歩くことに自信をなくした母が見せた、久しぶりの笑顔。その喜びが開業のきっかけに。

起業時の課題
集客、顧客獲得, 仕入先確保, バックオフィス業務

杖を「おしゃれで歩くのが楽しくなるアイテム」として提案する、杖専門店『京・山吹屋』の代表・木村千佳さん。ある出来事をきっかけに杖の可能性に気づき、開業を決意しました。

しかし、開業時にはさまざまな不安や戸惑いも感じていたそう。家族の支えを得ながら、試行錯誤の末に生まれた木村さんの起業ストーリーは、起業に踏み出す勇気をくれるはずです。ぜひ最後までご覧ください。

会社プロフィール

業種 小売業 (その他)
事業継続年数(取材時) 8年
起業時の年齢 50代
起業地域 鹿児島県
起業時の従業員数 2人
起業時の資本金 -

話し手のプロフィール

木村千佳(写真右)
京・山吹屋 代表
おしゃれな杖を手に外出を楽しむようになった母の笑顔をきっかけに、鹿児島県初の杖専門店「京・山吹屋」を開業。県下一の品揃えとていねいなアフターサービスで、「歩きたくなる、元気になる、ファッショナブルな杖」を提案している。

目次

母の体験が教えてくれた杖で楽しむおしゃれ。

現在の事業内容について教えていただけますか?

木村さん:鹿児島県で杖の専門店をしております。店頭とオンラインショップでの販売がメイン事業です。また、メンテナンスサービスも行っており、例えば杖の先のゴムが摩耗してきたら交換するといったことも承っています。

コンセプトは、「歩きたくなる、気持ちが元気になる杖」です。地味で、医療用具としてのイメ―ジも強い杖を、おしゃれなアイテムとして楽しんでもらいたいと思っています。利用者の方の体型や困りごと、好みに合わせて、杖の高さや強度、デザインのバリエ―ションを豊富に取り揃えているのも特長ですね。

お客さまはシニアの方が中心ですが、40~50代で足の不自由な方、病気やケガで杖が必要になった若い方もいらっしゃいます。お客さまの中には、普段用、お出かけ用、冠婚葬祭用など用途に合わせて平均3本ほど杖を持っている方も多いんですよ。

杖専門店を始めようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

木村さん:おしゃれな杖を手に外出を楽しむようになった母の笑顔がきっかけでした。もともと母は80歳を過ぎたころ、足腰が弱くなってきたんです。でも、母は杖を使うことに抵抗があって。そのとき、旅行先の京都で花柄の杖を見つけて、母にプレゼントしたんです。すると母は、とても喜んでくれて、今までにない明るい表情になったんです。

それを見て、「杖って人の気持ちをこんなに変えられるんだ」と気付いたんです。シニアになっても、おしゃれを楽しみたい、外出を楽しみたいと思っている方は多いはず。もっと杖を身近に感じてもらえたら。そのような想いから、杖専門店を始める決意をしました。

実は私は3姉妹で、今は姉と妹も一緒に事業を運営しています。私が発案してお店をやろうと決めたので代表となり、仕入れなどを担当しています。接客の経験者である姉には店舗での接客担当をお願いし、東京にいた妹にはホームページの運営・管理やチラシ作成などをお願いしています。

家族の理解と応援が開業への後押しに。

開業を決意されてから、周りの方はどのような反応だったんでしょうか?

木村さん:最初は驚かれましたね。起業経験のない私がいきなり「杖専門店をする」と言い出したので、母や姉妹にも驚かれました。でも、私が「いずれ自分たちも杖のお世話になるかもしれない。だからこそ、おしゃれで使いやすい杖を提供したい」と想いを話したら、姉妹の反応が変わったんです。「それなら応援する」と言ってくれて。夫も「おもしろいね、やってみたら?」と賛成してくれました。

開業に向けて、まず何から始めたんでしょうか?

木村さん:とにかく、杖のことを知らないといけないと思い、インターネットで調べた杖メーカーさんに片っ端から連絡を取ったんです。普段は法人としか取引をしていないメーカーさんも、私の杖販売に対する考えと、店舗を構えるという計画に賛同してくださり、個人事業主の私にも快く卸してくださいました。ほかにも、一度は断られましたが、半年後に再度問い合わせてみると「あのときの山吹屋さんですね」と卸してくれる会社もあって。運もありましたが、諦めなくてよかったと思いました。

木村さんの熱意にメーカーの方々も共感されたのかもしれませんね。

木村さん:私は、ただ単に商品を仕入れるだけじゃなくて、お客さまに合った杖を提供したいというこだわりを持っています。だから、長さや強度のバリエーションも意識していますし、持ち手の素材、折りたたみタイプや傘の機能が付いたものなど、多様な杖を揃えました。姉妹と一緒に杖について勉強して、特徴やお手入れ方法をまとめた「マニュアル本」も作りました。お客さまからの質問に誰でも同じクオリティでに答えられるよう、スタッフ全員で共有できる資料を目指したんです。

勉強と準備を重ねてこられたんですね。

木村さん:何しろ、杖のことを知らなかったので。でも今は、自信を持って「この方にはこの杖がおすすめです」と言えるようになりました。お客さまとの会話の中で、その方に合った杖を一緒に選べるようになったのは、あのときの勉強あってこそだと思います。

お客さまのニーズやライフスタイルに合わせて、安定感のある多点杖をおすすめしたり、ソフトな持ち手のものや折りたたみの杖をおすすめしたりと、お客さまの声に耳を傾けながらご提案しています。でも、私たちはまだまだ勉強中。杖は本当に奥が深いので、より多くのお客さまに喜んでいただけるよう、これからも知識を深めていきたいです。

お客さまのニーズに合わせた店舗作り・立地選びのコツとは?

店舗選びで重視したポイントは何でしょうか?

木村さん:まず、お客さまの多くが足の不自由な方だということを考慮して、1階の物件にこだわりました。買い物のついでに立ち寄れるよう繁華街で、バスや電車でもアクセスしやすい場所。ランニングコストも考慮して、広さは5坪以下、家賃は10万円以下にしようと決めていました。そのような条件で夫と町を歩きながら探していたら、たまたま今の店舗に出会えたんです。

具体的に条件を決めていたのですね。内装はどのようにされたんですか?

木村さん:夫が建築関係の仕事をしていたので、内装は2人でDIYしました。壁に杖を掛けられるような棚を作ったり。あとは、店舗の前を通ったシニアの方がすぐに杖の専門店とわかるように、のれんと大きなのぼり旗を用意しました。のぼり旗は、以前習っていた習字の先生に依頼して「つえ専門店」と大きな字で書いてもらったんです。

周りの方々の助けてもらいながら開業準備を進められたのですね。開業資金はどのように準備を?

木村さん:開業資金は300万円ほどでした。自己資金と、夫からの借り入れで賄いました。返済は、余剰金があるときにランダムに返している状態です。公的融資は受けなかったので、身軽にスタ―トできたのは良かったかなと思っています。

資金面でも工夫されたんですね。バックオフィス業務はどのように行っているんでしょうか?

木村さん:仕入れと販売管理はPOSレジシステムを使っています。正直、私はアナログ人間なので、最初は「こんなの使いこなせるかな」と二の足を踏んでいたんですよ。でも、開業経験のある妹が「これなら簡単だよ」とおすすめしてくれて。思い切って導入してみたら、在庫管理や売上管理がとても楽になって、今では手放せなくなりました。

記帳はExcelを使っています。取引先が少ないので、仕訳の手間はそれほどかからないんです。あとは商工会に入っているので、確定申告は商工会でサポートを受けています。

地域密着型の広告活動を展開。地元メディアにも取り上げられ話題に。

集客についてはどのように取り組んだのでしょうか?

木村さん:実は、最初の半年はほとんどお客さまが来なくて。どうしたものかと思い悩んだ時期もありました。できるだけシニアの方の目に留まるようにと、市役所のロビーにあるモニターやバス停の時刻表の下に広告を出稿しました。

反応はすぐには出なかったんですが、ある時、地元のテレビ局から取材の申し込みが来たんです。たまたま、うちののれんを見かけた局員の方が興味を持ってくださったみたいで。「母の日特集」の企画の中で、お店が紹介されることになりました。それをきっかけに、少しずつお客さまが増えていきました。

テレビ放送の効果は大きかったんですね。

木村さん:はい、本当に感謝しています。おかげさまで、徐々に認知度も上がってリピーターのお客さまも増えていきました。順調にお客さまが増えていった矢先、コロナ禍に見舞われ、一時はお店を閉めようかとも考えましたが、今ではなんとか以前の水準に戻っています。

紆余曲折があったのですね。ところで、集客の手段としてオンラインは活用されていますか?

木村さん:実は、開業当初はホームページもSNSもやっていなかったんです。うちの客層はシニアの方が中心だったので、ネットはあまり見ないだろうと思っていて。でも、徐々に「親の杖を買ってあげたい」という若いお客さまが増えてきました。そこで思い切ってホームページを開設したんです。

プロのデザイナ―さんに依頼して、魅力的なホームページを制作。商品の写真もたくさん載せて、オンラインでも店舗の雰囲気を感じていただけるように工夫しました。さらにInstagramやFacebookも始め、姉妹や友人に手伝ってもらいながら更新しています。おかげさまで遠方からのお客さまも増えてきました。オンラインの力は大きいですね。もっと早く力を入れておけばよかったかもしれません。

「まず行動してみよう」その一歩が開業への始まり。

木村さんは今後、どのような展開を考えていらっしゃいますか?

木村さん:今年から移動販売を始めたいと思っています。鹿児島には離島がたくさんあるので、杖を必要としている方々のもとへ直接出向いて、杖をお届けしたいんです。高齢化が進む離島部で、少しでも歩行のサポートができればと思っています。

素晴らしい取り組みですね。他にはどのようなことを?

木村さん:店舗の隣にある整骨院との連携も考えています。整骨院の先生と情報交換をしながら、お客さまの悩みにより専門的に応えていけたら。また、訪問整体をされている方とのコラボレーションもアイデアの1つです。お客さまの生活シーンにより寄り添っていくことで、新しいサービスが生まれるかもしれません。

あと、ずっと夢見ているのが「杖を持って歩くファッションショー」なんです。例えば敬老の日のイベントとして、杖を使うシニアの方々に歩いてもらえたら素敵だなと。多くの方に、おしゃれを楽しみ続ける素晴らしさを感じていただける機会になればと思っています。

本当にすてきな夢ですね。最後に、開業を志す人に向けてメッセージをいただけますか?

木村さん:私自身、両親が自営業だったので、物心付いたころから自分で事業を営むイメージは持っていました。姉妹も事業を営んでいて、身近な存在でしたね。でも、実際に"杖専門店"という事業を始めるまでには、試行錯誤の連続でした。事業として成り立つかどうか、不安でいっぱいで。

でも、やると決めたからにはもう、後ろを向いてもどうしようもありません。あとは行動するだけ。家族や周囲の方々の協力があったからこそ、ここまで来られたのは間違いありませんが、ぶれずに自分の想いを貫けたことが良かったなと思います。

開業を志す皆さんにお伝えしたいのは、「やりたいと思ったら、まずは行動してみる」ということ。もちろんリスクはありますが、やらずに後悔するくらいならチャレンジした方がいい。もちろん、うまくいくかどうかはわかりません。でも、その経験は必ず自分の糧になると思うんです。私もこの先どのような壁にぶつかるかわかりませんが、常に前を向いて進んでいきたいと思います。

取材協力:創業手帳
インタビュアー・ライター:間宮 まさかず

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