原点は「知らず知らずのうちに損をする企業をなくしたい!」という想い。

起業時の課題
資金調達, 集客、顧客獲得, 製品/サービス開発, マーケット・ニーズ調査, バックオフィス業務

法人登記に必要な書類を自動作成できるサービス「Legal Script」を中心に、システムの開発支援や法務関連のWEBメディアも手掛ける「株式会社リーガルスクリプト」代表の平井 宏和さん。

起業時に抱えていた自身の課題や失敗に着目することで、事業を展開されてきた平井さんと同社役員の杉野さんに、起業時の体験談をはじめ、バックオフィスや資金調達など会社運営についてのお話を伺いました。

会社プロフィール

業種 IT関連(ソフトウェア開発)
事業継続年数(取材時) 6年
起業時の年齢 20代
起業地域 大阪府
起業時の従業員数 1人
起業時の資本金 100万円

話し手のプロフィール

会社名
株式会社リーガルスクリプト
代表

平井 宏和(写真左)

株式会社リーガルスクリプト取締役

大学在学中に株式会社サンプルテキストを創業し、大手予約サイトのシステムやスタートアップのプロダクトの開発を受託する。
2018年より法人登記支援サービスLegal Scriptの開発を行う。
2020年1月に社名を「株式会社サンプルテキスト」から「株式会社リーガルスクリプト」へ変更。

役員

杉野 敦(写真右)

株式会社リーガルスクリプト取締役

司法書士事務所勤務後、児童福祉関連事業の立ち上げを行い、財務及び許認可の調整を担当。2018年より株式会社サンプルテキストに参画。
Legal Scriptの事業開発及び海外リーガルテック製品の調査研究等を行う。

目次

「まずは何も考えず始めてみよう!」大学在学中に起業

まず、起業された経緯についてお聞かせください。

平井:大学時代、「プログラミングを使って、何か事業をやっていきたい」と思い、在学中に今の会社の前身となる「株式会社サンプルテキスト」を立ち上げました。一人でシステム開発を請け負うところから始め、2年前の2019年6月に「Legal Script」というサービスをローンチして、これが今のメイン事業となっています。

「Legal Script」は、法人登記に必要な書類をオンライン上で自動生成するサービスです。本来、司法書士などの専門家に費用を支払い、代理で作成してもらうような複雑な書類を、ユーザー自身がフォームに則って入力することで簡単に自動作成できるようになっています。

大学でプログラミングを学ばれ、大学在学中に起業されたとのことですが、ITの道に進もうと思われたきっかけは何ですか?

平井:小・中学生のころからパソコンを触るのが好きだったことに加え、当時は「ITベンチャー企業」が賑わいをみせていたので、市場が大きく、これからの時代を作っていくのはITだ、という実感がありました。そのため、まずは自分自身でプログラミング力を身につけようと勉強し始めたのがきっかけです。

大学在学中での起業に対して、当時はどのような思いがありましたか?

平井:私の周りには大学在学中に起業しようとする友人が結構多かったので、そこまで起業に対し“ハードルが高いもの”という意識はありませんでした。また、学生ということでリスクを取れる立場にいたので、「まずは何も考えずにやってみよう!」という気持ちで、システムの受託開発会社を立ち上げました。

杉野:ITの受託開発であれば固定費も多くはかからないですしね。

平井:そうですね。しかし、会社を運営し始めたからには無収入というわけにいかないので、まずは最初の仕事をとってくる必要がありました。そのため、会社を立ち上げる前に周りの友人や先輩に「ITの受託開発の仕事を始めようと思っています」と周知して、仕事をもらえるよう営業活動を進めていましたが、1人で会社を立ち上げたこともあり、営業してシステム開発を受託するという“事業を作りにかかる作業”が大変でした。

設立当時に悩んだバックオフィス業務を事業の柱に

法人登記をはじめ法務を事業のメインにしようと思われたきっかけは何ですか?

平井:起業するにあたり、ずっと「受託だけでなく、いつか世の中のためになるプロダクトを自社で作りたい」という思いがありました。そして、先輩や友人から仕事をいただきながらシステム開発を行い、「私も何か自分で作れるな」と思ってきたタイミングで、大学時代の友人でもあった杉野と話す機会があり、そこで現在のメイン事業となるリーガルテックのサービスアイデアが出てきたんです。

杉野:平井とは大学時代に同じシェアハウスに住んでいたこともあり、私が大学卒業し就職してからも付き合いが続いていました。ある時、友人同士での飲み会で「何か新しいことをやりたい!」という流れになりまして。平井にはITのバックグラウンドがあり、私自身は当時法務関係の仕事をしておりましたので、「じゃあ一緒に法人登記に関するサービスをやろう」となったのがきっかけですね。

平井:法人登記をはじめとしたバックオフィス業務は自分で会社を運営し始めてから課題に感じていたことが多くありました。杉野と話をしていて、当時はその分野にチャレンジしている会社も少なかったので、法人登記のサービスに挑戦する価値は高いのではないかなと思い、事業をスタートさせました。

ご自身が課題に感じられていたのは具体的にはどのようなことですか?

平井:自分で会社を立ち上げたときは、行政手続きなど事業以外のバックオフィス業務に関しては無知の状態からスタートしました。そのため、設立登記の手続きの段階から、何をすればよいのかわからない状態でした。

会社を設立するためにはどういう書類を準備しなければならないのか、いざ設立してからもどのような手続きが必要なのか、必要ではないのか。専門家や、当時まだ社員ではなかった杉野にも随時アドバイスを受けながら進めていきましたが、税務や労務なども含め初めて直面することばかりで、とにかくバックオフィス業務をどうクリアしていけばよいのかが課題でした。

その後、杉野が会社に加わってから法務関係のITサービスを立ち上げようと事業開発にチャレンジしたのですが、法人登記や変更登記などを自分で行おうとすると難しく、専門家に頼むと結構費用がかさんでしまった経験もあり、これも事業に活かすことができました。「Legal Script」は、2021年8月現在4,000社以上の方にご利用いただけています。自分自身が課題に思っていたことを解決するサービスを世に出してみて、実際に使ってもらえるのかという不安もあったのですが、今では多くの方にご利用いただけていることで、サービスを生み出して成功だったと感じております。

SNSでの認知活動がつないだ意外なご縁

起業時の資本金や資金調達された方法について教えていただけますか?

平井:会社設立時の資本金は100万円で、私自身の貯金を用いて立ち上げました。「Legal Script」ローンチ後は社員も増えていきましたので、受託開発をしていたときの収益を運転資金に充てる形で進めていきました。

杉野:以前勤めていた会社でクライアントの銀行融資を手伝った経験を活かし、銀行に融資の相談にも行っていたのですが、サービスローンチ後は、広告費や新たに雇用した社員の給料の支払いなど、一時的に資金がギリギリの状態になってしまったことがありました。私もお金を出して参画したのですが、一瞬でお金がなくなってしまう状況で。

そのため、銀行への融資の相談以外にも投資家を探すなど、資金調達に奔走したのですが、資金調達があと何か月か遅ければ倒産していたような危機を経験しました。

危機の中、どのように資金調達をしたのですか?

杉野:当時は、今よりも規模が小さかったリーガルテック業界ですから、「まずは存在を知ってもらおう」とTwitterをはじめとしたSNSを活用し、さまざまな業界の方とつながっていくところからのスタートでした。そこで徐々に認知していただくようになり、ある時、法務関連の企業からお声がけいただいて資金調達することができました。その際のファーストコンタクトはTwitterのDMだったので、広報という面だけでなく、資金調達の面でもSNSに力を入れてよかったです。

平井:意外にもSNSの活用が資金調達までつながりました。

杉野:今思えば、しっかりと細かい事業計画を立て、先を見越して早め早めに金融機関に行くなど、資金調達の手筈を整える必要があったと思います。資金調達のスタートがギリギリになってしまったことが倒産の危機を招く原因となってしまったので、余裕を持って準備することが重要だと感じました。

数百万円の補助金申請を逃した経験が事業のヒントに

現在の経営について、重点的に取り組まれていることや、課題とされていることはありますか?

平井:現在、弊社は法人登記のサービスをメインに提供していますが、今後は中小企業のバックオフィスを支援するサービスを展開していきたいと考えています。私自身が会社を運営するにあたってバックオフィスに課題を感じており、行政から“こういう手続きを行ってください”という知らせが届いて、場当たり的に必要な手続きを行っていくということが多々ありました。

補助金や助成金についても、今考えると申請すれば数百万円分の補助金を取得することができたものも、当時は自分が対象になるものがあると知らなかったので、取得することができませんでした。そういう情報は自分でキャッチアップしなければならなかったので、会社を立ち上げたときに苦労したことの1つでしたね。そのため、中小企業を経営されている方に向けて、バックオフィスに必要な手続きや、申請が可能な補助金を提案できるサービスを作っていきたいと思っています。

今後の展望についてお聞かせいただけますか?

杉野:サービスを作っていく中で、“会社内で行う手続きから行政までつなぐ手段が分断されていて、必要な情報を探し出すのが難しい”という制度上の現状に大きな課題を感じています。そのため、弊社の大きな目標としましては、中小企業がストレスなく手続きをスムーズに行っていけるようなサービスの提供を考えています。当社のサービスによって、会社で行わなくてはならない多くの手続きや業務を簡単にし、“こういう手順で行うのが最適だ”というスタンダードを作っていきたいと思っています。

事業に全力投球するために、頼るべきところは頼る

貴社にとって、リーガルテック業界への挑戦が大きな転機の1つだったのではないかと思いますが、そのほかに転機となった出来事はありますか?

杉野:当時は拠点を大阪に構えていたので、「Legal Script」をローンチした翌日に大阪府が主催するアクセラレーションプログラムに応募したんですね。ありがたいことに、そこで採択されまして、上場企業の社長と面談していただける機会や、気鋭の起業家と一緒にグループワークやディスカッションをする機会がありました。そこで、会社の運営や事業に対する目線を高めることができたので、転機の1つだったと思います。

お2人にとって、起業や会社運営における醍醐味は何ですか?

平井:「Legal Script」という事業を展開していく中で、最初は苦しいながらも、杉野や他のメンバーたちと「ここは、こういう風にした方がいいんじゃないか」「広報や営業をこういう風にしたら、お客様に知ってもらえるんじゃないか」など、ひたすら皆で突き詰めながら進んできました。

そんな風に、“自分たちで自由に作れる”ということこそ、起業したからできた経験だったと思います。もちろん、その分自分自身がリスクを背負うことにはなるのですが、それでも自由に新しいことに取り組めたのは、とてもよかったと思っています。

杉野:なかなか新しいサービスが少ないリーガルテック業界で、この2~3年、弊社も含めて業界の市場規模が拡大してきました。徐々に社会や業界が変わっていく様子を肌で感じられたことも醍醐味の1つだと思います。

それでは最後に、起業を目指している方に向けてメッセージをお願いします。

平井:自分で会社を立ち上げたからには、全部自分でしなくてはいけないと思ってしまうこともあると思います。もちろん、自分で調べて、自分なりの正解を見つけていくことも重要ですが、世の中には起業や会社運営を手助けするサービスや専門家もいるので、頼るべきところは頼ることで、本来自分が注ぐべき事業に力を注いでもらいたいなと思います。

杉野:起業し、会社を運営していく中でいろんな不安があると思います。しかし、そこには必ず先行して経験してきた先輩たちが必ずいますので、まずは落ちついて解決策を調べましょう。そうすると、助成金をはじめとした、お得な制度やサービスを見つけることができます。WEBや書籍、専門家を活用しながら、まずは助成金を始め、法務や労務、税務、会計などについて調べていただくとよいと思います。

弊社も「Legal Media新規タブで開く」という法務に関する情報を配信するメディアを運営しておりますし、弥生株式会社の「弥生のかんたん会社設立」や「起業・開業応援パック」などの「起業・開業ナビ」を利用されれば安心だと思います。また、業種にもよりますが、そういうツールを活用すれば固定費をほとんど掛けず、自宅にてパソコン1つで会社を運営することもできます。実際、弊社は新型コロナウイルスが流行する前からリモートワーク中心の勤務を行っています。コロナ禍で難しい社会情勢ではありますが、逆に新しいビジネスチャンスも増えてきていますので、ぜひ失敗を恐れずチャレンジしてほしいなと思っています。

取材協力:創業手帳
インタビュアー・ライター:稲垣ひろみ

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