製造業の会社を買収する際のポイントや業界の動向、M&A事例を解説
2024/01/04更新
製造業は、国内において大きな産業の1つで、自動車製造を筆頭に、食品製造や機械製造、金属製品製造などさまざまな分野に分かれています。ここでは、買収先の会社を選ぶポイントの他、買収前に知っておくべき製造業界の動向や課題、M&Aの事例について解説します。
製造業界の概況
財務省の「年次別法人企業統計調査(令和2年度) 」(2021年9月)によると、製造業は卸売業・小売業に次いで、年間売上高が約365兆円という巨大な市場規模の産業です。経済産業省・厚生労働省・文部科学省の「2020版 ものづくり白書 」(2020年5月)を見ると、2019年時点で製造業のGDP(国内総生産)は、日本全体のGDPの約20%を占めています。
製造業界の特徴
製造業界の特徴の1つとして、工場建設や設備投資、原材料の仕入れなど先行投資が必要なことが挙げられます。製造業が売上を得るためには、製品の設計、開発、生産体制の整備、製造という段階を踏まなければなりません。売上が手元に入るまでに時間がかかるため、事業的規模に応じた運転資金の確保やキャッシュフローの管理が非常に重要になる業界といえます。
製造業界の課題
製造業界は非常に大きな市場規模ですが、課題もいくつかあります。国内の製造業界が抱える主な課題は、以下のような5つです。
人手不足、後継者不足により技術やノウハウが引き継げない
経済産業省・厚生労働省・文部科学省の「2022年版 ものづくり白書 」(2022年5月)によると、製造業界の就業者は約20年で157万人減少、特に34歳以下の若年就業者数だけで121万人が減少しました。
就業者数が減少した主な要因は、社会全体で少子高齢化が進行していることです。製造業にとって大切な技術やノウハウの継承が人手不足によって難しくなり、職人の持つ専門技術を途絶えさせてしまうことが懸念されています。また、オンリーワンの技術を持った企業が廃業することで、その企業の製品を使っていた取引先企業の経営にも影響が及ぶケースもあるので、製造業界の経営者の高齢化と人手不足は深刻な問題です。
従業員不足や技術を引き継ぐ後継者不足の対策としては、外国人労働者の雇用促進や労働者の雇用形態の改善が挙げられます。また、AI(人工知能)や物をインターネットでつなぐIoT(Internet of Things)といったデジタル技術を活用した生産工程の効率化、技術継承のオペレーション構築、AIを活用しての若手技術者の育成などの対策も必要です。
IT活用の遅れ
総務省の「情報通信白書 」(2021年3月)によると、2021年時点で製造業界の企業の約6割がDX(デジタルトランスフォーメーション)を実施しておらず、今後も実施の予定がないと回答しています。一方で、経済産業省・厚生労働省・文部科学省の「2022年版 ものづくり白書 」(2022年5月)によると、ものづくり産業のうちデジタル技術を活用していると答えた企業の割合は67.2%に上っていることから、部分的なデジタル技術の導入・活用は進んでいるとも推測されます。
今後、IT活用を進めるためには、IT人材の採用や育成、IT関連企業とのM&Aといった対策が必要です。IT活用が進めば、品質管理、生産工程のマネジメント、技術継承などの面で生産効率の向上につなげることができます。
設備投資の減少
経済産業省・厚生労働省・文部科学省が取りまとめた「2022年版 ものづくり白書 」(2022年5月)によると、製造業において設備投資の額は2019年から2020年にかけて大きく落ち込んでいます。2021年は再び増加傾向が見られるものの、コロナ禍前の水準には戻っていません。設備投資が進まないと、IT化やデジタル化も進みにくく、生産効率を向上させるのが難しい状況といえます。設備投資の減少への対策としては、経済産業省のAI導入ガイドブックを参考にしたり、IT導入補助金などの利用を検討したりすることも大切です。
柔軟なサプライチェーンの構築が必要
コロナ禍では海外工場での部品生産がストップした影響により、部品の調達ができず、生産遅延や生産休止を余儀なくされた企業が続出しました。さらに、世界的な半導体不足なども生産体制に影響を及ぼしており、製造業ではサプライチェーンの再構築が急務となっています。
具体的な対策として、部品の調達や生産においての体制の見直しが必要です。自社が行っていない、生産工程の上流または下流の企業を買収して、一気通貫した体制を作ることも解決策の1つになります。
激化する国際競争への対応
製造業界では国際競争が激化しており、近年は技術革新や市場ニーズの変化が早まっているため、製品開発や製造を短期間で行うことが求められています。
国際競争への対応としては、事業成長の速度を上げるために、優れた技術や人材を持つ企業を買収するという方法が効果的です。
製造業界のM&Aの目的
製造業界のM&Aでは、異業種企業の参入は珍しく、製造業の中小規模の企業を中規模または大規模の企業やファンドが買収する傾向があります。
買手の目的としては、生産工程の上流または下流の企業を買収することによるサプライチェーンの構築、技術・ノウハウ、優秀な人材を持った企業を買収することによる短期間での製品開発の実現の他、シナジー効果を得ること、スケールメリットを獲得することが挙げられます。
また、業績低迷中の日本企業を海外の大手企業やファンドが買収する、インバウンドM&Aも増加傾向です。
買収先を選ぶ際のポイント
買収先を選ぶ際に重要なのは、その企業の実力をしっかり見極め、狙いどおりの成果を得られそうか判断することが大切です。例えば、製造業界の場合、オンリーワンの技術がある、生産力が非常に高い、地域での市場シェアが大きいなどの強みがあれば、魅力のあるM&A案件だといえます。また、高い技術を持った人材を獲得する場合は、買収後も雇用を継続できることを事前に確認しておくことも欠かせません。
M&Aではこのように売手の強みを把握したうえで、買収後に狙った成果を得られそうかを判断することがポイントになります。
M&Aのメリットや買収を成功させるポイントについては別の記事で解説していますので、参考にしてください。
製造業界のM&Aの事例
製造業界では、独自の技術やノウハウを継承することを目的としてM&Aを行うことがありますが、ここでは実際に行われたM&Aの事例をご紹介します。
アイウェアの企画・製造・販売を行う企業が、メタル素材に特化したメガネフレームの製造会社を買収し、内製化を成功させたケースです。買手は、自社ブランドのメガネの開発・生産・販売を行っており、今後は職人不足でメガネフレームの生産が厳しくなるとの予測から、前々から自社での生産を進めてきました。プラスチックフレームの生産体制を整えることはできましたが、メタルフレームは工程が複雑で、内製化は難しいと判明。他社との業務提携を考えていましたが、メタル素材に特化したメガネフレーム製造会社である売手とのM&Aにより、内製化を実現することができました。
このように、売手独自の技術やノウハウと自社での内製化を目指したいという買手のニーズとマッチすれば、買収しやすくなります。
M&A案件を探す方法
M&Aでは、買手のニーズとマッチした売手を探すことや、交渉力に加えて財務、税務、会計、法務、労務などの専門的な知識が必要となります。すべての手続きを自力で進めるのは困難なため、M&Aを成功させるには、専門家の力を借りることも大切です。中小企業の案件を探すなら、ご登録無料のマッチングサービス「弥生のあんしんM&A 」がおすすめです。利用料は、マッチング成立時にサービス利用料として30万円の手数料がかかるのみ。M&Aの専門家は、業界最大規模の全国12,000のパートナー会計事務所(2023年4月現在)が対応します。なお、専門家との契約にかかる費用は内容に応じて別途必要です。
「弥生のあんしんM&A」は、これから事業を始めたい個人の方や、事業を拡大したい方、コロナ禍をチャンスに変えて事業の多角化を目指したい方にもぴったりです。
弥生のあんしんM&Aの主な特徴
- 「弥生のあんしんM&A」の登録料は無料
- マッチング成立時の手数料(買手のみ)は1件につき30万円
- 弥生の認定する税理士・公認会計士(弥生PAP会員)がM&Aの取引をサポート
- 中小企業の小規模案件が中心
自社とシナジー効果の高いM&A案件を見つけよう
製造業界では、技術やノウハウを伝える後継者不足の他、IT活用の推進、設備投資の改善、柔軟なサプライチェーンの構築、国際競争力の強化といった課題を解決する手段の1つとして、M&Aが行われています。売手には、事業承継のために売却を選ぶ企業も多く、サプライチェーンを充実させたい企業や自社製品とシナジー効果の高い製品を扱う企業を買収したい買手にとっては、M&A案件を見つけやすい環境だといえます。
M&Aを行う際には、小規模案件を中心に扱う「弥生のあんしんM&A 」などのマッチングサービスを上手に活用して進めましょう。