心地よく働くために。自宅開業した2児のパパが語る、夢と現実を両立させる起業の形とは。
- 起業時の課題
- 集客、顧客獲得, 製品/サービス開発, バックオフィス業務, 家族の同意
「独立して可能性を広げたい」「自分のペースで、家族との時間も大切にしながら働きたい」。そんな思いを胸に、三原尚斗さんは自宅兼店舗の鍼灸院を開業しました。
開業資金は自己資金でまかない、地域に根ざした活動で少しずつ口コミを広げていった三原さん。独立後も学び続け、美容鍼灸など新しい分野にも挑戦し、サービスの幅を広げています。
インタビューでは、可能性を追求する三原さんの貪欲さや、サービス向上への真摯な姿勢が印象的でした。三原さんの語る自宅開業のお話には、実践的な開業のヒントが詰まっています。
会社プロフィール
業種 | 医療・福祉(鍼灸・整体) |
---|---|
事業継続年数(取材時) | 5年 |
起業時の年齢 | 20代 |
起業地域 | 兵庫県 |
起業時の従業員数 | 2人 |
起業時の資本金 | - |
話し手のプロフィール
- 三原尚斗
- はりきゅう屋Jam 院長
- 鍼灸師として8年のキャリアを経たのち、地元である兵庫県加古川市にて独立開業。鍼灸治療、美容鍼灸を中心に、不妊鍼灸、マタニティ鍼灸、訪問鍼灸など、患者さまに合わせた完全オーダーメイドのサービスを提供している。
目次
- 仕事も家庭も諦めたくなくて選んだ「独立」という選択肢。
- 何から始めた?家族の反応は?自宅開業の舞台裏を聞く。
- 美容鍼灸に活路を見出し、知識と技術を磨くために取り組んだこと。
- 家族とともに。笑顔あふれる自宅経営の実際。
- 屋号に込めた想いとは?お客さまの記憶に残る名前の付け方。
仕事も家庭も諦めたくなくて選んだ「独立」という選択肢。
鍼灸の道に進まれたきっかけや、開業までのキャリアについて教えていただけますか?
三原さん:私は小・中・高校とずっと野球をしていて、怪我をすることが多かったんです。怪我をするたびに、病院に行ったり、近くの接骨院で治療を受けたりしていました。そういった経験から、スポーツをしている人のサポートをしていきたいという想いが芽生えて、鍼灸の道に進むことを決めました。
専門学校卒業後、すぐに鍼灸整骨院で働き始めました。ただ、専門学校では基礎的な知識を学ぶものの、それだけでは現場で使える知識とはギャップが大きかったんです。実際に患者さんを目の前にして、その方に合わせてアレンジするためには、もっと深い理解が必要でした。現場での経験を積みながら、常に学び続ける姿勢が大切だと感じましたね。
独立開業を意識し始めたのは、どのようなきっかけがあったんですか?
三原さん:現場経験を積む中で、徐々に独立への思いが強くなっていきました。きっかけは主に3つあります。
まず、収入面です。鍼灸師として働く中で、雇用されている限り、どうしても収入に上限があることを実感しました。ちょうど2人目の子どもが生まれるタイミングでもあり、将来的に家族を養っていくことを考えると、自分で経営をした方が可能性が広がるのではないかと考えたんです。
次に、仕事と私生活の両立です。独立すれば、子育てや家族との時間を大切にしながら、自分のペースで仕事ができる。そういった柔軟な働き方にも魅力を感じていました。
そして、なんとなく30歳までに独立したいという目標も以前から持っていました。これらの要因が重なり29歳のときに開業をした、という経緯になります。
約8年間の勤務経験で培った技術や患者さんとの関係づくりのスキルが、独立への自信にもつながりました。経験を積み重ねてきたからこそ、このタイミングでの独立を決断できたんだと思います。
何から始めた?家族の反応は?自宅開業の舞台裏を聞く。
開業を決意されてから、具体的にどのような準備を進められたのでしょうか?
三原さん:まず始めたのは、既存の職場の患者さまへの声掛けです。上司の理解もあり、担当していた患者さまに開業の報告をすることができました。それと並行して、開業予定地の近くで少しずつ認知活動や集客活動を始めました。具体的には、友人や知り合いにお願いして、SNSで鍼灸院開業の情報を広めてもらいながら、口コミを少しずつ広げていった感じですね。
物件探しはどのように進めましたか?
三原さん:自宅兼鍼灸院を目指していたので、住環境と営業の両立を考慮しました。大通りから少し入った場所で、それでいて人通りがある場所を探しました。
結果的に、地元の加古川で理想的な物件を見つけることができました。慣れ親しんだ場所での開業は、安心感もありましたね。
自宅兼店舗という形態は、開業時のコスト面でもメリットがありそうですね。資金調達はどのようにされましたか?
三原さん:物件は購入して住宅ローンを組みましたが、開業資金としての追加融資は受けずに、自己資金で必要な設備を整えました。
鍼灸院の開業は、他の業種に比べて初期費用がそれほどかからないんです。ベッドや消耗品など、細々としたものは必要ですが、1つ1つが高額なものではありません。
ちなみに、お子さんの誕生のタイミングでもあったとのことでしたが、開業をすると聞いたご家族の反応はいかがでしたか?
三原さん:妻は独立に賛成でした。前職の給与ではあまり余裕のある暮らしができないと感じていたようです。「稼げるにしても稼げないにしても、自分のさじ加減でコントロールできる方がいいんじゃない?」と背中を押してくれましたね。
一方で、父親には当初反対されていました。しかし、これまでの人脈を活かした売上見込みを説明し、不安を解消するような形で決意を伝えました。私自身、独立への期待と不安が入り混じる日々でしたが、家族の理解と支援に支えられ、新たな一歩を踏み出す決意を固められたと思います。
美容鍼灸に活路を見出し、知識と技術を磨くために取り組んだこと。
鍼灸院ではどのようなサービスを提供していらっしゃるのでしょうか?
三原さん:開業当初は体のケアがメインでしたが、徐々に美容鍼灸にも力を入れるようになりました。美容鍼灸は1回当たりの単価が高く、経営面でのメリットがあります。また、「綺麗になりたい」というお客さまの前向きな姿勢にも魅力を感じましたね。
美容鍼灸の技術習得には特に力を入れています。開業してからも定期的に学びの機会を設けています。特にコロナ禍をきっかけに、オンラインでの学習機会が増え、基礎知識から技術面まで、幅広く学ぶことができました。
さらに、学んだ技術を活かす場として、美容関連の展示会で美容鍼のデモンストレーションを行う機会もあったんです。お客さまだけでなく、同業者の方々にも技術を伝える経験は、自分の成長にもつながりました。
現在行っている施術では、解剖学の知識を活用して、詳細な説明を心掛けています。例えば、「この部位に鍼を打つことで、どのような生理学効果が期待できるか」といった専門的な内容まで、お客さまがわかる平たい言葉を使って説明するよう努めています。医学的な根拠に基づいた施術を提供することで、お客さまに安心感を持っていただけるよう心掛けています。
専門性の高い知識・技術とていねいな説明が、お客さまの信頼につながっているんですね。美容鍼灸以外にも取り組まれていることはありますか?
三原さん:はい、美容だけでなく、妊活やマタニティケア、また、高齢者の方への訪問サービスも行っています。ホームページやSNSでは美容の割合を多めに打ち出していますが、実際にはバランスを取りながらサービスを提供しています。
訪問サービスもやっているんですね。
三原さん:実は、訪問鍼灸は前の職場から行っていたサービスで、開業にあたって引き継いだお客さまもいれば、院をオープンしてから、お客さまのご家族や近所の方の紹介で広がっていったケースもあります。訪問サービスでは、鍼灸以外にマッサージのニーズが高いのも特徴です。お客さまのニーズに合わせて柔軟にサービスを提供することで、多くの方に喜んでいただいています。
現在、来店と訪問の割合は6:4くらいで、訪問のニーズはかなり高いですね。将来的には、訪問専門のスタッフを雇用して、効率的に運営できるようにしたいです。そうすることで、店舗での美容施術に私自身が集中できるようになり、全体としての収益性も上がると考えています。
訪問サービスを行ううえで、何か特別な手続きや資格は必要なのでしょうか?
三原さん:訪問自体は鍼灸院の付随サービスとして比較的簡単に始められます。ただ、保険を使う場合は少し手続きが必要になります。鍼灸師は国家資格ではありますが、保険を使う場合は医師の同意書が必要なんです。
また、保険請求の手続きは専門の業者さんに依頼しています。自分で請求手続きをすると結構手間がかかるので、この業者さんのサポートは本当に助かっています。
家族とともに。笑顔あふれる自宅経営の実際。
開業されてから、日々の業務をどのように効率化されているのでしょうか?特に会計や事務作業などのバックオフィス業務について教えてください。
三原さん:会計業務については、開業当初からクラウド型の『やよいの青色申告 オンライン』を使っています。数字で日次や月次の現状を把握できるのが大きなメリットですね。仕訳入力に慣れるまでは時間がかかることもありましたが、慣れてからはとても便利に使えています。困ったときは、会計業務に詳しい知人に相談して入力の仕方を教えてもらいました。
従業員の給与計算などの事務作業は、妻にパートタイムで手伝ってもらっています。今の事業規模であれば、何とか自分たちでできているので、特別なサービスは利用していません。ただ、今後については税理士さんへの依頼を検討しています。特に節税の面では専門家の助言が必要だと感じています。
自宅兼鍼灸院という形態ですが、仕事とプライベートの切り分けは難しくないですか?
三原さん:確かに、自宅だからすぐに働けてしまうので、休日に予約対応をしてしまうこともあります。でも、自分の中では良いバランスで仕事とプライベートの割合を保てていると感じていますね。通勤時間がない分、トータルでのストレスは少ないです。ただ、オンオフをしっかり分けるのは意識しています。
子供が鍼灸院スペースに来てしまうこともありますが、お客さまにも理解していただいています。むしろ「今日はお子さんに会えたからラッキー」と言ってくださる方もいて(笑)。自宅でやっていることを理解してくださるお客さまに恵まれて、心地よく働けています。
自宅兼業ならではの良さがあるんですね。開業して良かったと感じる点はどんなところですか?
三原さん:時間とお金を自分でやりくりできるところですね。家族との時間も取りやすくなりました。家庭とのバランスを考えても、独立して正解だったと思っています。
屋号に込めた想いとは?お客さまの記憶に残る名前の付け方。
お客さまとの関係づくりで心がけていることはありますか?
三原さん:ていねいなカウンセリングはもちろんのこと、次回来店につながるような話題作りも意識しています。例えば、「肩が凝るなら、こんな運動をしてみてください。次回来たときに、どうだったか教えてくださいね」といった感じです。とはいえ、次回予約を強引に取るのではなく、自然とまた来たいと思ってもらえるような接客を心がけています。
この「お客さま1人ひとりに寄り添う」という姿勢は、実は鍼灸院の屋号にも込めているんです。「Jam」には、ジャズのセッションという意味があります。お客さま1人ひとりの、その日そのときの状態に合わせて即興で施術をするという思いを表現しているんです。あとは、パンに塗る「ジャム」を思い浮かべてくださる方が多いかもしれない、とキャッチーで記憶に残りやすい名前を意識しましたね。
素敵な由来ですね。最後に、これから起業を考えている方へのアドバイスをお願いします。
三原さん:起業を決めたら、開業初日から売上を見込めるよう、事前の準備をしっかりとすることが大切です。また、初期費用やランニングコストをできるだけ抑えることも重要です。私の場合、自宅兼店舗にしたことで初期費用を抑えられました。
起業は不安も多いと思いますが、やってみないとわからないこともたくさんあります。私も試行錯誤の毎日ですが、家族との時間も取れ、やりがいを感じながら仕事ができています。少しでも起業に興味がある方は、ぜひ一歩、踏み出してみてくださいね。
取材協力:創業手帳
インタビュアー・ライター:間宮 まさかず
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