アパレル業界の企業を買収する際に知っておくべきM&Aの動向や留意点
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2000年代以降のアパレル業界は、ファストファッションブランドの台頭による低価格化やECサイトの普及など市場に大きな変化が起こっています。業界の競争力も激化しており、その対応策としてM&Aが行われています。
ここでは、アパレル業界の企業を買収する際に知っておくべきアパレル業界の概要や課題の他、M&Aの動向、M&Aの事例、買収するうえでの留意点を解説します。
アパレル業界の概況と課題
株式会社矢野経済研究所の「国内アパレル市場に関する調査を実施 」(2021年10月)によると、2015年から2019年のアパレル業界の小売の市場規模は、9兆円超でほぼ横ばいで推移していました。しかし、2020年になると、新型コロナウイルス感染症の拡大防止策による影響から約7兆5,000億円まで落ち込んでおり、アパレル業界全体でも市場規模は縮小傾向です。
アパレル業界の市場規模が縮小している主な要因には、経済の低迷の他、ベーシックな服を安価かつ大量に提供するブランドや流行ファッションを安価に提供するファストファッションブランドが台頭したことによる、衣料品の低価格化が進んだことも考えられます。その結果、根強いファンのいるハイブランドとファストファッションブランドが好調な一方、中間価格帯のアパレルブランドは軒並み不調という二極化が進んでいます。
また、経済産業省の「令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査) 」(2021年7月)によると、アパレル業界だけでなく、国内産業のECサイトの市場規模は2013年以降右肩上がりで増加。前述の調査によると、2020年におけるアパレル業界のECサイトの市場規模は2兆2,203億円で前年比116.3%の成長率でした。
ECサイトの売上が増加した要因には、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進によってECサイトが手軽に運営できるようになったこと、設備や人件費の削減によるアパレルブランドの店舗撤退、新型コロナウイルス感染症の拡大防止策によって、消費者の購買行動が実店舗からECサイトにシフトしていることなどが挙げられます。
こうしたことからアパレル業界では、変化する市場に合わせて迅速に対応していくことが課題といえます。
アパレル業界のM&Aの動向
アパレル業界は、企画、製造、卸、小売などの業態に分けられますが、近年では自社で企画・デザインから製造、販売までを一貫して行う製造小売業(SPA)に業態を変えるケースも増えています。
製造小売業(SPA)は、販売動向から顧客ニーズをいち早くキャッチして商品開発に活かせる、仲介業者を通さないことで原材料や流通コストを抑えられるといったメリットがあり、多くのファストファッションブランドが取り入れている業態です。
その他、ファストファッションブランドに対抗するためにM&Aを行って、自社と異なる業態の企業を買収してサプライチェーンを強化したり、企画力のある会社を買収して自社ブランドを強化したりすることも増えています。
また、アパレル業界の企業が買手となるM&Aでは、ECサイトの強化やDXを進めるために、IT関連企業を買収するケースもあります。
アパレル業界のM&Aの事例
アパレル業界では、EC事業やブランド力の強化を理由にM&Aを行うことがありますが、ここでは実際に行われたM&Aの事例をご紹介します。
雑貨小売やEC事業などを行っていた事業者を、アパレル販売事業者がEC事業強化のためにM&Aしたケースです。売手はEC事業に強い一方、多くの在庫を抱えて経営不振に陥っていました。しかし、EC事業のノウハウがあることや取り扱っている商品も近いこともあり、買手はシナジー効果が得られると判断。アパレル事業者の買手による買収に至りました。
もう1つの事例として、繊維を専門に取り扱う商社が事業領域拡大のために、紳士・婦人服のデザイン、製造・販売を行うアパレル事業者の全株を取得し、子会社化したケースがあります。生地素材にもこだわりがあることや、海外展開も行っているブランド力といった売手の知名度と信頼性は魅力的で、お互いに協業することで大きなシナジー効果が期待できると判断してM&Aが成立しました。
このように、アパレル業界ならではの変化に対応していきたいという買手のニーズと売手の課題がマッチすれば、買収しやくなります。
M&Aのメリットや買収を成功させるポイントについては別の記事で解説していますので、参考にしてください。
アパレル業界の企業を買収する際の留意点
アパレル業界の企業を買収するにあたってはいくつか留意点があります。特に確認したいのは以下の2つです。
キーマンとなる人材の雇用継続
アパレル業界の事業において許認可や資格などは特にありませんが、ファッションに関する知識や流行を読む力が必要です。例えば、ブランド力の強化を目的にアパレルブランドを買収する場合、キーマンとなるデザイナーやバイヤーが辞めてしまうと想定していた事業が行えなくなってしまうため、買収後も継続して雇用できるかを確認しておくことが大切です。
事業性評価における在庫状況と管理方法
アパレル業界の中でも小売業の企業を買収する際は、事業性の評価において在庫の状態や管理方法をしっかり確認することも必要です。アパレル業界の商品は季節や流行の影響を受けやすく、ライフサイクルが比較的早いため、在庫が多いと損失になってします。在庫管理はどのようなシステムになっているのか、無駄な在庫はないかなど、M&A後にIT技術を用いて管理する必要があるかどうかも含めて事業性の評価をすることが大切です。
M&Aに詳しい専門家やM&Aの相手先を探す方法
M&Aでは、買手のニーズとマッチした売手を探すことや、交渉力に加えて財務、税務、会計、法務、労務などの専門的な知識が必要となります。すべての手続きを自力で進めるのは困難なため、M&Aを成功させるには、専門家の力を借りることも大切です。手間をかけずに、M&Aに詳しい専門家を探すなら、「税理士紹介ナビ」がおすすめです。M&Aの専門家は、業界最大規模の全国13,000のパートナー会計事務所(2024年12月現在)から、会社所在地や業種、会社規模に合わせて最適な税理士・会計事務所を紹介します。なお、専門家との契約にかかる費用は内容に応じて別途必要です。
また、M&Aの相手探しには、M&A専門のマッチングサービスの利用がおすすめです。これから事業を始めたい個人の方や、事業を拡大したい方、事業の多角化を目指したい方にもぴったりです。
アパレル業界の変化に対応する手段としてM&Aを活用しよう
アパレル業界は、ファストファッションなどをはじめとする低価格帯ブランドの台頭や新しい販売チャネルのECサイトの浸透など、変化がめまぐるしい業界です。こうした変化に対応するための手段の1つとして、M&Aがあります。M&AによってEC事業の強化やサプライチェーンの強化などが可能です。
M&Aを検討する際、まずは「M&A・事業承継相談窓口 by BATONZ」で相談してみましょう。