ママたちの笑顔のために。家事代行・育児サポートで創業した背景には、叶えたいビジョンがあった。

起業時の課題
人材確保、維持、育成, 集客、顧客獲得, 家族の同意

愛知県名古屋市で家事代行・ベビーシッターサービス「リズメリット」を創業した有吉祐恵さんは、自治体とも提携し、子育てママに寄り添う事業を展開しています。有吉さんは、百貨店で学んだ接客・マナー研修を事業に取り入れたり、就業規則や企業理念を綿密に策定したりと、徹底した起業準備を行いました。

今回のインタビューでは、事業成功の裏側や事業運営における夫婦間のバランスの取り方について、率直にお話ししていただきました。これからビジネスを始める方や、ワークライフバランスを模索中の方にとって、多くのヒントを得られるでしょう。

会社プロフィール

業種 サービス業 (代行・請負業)
事業継続年数(取材時) 6年
起業時の年齢 40代
起業地域 愛知県
起業時の従業員数 3人
起業時の資本金 800万円

話し手のプロフィール

有吉 祐恵
株式会社リズメリット 代表取締役
『ママの笑顔は家族の笑顔を作る』と3人の子供たちと接している中で気付き、ママサークルでママが自身の子供を愛することでみんなが世界で一番愛されていることになると確信。NPO法人での動物愛護活動で犬の殺処分0を達成し、社会は1人1人の強い想いで変えることができると体験したことから、『笑顔の連鎖』を理念に家事代行・シッターサービスでママの笑顔を作る「株式会社リズメリット」を設立。利用者・提供者共に女性活躍を推進していることから愛知県より推薦を受け、「愛知女性活躍プロモーションリーダー」として活躍中。

目次

ママの笑顔を支えるリズメリットの取り組み。

事業内容について教えてください。

有吉さん:私たちは愛知県名古屋市や岡崎市を中心に、家事代行やベビーシッターなどのサービスを提供しています。また、自治体の産前産後支援事業にも参加しており、愛知県名古屋市・豊田市・岡崎市・長久手市、そして三重県桑名市から委託を受け、妊娠中や産後間もないママの家事や育児をサポートしています。一言でいうと「ママの仕事は私たちにお任せください」というような事業ですね。

創業まではどのようなキャリアを歩まれたんですか?

有吉さん:私は21歳で結婚し、比較的早く子供を授かったため、子育てをしながら自宅でフリーランスとしてホームページ制作などの仕事をしていました。その後、約8年間パソコン教室での勤務を経て2010年に再びフリーランスとして独立開業しました。

そして夫とともに株式会社リズメリットを創業したのが2017年です。家事代行・ベビーシッター業での創業を決意したきっかけは3つあります。

1つは、私の母が重い病気により両足を失ったことです。このことで母は、カーテンを開ける、電気ポットのスイッチを入れるといった日常生活の細かな作業ができなくなりました。行政を通して受けられる支援サービスとして、ホームヘルパーサービスは存在しますが、依頼できる頻度は限られていて……。そのため、ちょっとした家事を頼めるサービスが身近にあってもいいんじゃないかと考えていました。

2つ目は、あるNPO法人で理事として動物愛護活動に携わったことです。「命を大切にするための行動とはこういうことだよ」と子供たちに見せてあげたくて積極的に働きかけた結果、名古屋市は犬の殺処分ゼロを達成しました。この活動を通じて「行動すれば社会は変えられる」ということを強く実感することができたんですね。

そして3つ目は、私が主催していた全国ママサークルでの経験です。社会には「完璧なママであるべき」という厳しい風潮もある一方で、このサークルでは、いわゆる親バカであることの素晴らしさや、ママが家庭で笑っていることの大切さを共有していました。

私は、事業を通じて「無理しなくていいんだよ、完璧じゃなくていいんだよ」と世の中の多くのママに伝えたいんです。家庭が安心できる空間であれば、それだけで家族は幸せになれるし笑顔でいっぱいになれます。『笑顔の連鎖』というリズメリットの理念の根本はここにあります。

ご夫婦経営の最初の壁とは?子供の一言が大切なことを思い出させてくれた。

創業準備はどのように進めたんですか?

有吉さん:まず商工会議所に相談して、社労士や税理士を紹介してもらい、必要な準備を整えました。創業時は夫が代表を務めることに。当時の考えとしては、男性が代表を務める方が社会的な信頼が得られやすいと感じていたからです。数名のスタッフとともに事業をスタートし、私は就業規則や企業理念の策定、ホームページ制作を担当していました。フリーランスの経験が活きましたね。

創業当初、特に注力していたのはスタッフの教育です。友人を自宅に招くことが少なく家への敷居が高い名古屋の地域性をふまえ、お客さまの家に入る際のマナー教育に重点を置きました。私も事業の傍ら百貨店で働いて、接客やマナー研修のノウハウを学び、それをリズメリットに取り入れることができました。しかし、創業から1~2年経ったころ、最初の壁に衝突します。

そうなんですね……!何があったんでしょう?

有吉さん:夫と事業に対する考え方をすり合わせることが難しかったんです。スタッフの増加や集客の成功の一方で、採用基準や社内ルールに関する意見の相違が続出してしまいました。

もともと企業理念には私の考えや経験が強く反映されており、また私もスタッフの行動指針の策定などに長けていました。しかし、企業理念を実際の行動にどう落とし込んでいくのか、スタッフの教育方針、そしてビジョンについても、夫との共有が難しくて……。これは単なる考え方の違いで、夫の視点が間違っていたわけではありません。

夫婦だからこそ感情的に意見を伝えてしまい、家庭内でも仕事のことで揉めてしまうこともあって大変でしたね。子供たちにも「食事中にけんかするくらいなら仕事をやめて」と言われる始末で、それはごもっともだなと。そこで改めて夫婦で話し合って、最終的には、2019年に私が会社の代表を務めることとなり、家庭と仕事のバランスを取り戻しました。

仕事も家庭も円満に、というのはなかなか難しいものですね。

有吉さん:おっしゃる通りですね。家族を大事にするという理念を掲げているにもかかわらず、わが家で実践できていなかったなと。この経験があったからこそ、大切な思いに立ち返れたのでとてもよかったと思っています。

無借金経営から一転、初めての融資で解決したかった課題とは?

開業資金の準備はどのようにされたのですか?

有吉さん:創業時は100%自己資金で、夫の貯蓄で始めました。私も夫も借金に対して非常にシビアに考えるタイプで、「お金を借りて利子を払うのはもったいない」と考えていたんです。創業から長らく無借金経営を続けてきましたが、時間を先に買う、という考え方に切り替えて初めて融資を受けました。自社システムの開発費に必要な2,000万円です。大きな額でしたが、何事も経験ですね。

それは大きな融資ですね。自社システムについて具体的に教えていただけますか?

有吉さん:家事代行業の業務フローは特殊で、一般の企業とは異なるアプローチが必要です。例えば、1日のうちに何度か繰り返す出退勤の管理や、休憩時間や交通費の管理など複雑な処理がいくつかあり、一般的なソフトではカスタマイズが難しいんですね。

創業当時はGoogleのサービスを利用し自社でシステムを構築していたんですが、処理の限界を超えてしまって。そこで、家事代行業に特化したバックオフィスシステムを自社で開発することにしたんです。

融資の際の計画書作成は税理士に協力してもらいました。そのほか、補助金の活用時には中小企業診断士に、システム開発ではシステム会社の専門スタッフの方に協力を得ています。経営者の労力を削るためにも、相談できる専門家がいることはとても大切だと思いますね。

会社作りとは「人を育て、仕組みを作ること」。

現在、重点的に取り組まれていることや課題についてお聞かせいただけますか?

有吉さん:当社では年に一度、全員で顔を合わせる交流会を行い今年の重点事項を発表しています。例えば今年は、評価システムの導入に重点を置き、スタッフランクに関する説明や目標設定、それを達成する方法について話しました。研修の質を向上させ、スタッフのスキルアップにより一層の力を入れる予定です。

具体的には、社外に研修用の一般社団法人を立ち上げました。ここでは料理や着付けなども含めた、日常生活に役立つ知識を提供すると同時に、マナー研修にも力を入れています。マナーの良し悪しはお客さまとの関係に直接影響するので、会社としても引き続き重点的に取り組んでいきたいです。

一方で課題もあります。例えば、背任罪の問題です。スタッフが会社を通さずお客さまと直接契約することがあり、これまでに何度かスタッフを解雇せざるを得ない状況が生じました。私としてもショックの大きい出来事でしたが、とても大きな学びの機会になりましたね。道徳に頼らない仕組みを作っていくことが会社を作るということなんだな、と。

難しい課題ですね。ちなみにスタッフの方は現在何名ぐらいおられるのですか?

有吉さん:約50人です。雇用関係にあるといっても、私からするとお嫁に来てもらっているような感覚なので、「ここで働いてよかった」「リズメリットに入って人生変わった」と言われると、経営しがいがあるなと思います。

働きがいのある会社作りや社会貢献度の高い事業をされていて素晴らしいですね。

有吉さん:ありがとうございます。実は2023年に、愛知県から女性活躍のプロモーションリーダーとして推薦を受けました。他にも、リズメリットは愛知県労働局から働き方改革のモデル企業にも認定していただいます。事業内容だけでなく、経営スタイルにも注目していいただくことはとても光栄です。

感謝と学び、そして笑顔を忘れない。

有吉さんの温かなお人柄が多くの人を引き寄せてきたのがすごく伝わります。経営で日頃意識していることがあれば教えてください。

有吉さん:実は私、コミュニケーションが苦手で、人に何かを頼むこともあまり得意ではありません。あまり自分に自信はありませんが、とにかく必死に頑張ってきました。でも、例えばオリンピック選手など一流アスリートを見てもそうですが、一生懸命に挑戦していると自然と周りから応援していただけるもので、こうして多くのご縁に恵まれています。常に感謝の気持ちを忘れずに、還元していきたいです。

とはいえ、「ほどよくいい加減」な部分もたくさんあります(笑)。人との関わり方についても、以前はつい必要以上に深く関わってしまいがちだったんですが、本を読んでアドラー心理学を学んでからは、「これは他人の問題なのか、自分の問題なのか」と、“課題の分離”についても意識するようになりました。

書籍からも多くを学ばれているんですね。

有吉さん:そうですね。読書は好きです。著名な方の考えを、わずか1,000円と少しで学べるのは素晴らしいことだと思います。教科書のように一生懸命読み込むと疲れてしまうので、まずは雑誌感覚で眺めているだけでもいいと思っていて。そのときに必要な言葉は、きちんと心に引っかかってくれるものです。活字が苦手な人にはYouTubeの書籍要約チャンネルもおすすめですよ。

最後に、これから起業を考えている方々へのメッセージはありますか?

有吉さん:起業は大変ですが、どんな時も笑顔を忘れずにいれば、大抵のことは乗り越えられます。自分自身に厳しくなりすぎず、楽しむことを忘れないでください。それが、最終的にはあなた自身の人生を豊かにし、まわりの人の笑顔につながると思います。

取材協力:創業手帳
インタビュアー・ライター:間宮 まさかず

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