親族内承継における株式譲渡の注意点

2022/06/29

現経営者が、親族である後継者に経営を引き継ぐ場合の手段としては、「株式譲渡」という方法がよく利用されます。ここでは、株式譲渡の注意点を解説します。

株式譲渡とは

現経営者が保有している株式を後継者に譲り渡すことをいいます。後継者に株式を譲り渡すことによって経営権は後継者に移っていきます。下図に示す通り、会社が発行している株式の所有割合によって経営の決定権限も変わるため、譲渡をする際は、後継者の経営力・判断力を確かめながら、譲渡する株式数を決定していく必要があります。

持株比率と株主の主な権利

議決権保有割合(持ち株比率) 株主の権利
33.4%(1/3超) 株主総会における特別決議を単独で阻止することができる
50%(1/2) 株主総会における普通決議を単独で阻止することができる
50.1%(1/2超) 株主総会における普通決議を単独で成立させることができる
66.7%(2/3以上) 株主総会における特別決議を単独で成立させることができる

株式譲渡の3つの方法と注意点

親族内承継における株式譲渡には、下記の3つの方法があります。その特徴と、それぞれの注意点を見てみましょう。

売買

現経営者と後継者の間で株式譲渡契約を締結し、現経営者が保有する株式を後継者が金銭などを支払うことによって譲り受ける方法です。現経営者は、後継者から売買代金として金銭などを受け取ります。そのため、現経営者は引退後の老後資金や自己の相続対策資金として活用することもできます。

売買時の注意点

①株価を算定してもらう必要がある

株式を売買する際は自社の企業価値などから妥当な株式売買金額を決める必要があります。自社の株式の価格を常に把握していることはなかなかないと思われるため、一般的には税理士や公認会計士などに株価を算定してもらい売買金額を決定します。

②後継者に株式を買い取るための資金が必要となる

後継者は現経営者から売買によって取得するため、その買取資金を用意をする必要があります。買取資金を自分で用意できる場合は良いですが、買取資金を自分で用意できない場合には銀行などからの借入によって資金調達をする必要が出てきます。

③不当に安い金額で売買を行うと後継者に贈与税が課される可能性がある

買主である後継者が特に自分の子供である場合、後継者の買取資金の不足や親心などで少しでも安く株式を売ってあげようと思うかもしれません。ただし、企業価値などから算出された妥当な株価よりも不当に安い価格で売買してしまうと、妥当な売買金額との差額分について後継者に贈与したものとみなされてしまい、後継者に贈与税が課せられる可能性が出てきます。

生前贈与

現経営者と後継者の間で株式贈与契約を締結し、現経営者が保有する株式を後継者が無償で譲り受ける方法です。この方法は後継者が無償で現経営者から株式を取得できるため、後継者にとっては株式取得資金の準備が不要となります。また、年間110万円の基礎控除の活用や相続時精算課税制度の活用などを検討することもできます。

生前贈与の注意点

①贈与時の株価が高額である場合、多額の贈与税が課される可能性がある

通常の贈与の場合は年間110万円の基礎控除しか認められないため、基礎控除後の贈与額が高額になるほど贈与税も高額となっていきます。今後の株価がより高くなっていくことが予想される場合などは相続時精算課税制度を活用して贈与を行うなど、贈与税の課税額についても意識して進めていくことが重要です。

②特別受益にあたる場合に他の相続人から遺留分を主張される可能性がある

現経営者が不動産や預貯金もほとんど持っておらず財産の大部分が自社の株式であるということも考えられます。その場合に後継者に対して自社の株式を生前贈与してしまうと贈与された後継者以外の相続人は、現経営者の相続時に相続財産のほとんどを受け取ることができなくなります。その際に生前贈与された株式が特別受益となってしまうと株式を受け取った後継者は他の法定相続人から遺留分の主張をされると遺留分相当額を支払う必要が出てくる可能性があります。こうした点からも実際に生前贈与を行う際には後継者以外の相続人ともよく話合って決める方が良いと言えます。

相続

前述の2つの方法と違い、現経営者が亡くなった後に相続によって譲り受ける方法です。
現経営者が保有する株式を特定の相続人に譲渡したい場合には遺言を残すことが一般的です。遺言がない場合には相続人全員で遺産分割協議を行い、亡き経営者が保有していた株式について誰がどの割合で承継するかを決定します。相続税の基礎控除の活用をすることができます。

相続の注意点

①相続財産が高額である場合、多額の相続税が課される可能性がある

前述の生前贈与の場合と同様に基礎控除後の相続財産額が高額になるほど課税額も高額になっていきます。ただし、相続財産における基礎控除は「3000万円+(法定相続人×600万円)」なので、生前贈与に比べると基礎控除額が多くなります。

②相続人が複数人いる場合、他の相続人から遺留分を請求される可能性がある

これも前述の生前贈与の場合と同様に現経営者の相続財産として不動産や預貯金もほとんど持っておらず財産の大部分が自社の株式である場合、後継者以外の法定相続人は、現経営者の相続財産のほとんどを相続することができなくなるため、遺留分の主張をされると遺留分相当額を支払う必要が出てくる可能性があります。

③遺言で後継者を定めていたとしても円滑な相続・経営ができなくなる可能性がある

特定の後継者に遺言によって株式を相続させたとしても他の相続人も会社の役員や従業員として従事していたり、後継者が実際に承継するまでの間に会社との接点が少ない場合などは、他の相続人や会社の従業員から反発を受けることもあり、会社の経営全体に悪影響を及ぼす可能性もあります。そういった点から、遺言を書いているからといって安心せずに、実際の相続後に起こり得ることを想定し相続人や従業員に対して生前に一定の説明をしておくことも重要と言えます。

おわりに

上記のとおり、承継方法ごとに注意点があります。
実際に株式譲渡による承継を考える際は、法律面、税務面をクリアにするだけでなく、後継者を含めた相続人との話し合いも重要な要素となります。実際に事業承継をどのようにしていくかを考え始めると、現経営者の意見だけではなく、後継者やその家族の意見、従業員への説明内容など、いろいろと考えるべきことが出てきます。そのため、従業員の調整をしつつ、多方面の専門家と相談しながら進めていく必要があり、場合によっては数年必要とします。まだ自分は若いから大丈夫、と安心せずに早めに事業承継について検討を始め、専門家に相談していくことが重要です。

著者:飛渡 貴之(弁護士)

弁護士法人キャストグローバル代表弁護士。滋賀県生まれ、関西大学総合情報学部卒業後、パチプロをしていたことで、パチンコメーカーに就職し、新商品の企画開発に5年間携わる。
勤務中、土地家屋調査士の資格を取得し、独立を目指し司法書士の勉強を始め、退社後、合格。司法書士業務をするも、より質の高い法的サービスを提供したいとの思いから、弁護士を志す。
一般企業での会社員経験と定期的に国内外の優良企業を視察して得られた知識経験を生かしたコンサルタント色のある提案が多くの企業に喜ばれて、多数の企業を顧問に持つ。

著者:椛島 慶祐(司法書士)

司法書士法人キャストグローバル在籍。福岡県生まれ。日本大学法学部法律学科卒業後、2014年司法書士試験合格。
2015年司法書士登録し、司法書士法人キャストグローバルに入社以来「企業法務、法務支援」に特化して創業者や中小事業、大企業の法務手続きを精力的に支援。これまでに500社以上の登記手続きやコンサルティングの実績がある、中小企業から大企業まで取引先は多岐に渡る。

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