1人で会社を作るには?個人事業主との違いや設立手順、注意点を解説
監修者: 森 健太郎(税理士)
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会社を作るには、会社形態に合わせて書類の作成や登記申請などの手続きをする必要があります。では、事業を行ううえで、1人で会社を作ることと、個人事業主として開業することでは、何が違うのでしょうか?
ここでは、1人で会社を作るための設立手順や個人事業主と会社の違い、1人会社を作るうえでの注意点を解説します。
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1人で作れる会社の形態とは?
1人で作れる会社の形態には、「株式会社」「合同会社」「合名会社」の3つがあります。現在、日本で新しく設立できる会社形態は「株式会社」「合同会社」「合名会社」「合資会社」の4種類があり、このうち、「合資会社」のみ、会社に対して自分が出資した分だけ責任を負う有限責任社員と、無制限に責任を負う無限責任社員の2人以上が最低でも必要になるため、1人だけで設立することはできません。
なお、株式会社は2006年の会社法の改正前までは、取締役3人が必要でしたが、現在は取締役が1人以上で作ることが可能となっています。そのため、現在では1人社長として、株式会社を設立することは一般的となりました。
1人会社と個人事業主の違い
1人で事業を営むという点では1人会社も個人事業主も同じですが、会社を作る(法人化する)ことで、さまざまな違いが生じます。1人会社である法人と個人事業主の主な違いは、以下のとおりです。
社会的信用度の高さ
一般的には個人事業主よりも法人の方が社会的な信用度が高くなります。取引先や仕入れ先によっては、法人でなければ契約を結んでくれなかったり、大規模な取引を行わなかったりすることもあるでしょう。融資や大規模な取引などを考えた場合、たとえ1人社長の会社であっても、個人事業主よりも社会的信用度は高いといえます。
課税される税金
法人と個人事業主では税金の仕組みが異なり、法人は法人税や法人住民税、法人事業税など、個人事業主には所得税や住民税、個人事業税などがかかります。
個人事業主の所得税は、所得が高くなるほど段階的に税率が上がる累進課税で、5%~45%の間で7段階に区分されています。法人では、資本金1億円以下で所得が800万円を超える場合の税率は23.2%、800万円以下なら税率は15%です。そのため所得が一定額以上になると、個人事業主よりも法人の方が節税効果は高くなる可能性があります。
また、個人事業主は青色申告での損失繰り越しは3年間ですが、法人では10年間(2018年4月1日より前に開始した事業年度については9年間)まで可能です。個人事業主であれば、赤字なら所得税や住民税はかかりませんが、法人の場合は赤字であっても、法人住民税の均等割を納付しなくてはいけません。
節税効果だけでなく、赤字の場合も想定するなど、課税される税金の仕組みを正しく知っておくことが大切です。
起業・開業時の手続きや設立費用
個人事業主として1人で開業するには、基本的に税務署へ「個人事業の開業・廃業等届出書」(開業届)を提出するだけで、設立費用はかかりません。しかし、1人会社であっても法人を開設するには、手続きや設立費用が必要で、会社形態によってもそれぞれ異なります。
例えば、法務局で法人設立登記に必要な登録免許税は、株式会社なら最低15万円、合同会社は最低6万円がかかります。他にも株式会社の場合は定款(ていかん)の認証が必要で、認証手数料は設立時の資本金によって変わりますが、1.5万~5万円程度かかります。
なお、所定の手続きを行えば、会社設立後に合同会社から株式会社のように形態を変更することも可能です。
株式会社 | 合同会社 | |
---|---|---|
定款認証 | 15,000~50,000円 | 不要 |
定款に貼付する収入印紙 | 40,000円※ | 40,000円※ |
定款の謄本手数料 | 1枚あたり250円 おおむね8枚2,000円 |
1枚あたり250円 おおむね8枚2,000円 |
登録免許税 | 資本金額の1,000分の7(150,000円に満たないときは、申請件数1件につき150,000円) | 資本金額の1,000分の7(60,000円に満たないときは、申請件数1件につき60,000円) |
申請諸費用合計 | 約207,000円~ | 約102,000円~ |
- ※電子定款認証を行うと定款に張付する印紙代4万円は不要
- ※他に会社印作成や印鑑登録証明書費用、会社の登記簿謄本取得費用が発生
株式会社と合同会社の違いはこちらの記事で解説していますので、参考にしてください。
責任の範囲
1人会社である法人と個人事業主では、倒産した際に事業上の責任を負う範囲にも違いがあります。個人事業主は無限責任となり、事業上の責任はすべて事業主が負います。一方、法人の場合、事業上の責任は限られた範囲の有限責任となり、原則として、社長個人がすべての責任を負う必要はありません。
法人には出資額以上の支払い義務が発生せず、個人の資産は守られるため、万一の際のリスクを最小限にとどめることができます。
経費の幅
法人の場合、経費として扱える範囲が大きくなります。例えば、法人なら経営者が会社から受け取る役員報酬は、所定の要件を満たせば経費とみなされます。役員報酬を経費として計上できれば、法人税の課税対象にはならず、節税メリットは高いといえるでしょう。また、生命保険料の一部や出張の際の日当なども経費として扱えます。
法人か個人事業主かの選択基準についてはこちらの記事で解説していますので、参考にしてください。
1人で会社を作る際の注意点
1人で会社を作る際には、あらかじめ知っておくべき注意点があります。スムースな手続きができるよう、3つの注意点を見ていきましょう。
健康保険や厚生年金の加入義務が発生する
たとえ1人社長の会社であっても、法人では原則として社会保険への加入義務が発生します。これまで個人事業主として国民健康保険や国民年金に加入していた場合も、法人化したら社会保険に切り替えなければなりません。会社を設立したら年金事務所に届出を行いましょう。
役員報酬の決め方にはルールがある
役員報酬は税法上の扱いや決め方のルールが従業員の給与と異なり、社長が勝手に決めることはできません。会社法で、役員報酬は定款または株主総会の決議によって定めるとされているため注意が必要です。
また、役員報酬が多いと社長個人としての所得税が高くなり、少ないと会社にかかる法人税が高くなるため、法人と個人の納税額のバランスを取ることが大切です。役員報酬を決める際には、税理士などの専門家に相談するといいでしょう。
なお、1人会社の場合、従業員がいなくても「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」の提出が必要です。
役員報酬の決め方や届出書についてはこちらの記事で解説していますので、参考にしてください。
1人会社だからこそ相続についても考えておく
1人会社の場合、社長である自分が病気や死亡など何らかの理由で経営困難になると、会社がなくなってしまう可能性があります。万一に備え、会社の相続をどうするかについても税理士などの専門家に相談して決めておくと安心です。また、経営者向けの生命保険への加入などを検討しておくのもいいでしょう。
会社設立の手順
1人会社の場合、設立手続きと並行して事業開始の準備も進めなければいけないため、余裕を持って起業の準備を進めることが大切です。
ここでは、株式会社設立の流れを例に見ていきましょう。
株式会社設立の手順
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STEP1.会社の概要を決める
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STEP2.法人用の実印を作成する
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STEP3.定款を作成し、認証を受ける
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STEP4.出資金(資本金)を払い込む
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STEP5.登記申請書類を作成し、法務局で申請する
STEP1. 会社の概要を決める
株式会社を設立するにあたっては、まず社名や所在地、資本金、設立日、会計年度、事業目的、株主や役員の構成などの会社の基本事項を決めます。ここで決めた内容は定款にも記載するため、しっかり確認しておきましょう。
STEP2. 法人用の実印を作成する
法務局に設立登記の申請をするときには、会社の実印が必要です。社名が決まったら実印を作り、印鑑届書も忘れないようにしましょう。会社設立登記をオンラインで行うなら実印の作成は任意ですが、会社設立後に実印を使う場面は意外と多いため、会社設立のタイミングで作っておくと便利です。実印の他、法人口座の開設に用いる銀行印と、請求書や納品書などに押印する角印(社判)も一緒に作成しておくのがおすすめです。
STEP3. 定款を作成し、認証を受ける
定款(ていかん)とは、会社を運営するうえでのルールをまとめたものです。定款には必ず記載しなければならないと法律で決められている「絶対的記載事項」があり、記載がないと定款自体が無効になってしまうので注意しましょう。
定款を作成したら、公証役場に提出し、認証の手続きを行います。提出は紙か電子定款の2つの方法がありますが、電子定款であれば、紙の定款で必要になる収入印紙代(4万円)がかかりません。
なお、合同会社の場合は、定款の作成は必要ですが、認証は不要です。
STEP4. 出資金(資本金)を払い込む
定款が認証されたら、出資金(資本金)の払い込みを行います。資本金の振込先は、会社設立登記前のため、出資者の個人口座です。資本金は1円から申請可能ですが、極端に少ないと資本金が足りなくなる可能性があります。初期費用に運転資金3か月分を足した金額程度は用意しておくのがおすすめです。
STEP5. 登記申請書類を作成し、法務局で申請する
最後に「株式会社設立登記申請書」や定款などの必要書類を揃え、法務局で登記申請を行います。登記申請後、不備がなければ1週間~10日程度で登記が完了し、無事に会社設立が完了となります。
なお、会社設立後は税金関係や社会保険関係の手続きが必要です。各種手続きの中には提出期限の短いものもあるため、あらかじめ確認しておきましょう。税金関係の届出は税理士に、社会保険の届出は社会保険労務士に、許認可の届出は行政書士に代行を依頼することも可能です。
起業の方法と詳しい流れはこちらの記事で解説していますので、参考にしてください。
個人事業主が法人化(法人成り)する手順
続いては、個人事業主が法人化(一般的に「法人成り」と呼ばれます)する場合の手続きも見ていきましょう。一から起業する場合と手続きが異なりますのでご注意ください。
個人事業主が法人化する手順
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STEP1.法人の設立
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STEP2.個人事業の廃業手続き
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STEP3.資産や負債の引き継ぎ
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STEP4.許認可手続きや各種契約物の名義変更
STEP1. 法人の設立
法人化するには会社設立手続きが必要です。前述の株式会社設立の手順に沿って法人を設立します。
STEP2. 個人事業の廃業手続き
会社設立後、個人事業の「個人事業の開業・廃業等届出書」(廃業届)を管轄の税務署に提出し、廃業手続きを行います。青色申告をしていた場合は「所得税の青色申告の取りやめ届出書」の提出も必要です。
また、個人事業主から法人になると、たとえ従業員がいなくても、会社から自分(社長)に役員報酬が支払われるため、「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」も忘れずに提出しましょう。
STEP3. 資産や負債の引き継ぎ
事業に関わる資産や負債を、新たに設立した会社に引き継ぎます。資産の移行には、「売買契約」「現物出資」「賃貸契約」の3つの方法があり、それぞれ手続きや税法上の取り扱いなどが異なります。
STEP4. 許認可手続きや各種契約物の名義変更
許認可が必要な事業を営んでいる場合や、オフィスや店舗の賃貸契約を結んでいる場合などは、個人から法人への名義変更を行います。取引に使用する銀行口座も、個人名義のものとは別に法人名義の口座を開設しましょう。
なお、会社設立後は税金関係や社会保険関係の手続きが必要です。
法人化するメリットや手続きはこちらの記事で解説していますので、参考にしてください。
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1人の会社でも法人を設立することで、社会的信用度の向上や責任の範囲が制限されるといったメリットがあります。ただし、会社設立には所定の手続きが必要で、提出書類も多岐にわたります。会社設立にあたっては、慣れない作業に戸惑いや不安を感じることがあるかもしれません。
そのような場合は「弥生の設立お任せサービス」や「弥生のかんたん会社設立」といったクラウドサービスを活用することで、会社設立にかかる手間とコストを抑えることが可能です。便利なクラウドサービスを上手に活用して、スムースな会社設立を行いましょう。
この記事の監修者森 健太郎(税理士)
ベンチャーサポート税理士法人 代表税理士。
毎年1,000件超、累計23,000社超の会社設立をサポートする、日本最大級の起業家支援士業グループ「ベンチャーサポートグループ」に所属。
起業相談から会社設立、許認可、融資、助成金、会計、労務まであらゆる起業の相談にワンストップで対応します。起業・会社設立に役立つYouTubeチャンネル会社設立サポートチャンネルを運営。