個人事業主の事業承継について①

2023/02/18

個人事業主の事業承継とはなにか

個人事業主の事業承継とは、株式会社などの法人形態ではなく、個人が主体となって事業を営む者に関する事業承継をいいます。法人とは異なり「経営権及び財産権」が個人事業主であるオーナーに属しているため、個人事業主であるオーナーが所有する事業に必要な資産(事業用資産)を後継者に譲渡する必要があるという特徴があります。

事業承継で引き継ぐべきもの

引継ぐものとしては、大きく分けると「経営権、知的資産、物的資産」の3つがあります。それぞれの内容を下記に記載します。

(1)経営権

現オーナーが廃業手続き、そして後継者が開業手続を行うことによって承継されます。法人とは異なり、株式を承継するなどの手続きは不要ですが、株式会社のように経営権(株式など)を徐々に移していくなどの手続きを取ることはできませんので、対応の時期や税務対策などには特に注意が必要です。

(2)知的資産

目に見える物としては存在しないものの、資産として捉えるべきものをいいます。代表的なものとしては、経営理念やブランド力が挙げられます。その他にも今まで積み重ねてきたノウハウや技術、獲得してきた顧客などが該当します。法人と比べ、個人事業主は顧客や従業員との信頼関係が現オーナー個人に結びついていることが多いので、後継者への引き継ぎを行う際には、後継者と事業運営に関係する者との信頼関係をきちんと構築させることがとても重要です。

(3)物的資産

事業の用に供する店舗や倉庫などの不動産、パソコンや営業用品などの動産、売掛金や借入金などの債権債務があります。法人と違い、個人事業主はオーナーやその家族で持っている所有権を有していることが多いため、売却・贈与・相続といった方法で引き継いでいくこととなります。売却・贈与・相続をする際には所得税や税金の問題も発生するため、譲渡方法や譲渡時期などしっかりと検討して実行することが重要です。

事業承継の方法

事業承継の方法としては、「売買・贈与・相続」の3つが挙げられます。それぞれの方法により税金の課され方や金銭の授受の必要性などが違うため、どの方法が一番良いかをしっかり検討することが大事です。それぞれの特徴を下記でご説明いたします。

(1)売買

現オーナーが有している事業用資産を第三者に売却する方法で行います。主に、親族内に後継者がおらず、従業員または他社に承継する際に利用される手法です。現オーナーは事業用資産を売却するため、手元に売買代金が入りますが、売却で得た利益に対しては所得税がかかります。また、売買金額を決定しなければならないため、事業資産や負債などを含めた売買対象事業の市場価値を算出する必要があります。なお、従業員ではなく他社などの外部に売却する際は、M&A仲介などに依頼し、買い手を探してもらうことも多いです。

(2)贈与

現オーナーが有している事業用資産を無償で第三者に承継する方法です。主に親族内への事業承継で、後継者自身の資金が少ない場合などに利用される手法です。無償で行えるため購入資金の用意は不要ですが、後継者には贈与税が課されることとなります。なお、贈与税を回避するために時価よりも著しく廉価で売買の形をとると、時価と売買価格との差額が贈与したものとみなされる可能性があるため、注意が必要です。

(3)相続

現オーナーが亡くなった時に相続や遺贈で後継者に承継させる方法です。後継者が親族である場合に利用されます。ただし、この方法によって承継する場合には、事業用資産を含めたすべての遺産が相続対象となるため、相続人が複数いる場合には遺言書で事業用資産とそれ以外の資産について、誰に何を相続させるか記載しておくことが重要です。また、相続税に関しては事業用資産を含めたすべての遺産に対して課されます。

個人版事業承継税制の活用

事業承継税制とは、事業承継資産を後継者が現オーナーから贈与や相続による方法で承継した場合に、一定の要件を満たした場合には承継に関して発生する贈与税や相続税の納税が猶予され、さらに免除要件を満たした場合には、最終的に納税義務も免除がされる制度のことです。この制度を受けるためには、事業用資産要件や事業内容要件、後継者要件等のそれぞれにつき決められた要件を満たす形で事業承継計画書の策定をし、都道府県の認定を受けることから始まります。一見すると、とても良い制度ですが、都道府県の認定を受けた後も要件を満たし続ける必要があり、仮に要件が一つでも満たされなくなった場合には、猶予されていた納税額を速やかに全額納める必要がでてきてしまうことには注意が必要です。

まとめ

本稿では、個人事業主の事業承継の基本について解説しました。個人事業主の事業承継は、事業用資産が個人事業主の保有財産であるという点からも個人事業主自身の相続手続きも一緒に考えていくことも大切となります。今回は基本的な部分のみの解説でしたが、次回以降はそれぞれの手続きについてもう少し踏み込んだ説明をさせていただく予定です。

著者:飛渡 貴之(弁護士)

弁護士法人キャストグローバル代表弁護士。滋賀県生まれ、関西大学総合情報学部卒業後、パチプロをしていたことで、パチンコメーカーに就職し、新商品の企画開発に5年間携わる。
勤務中、土地家屋調査士の資格を取得し、独立を目指し司法書士の勉強を始め、退社後、合格。司法書士業務をするも、より質の高い法的サービスを提供したいとの思いから、弁護士を志す。
一般企業での会社員経験と定期的に国内外の優良企業を視察して得られた知識経験を生かしたコンサルタント色のある提案が多くの企業に喜ばれて、多数の企業を顧問に持つ。

著者:椛島 慶祐(司法書士)

司法書士法人キャストグローバル在籍。福岡県生まれ。日本大学法学部法律学科卒業後、2014年司法書士試験合格。
2015年司法書士登録し、司法書士法人キャストグローバルに入社以来「企業法務、法務支援」に特化して創業者や中小事業、大企業の法務手続きを精力的に支援。これまでに500社以上の登記手続きやコンサルティングの実績がある、中小企業から大企業まで取引先は多岐に渡る。

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