好きを仕事に、小さな一歩から。私が小学生時代の夢を叶えるまで。
- 起業時の課題
- 仕入先確保, マーケット・ニーズ調査
大手食品メーカーを退職後、焼き菓子のオンラインショップを開業した西岡悠香さん。資金調達はせず、事業に適したコンパクトなスペースを見つけ、身の丈にあった方法でコツコツと事業を育ててきました。初期投資を最小限に抑えつつ売上を伸ばし、少人数でも効率的な運営を実現しています。そんな西岡さんが、スモールスタートで成功するまでの道のりとは?
今回のインタビューには、開業準備の実体験から開業前の不安との向き合い方まで、スモールスタートで成功するためのヒントが多く詰まっています。あなたも思い描く事業にチャレンジしてみませんか?
会社プロフィール
業種 | サービス業 (飲食) |
---|---|
事業継続年数(取材時) | 5年 |
起業時の年齢 | 30代 |
起業地域 | 大阪府 |
起業時の従業員数 | 0人 |
起業時の資本金 | - |
話し手のプロフィール
大手食品メーカーで商品開発に携わる傍ら、製菓専門学校に通う。
食品メーカーを退社後、都内焼き菓子店にて包装・梱包のアルバイトをする。大阪に引っ越したタイミングで無店舗の焼菓子店をはじめ、現在はオンラインストアの他、百貨店での催事出店を行っている。
目次
- 好きなことで開業するには?コンセプト作りで重視したポイント。
- 開業準備は地道な情報収集から。
- リスクを最小限に抑えた "小さな一歩" の踏み出し方とは?
- オンラインショップだからこそ重要な、顧客を引き付ける「見せ方」 のコツ。
- ワンオペ経営で事業を回すために決めた「やらないこと」。
- 開業を志す人へ、迷ったときの「不安と向き合う方法」。
好きなことで開業するには?コンセプト作りで重視したポイント。
事業内容について教えてください。
西岡さん:「8・7 BAKE SHOP」は、大人のための焼き菓子専門のオンラインショップです。主に通販サイトを通じて、洋酒やスパイスを効かせた大人向けの焼き菓子を販売しています。また、百貨店の催事などでも販売をしています。ラインナップはすべて焼き菓子で、生菓子は扱っていません。
「大人向けの焼き菓子」というコンセプトについて、詳しく教えてください。
西岡さん:実は私はお酒が飲めないのですが、お菓子に入ったお酒の風味がすごく好きなんです。でも、お酒が効いたお菓子だけを販売しているお店ってあまりないんですよね。だから、自分の好きなものを並べられるお店を作ろうと思ったんです。
しかし焼き菓子専門店をやろうと思ったときに、ただ美味しいお菓子があるだけでは勝ち残れないと思いました。私には「有名店で修業した」というような、他店と差別化できる特別な強みがありません。そこで、市場調査をしたうえでコンセプトを絞り込むことにしたんです。
意識したのは、他店にはない特徴を打ち出すことでした。当店の場合は「大人の焼き菓子」という、少しニッチな切り口で勝負しました。コンセプトを明確にすることで、狙ったターゲットに刺さるお菓子作りができます。小さな個人店だからこそ、自分の作りたいものと、お客さまに選んでもらえるものをマッチさせる。コンセプト設計には力を注ぎました。
東京だと似たようなコンセプトのお店もありましたが、大阪ではまだ少ない。もともと店舗を持ちたいとも考えていたので、このコンセプトなら勝機があるのでは、と感じましたね。競合他社が多い中で差別化を図るには、ターゲット層を明確にすることが大切だと思います。
西岡さんがお菓子作りを始めたきっかけや、開業前のキャリアについて教えていただけますか?
西岡さん:お菓子作りに目覚めたのは、小学生のころです。お菓子をとにかくいっぱい作っては周りに配るのが好きな子供でしたね。大学卒業後は、大手食品メーカーの商品開発部門に就職し、ブランドマネージャーとして幅広い業務に携わっていました。
そのころ、専門的なスキルを身に付けようと、社会人になって製菓専門学校に通い始めたんです。高校卒業後の進路としても考えましたが、周りに反対されて諦めていて。でも専門学校の広告を見て、「この学費なら今の収入で払える!」と思わず飛びついてしまったんです。
出産後、勤めていた会社を退職しまして、独立を見据えて東京の焼き菓子店でアルバイトをしながら経験を積み、大阪に引っ越してきたのを機に開業しました。
開業準備は地道な情報収集から。
開業までの準備期間はどのように情報収集をしていましたか?
西岡さん:専門学校の開業講座で学んだり、関連書籍を読んだりしていましたが、実際にお店を経営している方から直接話を聞くのが一番勉強になりました。気になるお店を見つけては、直接話を聞いていたんです。
東京の焼き菓子店でアルバイトをしていたのも勉強のためでした。当時そのお店はスタッフを募集していなかったんですが、自分の理想に近いお店だと思ったので直接交渉してお願いしました。店舗運営の生の現場を経験できたのは、本当に勉強になりましたね。
また、レンタルキッチンを運営されている方にも相談に乗ってもらいました。先輩経営者の話を聞いて、開業前の不安が和らいだのを覚えています。ビジネス書を読むのも大切ですが、やはり実際に経営されている方のリアルな話は説得力が違いますから。
リスクを最小限に抑えた "小さな一歩" の踏み出し方とは?
開業にあたって、物件や開業資金など具体的にどのような準備をされましたか?
西岡さん:実は、義母がフラワーショップを経営していて、お店の一角にある使われていないカフェスペースを借りてスタートしました。そこには厨房機器もひと通り揃っていたんです。だから開業資金は、ほとんどかかっていないんですよ。家賃も発生しないですし、新しく買い足したのは製菓用の道具が少しだけ。本当に小さな一歩から始められました。
最初から思い切った投資はしなかったんですね。
西岡さん:そうなんです。でも、無理のない範囲でコツコツとスタートできたのは良かったと思います。商品の在庫管理に関しても、オーダーをいただいてから必要な分だけ製造するスタイルなので、在庫を抱えずに済んでいます。
いきなり大きな一歩を踏み出すのは不安だという方も多いと思います。
西岡さん:私自身、最初は本当に小さなことからコツコツとやっていくしかないと思っていました。もっと早く規模を広げるべきかもしれないと思うタイミングもあったんですが、無理のない範囲でステップアップしていくのがいいと思います。いつでも撤退できるように、いざというときの保険も用意しておくことを心掛けています。例えば、現在は製造用に物件を借りていますが、事業が立ち行かなくなったときのことを考えて、撤退しても現状復帰にお金がかからない物件を選んでいます。そういう堅実な選択がきっと安定した事業につながりますし、私には合っていたんです。
オンラインショップだからこそ重要な、顧客を引き付ける「見せ方」のコツ。
集客方法について教えてください。
西岡さん:当店の場合、集客はInstagramとホームページのみで行なっています。お店の宣伝も、商品の紹介も、すべてオンラインのみです。特にInstagramでは、自分でスマホで写真撮影をして運用しています。
写真撮影のコツなどはあるのでしょうか?
西岡さん:最初は本当に手探りで、ひたすら試行錯誤の連続でした。でもコンセプトに合う世界観を表現するよう心掛けています。最近はInstagram関連の書籍を読んだりウェビナーに参加したりしながら、少しずつ磨きをかけているところです。おかげさまで、Instagramからの問い合わせも多いですね。
Instagramの投稿を見る限り、個人店とは思えないクオリティの高さを感じました。
西岡さん:ありがとうございます。実は、商品を作る工程や作っている人の顔はあえて見せないようにしているんです。以前働いていた焼き菓子店でも、そういう戦略を取っていて。商品力も大事ですが、お客さまに「どんなお店なんだろう?」と興味を持ってもらえるようなブランドイメージを意識して発信しています。
店名についても、ブランドイメージを意識してこだわりました。以前読んだマーケティングの本で、店名は少し気になるネーミングにするといいと書いてあったんです。そこで「8・7って何だろう?」と気にしてもらえるように、店名を「8・7 BAKE SHOP」に決めました。
実は「8・7」には由来があります。もともと花屋の一角を借りてオープンしたので、「8・7」。初見ではわからないでしょう?(笑)少し謎めいた店名にすることで、お客さまの記憶に残りやすくなるはずと思い名付けました。オンライン集客が頼りのネット店舗なので、とにかく潜在顧客の興味を引くネーミングが大切だと考えたんです。
ワンオペ経営で事業を回すために決めた「やらないこと」。
1人で経営を回すコツを教えてください。
西岡さん:無店舗での販売とSNSを活用したプロモーションは、ワンオペレーションでもやりやすいと感じています。店舗を構えると、接客や店内業務、清掃など、どうしても1人では難しい仕事が出てきます。その点、オンライン販売であれば、自分のペースで仕事を進められるのがいいですね。
ただ、すべての業務を抱え込んでしまうと、負担が大きくなりすぎてしまいます。だからこそ、「やらないこと」を決めるのも大切だと思っています。例えば、顧客管理は最小限にとどめ、顧客リストは作成していません。
とはいえ、売上アップのチャンスは逃さないようにしています。特に、百貨店の催事への参加は売上、認知度アップの大きな支えです。きっかけは、百貨店のバイヤーさんからお声掛けいただいたことでした。オンラインサービスの問い合わせフォームから連絡をもらい、催事に出品させてもらえることになったんです。
初出店以降は、他の百貨店からもお声掛けいただけるようになり、徐々に催事への参加が増えていきました。得られるメリットを考慮しながら出店を判断し、うまくバランスを取っています。
また、受注が増えた時期には、手作業だと対応しきれなくなることもありました。そこで、会計ソフトやクラウドサービスを導入して業務の自動化を図っています。おかげで伝票作成などの事務作業は大幅に削減できました。「これは自分でやらなくてもいい」と割り切ることも必要だと感じています。
仕事とプライベートのバランスを取るのは大変ではありませんか?
西岡さん:そうですね。でも、「無理のない範囲で」と決めることで、ある程度コントロールできていると思います。繁忙期とオフシーズンの波が大きいので、そこはうまく調整しつつ。クリスマスやバレンタイン、ホワイトデーシーズンは働き詰めですが、需要が落ち着く時期はゆったりと休暇を取るなど、メリハリを付けられているのが良いところですね。
「やること」を厳選することで、1人でも事業を回していけるんです。小さなお店だからこそ、すべてに完璧を求めるのではなく、「これだけはやる」という優先順位を付けることが大切だと思います。
開業を志す人へ、迷ったときの「不安と向き合う方法」。
起業・開業を目指す人へ、メッセージをいただけますか?
西岡さん:まずはしっかりとしたコンセプト作りから始めるといいと思います。競合他社が多い中で選ばれるお店になるには、“らしさ”を打ち出すことが何より大切だと思っています。勢いも必要ですが、私にとっては、提供したい商品がお客さまに選んでもらえるようマッチさせる戦略的な発想も重要でした。
開業するかどうか迷ったときは、開業後3年間でかかるお金の洗い出しをおすすめします。もしうまくいかなかったとき、どれだけのお金を失うことになるのか。その覚悟があるかどうかを自問してみるんです。リスクを可視化することで、ぼんやりとした不安は小さくなるはずです。
私はよくSWOT分析(※)をしていました。不安なことを1つひとつ見える化して、それぞれにどう対応するかを考えていく。しっかりリスクヘッジしておけば、心に余裕を持って事業に打ち込めるはずです。
- ※SWOT分析ビジネスの戦略立案や課題の整理に用いられる手法の1つ。自分のビジネスの強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)を書き出して整理する方法。
西岡さんのお話を伺って、開業への心構えがよくわかりました。貴重なアドバイスをありがとうございました。
西岡さん:こちらこそ、自分の経験が少しでもお役に立てたのなら嬉しいです。夢に向かって頑張るみなさんを応援しています!
取材協力:創業手帳
インタビュアー・ライター:間宮 まさかず
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