「退職者とのつながり」に着目し日本企業の競争力向上を目指す。前例のないビジネスで起業を成功させた秘訣。

起業時の課題
資金調達, 人材確保、維持、育成, 集客、顧客獲得, 製品/サービス開発, マーケット・ニーズ調査

カナダの大学で経営学を学び、グアムでウェディング領域、シンガポールで人事領域のビジネス経験を経て、アルムナイ(企業の退職者・卒業生・OB・OG)に特化したビジネスモデルで起業された株式会社ハッカズーク代表の鈴木仁志さん。

人手不足に悩む日本企業の新たな資産として注目されるアルムナイとの良好な関係構築を促進させるため、企業とアルムナイが情報交換するプラットフォームを手掛け、アルムナイ組織の構築支援サービスを展開しています。

日本では馴染みがなかったアルムナイにいち早く着目し、「辞め方改革で日本を変える」と邁進を続ける鈴木さんの先見の明とビジネス戦略には多くのヒントが詰まっています。革新的なビジネスモデルに挑戦する“ホワイトスペースビジネス”を成功させるコツも含めて伺いました。

会社プロフィール

業種 サービス業 (ソフトウェア開発・IT関連)
事業継続年数(取材時) 6年
起業時の年齢 30代
起業地域 東京都
起業時の従業員数 0人
起業時の資本金 500万円

話し手のプロフィール

会社名
株式会社ハッカズーク
代表取締役
鈴木仁志
株式会社ハッカズーク 代表取締役CEO
カナダのマニトバ州立大学卒業後、車載情報機器メーカーのアルパイン株式会社を経て、ゲストハウスウェディングを主軸にビジネスを展開するT&Gグループで法人向け営業部長・グアム現地法人のゼネラルマネージャーを歴任。帰国後は人事・採用コンサルティング・アウトソーシング大手のレジェンダ・コーポレーション株式会社に入社。2017年ハッカズークを設立し、アルムナイとの関係を築くプラットフォーム『Official-Alumni.com』やアルムナイ特化型メディア『アルムナビ』を運営。アルムナイ事例について研究する『アルムナイ研究所』研究員も兼任。

目次

起業の原点は「退職したら終わり」という慣習を変え、日本企業の競争力を高めたいという想い。

現在の事業内容を教えていただけますか?

鈴木さん:弊社は『退職で終わらない「企業と個人の新しい関係」を実現し、退職による“損失”のない社会を作る』をビジョンに、企業の退職者・卒業生・OB・OGを指す「アルムナイ」という領域でサービスを提供しています。

アルムナイに特化してソフトウェアを提供するSaaSシステム「Official-Alumni.com(オフィシャル・アルムナイ・ドットコム)」と、企業とアルムナイの関係を構築するためのコンサルティングサービス、オウンドメディア「アルムナビ」の3つの軸で展開していることが特徴です。

企業がアルムナイとの関係を構築することで、再雇用だけでなく、採用ブランディングやビジネス提携など、企業とアルムナイの双方が多くのメリットを享受することができると考えています。

日本では「アルムナイ」という言葉自体、まだまだ聞き慣れない方も多いですよね。

鈴木さん:日本では長年、終身雇用という文化が根付いていましたからね。

多くの企業が業績を伸ばした経済成長期には、長期間にわたって従業員の雇用を約束することによる負担よりも、人材を確保し続けられるメリットのほうが大きかったわけです。数十年の間に日本社会全体での経済成長の鈍化と雇用の流動化が進み、終身雇用文化はかなり薄れてきましたが、新卒一括採用などと並んで日本の雇用文化の大きな特徴の1つですよね。

一方で、1970年代から業種によって終身雇用文化が薄れていったアメリカなどでは、「退職」に対する思想が異なり、日本よりずいぶん早くから「アルムナイネットワーク」と呼ばれる企業と退職者の交流組織が重視されています。ミスマッチを防ぎながら即戦力を採用できるだけでなく、採用・人材育成コストの削減や企業のブランディング向上、カルチャー変革や社員エンゲージメント向上、そしてビジネス連携など、アルムナイには多くのメリットがあるんです。今まではただ流出させてしまっていたアルムナイを自社のファンにして味方にすることで、企業は競争力を高めることができます。

日本では人手不足が深刻化の一途を辿っていますので、こうした諸外国における人材活用法も参考に、近年「アルムナイ」という言葉が企業からも注目され、現役世代の退職者との関係構築という文脈で使われるようになりました。

海外ではアルムナイ・ネットワークを活用する取り組みが活発なんですね。

鈴木さん:特にコンサルティング業界やIT業界では、当然のようにアルムナイ・ネットワークが存在しています。アクセンチュアやボストン・コンサルティング・グループ、マッキンゼーなどは、すでに数十年前から活用していますね。

情熱を燃やせる仕事にたどり着くまでの道のり。

鈴木さんはもともと独立志向を強く持っていらっしゃったんですか。

鈴木さん:そうですね。カナダに留学していたころ、周りの皆が何かしら大なり小なりビジネスっぽいことをしていて、自分も当時好きだった車のパーツを取り寄せて、販売サイトを作って売ったりもしていました。

学生時代から起業を経験されていたんですね。大学卒業後から株式会社ハッカズークを創業されるまで、どのようにキャリアを積んでこられたのでしょうか?

鈴木さん:大学を卒業して最初に入ったアルパイン株式会社では、カーナビなどのOEM製品の法人営業の部署にいました。その後、リゾートウェデイングを展開する株式会社テイクアンドギヴ・ニーズのグループ会社での法人営業を経て、グアム現地法人でゼネラルマネージャーとして組織作りなども経験しました。本格的に人事領域に携わるようになったのは前職のレジェンダ・コーポレーション株式会社に入社してからで、約15年間この領域に携わってきました。レジェンダ・コーポレーション株式会社では、人事・採用のコンサルティングやシステム提供の実務経験を中心に携わり、人事という立場ではありませんがマネジメントの立場で自社人事の経験も積んでいます。

そうした経験を経て、なぜ独立するにあたってアルムナイを事業領域に選んだのでしょうか?

鈴木さん:前職では経営に近いところで働けていたので、起業自体よりも経営に興味が出ていて、あまり起業を目的化していなかったんですね。ただ自分が情熱を燃やす仕事はずっとしていたい気持ちはありました。

そんな中、シンガポール駐在していたころに、クライアントから「採用や人事の仕組みを一生懸命整えても、退職された瞬間に無駄になる」という話をよく聞いていたんです。それなら、退職してもそれまでの投資が無駄にならないやり方を考えたいと思い、当時シンガポールでも一部の企業が積極的に取り組んでいたアルムナイの取り組みに着目して、事業構想に至りました。

もちろん所属していた会社の事業としてやることも考えたのですが、採用や人事のコンサルティングサービスを提供する会社では、本来「辞めない人材」の採用を求められていたのに対し、「アルムナイとは何か」が全く認知されていない当時では「辞める」ことを前提としているサービスと見られてしまうアルムナイ事業に先行投資をするのは難しそうだと考えました。それでも自分で勝負してみたい決意ができたので独立することにしました。

日本社会にとっての新しい概念「アルムナイ」。

日本ではなじみが薄いアルムナイ領域でサービス展開するにあたり、当初は非常にご苦労されたのではないでしょうか?

鈴木さん:苦労の連続でしたね。「アルムナイとの関係を構築しましょう」では伝わるわけもなく、まず「アルムナイってなに?」に対するご説明から始めないといけません。

どのようにアルムナイの認知拡大を図ったのですか?

鈴木さん:まず「退職したアルムナイと企業の双方にメリットがある」というアルムナイネットワークの特性上、法人向けサービスとしての展開を見据えていました。

さらに、従来の日本の雇用市場には存在しなかった文化を浸透させる必要があるうえ、日常的なワークフローを改善するツールではないため、企業・退職者双方に行動変容を促さなければなりませんでした。

そこで事業を成長させるために2つのポイントを意識しました。1つは、広報活動に力を入れたこと。もう1つは、システムだけではなくコンサルティングや運用代行を含むプロフェッショナルサービスも提供することです。

まず、企業とアルムナイがつながる価値、そしてのつながりを作るためにアルムナイネットワークやコミュニティが重要であることを理解してもらう必要がありました。

企業には「アルムナイって企業風土とか社内のことも理解してくれているから即戦力なうえに、社外での経験や情報、異文化も持ち込んでくれるから、すごくいいよね」と認識してもらわないといけないし、アルムナイには「古巣とも、アルムナイ同士でも、つながり続けられる仕組みがあったらいいな」と意識してもらわないといけない。実はアルムナイの中には「社内にいたときは外のことを知らな過ぎて隣の芝が青く見えていたけど、外に出てみたら本当に良い会社だったとわかって、『転職するんじゃなかった』と思うこともある」と言う人も少なくないんですよね。

退職で関係が切れてしまっているからこそ、つながれたらお互いにどんなメリットがあるのか想像していない。そして、つながっていないから、会社側はアルムナイ側の考えや気持ち、アルムナイ側は企業側の考えや気持ちを知らない。想像を広げたり、お互いの考えや気持ちを知ってもらったりすれば、アルムナイの価値を必ず理解してもらえる。そのように考え、片っ端から事例を集めて地道な広報活動を展開しました。

また、今までの雇用慣習とは異なるために、会社側からもアルムナイ側からも否定的な意見や非協力的な人も出てくることは想定していましたし、そのような状態では重要性がわかっても、実現するのは簡単ではないと理解していました。そのため、システム開発はもちろん重要で多くの投資をしていますが、システムを提供して終わりにするのではなく、同時に優れたメンバーでコンサルティングや運用代行を提供するチームを構築して、プロフェッショナルサービスの提供を進めていきました。

最初のころは日中はずっと外出して、人事担当者やアルムナイにご説明したりヒアリングをしたりして、夜にオフィスに戻ると開発部隊とディスカッションの毎日。自分が想像していたテック系スタートアップとは思えない地道な仕事ばかりでしたね(笑)。

頭も体もひたすら動かす!という日々だったんですね。営業はどのように展開されたのでしょうか?

鈴木さん:人事領域が長かったため人事部門の責任者に知り合いが多く、まずはこうした知人の企業にコンタクトを取って商談の機会をいただくなど、リファラル営業に近い形で少しずつ事例を作っていきました。

そして、先ほどお話しした地道な広報活動が少しずつ成果として現れ始め、ある程度の段階で一気に認知が変わってきて、現在ではお客さまからのお問い合わせが大半を占めています。

新しい文化を創り出す“ホワイトスペースビジネス”にチャレンジして痛感したこと。

プロダクト開発には相当なイニシャルコストがかかると思いますが、開発資金はどのように工面されたのでしょうか?

鈴木さん:自己資金500万で創業しましたが、しばらくはその資本金のみで開発を進めました。

資金調達を検討されなかったんですね。

鈴木さん:なにしろ日本全体が「アルムナイって何なの?」という状態で、ホワイトスペースから構築したサービスなので市場自体が存在せず、当時の私は「外部の力を使わず自力で行こう」と決めていたんです。知り合いから声をかけてもらったりもしていたんですけど、「今後も外部からの出資は受けない」と言い張っていましたからね(笑)。

当初は自己資金だけで乗り切ったんですね。出費がかさんでしまい苦境に陥る起業家が多いですが、鈴木さんはどうやってコストを抑えたのでしょうか?

鈴木さん:弊社は私と共同創業者の2人で始めた会社ですが、共同創業者は自分の会社を運営していて、「しばらくは役員報酬を抑えても構わない」という条件で引き受けてくれたんです。私自身もある程度の蓄えがありましたので、会社設立から3年間の役員報酬は生活ができる最低限の水準まで徹底して下げていました。

それから弊社の開発チームはフィリピンに置いていて、代表からエンジニアまですべて現地の人間で構成しています。現地代表は大学教授と兼業していますので、共同創業者と同じように当初の報酬を抑えられたことと、当時は日本と比べてフィリピンのエンジニアの人件費が安かったことも功を奏しました。

そのようにコストを抑えながらも、創業した年の年末に公庫で融資を受け、創業から10か月後にはエンジェル投資家数名から投資していただきました。それを含め、創業から大きく分けて4回にわたって資金調達を行っています。

そうなんですね。4回の資金調達に関しても少し詳しく教えていただけますか。

鈴木さん:最初に個人のエンジェル投資家やベンチャーキャピタルなどからの投資を受け、その後に大枠のビジネスが固まった段階での調達が5,000万円ぐらい。その後追加2回で今までに合計約4億円の資金調達を実施しています。

はじめは外部からの資金を入れないと思っていたとのことですが、途中で方針を変更されたんですね。資金調達をしようと決めた理由を教えていただけますか?

鈴木さん:少しずつアルムナイの認知が上がるにつれて、弊社のポジションを確立し先行優位性を活かすためには、先行投資としてまとまった資金が必要になったからです。加えて、私の限られた知見で進めるより、ベンチャーキャピタルをはじめとする株主にも支援してもらったほうがいいと判断したことが大きかったですね。事業計画と資本政策を考えたうえで、創業1年ぐらいの時期には上場を目指した方が良いと判断し、資金調達を進めています。

事業環境の変化や、ご自身と会社の成長を見据えて総合的に判断されたんですね。御社の成長段階に応じた資金繰りは、認知拡大を狙いながら事業を進める多くの起業家のヒントになります。

鈴木さん:特に弊社と同じように、世の中に前例のない事業を展開する方々は、最初はあまり資金調達をあてにしないほうがいいのではないかと思います。海の物とも山の物ともつかない事業に「投資するよ!」と言ってもらえるまでには時間がかかることが多いので、ある程度の資金を準備しておいたほうが事業運営に集中できると思います。

夢は大きく、準備は手堅く。起業を成功させるために重視すべきマインド。

起業前にやっておいてよかったと思うことはありますか。

鈴木さん:前職との関係性をしっかり作っていたことですかね。退職するときも業務の一部を業務委託として任せてもらえたのも精神的に大きかったですし、前職の同僚がお客さまを紹介してくれることもあって。起業をすると決めてからどうこうできることでもないですけれど、良い関係性でいられることは大切だと思いました。

では最後に、鈴木さんが事業を運営するにあたって、大切にしているマインドについて教えていただけますか?

鈴木さん:「ムーミンシリーズ」に登場するリトルミーの「Hope for the best and prepare for the worst」という言葉がすごく好きなんです。弊社の事業の特性や私自身の考えに合っているんですよ。

起業家である以上、自分の理想を描きながら「こうなったら最高だ!」と常に希望を持ち続けるべきだと思っていて。起業家は誰もが大きな風呂敷を広げてほしいし、綺麗事を言ってほしいし、「現実として実現するんだ!」と強い意思を持って貪欲にチャレンジしてほしいんです。

なにしろ起業家の道は、不可能への挑戦みたいなところがあるじゃないですか。だからこそ、「自分の事業によってこんなふうに世界が良くなるんだ!」とベストをイメージし、それをずっと追い続けることが大事なんじゃないかなと。私はそうやって試行錯誤しながら継続した結果、まだ事業が軌道に乗ったとは言えないですが、理想に向かって挑戦を続けられる環境にいますし、その理想に少しずつ近づいていると感じています。

ただし、その理想を具現化するにあたって、ただただ闇雲に「こんなふうにやってみよう!」と繰り返していたら、今の私も会社も存在しませんでした。大きな夢を見るためには最悪に備えた戦略が大切なんです。

なるほど、だから「Hope for the best and prepare for the worst」なんですね。

鈴木さん:そうなんですよ。常にベストを望みながら、並行して「最悪の場合、どれくらい無風状態が続くか?」といったワーストに備えてしっかりと対策しておく必要があります。

成功するためには大きく夢を見る。だけど、生き残るための準備は手堅く。どちらも起業家にとって不可欠な要素だと思っています。

取材協力:創業手帳

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