定期的に国内外の優良企業を視察して得られた知識経験を生かしたコンサルタント色のある提案が多くの企業に喜ばれて、多数の企業を顧問に持つ。

著者:椛島 慶祐(司法書士)

司法書士法人キャストグローバル在籍。福岡県生まれ。日本大学法学部法律学科卒業後、2014年司法書士試験合格。
2015年司法書士登録し、司法書士法人キャストグローバルに入社以来「企業法務、法務支援」に特化して創業者や中小事業、大企業の法務手続きを精力的に支援。これまでに500社以上の登記手続きやコンサルティングの実績がある、中小企業から大企業まで取引先は多岐に渡る。

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