調剤薬局を買収する際に知っておくべき業界の課題やM&Aの動向、事例
2024/01/04更新
調剤薬局業界は、医師と薬剤師がそれぞれの専門分野に特化した医薬分業や超高齢社会の影響で市場は成長傾向にあるものの、診療報酬や薬価の改定、医療費削減などによって業界の競争が激化しており、その対策としてM&Aが行われています。
ここでは、調剤薬局を買収する際に知っておくべき、調剤薬局業界の課題やM&Aの動向、M&Aの事例、調剤薬局を買収する際の留意点を解説します。
調剤薬局業界の概況
調剤薬局は、医師が発行する処方箋をもとに薬剤師が処方薬(医療用医薬品)を調剤し、購入者に対して必要な情報の提供および服薬指導をする薬局のことです。調剤薬局を開設するには都道府県知事の許可や人的要件のクリアが必要になります。また、調剤薬局の中でも、保険薬局指定を受けているものは保険薬局と言い、健康保険対応の医療用医薬品を取り扱うことができます。
ドラッグストアも薬の販売を行っていますが、一般的にドラックストアは市販薬(一般用医薬品)のみ販売が可能です。ただし、ドラッグストアに調剤薬局を併設し、薬剤師を常駐させている場合は、医療用医薬品の販売もできます。近年はこうしたドラッグストアを含め、調剤薬局が増えています。
厚生労働省の「令和2年度衛生行政報告例の概況 」(2022年1月)によると、2020年度末時点での調剤薬局数は6万951軒で、前年比101.3%でした。なお、一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会の「JFAコンビニエンスストア統計調査月報 」によると、ここ数年のコンビニエンスストア数は5万5,000軒前後で推移しており、調剤薬局はコンビニエンスストアよりも多いことがわかります。
調剤薬局業界の課題
厚生労働省の「令和2年度 調剤医療費(電算処理分)の動向 」(2021年8月)によると、2020年度の調剤医療費(電算処理分に限る)は約7.5兆円です。ここ数年の調剤医療費に大きな変動はありませんが、厚生労働省が推進するかかりつけ薬剤師・薬局の推進や薬価改定の影響により、調剤薬局を取り巻く環境は大きく変化しました。主に調剤薬局業界が抱える課題は、以下の2つが挙げられます。
調剤報酬や薬価の引き下げによる利益の減少
調剤報酬は診療報酬のうちの1つで、2年に一度診療報酬改定が行われており、2016年の改定の際に、厚生労働省はかかりつけ薬剤師・薬局を推進する方向に大きく転換。これまでは、処方箋を持った保険者が集まりやすい、医療機関のすぐ近くにある門前薬局であれば利益を出しやすい環境にありましたが、現在はかかりつけ薬剤師・薬局としての役割を果たすことが評価されるようになっています。
また、医療保険財政の健全化や国民負担の軽減などを図る目的で、2018年に薬価制度の抜本的改革が行われ、薬価の見直しが毎年行われるようになりました。薬価の引き下げは、調剤薬局の利益率の低下につながります。
調剤薬局が今後利益を上げるには、ITを活用して服薬データの一元化や24時間対応、在宅対応、医療機関などとの連携といった、かかりつけ薬剤師・薬局として必要な機能を取り入れ、患者に選ばれることが大切です。また、薬価の差益が減るため、仕入コストを削減できるスケールメリットを得られなければ、十分な利益を確保することが難しくなっています。
慢性的な薬剤師不足
調剤薬局業界の課題の1つに慢性的な薬剤師不足も挙げられます。調剤薬局の増加によって需要が追い付いていない他、薬剤師になるには6年生の薬学部がある大学へ進学して薬剤師国家試験の合格が必要になること、少子化の影響などが、薬剤師不足の主な要因です。
調剤薬局業界のM&Aの動向
調剤薬局業界では2010年頃からM&Aの需要が高まっています。その理由の1つに、相次ぐ調剤報酬の改定や薬価の引き下げへの対策として、大手調剤薬局がM&Aで事業規模を拡大させる動きがあります。
また、調剤薬局業界は超高齢社会において、今後も一定の成長が見込める業界として、大手チェーンのドラッグストアやスーパーマーケット、商社などが参入していることも、M&Aの需要が高まっている理由の1つです。さらに後継者がおらず事業承継したい、事業を整理したいという売却を希望する企業があることも挙げられます。
調剤薬局を買収する際の留意点
調剤薬局を買収する際にはいくつか留意点があります。近年の診療報酬改定の傾向や業界の状況を踏まえると、特に確認したいのは以下の2つです。
処方箋の集中率や調剤薬局の立地
厚生労働省は医薬分業の効果を高めるため、「患者のための薬局ビジョン 」(2015年10月)を発表し、薬局の機能やサービスに応じた診療報酬となるよう、調剤報酬のあり方を見直しています。立地がいいから選ばれる門前薬局ではなく、健康サポートや薬剤師としての専門性、24時間対応、在宅対応など患者のニーズに合わせた薬局・薬剤師を評価するように診療報酬が改訂されています。
そのため、特定の医療機関からの処方箋が集中しており、かつ、かかりつけ薬剤師・薬局の条件を満たせない場合、収益源となる調剤報酬が減額されかねません。以前のように、門前薬局だから収益が上がりやすいということではないため、買収する際は処方箋の集中率や調剤薬局の立地には注意が必要です。また、今後の診療報酬改定も注視し、随時対応していくことも求められています。
かかりつけ薬剤師となれる人材の確保
門前薬局からかかりつけ薬剤師・薬局への転換を進める方針において、かかりつけ薬剤師が行う服薬指導が評価されるようになっています。調剤業務に加え、服薬指導や健康相談、在宅医療のサポートなども行うかかりつけ薬剤師となれる人材を確保できれば、調剤薬局の集客、収益面でも有利です。そのため、買収後も薬剤師を継続して雇用できるように確認しておくことが大切です。
調剤薬局のM&A事例
調剤薬局業界では、事業拡大や薬剤師の確保を理由にM&Aを行うことがありますが、ここでは実際に行われたM&Aの事例をご紹介します。
調剤薬局の他、ガソリンスタンド、食品流通など地域に密着したさまざまな事業を行っている総合商社が、2店舗の調剤薬局を運営する企業を買収したケースです。店舗展開していたエリアの調剤薬局を買収することで、地域に密着したファーマシー事業(現ヘルスケア事業部)の強化が図れると判断し、買収に至りました。
このように、調剤薬局業界ならではの地域に密着した店舗展開や人材の獲得という買手のニーズと売手の課題がマッチすれば、買収しやくなります。
M&A案件を探す方法
M&Aでは、買手のニーズとマッチした売手を探すことや、交渉力に加えて財務、税務、会計、法務、労務などの専門的な知識が必要となります。すべての手続きを自力で進めるのは困難なため、M&Aを成功させるには、専門家の力を借りることも大切です。中小企業の案件を探すなら、ご登録無料のマッチングサービス「弥生のあんしんM&A 」がおすすめです。利用料は、マッチング成立時にサービス利用料として30万円の手数料がかかるのみ。M&Aの専門家は、業界最大規模の全国12,000のパートナー会計事務所(2023年4月現在)が対応します。なお、専門家との契約にかかる費用は内容に応じて別途必要です。
「弥生のあんしんM&A」は、これから事業を始めたい個人の方や、事業を拡大したい方、コロナ禍をチャンスに変えて事業の多角化を目指したい方にもぴったりです。
弥生のあんしんM&Aの主な特徴
- 「弥生のあんしんM&A」の登録料は無料
- マッチング成立時の手数料(買手のみ)は1件につき30万円
- 弥生の認定する税理士・公認会計士(弥生PAP会員)がM&Aの取引をサポート
- 中小企業の小規模案件が中心
M&Aを行う際はマッチングサービスを活用してみよう
調剤薬局が今後利益を上げていくには、厚生労働省が推進するかかりつけ薬剤師・薬局の機能を持つことが重要です。M&Aには、人材の確保や事業成長のスピード向上など多くのメリットがあります。
M&Aを行う場合は、まずは「弥生のあんしんM&A 」などのマッチングサービスを活用して上手に進めましょう。