誠実さが最大の武器。「役立ちたい」に没頭できる自由が、独立の醍醐味。

起業時の課題
資金調達, その他

宮崎県で電気設備工事業を営む坪根雅俊さんは、制御盤の設計から保守点検まで、幅広い業務を請け負っています。長年の経験で培った技術力と専門性を持ちながらも、「まだまだ未熟で…」と謙遜する坪根さん。失敗も多く経験したと語る坪根さんの言葉からは、常に学び続ける姿勢が感じられました。
革新的なアイデアだけが起業の鍵ではありません。坪根さんの歩みは、努力の積み重ねと顧客への誠実な対応が起業の基盤となり得ることを教えてくれます。より身近な、実践的なロールモデルとして、学びの多いインタビューです。お楽しみください。

会社プロフィール

業種 建設・工事業(設備工事)
事業継続年数(取材時) 9年
起業時の年齢 30代
起業地域 宮崎県
起業時の従業員数 0人
起業時の資本金 -

話し手のプロフィール

坪根 雅俊
葵テクニカ 代表
1級電気工事施工管理技士
1級管工事施工管理技士
会社員時代、水処理メーカーの協力会社にて数多く現場に立ち、主に電気設備工事・施工管理を経験。技術者として現場経験を積んでいく中でも、特に中心核の制御技術にやりがいを感じ、専門性と経験を強みに葵テクニカを開業。

目次

“制御盤”の世界に魅了され、没頭した日々が起業のきっかけに。

起業に至るまでのキャリアについて教えてください。

坪根さん:私が電気工事の世界に入ったのは、新卒で配線工事の会社に就職したことがきっかけでした。配属先では、一般の木造住宅を中心に、電気工事の基礎から学びました。ただ、最初の会社が倒産してしまって。再就職先を探す中で、水処理メーカーの下請け会社に出会い、そこで初めて制御盤の設計・施工に関わる仕事を任されるようになったんです。

制御盤の設計・施工は、配線工事の延長線上にありつつも、専門的な知識が要求される分野でした。とにかく現場で必死に吸収しましたね。技術力のないころは失敗もたびたび経験しましたが、そこから学ぶことも多かったです。

この会社では、制御盤の設計・施工を通して、図面の読み方や書き方、自動制御のプログラミング技術など、それまでとは異なるスキルを学びました。お客様お客さまの求める設備の動きを実現するため、設計から組み立て、現場での調整まで、幅広い工程に関わる仕事です。

当時は、トラブルシューティングにも明け暮れました。自分で設計・施工した制御盤が期待通りに動かず、徹夜で問題の原因を探したこともあります。お客さまの前で冷や汗をかきながら、必死で原因を究明し、修正する。この繰り返しでしたね。今思えば、水処理メーカーの下請けとして働いた約17年間が私の技術力の基礎になっています。

「いつかは自分も」。現場で出会う1人親方の姿に憧れて独立へ。

独立を決意したきっかけは何だったのでしょうか。

坪根さん:私が独立を決意したのは、会社員時代に出会った1人親方の存在が大きかったですね。当時、現場には個人事業主の職人さんが多くいらっしゃいました。彼らの仕事ぶりを間近で見るうちに、「いつかは自分も独立したい」という思いが芽生えてきたんです。

また、工事が終わった後のメンテナンスで収益が見込めるのではないかと考えたことも、独立を決意した理由の1つでした。今思えば楽観的だったなとも思いますが、収入を上げたいという気持ちが独立への後押しになったのは確かですね。

徐々に任される仕事の幅が広がり、現場代理人としてお客様お客さまとの打ち合わせから予算管理まで、プロジェクト全体を任されるようになりました。スケジュール管理、施工管理、外注業者との折衝など、独立後に必要な能力を実践的に学べました。

独立に向けて、着実にスキルを磨かれたのですね。

坪根さん:40歳までには独立したいと考えていたので、会社員としてさまざまな経験を積むことを心がけていました。そして、39歳でついに独立を実現できたんです。目標にしていたタイミングにギリギリ間に合ったので嬉しかったですね。

電気設備業界ならではの資金繰りのリアル。

独立の際、具体的にどのように準備を進められたのでしょうか。

坪根さん:独立前の準備で重要だったのは、必要な設備への投資です。私の仕事では、設計から施工、メンテナンスまで幅広く対応するため、ある程度の設備が必要不可欠です。具体的には、設計用のパソコンとCADソフト、自動制御用ソフトウェア、各種工具、それに車両の準備をしていきました。

これらの設備投資のために、まずは退職金と貯金を切り崩し、足りない部分は開業前と開業後に地元の銀行と信用保証協会からの融資で補いましたね。

信用保証協会の融資を活用されたのですね。日本政策金融公庫ではなく、信用保証協会を選ばれた理由は何かありましたか。

坪根さん:当時は日本政策金融公庫よりも信用保証協会の方が金利が低く、審査のハードルも低かったのが大きな理由です。融資を申請する際は、銀行の担当者からサンプルの事業計画書をもらい、それを参考に自分で作成しました。最初の融資申請では、審査が通るまでに3か月ほどかかりましたね。ただ、1度融資を受けると、2回目からは審査もスムースに進むようになりました。私の場合は、初回融資300万円を1年未満で完済したのですが、完済間際に銀行から追加融資のご提案をいただき、追加で500万円を設備投資のために借り入れました。開業初期にまとまった額を融資いただけるのはとてもありがたかったです。

独立初期の資金繰りについては、起業を目指す多くの方の関心事だと思います。

坪根さん:そうですね。独立当初は、資金繰りに頭を悩ませる日々が続きました。売上が不安定な一方で、材料費や外注費の支払いは先行していく状況をどう乗り越えるかが、大きな課題でしたね。

私の場合は、銀行や信用保証協会からの融資を受け、何とか運転資金を確保できましたが、借り入れには限界があります。結局は、1つ1つの案件をこなして利益を積み上げていくしかありません。目の前の仕事に全力で取り組み、コツコツと資金を回していく。独立初期は、その繰り返しでしたね。

往復1000km超!顧客の「困った」に応えた駆けつけ出張が教えてくれたこと。

独立後、最初の仕事はどのように獲得されたのでしょうか。

坪根さん:独立当初は、会社員時代の人脈を頼りに仕事を探しました。幸い、前職の協力会社から仕事を少しずついただけたので、ありがたかったですね。ゼロからのスタートではありましたが、過去の仕事ぶりを評価していただいていたことが、大きな助けになりました。

最初のうちは県外の業者さんからの仕事が中心でした。遠方への出張もいとわず、どんな仕事でも引き受けるというスタンスで取り組みました。

特に心掛けたのは、トラブル対応への迅速さです。例えば、修理で宮崎から京都まで日帰りで行ったこともあります。今思えば無茶な話ですが、当時は必死でしたね(笑)。おかげで今でも、そのときの話が現場での笑い話のネタになっています。こうした姿勢が、お客さまとの信頼関係を築く上で大きな役割を果たしてくれたのだと思います。

独立初期の顧客の信頼を勝ち取るには、誠実な対応が欠かせないのですね。

坪根さん:その通りだと思います。私の場合、現場に足を運び、顧客の困りごとに真摯に向き合うという基本的な姿勢を大切にしてきました。機械の不具合は、お客さまにとって機会損失につながります。だからこそ、どんなに大変でも、迅速に対応することを心掛けてきました。

独立したからこそ可能になった、一気通貫のサポート体制を目指して。

現在の事業運営で心掛けていることを教えてください。

坪根さん:私の事業の特徴は、設計から施工までを一貫して請け負う点にあります。機械メーカーから制御盤の設計を依頼され、設計図を基に制御盤を組み立て、現場で動作確認を行う。そして、納品後のメンテナンスにも対応します。

一連の工程を自社で完結できるのが強みですが、1人では限界があるので、協力会社との連携が欠かせません。図面作成や自動制御のためのプログラミングなども、必要に応じて外注しています。確かな技術力を持つ協力会社を確保し、綿密なコミュニケーションを取ることが、品質を保つうえで大切だと感じています。

経理面では、どのようなツールを活用されていますか。

坪根さん:インストール型の「やよいの青色申告」と「やよいの見積・納品・請求書」を使っていますが、入力の手間が省けるので助かっています。経理業務の効率化は、事業を回すうえで欠かせない要素ですね。事業規模が大きくなるほど、その重要性を実感しています。

効率的な経理システムは本当に大切ですよね。今後の事業展開については、どのようなビジョンをお持ちですか。

坪根さん:現在は、自宅の一角を事務所として使っているのですが、将来的には事務所を構えたいと考えています。そして、総合的に設計から施工、メンテナンスまで対応できる体制を整えていくことが目標です。

また、宮崎県内の企業との取引をさらに増やしていきたいですね。現在は県外の機械メーカーとの取引がほとんどなので、地元企業とのつながりも大切にしていきたいです。

ゆくゆくは法人化も視野に入れています。もちろんメリットだけではありませんが、事業の幅を広げるためのステップだと思うので、目指していきたいですね。

人生の時間は有限。迷わず一歩踏み出して。

最後に、起業を目指す方へのメッセージをお願いします。

坪根さん:起業を考えている方には、迷ったらやった方がいいと伝えたいですね。最初は失敗することも多いかもしれませんが、続けていけば必ず成功に近づけるのかなと。

もちろん、準備は大切です。でも、私の場合は開業前、独立についてあまり深く考えていませんでした。もう少し真剣に捉えるべきだったのかもしれない、と今は少し反省していますが(笑)。

ただ、そういう簡単な気持ちだったからこそ、独立に踏み切れたのかもしれません。深く考えすぎて尻込みしてしまうよりは、まずは一歩を踏み出してみる。そこから学んでいくことも多いはずです。

人生の時間は限られています。やりたいことは思い切って挑戦してみよう、失敗を恐れずに前に進んでいこう。そういう姿勢が、何より大切なのではないでしょうか。起業を目指す皆さんには、自分を信じて、一歩ずつ前進していってほしいなと思います。

取材協力:創業手帳
インタビュアー・ライター:間宮 まさかず

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