株主名簿とは?記載事項や作り方、株主名簿記載事項証明書との違い
監修者: 森 健太郎(税理士)
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株式会社を設立する際には、株主名簿を作成しなければなりません。株主名簿とは、株主の情報をまとめた書類のことで、たとえ株主が自分だけの一人会社でも作成が必要です。
ただ、初めて会社を設立する場合には、株主名簿の作成方法や株式名簿への記載方法で戸惑う方が多いかもしれません。
ここでは、株主名簿を作るべき理由や株主名簿の記載事項・書き方のほか、管理方法などについても解説します。
株主名簿は自社の株主の情報を管理する名簿のこと
株主名簿とは、株式を発行する会社が作成する名簿です。株式名簿を作成するのは、自社の株主状況を把握し、管理するためです。株主名簿には、株主の氏名、住所、保有株式数、取得年月日等が記録されています。
会社法では、すべての株式会社に対し、株主名簿を作成して本店に備え置くことを定めています。株式会社を設立する際には、たとえ一人会社であっても株主名簿を作成しなければなりません。さらに、売買や相続などで株式が移動した場合は、その都度、名簿の情報も更新する必要があります。
なお、以前は、会社設立にあたって税務署に法人設立届出書を提出する際、添付書類として株主名簿が必要でしたが、現在は提出不要となっています。
株主名簿と株主リストの違い
株主名簿と似たものに、「株主リスト」があります。株主リストも株主の情報を記載した書類ですが、株主名簿とは目的が異なります。
株主リストは、変更登記申請にあたって株主総会の決議を要する場合などに、登記申請と併せて法務局に提出する書類です。一方、株主名簿は前述したように、株主の情報を把握・管理するために作成する書類です。
株主リストには、株主の氏名、住所、株式数のほか、議決権数や、場合によっては議決権数割合も記載する必要があります。
なお、登記申請で添付が必要な株主リストは、記載内容が異なるため株主名簿で代用することはできません。混同しないように注意しましょう。
株主名簿と株主名簿記載事項証明書との違い
「株主名簿記載事項証明書」も、株主名簿と混同されやすい書類です。株主名簿記載事項証明書とは、株主名簿に記載されている内容を証明するための書類のことです。株主から請求があった際に会社が作成するもので、株主名簿と作成目的が異なります。
株主名簿記載事項証明書の作成が必要になるのは、株券不発行会社で株式譲渡を行う場合です。株式を譲渡する際、株券を発行している会社であれば、株券の引き渡しを行うことで株式所有の証明になります。
しかし、株券不発行会社では、株券の引き渡しを行うことができません。そこで、株主名簿記載事項証明書を使って、株式を譲渡する人が所有者であることを証明します。株主名簿記載事項証明書には、株主名簿の記載事項に加えて、代表取締役の署名や記名押印が必要です。
株主名簿と株式リスト、株主名簿記載事項証明書への記載項目
株主名簿 | 株主リスト | 株主名簿記載事項証明書 | |
---|---|---|---|
作成目的 | 自社の株主状況の管理 | 法務局への提出 | 株主名簿の記載内容の証明 |
記載項目 |
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株主名簿を作るべき理由
株主名簿には、株主情報の管理や株主の権利の保護といった、さまざまな役割があります。会社が株主名簿を作るべき理由として、以下のようなものがあげられます。
株主名簿を作るべき理由
- 会社が株主の情報を把握するため
- 作成が義務付けられているため
- 株主名簿をスムースに開示できるようにしておくため
- トラブルを回避するため
- 株主リストの作成をスムースに行えるようにしておくため
会社が株主の情報を把握するため
株主名簿を作るべき理由として、会社が株主の情報を把握できることがあげられます。株主名簿がないと、誰がどれだけ自社の株式を保有しているのか、適切に管理することが難しくなってしまいます。
株主の数が少ないから大丈夫だろうと思う方もいるかもしれませんが、株式の分割や相続などがあると把握できなくなる可能性もあります。株主名簿を作成し、株主の情報を正しく把握することは、株主総会に参加したり会社から配当金を受け取ったりする株主の権利の保護にもつながります。
作成が義務付けられているため
株主名簿を作るべき理由として、作成が義務付けられていることもあげられます。
株主名簿は会社法によって作成が義務付けられており、作成しなかったり、記載すべき事項を記載しなかったりした場合には、「100万円以下の過料に処する」とされています。
たとえ一人会社であっても、株主名簿の作成は必要なので注意しましょう。
株主名簿をスムースに開示できるようにしておくため
株主名簿を作るべき理由として、株主名簿をスムースに開示できるようにしておくことがあげられます。
株式会社は、株主名簿を本店(株主名簿管理人がある場合はその営業所)に備え置き、株主から請求があったときには開示する義務があるためです。株主から株主名簿の開示請求があったときは、基本的に拒否できません。
そのため、株主名簿を作成して常に最新の情報に更新していれば、株主からの開示請求に対してもスムースに対応できるでしょう。
トラブルを回避するため
株主名簿を作るべき理由として、トラブルを回避できることもあげられます。
会社が正しい株主名簿を作成していれば、株主から誤った主張をされた際に、その主張を訂正するエビデンスを持っておくことで、トラブルに発展するリスクを低減できるためです。株式の相続などにおいて認識の相違があったときにも、株主名簿で会社が株主を正確に把握していれば、トラブルの予防や解消につなげられるでしょう。
株主リストの作成が容易になるため
株主名簿を作るべき理由として、株主リストの作成が容易になることもあげられます。
株主名簿と株主リストは違う書類ですが、重複する記載項目は少なくありません。株主名簿で株主の情報を適切に把握していれば、変更登記する際に必要になる株主リストもスムースに作成できます。
株主名簿の記載事項と書き方
株主名簿の記載事項は、会社法によって、以下のように定められています。なお、株主名簿に規定のフォーマットはないので、必要事項が記載されていれば、任意の書式で作成してかまいません。作成する際に参考にしてください。
株主名簿の記載例
- 出典:法務省「05_株主名簿(記載例)」
株主の氏名または名称および住所
株主が個人の場合は氏名と住所を、法人の場合はその名称と本店(本社)の所在地を記載します。
株主の有する株式の数
株主ごとに、所有する株式の数を記載します。1種類の株式しか発行していない場合は、「普通株式◯◯株」というように記載しましょう。2種類以上の株式(種類株式)を発行している場合は、株主が所有する株式の種類と、種類ごとの数を記載する必要があります。
株主が株式を取得した日
株式を取得した日とは、一般的に、株主によって株式の代金の払い込みが完了した日のことを指します。会社設立時に株主名簿を作成する場合は、会社設立日が取得年月日となります。
株券の番号
株券を発行している場合は、株券の番号を記載します。定款に株券を発行する旨の記載がなければ、株券を発行する必要はありません。そのような場合は、備考欄に「株券不発行」と記載しておきましょう。
その他の追加記載
株主名簿には、上にあげた基本的な記載事項に加えて、状況に応じて記載が必要になる項目があります。追加記載が必要になるのは、以下のようなケースです。
- 株式に質権が設定されている場合
- 株式に質権を設定するとは、株式を担保にしてお金を借りるということです。株式に質権を設定した人(株主)は、質権者の氏名または名称、住所、質権の目的である株式を、株主名簿に記載するよう会社に請求することができます。
- 株式が信託財産に属する場合
- 信託とは、自分の財産を信頼できる第三者に託し、管理や運用をしてもらうことです。株主が所有する株式が信託財産になった場合、株主は会社に対して、その旨を株主名簿に記載することを請求できます。
- 株主から株券不所持の申し出があった場合
- 株券発行会社の株主から、株券の所持を希望しないという申し出があった場合には、株主名簿に株券を発行しない旨を記載しなければなりません。
株主名簿の管理方法についての要件
株主名簿は、会社が存続する限り保管しておかなければならない書類です。開示請求があった際には速やかに対応しなければならならず、株主名簿は適切な管理が求められます。企業が行うべき管理方法の要件について確認しておきましょう。
株主名簿の管理方法についての要件
- 株主名簿は基本的に本店で管理する
- 株主名簿の管理は株主名簿管理人に委託できる
株主名簿は基本的に本店で管理する
株主名簿の要件として、基本的に本店で管理しなければなりません。会社法第125条では、「株式会社は、株主名簿をその本店(株主名簿管理人がある場合にあっては、その営業所)に備え置かなければならない」と定められているためです。
また、株主や債権者は、会社の営業時間内であれば、いつでも株主名簿の開示請求をすることができます。株主や債権者から株主名簿の閲覧やコピーの提出を請求された場合、その理由が正当なものであれば、会社は拒否することはできません。
株主名簿の管理は株主名簿管理人に委託できる
株主名簿の要件として、株主名簿の管理を株主名簿管理人に委託することもできます。
株主名簿管理人とは、会社に代わって株主名簿の作成や保管、関連事務を行う者のことです。株主名簿管理人に資格などの規定はありませんが、中小企業なら司法書士、資本金が5億円以上または賃借対照表の負債額が200億円以上といった規模の大きい企業なら、信託銀行や信託会社が管理するのが一般的です。
なお、株主名簿管理人を設置する場合は、定款への記載や登記が必要なので、記載を忘れないようにしましょう。
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株式会社を設立する際には、株主名簿を忘れずに作成しよう
株主名簿は、すべての株式会社に対して作成が義務付けられている書類です。たとえ株主が自分だけの一人会社であっても、株主名簿の作成は必要です。
また、作成した株主名簿は適切に管理し、株主の情報に変更があった場合は適宜更新をしなければなりません。株主名簿は設立登記の提出書類には含まれていませんが、だからといって後回しにすると、そのまま作成するのを忘れてしまいがちです。
株主名簿は、決められた記載事項さえ押さえれば、作成はそれほど難しいものではありません。株式会社を設立する際には、きちんと株主名簿を作成するようにしましょう。
この記事の監修者森 健太郎(税理士)
ベンチャーサポート税理士法人 代表税理士。
毎年1,000件超、累計23,000社超の会社設立をサポートする、日本最大級の起業家支援士業グループ「ベンチャーサポートグループ」に所属。
起業相談から会社設立、許認可、融資、助成金、会計、労務まであらゆる起業の相談にワンストップで対応します。起業・会社設立に役立つYouTubeチャンネル会社設立サポートチャンネルを運営。