障がい者向けサービスから社会の意識改革を。事業のヒントはユーザーの声にあった!

起業時の課題
資金調達, 事業計画/収支計画の策定, 集客、顧客獲得, マーケット・ニーズ調査

近年、多様性を理解し、さまざまな状況に置かれた人が共生できる「インクルーシブ社会」という言葉が注目を集めるようになってきました。ですが、障がいを持つ方に向けたサービスやビジネスに対しては、いまだに抵抗感を持つ人が少なくありません。そんな中、“障がい者向けの婚活サービス”という敬遠されがちな事業にあえて切り込み、社会への意識改革を唱えているのが「oleilo株式会社」です。今回は、代表の渡邉 浩久さんにインタビューにお答えいただき、障がい者向けのサービスを展開するに至った経緯や、事業運営での苦労、障がい者の結婚など社会課題への取り組み方の工夫についてお伺いしました。

会社プロフィール

業種 IT関連(プラットフォーム型サービス)
事業継続年数(取材時) 1年
起業時の年齢 40代
起業地域 神奈川県
起業時の従業員数 2人
起業時の資本金 100万円

話し手のプロフィール

会社名
oleilo株式会社
代表
渡邉 浩久
oleilo株式会社 代表取締役
日本工学院専門学校卒。ソフトウェア開発会社にてSEとして28年間従事。2019年8月障がい者向け婚活サービス「恋草~こひぐさ~」をリリース、2020年3月oleilo株式会社を設立。

目次

会社に勤めながら仲間とともにサービス開発をスタート

まず、現在の事業内容について教えていただけますか?

渡邉:主に2つの事業を行っております。1つはソフトウェアの受託開発です。もう1つは自社のサービスで、障がいを持つ方に向けた婚活アプリ「恋草」を運営しています。サービス名には「強く生きて恋の花を咲かせてほしい」という思いを込めています。

興味深い事業ですね。「oleilo株式会社」という社名の由来もぜひ教えてください。

渡邉:oleiloは、フィンランド語の「幸せになる」という意味から取り入れています。フィンランドが世界幸福度ランキングで1位というところも採用した理由の1つです。

また、弊社は個性を活かして事業を行っていきたいと考えています。力はあるのに周りの理解が得られない人もいますが、その力を活かせる会社、弱いところは補える会社でありたいという、「個人個人の色」を大事にしたいという思いも入っています。

素敵ですね。渡邉さんご自身もエンジニアのご出身だそうで。

渡邉:はい。もともとシステム開発の会社に勤めていました。そこは受託がメインで、新しいサービスや事業を始めたいと思ってもなかなかできない環境でした。その会社では部長を務めていたこともあって、「新しいことをやりたい」と10年近くいろんな角度から経営者に働きかけをしていたのですが、ちょっとでもリスクがあるとやらないという判断をされてしまって。私は、自社サービスを運営したいという気持ちをずっと持っていたので、いよいよ独立するしかないと思っていたところ、同じ気持ちを持つ仲間が周りに多くいましたので、じゃあ何か作ってみようというのが一番初めのスタートです。実際には、起業する2年ほど前からサービス開発を先行して行っていました。

会社を設立する前にサービスを作っていらっしゃったのですね。

渡邉:そうですね。開発に携わってくれていたメンバーは、前職の同僚や、お取引先の方、過去に仕事でお付き合いがあった方などさまざまです。法人設立前から開発していたアプリについては、チームの皆が自発的に関わってくれていたため、人件費はかかっていませんでした。それぞれが「何か新しいことをやりたい」「未来に希望を持ちたい」と将来への投資として考えてくれたこともあり、皆快く、本業を持ちながらも開発を手伝ってくれていました。

いざサービス展開となったときに、このまま副業的にやっていくのではなく本格的に会社を立ち上げたいと思い、仲間にも相談して起業することを決めました。

会社設立時は、開発チーム全員が社員として入社する形になったのですか?

渡邉:いえ。起業時に社員として来てくれたのは2名です。その他の方には、会社に勤めながら副業的に関わってもらっています。

方向転換のきっかけとなったのは、ユーザーの声

婚活サービスを事業に選んだ理由を教えてください。

渡邉:もともとは、“人と人とをつなげるためのコミュニティ”のような形で、趣味でつながれるようなサービスを作ろうというところから事業アイデアが始まっています。ただ、そういったサービスは既存のSNSなどで十分まかなえるため、事業として収益化できる可能性が低いとなり、“人と人をつなげる”という発想から、「婚活アプリ」はどうかとアイデアが発展していきました。マッチングサービスであれば我々のノウハウも活かせるし、結婚相談所などの今の市場や、婚活される方の状況を調査することもできたので、可能性を感じ、開発に取り組み始めました。

婚活サービスの中でも、障がいを持った方向けにされたきっかけは?

渡邉:私たちも、もともとはいわゆる一般的な婚活アプリを作っていました。ただ、いざ展開しても、サービス利用料が無料なのにもかかわらず300人ほどしか利用者が集まらなくて……。私たちの見通しが甘かったのですが、いくら新規のアプリが無料で利用できたとしても、利用者がたくさんいて実際にマッチングできないと意味がないんですよね。何百万、何千万という会員の方がいる大手のサービスには到底敵わない、このままサービスを続けていってもダメだということになりました。

そんなとき、サービス利用者の中に障がいを持つ方がいて、その方から「自分が婚活サービスを利用しても大丈夫ですか?」と相談されました。

それをきっかけに、実際に障がい者向けの婚活サービスがどのくらいあるのかを調べてみました。すると、アプリはおろか、障がい者向けのマッチングサービス自体ほとんどありませんでした。それであれば、自分たちがチャレンジする価値はあるのではないかと、障がい者向けの婚活アプリに舵を切ることにしました。

「障がい者向け婚活アプリ」には賛否両論の声が

事業を方向転換する際、周囲からはどのような反応がありましたか?

渡邉:サービスを始めるときに、まずは反応を伺おうとSNSで発信したり、複数のサイトで意見を聞いてみることにしました。その際に、とても多くのご意見をいただきました。歓迎してくださる方も多い一方、否定的なご意見も多かったです。

具体的には?

渡邉:特に、障がいを持つ方のパートナーからは辛辣なコメントが多くありました。「私みたいな大変な思いをする人を増やしてほしくない」「余計なことをするな」といった言葉が多かったですね。一方、障がいを持たれている当事者の方からは「すごく楽しみにしています」「サービスを開発してくれてありがとうございます」といった、歓迎するコメントがほとんどでした。

当事者とその周りの人で反応が二極化していたのですね。

渡邉:実は、もともと婚活サービスを立ち上げるにあたり、結婚相談所の方へヒアリングに行く機会がありまして、その際、障がいを持つ方は婚活サービスでは苦戦しているという話も聞いていました。障がいを持っていることをお相手が知ったときに、人となりを知る前に、書類の段階で断られることが多いそうです。そのため、ほとんどの結婚相談所や類似サービスでは、障がいを持つ方に対して「このような背景からなかなか上手くいかないです」と説明され、辞めてしまう方も多いと伺いました。

最も力を入れたのは利用者の不安の要因を知り、払拭すること

厳しい意見も多い中、実際に障がい者向けサービスに転換されてどのような変化がありましたか。

渡邉:障がい者向けの婚活サービスに変更する前までは、登録者数はローンチから1年で300人程度、しかも、そのうちアクティブユーザーは1桁でした。

障がい者向けにシフトしてからは、初めの1~2か月くらいは男性だけでも40~50人。それ以降もSNSでの発信などを行いながら、現在は毎月200~300人が新たに登録されていて、ローンチから2年間で5,500人ほどの会員数になりました。内訳としては、健常者の方が1割、9割の方が何かしらの障がいを持たれています。

実際にサービスをローンチしてからは、「自分は結婚しちゃいけないんじゃないかと希望を持てなかったけれど、サービスを使うことでいろんな方とお話しでき、やっていけるんじゃないかと思えた」という声や、「お付き合いできる方が見つかりました」といった声もいただいています。

利用者の増加だけでなくポジティブなフィードバックも多くあって素晴らしいです。利用者層の変更にあたって、システム側で変更された点などはあるのでしょうか?

渡邉:マッチングアプリの中には、証明書を提出する前に、どういう方が入会しているかの確認ができることもあります。しかし、障がいを持つ方の中には、心の傷を負った方や、誹謗中傷を受けた経験がある方も多くいます。そのため、証明書を提出していただき本人確認したうえでなければ登録者が見られないよう配慮しています。“利用者をどう守れるか”というところを大切にサービス改善に取り組みました。

あえて情報を見えづらくすることで、安心できる利用環境にしていったのですね。

渡邉:はい。障がいの中でも、特に精神障がいや引きこもりの方が集まる会に実際に話を聞きに行くなど、多くの声を集めました。サービス利用者が心配していることや不安なことを知る努力をして、できる限りサービスにも反映しながら運営しています。

「障がい者向けサービスならでは」の課題と、解決への長い道のり

起業準備についてもう少し詳しくお話をお聞かせください。

渡邉:起業準備は、法人設立の半年ほど前から本格的に始めました。最初は、起業するにはどうすればいいのか何もわからない状態からのスタートでした。まずは、ネットで見つけた無料の起業コンサルティングに申し込み、起業に向けてやらなくてはいけないことを細かく教えていただきましたね。

サービス開発にはコストがかからなかったとのことでしたが、その他の起業にかかる費用などはどうされたのでしょうか。

渡邉:開発費用以外に起業にかかる初期費用は自己資金で賄いましたが、社員の人件費など事業の運営資金が必要だったため、日本政策金融公庫から600万円の創業融資を受けました。

起業に際し、最も大変だったことは何でしょうか?

渡邉:「恋草」の有料化にあたり、決済代行会社の承認がなかなか得られなかったことですね。障がい者の方が利用されるにあたって、前例が少ないとのことでご自身の意思で決済手続きをしているのか、決済代行会社の方は不安が残るようでした。

それは、「障がい者向けサービスならでは」の課題ですね。

渡邉:はい。例えば、クレジットカードを使うとして、サービス内での手続きには、少し手間のかかる流れにしています。そうすることで、本人の意思がないと決済できないと納得していただけて、ようやく決済代行会社からの承認が得られたのですが、課題発生から決着までが長かったですね。

粘り強くアイデアを練り直したり交渉をしたりして、利用者も決済代行会社も安心できるサービスになっていったのですね。では、起業して良かったと感じたことは?

渡邉:ずっと自社サービスを持ちたいと思っていたので、その目標が叶って、自分たちのやりたいことができる環境を作れたことは大きかったです。また、法人設立後も、前職のつながりでいただいた受託の仕事もありましたので、比較的リスクが少なく起業できたのも良かったと思っています。

それから、私自身このサービスを始めるまで障がいに全く知見がなかったのですが、事業運営を通してさまざまな気づきがありました。障がいを持つ方でも本当にすごい人がたくさんいることも知り、それをもっと多くの方に知っていただきたいと思うようにもなりましたね。

社会の根幹を変えたい!障がい者のありのままを発信

広報や発信に悩む起業家も多いと思います。先ほどSNS発信もしているとおっしゃっていましたが、その他に何か工夫したことなどはありますか。

渡邉:障がい者の方の多くは、収入や人付き合いの部分でコンプレックスを感じていたり、ネガティブになってしまう人もいます。

その根幹部分を少しでも変えていくために、現在、FM FUJI(エフエム富士)で毎週1回ラジオ番組の配信をしています。(2021年12月再編のため配信中断中)

ラジオ放送ですか!どのような内容の番組でしょうか?

渡邉:障がいを持つ方をゲストに迎えてトークする番組です。落語家さんがメインパーソナリティーで、ゲストには、パラリンピックの選手や開会式で踊られた方、個人で事業を行っている方、YouTuberなど、障がいを持ちながらもいろいろな分野で活躍されている方をお呼びしています。

リスナーに対しては、障がいを持つ方は、自分も頑張ろうという気持ちになっていただきたいですし、健常者の方にも、「障がいを持っていてもこんなにすごい人いっぱいいるんだ。」と気付いていただける機会になればいいなと思って配信しています。

反響はいかがですか?

渡邉:ラジオの聴取率は半年に1回くらいしかわからないとのことで、数字として目で見ることは難しいのですが、出演された方のファンからの好意的な意見も多く、ゲストの方やその関係者の方に喜んでいただけるのが嬉しいですね。

ラジオ番組を持っているスタートアップは珍しいですよね。番組は放送の枠を買っているような形なのでしょうか。

渡邉:はい、そうです。ただ、ラジオは自社サービスの直接的な広告としては考えていません。もっと広い意味で障がい者への理解を促すと言いますか、「障がいを持つ方と結婚することや一緒に働くことに必ずしもリスクがあるわけではないんだよ」というところを広めていきたいと思っています。

すごく意義のある社会貢献活動ですね。

渡邉:障がい者の方や社会の根幹部分を変えたいという思いが強く、正直ビジネスとしては、コストや時間を多く使うのでメリットは少ないんですよね。でも、社会の理解を促す活動をコツコツやっていくことで、いずれはビジネスとして成立していくのかなとも思っています。

また、通常、ラジオのアシスタントはアナウンサーの方が務めることが多いのですが、うちは社員を入れているんです。

社員さんがアナウンサーの代わりを。

渡邉:単純に、人生でなかなか経験できないことじゃないですか。私自身も今回のサービスを通して自分の知らない世界がたくさんあると実感しているので、社員にもいろいろなことに挑戦してもらって、世界を広げてもらおうと思っています。社員にとって、会社がただ仕事をする場所ではなく、視野を広げたり、将来やりたいことを見つけてもらえる場所になればいいなと思っています。

社員さんにとっても素晴らしい経験になると思います!

“障がい”という言葉が必要ではなくなるくらい、サービスの認知度を上げていきたい

渡邉さんのこれからの展望を教えてください。

渡邉:僕たちが“障がい者向けの婚活サービス”という、敬遠されていた事業に切り込んでいくことで、障がいを持った方が前を向けたり、健常者の方に理解していただくきっかけになればいいなと思います。今は、お互いがお互いの主張をして、線が引かれている状況なので、障がい者も健常者も皆が自然に生活していくことができる、分断のない世の中にしていきたいです。

そして、事業やサービスの認知度を上げていき、いつかは「恋草」も“障がい者向け”という言葉を取り払うことができたらいいなと思います。

それでは最後に、これから起業される方に向けてメッセージをお願いします。

渡邉:起業すると、今まで会社に“組織の1人”として守られていたんだと痛感することがすごくあります。事業を始めると経営者としての重圧がのしかかってくるので、不安材料を減らすためにも、起業前の準備は入念にしておくことが重要です。資金の準備や事業計画はもちろん、起業する前にいろいろな仲間を作っておいた方がいいと思います。精神的な不安を聞いてくれる仲間や、困ったときに助けてくれる仲間。あとは、信頼できる士業や専門家の方を見つけることも大切です。1人では生きていけないので、周りの声も大事にしながら起業するのが良いのではないかと思います。

取材協力:創業手帳
インタビュアー・ライター:稲垣ひろみ

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