異業種夫婦の起業物語。「美容室」×「整体院」で健康な暮らしを支えたい。

起業時の課題
人材確保、維持、育成, 集客、顧客獲得

美容室と整体院のサービスを1つの店舗で提供するユニークなアプローチで、多くのお客さまの健康と美容の両面を支援している「ファミエス株式会社」。代表の尾崎裕則さんは、夫婦で経営するこのビジネスを通じて、「お客さまに幸せと笑顔を届けたい」という強い想いを持っています。

この記事では、尾崎さんの事業にかける熱意や大切にしている想い、お客さまに愛されるお店作りの背景について詳しく伺いました。

会社プロフィール

業種 サービス業(理・美容院/エステ/美容関連)、医療・福祉(鍼灸・整体)
事業継続年数(取材時) 7年
起業時の年齢 40代
起業地域 静岡県
起業時の従業員数 2人
起業時の資本金 1000万円

話し手のプロフィール

尾崎 裕則
ファミエス株式会社 代表取締役
整体サロンの経営後、美容師の妻とともに美容院と整体院を1つにした「fumies.」を開業。20年前に描いていた構想が現実となる。美容と健康は本来一体であることを再認識し、新しい美容院のスタイルを構築すべく「ファミエス株式会社」を設立。「美しく、健やかに、笑おう」をコンセプトに、真の美容と健康をお客様へ提供する事業に着手している。そのために予防医学を学び、パーソナルヘルスコンサルタント・健康管理士としても活動中。

目次

異業種の2人が出会い、ぼんやりと描いていた未来が動き出した。

現在の事業内容について教えていただけますか?

尾崎さん:当社の主な事業は美容室と整体です。最近では光フェイシャルや脱毛、髪質改善などのサービスも併せて提供しています。お客さまの層としては、40代から50代の女性がメインターゲットですが、実際には20代後半から60代・70代と幅広い年代の方にご利用いただいています。

美容や体のメンテナンスなど、1つのお店でさまざまなケアができるのは嬉しいですね。他に店舗の強みや特徴があれば教えてください。

尾崎さん:私たちはお客さまに心地よい時間を提供することを常に心掛け、丁寧な施術に力を入れています。例えば、他のサロンでは回転率を上げるためにシャンプーの時間を短時間で済ませる場合もありますが、当店では時間をかけ丁寧に行っています。実際に、施術の心地よさがお客さまのリピートやご紹介につながっているので、ありがたい限りです。

美容と整体のサービスを同一の店舗で提供されているのは珍しいと思うのですが、何かきっかけがあったのでしょうか?

尾崎さん:現在の店舗を開業する前、私は整体師としてキャリアを積み、個人事業主として独立してから10年以上自宅で整体院をやっていました。美容師である妻と出会ったことが直接的なきっかけとなり、美容と整体を併せた店舗を開業したという経緯です。

ただ、実はこの業態の構想自体は20年以上前から持っていました。昔、私が通っていた美容室は、1つ上の階が整体院で、当時から美容室と整体院は親和性が高いよな、と常々感じていたんです。というのも、美容室も整体院も、1人のお客さまに通い続けてもらいやすく、親しくなると身の上話や美容・健康についての話題が増えるんですよね。

偶然にも妻と出会い、ぼんやりと思い描いていた店舗が現実のものとなりました。個人で経営していた整体院を閉じ、新たに今の店舗を個人事業主としてオープンしました。私が40歳のときでした。

開業準備は山あり谷あり?行動し続ければチャンスは訪れる。

美容室と整体院を併設するにあたっての準備はどのようにされましたか?

尾崎さん:まずは物件を探し、席数やシャンプー台の数などを決めました。整体の施術に必要な設備は比較的シンプルですが、美容室の設備はお客さまの人数や回転率を考慮する必要があります。最初は4席と2つのシャンプー台、それにパーマ用の機械を用意しました。

なるほど。物件選びは順調でしたか?

尾崎さん:いえ、物件探しは大変でした。当時は美容室の開業が増えていたのと、私たちが町の人口や交通量の多さにこだわっていたことも重なって、ちょうどいい物件がなかなか見つけられなかったんです。

一方、以前から「いい物件だな」と注目していた木造の整体院がありました。あるとき、不動産屋にたまたま入り話を聞いてみたところ、その物件が数か月後に空くとの情報を得て驚きました。

さらに詳しく話を聞くと、以前は美容室として使われていた物件だったこともわかり、シャンプーブースや整体用の個室として使えるような間取りになっていたので、まさに私たちにぴったりだったんです。

とはいえ、家賃が当初の予算を超えていたり、契約開始日についての交渉が難航したりと、いくつかのハードルもありました。しかし、「もう二度とこんな理想通りの物件には出会えない、このチャンスを逃したら一生夢は叶えられない」と感じたんです。あのとき思い切って決めてよかったと、今では感じています。

良い物件に運命的に巡り会えたのですね。開業資金の準備はどのようにされたのでしょうか?

尾崎さん:開業資金は総額で約1,000万円でした。そのうち800万円は日本政策金融公庫から借り入れ、残りは自己資金とリースでまかないましたね。

日本政策金融公庫からの借り入れに関しては、5年間の事業計画を提示し、比較的スムースに進みました。個人経営していた整体院での経験と、高校で学んだ商業科の知識が役立ったと思います。

「笑顔の力を信じています」夫婦経営における役割分担と店名に込めた意味。

開業当初の経営の様子について詳しく教えていただけますか?

尾崎さん:開業時は私と妻、そして妻の後輩の3人でスタートしました。経営においては、私がバックオフィス関連の業務をメインに、妻とその後輩のスタッフがサロン業務をメインに担当する体制でした。

当店のお客さまはご紹介がほとんどです。2020年ころから新規獲得のためにホットペッパーを利用し始めましたが、リピート率が高いのは圧倒的にご紹介で来店してくださったお客さまですね。ホットペッパーを利用している新規のお客さまはクーポン目的での利用が多く、リピートにつながりにくい傾向があるかもしれません。

ポータルサイトに頼らず、ずっと紹介のみで集客されていたのは驚きです。

尾崎さん:お客さまと妻に感謝ですね。妻は非常に天真爛漫で、その性格がお客さまにも評価されていますし、私も尊敬しています。彼女がいなければ、私たちのビジネスも成り立たないと思いますね。

妻の名前は文笑(ふみえ)というんですが、名前の通りよく笑うんですよ。それに笑い方が綺麗というか、お客さまにもスタッフにも幸せになってもらいたいという気持ちが表情に表れていて、笑顔が一番の魅力ですね。

「fumies」という店名も、妻の名前に「smile」の「s」を加えた造語なんです。それほど彼女の笑顔の力を信じていますし、だからこそ、その力が最大限発揮できるような環境を整え、接客に集中してもらいたいと思っています。

奥さまを信じて接客を任せ、尾崎さんは経営面でサポートされているのですね。

勝負をかけた法人化のタイミング。成長を続ける秘訣とは?

個人事業主として店舗開業をされたのち法人化をされていますが、この背景やタイミングについて教えていただけますか?

尾崎さん:当店は一般的な美容室と比べ幅広く事業を行なっていますし、経営の安定を図る意味でも、もともと開業時から法人化を見据えていたんです。売上やスタッフなど経営基盤を考慮し、盤石な状態になるまで機会をうかがっていました。そして開業から4年ほどで、機が熟したと判断し法人化を決めました。

ちょうどコロナ禍で接客業が打撃を受けていた時期かと思いますが、その中でも法人化に踏み切れたのですね!

尾崎さん:実はコロナ禍においても売上は下がらず、わずかながら上昇し続けていたんです。これは、新規の集客に頼らず、お客さまとの関係性を大切にしてきたためだと思います。髪の毛や白髪のお手入れは定期的に必要ですし、お客さまが私たちを信頼してくれていたので、継続してご来店いただけました。体調を崩すことなく頑張ってくれたスタッフにも本当に感謝しています。

なるほど、それは素晴らしいですね。美容室と整体を、同一の店舗で運営することの相乗効果についてはどのようにお考えですか?

尾崎さん:美容室と整体の相乗効果はたしかにありますね。美容室のお客さまから整体に流れるケースや、エステ事業との連携もあります。この組み合わせのおかげで、広告費を抑えつつ、それぞれのサービスを充実できていますね。

お客さまだけでなく、従業員も幸せに。尾崎さんがこだわる環境づくり。

スタッフ採用などで工夫されていることはありますか?

尾崎さん:求人は、ブログでの発信が効果的でした。美容業界では人材不足が1つの課題で、当店でも苦労していた部分だったのですが、ブログを通じてお店の雰囲気や人間関係を伝えることで、求人の問い合わせが徐々に来るようになったんです。最近ではスタッフもブログの執筆に参加しています。

従業員の給与体系や休暇の設定について悩まれる起業家の方は少なくありません。御社ではどのように設計されているのでしょうか?

尾崎さん:まずスタイリストの給与体系に関しては、当社では歩合制を採用しています。ただ、これは個人の売上に対する歩合ではなく、店舗の売上に基づく歩合です。基本給があり、それに加えて店舗の売上に応じた歩合をお支払いしています。個人の売上に依存するのではなく、店舗全体の成果に基づいて給与を決定するので、安心して働いていただけるのではないかと考えています。

アシスタントは固定給制を採用しており、地域の平均給与よりも高めに設定しています。また、休暇や有給休暇も一般企業と同じように運用しています。ただ、現状ではボーナスの支給は難しいので、将来的には別事業の利益を活用して補填できるように計画しています。

お客さまだけでなく従業員の方々に対しても、豊かな暮らしを提供したいという思いが強いと感じました。

尾崎さん:そうですね、シンプルにいうと、関わる人に幸せになってもらいたいんですよね。もちろんスタッフの教育や求人などの課題もあります。子育て中の女性スタッフが活躍しやすい環境づくりも重要な課題です。課題は多々ありますが、日々真剣に向き合っています。

美容・整体サロンだからこそ、担える役割がある。ファミエスが撒く笑顔の種。

今後の展望について教えていただけますか?

尾崎さん:今後は、美容室を通してより多くの方々の健康を促進することに力を入れていきたいと考えています。実際に多くのお客さまが、私たちのサロンでさまざまなお悩みを打ち明けてくれます。そのなかには、健康の不安や食生活に関する問題も多く含まれていました。

現代の食生活における問題の解決方法は、単に食事の節制にあるのではなく、正しい食品選びや食べ方にあると私は考えています。この理解を深め、お客さま自身が健康コントロールする力を身に付けられれば、生活の質は大きく向上すると確信しています。

特に、私たちのメインターゲットである40代から50代の方々は、親御さんの介護や自身の健康に対する不安を抱えています。そのような方々に対して、美容面だけでなく、精神面のサポートも含めたトータルケアをしたい。コンビニエンスストアよりも店舗数の多い美容室だからこそ、身近な健康サポートのハブとして、美容室を活用する価値があると思っています。

具体的な取り組みとしては、現在大学で心理学を学んでおり、将来的には美容室での心理学的アプローチを取り入れたいと考えています。お客さまが抱える心理的な問題に対して、適切なアドバイスやサポートを提供することで、美容室の役割をさらに広げたいのです。

また健康指導の分野では、食事改善に関するアドバイスを提供し、健康状態の改善を手助けする構想があります。最近では、中小企業庁の経営革新計画の申請において、「美容院ならではの毛髪検査」と「食事改善による予防医学の推進」の内容の事業で承認をいただけました。食事改善に必要な商品を販売するECサイトも構築中です。

美容と健康を提供するこの仕事を通じて、これからもたくさんの笑顔を作っていきたいです。

取材協力:創業手帳
インタビュアー・ライター:間宮 まさかず

この記事をシェアする

  • email
  • LINE
  • Facebook
  • X
  • はてなブックマーク
  • Pocket