「やらずに後悔だけはしたくない」コーヒーへ無限の情熱を燃やす焙煎家・栗原さんの挑戦の足跡。
- 起業時の課題
- 事業計画/収支計画の策定, 集客、顧客獲得, 仕入先確保,製品/サービス開発, マーケット・ニーズ調査,バックオフィス業務
「起業したい」「自分のお店を持ちたい」
そのような願いに不安やためらいはつきものです。目標を前に葛藤し、二の足を踏んでしまう方も少なくないでしょう。
そこで今回のインタビューでは、未経験から独学でコーヒーの焙煎を始め店舗を開業、さらにはコーヒー豆の品質評価をするための国際資格であるQグレーダーも取得した栗原健さんにスポットを当てます。
開業当初から現在に至るまで、栗原さんの経験談は多くの困難と挑戦に満ちています。ぜひ最後までご覧ください。
会社プロフィール
業種 | 小売業 (食料品・日用品)、卸売業 |
---|---|
事業継続年数(取材時) | 4年 |
起業時の年齢 | 40代 |
起業地域 | 埼玉県 |
起業時の従業員数 | 2人 |
起業時の資本金 | 3000万円 |
話し手のプロフィール
- 栗原 健
- KURIHARA COFFEE ROASTERS代表
- CQI認定Q Arabica Grader
- CQI認定Q Robusta Grader
- 車の板金塗装、トラックドライバーという異業種から脱サラし、コーヒーショップを開業。
独学で焙煎を始め、実家のガレージとオンラインショップにて自家焙煎コーヒー豆の販売を開始。その後、店舗を構え「栗原coffee」を開業する。後に「KURIHARA COFFEE ROASTERS」としてリニューアル。
目次
- トラックドライバーから転身!異色の経歴を持つコーヒー職人の開業ストーリー。
- 「やる気があればなんとかなる」未経験でも一歩ずつ歩んだ創業期。
- 独学での技術習得に行き詰まりを感じて資格を取得。そこから思わぬ恩恵も。
- 売上よりもコンセプトを優先した結果、得られたものとは。
- 本気でやりたいなら、まずは行動しよう。
トラックドライバーから転身!異色の経歴を持つコーヒー職人の開業ストーリー。
現在の事業内容について教えてください。
栗原さん:私は埼玉県さいたま市桜区でコーヒー豆の焙煎所「KURIHARA COFFEE ROASTERS」を運営しています。主な事業は、業者さまに向けたコーヒー豆の卸売りと、店舗での自家焙煎コーヒー豆の小売販売です。また、オンラインショップでもコーヒー豆を販売しています。
自家焙煎、と聞くだけでもこだわりが伝わってきます。開業前はどのようなお仕事を?
栗原さん:社会人になって最初の仕事は自動車の板金塗装でした。結婚を機に、収入を増やすためにトラックのドライバーに転職し、その後は紙加工の会社でパートさんの管理をしていた時期もありましたね。開業直前の仕事は大型トラックのドライバーです。BtoBのチャーター便を運転していました。
コーヒーとは無縁のキャリアにも思えますが、コーヒーの販売を始めたきっかけは何だったのでしょうか?
栗原さん:トラックのドライバーをしていたころ、運転中によくコーヒーを飲んでいたんです。そのときはインスタントコーヒーを飲んでいたんですが、ある日、職場の後輩から「自分で豆を挽いて飲むコーヒーは美味しい」と聞き、試しに自宅で挽いてみたんです。そのコーヒーが、とてもおいしかったんですよ。これが自家焙煎コーヒーとの出会いでした。
僕はもともと、自分で何かを作るのが好きだったんですよね。工業高校で機械工学を学んだり、板金塗装の会社に就職したりしていたのも、その表れだと思います。自家焙煎のコーヒーのおいしさに気付いてからすぐに1kg用の焙煎機を買ってきて、実家のガレージで仕事終わりや休日に焙煎していました。誰にも教わらず、完全に独学でした。
気が付くと近所の自家焙煎のコーヒーショップを巡って、自分なりに味の研究も始めていました。次第に自分の納得のいく味を追求したい思いが強くなり、ちょうど会社組織にいることに疲れを感じていたのもあって、開業を決意しました。
ご結婚もされている中で会社を退職し、未経験の業界で起業することに不安はありませんでしたか?
栗原さん:不安が全くないと言ったらウソになりますが、やってみないと結果がどうなるかなんてわかりませんからね。やらないで後悔するよりは、挑戦してから反省する方がいいかなと思って勢いで始めました。妻も「やりたいならやってみれば?」と背中を押してくれていました。
「やる気があればなんとかなる」未経験でも一歩ずつ歩んだ創業期。
開業準備はどのように進めたのでしょうか?
栗原さん:まずは焙煎に必要な機器や道具を揃えました。購入資金は貯蓄でまかない、まずは実家のガレージでコーヒー豆を販売するところから事業を始めましたね。
店舗を持ちたかったのでテナントも探していたんですが、希望する条件の物件がなかなか見つけられなくて。一方、実家は農家で土地には余裕があったので、親に相談して土地を分筆してもらい、そこに店舗を建てることにしました。
地元の工務店に店舗のデザインと建築、外溝工事を依頼し、さらに厨房機器や業務用冷蔵庫など、総額で3,000万円ほどかかりましたね。金融機関からの融資も利用しましたが、父が金融関係の企業に勤めていたこともあり色々と相談できたので、比較的スムーズに借り入れることができました。
とはいえ、事業計画の作成には苦労しました。飲食店で働いた経験もありませんし、どこに相談すればいいのかわからなかったので、とにかくインターネットで情報収集して計画を立てました。仕入れ値や経費を計算して、1か月の売上目標を立てて、そこから1日の売上目標を設定して…。全く経験がなくてもやる気になればなんとかなる、というのが私の持論です。
栗原さんがおっしゃると説得力がありますね。ちなみに会計処理や税金の申告関係はどのようにされていますか?
栗原さん:開業当初から、申告関係は親族から紹介してもらった税理士さんにお願いしています。その手前の出納帳の入力などは、税理士さんからエクセルのフォーマットをいただいて自分で入力しています。それ以外の見積書・請求書・納品書などは自分で1から作りましたね。自分でできる部分は自分でやってみようという思いでやっています。
独学での技術習得に行き詰まりを感じて資格を取得。そこから思わぬ恩恵も。
焙煎技術は独学で習得したとのことでしたが、最初は苦労されましたか?
栗原さん:そうですね、なかなか美味しくできませんでしたね。それまでに飲んできたコーヒーの味を何となく思い出しながら、どうやったらあの味になるんだろう、火加減はどれくらいがいいんだろう、と本当に試行錯誤していました。
そしてあるとき、独学に行き詰まりを感じて、資格の取得を目指すことにしたんです。CQI(コーヒー品質協会)認定のQグレーダーというコーヒー鑑定士の国際資格です。私はもともとコーヒーに関する資格の取得には興味がなかったんですが、Qグレーダーは味作りの基準を覚えるのに役立つんじゃないかと思い、コースの受講を決めました。
初めてQグレーダーコースを受講したのが開業後2か月ほど経ったころで、その翌年に無事合格し、資格を取得しました。この資格は取って良かったですね。コーヒー豆の品質を判断するのにとても役立っています。
それぞれのコーヒー豆が持つポテンシャルを引き出せるかどうか。これが、私が焙煎を始めてから今でもずっとこだわりを持って向き合っているテーマですから。
栗原さんのこだわりの強さを感じます。栗原さんが焙煎するときに大切にしていることは何ですか?
栗原さん:決して手を抜かないことですね。焙煎ってとても繊細な作業なんですよ。同じ豆を同じ機械で焙煎しても、味を均一に保つのは簡単ではありません。1回の焙煎時間には7~8分ほどかかるんですが、その間も秒単位で温度を管理しないといけないので、疲れていて集中できないと失敗することもあります。ほかにも、焙煎前に水分値を測ったり、欠点豆が入っていないか選別したりと、目を光らせるポイントはたくさんあります。納得いかないものはお客さまに出せないので、破棄することもあります。
ちなみに生豆の仕入れ先はどのように見つけたのでしょうか?
栗原さん:仕入れも最初は苦労しました。最初はインターネットで検索して出てきたところに連絡していたんですが、店舗をまだ持っていない段階だと断られることも多くて。諦めずにもう1度連絡をして、直接お会いする機会をいただいて、取引できるようになったケースもありました。Qグレーダーを取得してからは、逆に商社さんの方から取引のご連絡をいただくことも増えましたね。
この資格の恩恵で、輸入車ディーラーさんのイベントに呼んでもらい、そこから販路が広がったこともあります。
売上よりもコンセプトを優先した結果、得られたものとは。
お店を構えてからはどのように事業を展開していかれたのでしょうか?
栗原さん:オープン当初は、店舗が住宅街にあることを考慮して、集客のために軽食も提供するカフェの形態を取っていました。すると、フードメニューばかり注文が入るようになったんです。
正直、この状況は想定していませんでした。軽食を用意しているものの、当店の売りはあくまでも自家焙煎のコーヒーです。それなのに、開業時に思い描いていた方向性と違うな、と感じていました。そんな矢先に新型コロナウィルスが流行し「今しかない」と思い、思い切って食事メニューを全部やめました。客数や売上は減りましたけどね。
え!売上を落としてまで!それは大胆な決断ですね。
栗原さん:当時、お客さまが口コミに投稿してくださる写真は食事の写真ばかりになっていて、その状況が耐えられなかったんです。そこで、それまでのイメージを変えるためにも、店名を「栗原coffee」から今の「KURIHARA COFFEE ROASTERS」に変え、ロゴマークも一新し、リスタートしました。現在、店舗では豆の小売販売とテイクアウトのドリンク提供のみにしています。
栗原さんの決断力には驚きです…!
栗原さん:なんというか、とりあえずやってみないとわからないし、やってみてダメだったら違うことをやればいい。私はそういう性分なんです。やりたいと思ったことをやらずに後悔だけはしたくないんですよ。失敗ばかり恐れていたら何も決断できないじゃないですか。そういう気持ちで、しばらく売上が下がったとしても、コーヒー豆の小売と卸売に注力することを決めました。
そのおかげもあり、コーヒー豆の卸売事業は徐々に拡大しています。他にも、プロサッカー選手のコーヒーブランド監修や個別のドリップセミナーなど、これまでにないご要望も増えました。まだ手探りですが、こうして新しいチャンスが巡ってきたのは率直に嬉しいですね。
とはいえ、お店作りやコンセプトに関しては、開業前にもっと明確にしておけばよかったとは思いますね。何も考えずに始めてしまったので。他のお店をリサーチしながらイメージを明確にしておけばよかったと考えることはあります。
本気でやりたいなら、まずは行動しよう。
栗原さんが考えている現状の課題について教えていただけますか?
栗原さん:実はオープン当初から宣伝にあまり力を入れてこなかったので、それが課題の1つですね。駅からかなり離れた場所にお店を構えていることもあって、地元の方にもまだあまり認知されていない現状です。
なので当店のお客さんは、地域の方々よりも、遠方から自転車で来られるサイクリング好きの方が多いんです。というのも、お店の近くにサイクリングロードがあるため、休憩スポットとしてちょうどいい立地だったようで。ある日近所の方から、「サイクリングをする人はロードバイク用の駐輪ラックがあると助かるらしい」と教わって、試しにお店に設置してみました。すると、サイクリングロードのガイドマップを作っている方がSNSで情報発信してくれて。それがきっかけでサイクリングの途中に立ち寄ってくださるお客さまが増えたという経緯があります。
とてもありがたいことですが、本当はもっとコーヒー好きの若い世代の方にも足を運んでいただきたいんですよね。そのためにも、今はお店や私個人のSNSでの発信にも力を入れ、KURIHARA COFFEE ROASTERSのことをもっと知ってもらえるよう努めています。また、地元の方々にも私たちの存在をもっと知っていただくために、地元のイベントに出店するなどの活動も行っています。
なるほど。今後の展望についてどのようにお考えですか?
栗原さん:店舗を増やしたいですね。自分の焙煎した豆でコーヒーを提供するスタンドのような店舗も視野に入れています。そして、卸売りの取引先を増やしたいという思いもあります。店舗展開による宣伝効果がその呼び水になればと考えて、今は出店先などを模索中です。
ありがとうございます。では最後に、自分のお店を持ちたいと考えている方に一言アドバイスをお願いします!
栗原さん:お店をやりたいなら、まず行動してほしいですね。本気でやりたいなら、やればいい。中途半端な熱意だとお店を潰してしまいますから。やってみないことには結果はわかりません。だからこそ、勢いも大切ですよ。
取材協力:創業手帳
インタビュアー・ライター:間宮 まさかず
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