ママ起業家、向いている人と向いていない人の違いは?千田絵美さん(株)フロントステージ代表・インタビュー
執筆者: 阿部桃子
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子育てが一段落したり、今まさに子育て中の女性が会社を設立したり、個人事業主になったりする「ママ起業家」。一時期のブームを経て、現在では一般的なものとしてだいぶ定着してきている。
読者のなかにも、出産を経て「これから起業したい」と考えている方がいるかもしれない。でも、「仕事と家事と育児は両立できるの?」「家族の理解が得られない」などという、育児中のママならではの不安や悩みもあるだろう。
そこで今回は、10年あまりの会社員生活を経て、2016年9月にお子さんが保育園年長のときに広報・PRの会社を設立。仕事と家庭を両立させながら充実した日々を送っている株式会社フロントステージ代表の千田絵美さんに、「ママ起業」成功の秘訣を伺った。
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小学校の先生になるのが夢だった。でも採用3ヵ月で分かったことは……
広報・PRのお仕事を天職と言い切り、会社まで設立されてしまった千田さんですが、実は異色の経歴をお持ちだそうですね。
子どものころから小学校の先生になりたくて、新卒後に地元の山口県で先生になりました。でも、臨時採用の3ヵ月で、教育や子どもは大好きだけど、自分に「公務員」は向いていないとわかりまして(笑)。
次は正反対の世界に行こうと思い、「成果重視」というイメージの営業職に就くことにしました。
営業職は、営業スタイルを自分で考えて、お客様と接して、結果を出すというのが楽しかったですね。ただ私、結婚・出産しても仕事を続けたいと考えていましたので。営業職ではそれが厳しいこともわかりました。
そんななか、24歳にして、この世の中に広報やPRという仕事があることを偶然知りました。絶対やってみたいと思ったのですが、当時、メディアの9割は東京にあり、広報やPRのお仕事は東京でしか機能しないという現実にも直面します。
当時は山口県から広島県の会社に通勤していたのですが、会社をやめてすぐ、東京に引っ越しました。
憧れの広報としてのキャリアをスタート
すごい思い切りの良さですね。異業種からの転職活動に苦労はありませんでしたか?
3ヵ月間くらい無職で生活できるくらいの貯金があったので(笑)、そんなに焦ってはいませんでした。ありがたいことに、上京して3週間でベンチャー企業の広報職での採用が決まりました。
社長秘書も兼ねていたこと、自分ひとりしか広報担当がいなかったこともあり、ハードな日々ではありました。でもとにかく、思い描いたことができている充実感でいっぱいでしたね。
そこから起業までの道のりは?
その会社には2年半ほどお勤めしたのですが、次は大企業の広報を経験してみたいと思い、化粧品メーカーに転職しました。ここでは広報チームが10人もいて、ベテランの先輩から学ぶことも多かったですね。新商品の記者発表会など、盛大で華やかなイベントも経験できました。
この会社には途中出産・産休をはさんで5年お勤めしました。ただ、産休中に、やっぱり自分にはベンチャー企業が向いていると思ったのと、5年後くらいの独立を見据えて、いちから会社の作り方、経営を学んで行こうと考えたことから、社員10人以下のネットベンチャー企業に転職しました。
新しい会社の代表取締役は、私と同じ年でした。そんな彼のもとで、2年間ほど経営に関することを学んだのです。
同時に、自分の会社はこうしようというビジョンを固めて行き、2016年9月に株式会社フロントステージを設立しました。
もっと自分の力を発揮したい! そのためにも独立の道を選んだ
そもそもなぜ会社員ではなく、起業したいと思われたのでしょうか?
会社員時代はなんとなく力を持て余していて、自分はもっとできるというモヤモヤを抱えていました。そのため、いつかは起業したいと思うようになりました。
実際に起業した今、自分の力を発揮し尽くしている充実感があります。
仕事の忙しさ、ワークライフバランスはどう変化しましたか?
会社員時代は17時に仕事が終わり、18時に娘を保育園に迎えに行って、夜仕事をすることはありませんでした。でも現在は夜もほぼ仕事していますし、仕事をする時間は増えましたね。
さらに、広報のお仕事は、クライアントさんの突発的なリクエストに応えなければいけないこともあり、大変なことがないわけではありません。また経営者として、やらなくてはならないこともたくさんあります。
でも、クライアントさんが喜んでくださるのが何よりうれしいですし、またこれは自分で選んで、納得してやっている仕事ですから。とにかく毎日が楽しいです。
現在小学2年生の娘さんが保育園の年長さんのときに、会社を設立されましたね。育児のほうで、大変なことはありませんでしたか?
娘は頻繁に熱を出すようなタイプではなかったので、あまり苦労はありませんでした。ただ、娘が病気のときにはそばにいたいと思っていたので、主人と交替で仕事を休み、自宅で仕事をすることもありましたね。
あとは小学校に入ると親の出番が増えますから。仕事の案件は忘れることはないのですが、小学校の案件は忘れまくっていて(笑)。
でも今ではしっかりしたママ友とLINEで繋がり、持ち物や提出物など、重要事項をリマインドしてもらっています。
娘も「ママ、あれはもう準備した?」と教えてくれます。娘のほうがしっかりしていますね。
「ママ起業」のハードルを乗り越える方法は?
ママが起業するにあたり、家族の理解が得られにくいという話もよく聞かれますが。
私の場合、親や主人にいつか独立すると話していましたから。反対されたことはありませんでした。
ただ、ママ起業家にとって、起業する大きな理由のひとつに、「仕事をしながら家族も大事にしたい」という思いがあると思います。このことを家族にしっかりと伝えることが大切なのではないでしょうか。
あとは、自分が本当に起業したいのかをしっかり整理しておくこと。起業したいけど、家族の反対にあったなどの理由から勇気が出ないのだったら、今がそのタイミングではないのかもしれません。
私も10年以上会社員をやってきましたが、自分が心から起業したいと思えるまでには何年もかかりましたから。
ただ、起業するかどうか迷っている方からは、お金に弱いから不安、確定申告が難しそう、といった声もよく聞かれます。でも私は、経理は完全にアウトソーシングして、本業や組織を作って会社を運営することに専念していますから。
そういう方法もあるということを知ってもらいたいですね。
「起業して万が一失敗したら怖い」というママもいると思いますが、そのあたりはいかがでしょうか?
うまく行かなくても、自分でやってみようと思った決意とか、挫折するまでの経験は全部無駄ではないと思うんです。そのあとの仕事や人生に活かせればいいですよね!
ただ、「もしかして、起業に向いていないタイプなのかな?」と思うのが、理想が高すぎて、いつも不安を抱えているような方。雑誌のインタビューで成功している女社長を見てしまうと、「自分はダメだ」と思ってしまうような……。
起業したからにはこうでなくてはならない、という決まりはなくて、自分なりのスタイルを貫ければいいわけですからね。
フリーランスが向いている人、法人化が向いている人
千田さんの周囲で起業するママは増えていますか?
確実に増えています。仕事柄、私のまわりには広報とPRの職種が多いのですが、アクセサリーを制作してEC運営しているという方もいます。ただ、法人化した方は少なくて、1人で働くフリーランスのママが圧倒的に多いですね。
どんな方がフリーランスになっていますか? 傾向などがあれば教えて下さい。
仕事ができる人。独立する前も、会社から仕事をもらっているというより会社を使って勉強してやろうという志を持っているような方ですね。
また、たとえば広報業界で言うと、かなりの大手企業でない限り、会社員という立場だとPRするサービスもひとつだけになりがちです。でもそれ以外のところも見てみたい、いろいろなサービスのPRをやってみたいという好奇心旺盛な方。
あとは動機として、仕事も家族の時間も両方大切にしたいからフリーランスになったという方が多いですね。実際は案件を受けすぎて、そうも行かないという声もありますが。
反対に、千田さんは法人化されましたよね。それはどういった理由からだったのでしょうか?
私の場合、ひとりで働くよりもスタッフを雇って、みんなで仕事を回していくのが合っているタイプであること、また、組織だからこそできる仕事をしたいと思ったことから、株式会社を設立しました。
実際現在、正社員5人、業務委託やアルバイトさんを含めて10人弱のスタッフで働いています。将来的には10年で仲間を増やして、100人規模の会社にしたいと考えています。
あとは少し恥ずかしいのですが、起業前に「個人事業主」、「フリーランス」、「代表取締役」と書き出してみて、自分が呼ばれたら好きな響きはどれかな? と考えてみたんです。
そのなかで一番、代表取締役がカッコいいかなと思えたので(笑)。
実際、「代表取締役」に向いているのはどんなタイプだと思いますか?
私に関して言えば、「ボス猿タイプ」ですかね(笑)。全部自分で決めて、自分が好きな社員と、自分が好きなクライアントと働きたいんです。もちろん社員がやったことの責任はすべて負うという覚悟はありますが。
あとは、学生時代に学級委員をやっていたり、クラスを仕切っていたようなタイプの方は、独立・起業が向いているかもしれませんね(笑)。
法人化するにあたり、最後にお勤めした会社でノウハウを学んだ以外に、どんな準備をされましたか?
どちらかというと私は実践型のタイプなんだと思います。ビジネススクールにも通っていません。会社を設立し、運営しながら自分で覚えて行きました。
とはいえ、組織づくりも、採用面接もまったく初めてのこと。でも、やるしかなかったので、設立当初はひたすら息をきらして走りつづけている感じでした。
組織づくりや運営にあたり、ご自身の会社員時代の経験を参考にしたことはありますか?
弊社では、ママを含め誰もが働きやすいよう、正社員、業務委託、アルバイト、インターンと多様な雇用形態を採用しています。パートタイムで週3~4日時短勤務、週2回の自宅勤務など、勤務形態もフレキシブルにしています。
あとスタッフには、自分が「力を発揮できている」という実感を得てもらいたいと考えています。そのためにも、思いきり仕事をしたいのか? 少しずつでいいのか? スタッフそれぞれのモチベーションを見ながら、仕事の任せ方を変えるようにしています。
またママのスタッフに関して言うと、誰かに迷惑をかけてはならない、しんどくても我慢して頑張ろう思ってしまうのか、自分が大変になっても周囲に言わない方が多いですね。
でも、SOSのサインを出さないから大丈夫、大丈夫そうに見えるから任せよう、ではなくて、私から見て少しでも違和感を覚えたら、仕事の量を調整するなど、こまめにフォローするように心がけています。
最後に、起業を目指すママにメッセージをお願いします。
今はさまざまな制度も緩くなってきていて、会社員をやりながら会社を設立したり、副業したりすることが可能になるケースも増えてきています。
会社員を続けるのも起業するのも、私が毎日楽しく仕事をできるのはどれ? と、まずイメージをしてみてほしいです。もし起業したほうが楽しそうと思えるなら、いちど挑戦してみてはいかがでしょうか。
Photo:塙薫子
千田絵美せんだ・えみ
1980年生まれ山口県岩国市出身。
広島修道大学卒業後、小学校教師を経て、2004年に(株)KG情報に広告営業担当として入社。2006年に「出前館」を運営する夢の街創造委員会(株)に広報・社長秘書担当として入社。
2008年に(株)ドクターシーラボに広報担当として入社。2010年に第1子となる娘を出産後、育休を経て職場復帰。2013年に(株)ブラケットにPRマネージャーとして入社し、同社の運営する「STORES.jp」は
月1回以上テレビに取り上げられ、売上・ユーザー数毎年200%成長に貢献。
2016年9月に(株)フロントステージを設立。
プライベートでは、働くママのロールモデルをシェアする「パワーママプロジェクト」を主宰。
この記事の執筆者阿部桃子
早稲田大学卒業後、出版社、テレビ局勤務などを経てフリーランスに。専門分野は教育・育児支援、ビジネス、キャリア。『日経トレンディ』『AERA with Kids』『Bizmom』などで執筆。2児の母。活字好きの子どもを増やすべく、地域で読書ボランティア活動にも励んでいる。