子育て中の素朴な疑問から生まれた”深夜起業”。急成長を遂げた秘訣は?

起業時の課題
人材確保、維持、育成, 仕入先確保, バックオフィス業務

創業当初よりメディアでも取り上げられ、おもちゃ業界に新風を巻き起こしている、知育玩具のサブスクリプションサービス「トイサブ!」。

「トイサブ!」を運営する株式会社トラーナ代表の志田典道さんは、エンジニアとして働いていた会社員時代に副業としてこのサービスを始めました。経験のない業界でも迷わず一歩を踏み出す軽やかさや、周りを巻き込み事業を大きくさせる人間力は、どのように培われてきたのでしょうか。起業家にとって大切なマインドや成功へのヒントを学びましょう。

会社プロフィール

業種 IT関連(プラットフォーム型サービス)
事業継続年数(取材時) 8年
起業時の年齢 30代
起業地域 東京都
起業時の従業員数 0人
起業時の資本金 500万円

話し手のプロフィール

志田 典道
株式会社トラーナ 代表取締役
1983年生まれ、4児の父。大学在学中にWeb制作会社を創業。事業譲渡後、複数の外資系IT企業でエンジニア、プロダクトマネージャ等の事業経験を経て、株式会社トラーナを設立。

目次

子育て中に感じた違和感をビジネスに。

事業概要についてお聞かせください。

志田さん:株式会社トラーナは知育玩具のサブスクリプションサービス「トイサブ!」を提供している会社です。「トイサブ!」は、お子さんの成長や発達に合わせて個別に5~6点のおもちゃを選定し、2か月に1度お届け・交換し、月額でお支払いをしていただく仕組みになっています。

お届けしたおもちゃは、2か月ごとに継続か交換か買い取りかを選んでいただけますし、1つだけ交換、全部交換というように自由にカスタマイズしていただけます。

お子さんの発達を一番に考える親御さんや、育児と仕事に奮闘する親御さんにぴったりのサービスですね。知育玩具事業を始めたきっかけは何ですか?

志田さん:私自身が子供のおもちゃを買いに行った際に、強い違和感を覚えたんです。というのも、家電量販店に昭和の時代から変わらぬおもちゃがずらっと並んでいて、「古いな、こうじゃないような・・・」と。一方で、端の方の棚に並んでいた知育玩具を見て「子供の発達に良さそうだ」と感じたものの、購入には二の足を踏んでしまったんです。「うちの子は、本当にこれで遊ぶだろうか?」と迷ってしまったんですね。

小さいお子さんは、すぐに成長し、興味関心も移り変わっていきます。とはいえ、成長に合わせたおもちゃを揃えるのは大変です。そんな親御さんの考える手間を省き、ベストなおもちゃを届けることでその悩みを解消したいと考え、このサービスを始めました。

当時、日本でサブスクリプションサービスという概念はあまり浸透していませんでしたが、私は外資系の会社で働いていたこともあって、世界の潮流を知る機会にも恵まれ、サブスクリプション型のビジネスモデルなら知育玩具と相性が良いのではと思いました。

私自身は、おもちゃ業界に関わる仕事をしたことはありませんでしたし、実は「トイサブ!」のサービスサイトを立ち上げたときはまだ会社員をしていたんです。起業したい、という気持ちもあったわけではなく、たまたまおもちゃ業界への素朴な疑問を解決したいと思ったのがきっかけなんですよね。副業にも寛容な会社でしたので、周りにも事業を始めることは伝えていました。事業が軌道に乗るかどうかなんて全く読めませんでしたが、自分でサイトを作り、手元の自己資金を資本金にあてて、資本金500万円で、法人登記も同時に行いました。

副業から始めたんですね。個人事業主ではなく最初から法人としてスタートした理由があれば教えてください。

志田さん:一般消費者向けサービスは、ブランドとしての信頼やイメージも大切なので、法人格としてスタートしたいと考えました。事業を始めようと思ったときから、1人でやるスモールビジネスではなく、拡大を視野に入れていたというのもあります。

週末起業ならぬ「深夜起業」?会社員との二足の草鞋をどう乗り切った?

会社員の傍らサービスを開始されて、最初はどのように事業を進めて行かれたのでしょうか。

志田さん:「とりあえずやってみよう」という気持ちで始めたので、集客のための活動は積極的には行っていませんでした。まずはサイトを作って、お客さまが来るのをぼーっと待ってみてたんですが、なかなかそれだけではお客さまは来なかったですね(笑)ただ、創業直後にプレスリリースを出し、『日経MJ』に掲載されたこともあってか、次第に1件、また1件と注文が入るようになったんです。受注メールが届いたら、帰宅後に仕入れ・梱包・発送・カスタマーサービス対応などを1人でこなしていました。

徐々に依頼が増えてありがたい反面、帰宅後の作業は本当に大変でした。あるときから1人では作業が追い付かなくなって、近所の知り合いの方にまで手伝ってもらうなど、大忙しだったことを覚えています。

さらに手に負えなくなり、ついには姉に泊まり込みで手伝ってもらいました。当時はコンビニから発送していたので、100サイズの大きな段ボール箱を30箱ほど台車で運んで、朝5時に姉と「今日もなんとか終わったね」と互いをねぎらい合う、ということもありました。

まさに嬉しい悲鳴ですね。

志田さん:コンビニの店員さんはめちゃくちゃ嫌そうな顔をしていましたけどね(笑)。このように、日中はサラリーマンの顔をして、夜は「トイサブ!」の業務を必死にこなす日々でした。「週末起業」ならぬ、「深夜起業」ですね。次第に自宅では在庫がおさまらなくなり、マンションの一室を借りたタイミングで退職しました。

メーカーからの調達を試みるも相手にされず…仕入れの課題はどう乗り越えた?

定期的におもちゃが届くサービスということで、ある程度の在庫を抱える必要があるかと思います。創業期の仕入れはどのようにされていましたか。

志田さん:創業期における在庫の調達は、まさに手探りの状態から始まりました。メルカリなどのフリーマーケットアプリに始まり、Amazonや楽天、家電量販店、トイザらスなど、ありとあらゆるネット通販や店舗でおもちゃを買いました。1つの品番が数十個単位で必要になるため、ネット通販サイトで品切れになってしまった商品に関しては、実店舗に足を運んで、「この型番のおもちゃを全部ください」という勢いで在庫を確保しました。

それでも在庫不足は解消されなくなってきて、おもちゃの卸業者さんやメーカーさんに直接コンタクトを取るようになりました。しかし、ここで大きな壁にぶつかることになります。ビジネスでの仕入れだから売ってもらえるものだと思っていたんですが、そう簡単には売ってもらえなかったんです。

メーカーさんも喜んで対応してくれそうなイメージですが、そういうわけでもなかったんですか。

志田さん:はい。子供向けおもちゃの産業は、古くからのつながりがかなり強かったんです。メーカーさん・卸業者さん・問屋さんが一体となって取引をしていたんですね。その関係性の中に私たちのようなスタートアップ企業が割って入る余地がなくて。

特に障壁になったのが「無店舗経営」という点でした。当時の子供向けおもちゃ業界では、店舗を保有しているかどうかが重要な取引条件の1つとされていたんですよね。今でこそおもちゃ産業の経営者層が30代から40代で構成されることが多くなってきていますが、私が事業を始めたときは、もう1つ上の世代が中心だったんですよ。そのような背景もあり、「おもちゃはお店で売るもの」という常識が根付いていたんですね。

まして創業当時は、「サブスクリプションサービス」という概念も今ほど浸透していません。調達を試みても、メーカーさんにも相手にしてもらえませんでした。

そのような状況の潮目が変わったのは、どのタイミングだったのでしょうか?

志田さん:1つはメディア露出がきっかけになった感覚はありましたね。先ほどもお話ししたように、『日経MJ』に「トイサブ!」のサービス概要が掲載されたり、テレビ東京の『ワールドビジネスサテライト』に出演したりと、徐々にメディアに取り上げてもらったのが大きかったと思います。

もう1つはコロナ禍でした。日本中の百貨店や商業施設が一斉に営業自粛に追い込まれ、それらを主要な販路としていた多くの業界が大打撃を受けました。店舗販売に注力していたおもちゃ業界も例外ではなく、「百貨店が閉まるなんて。これからどうなるんだろう」という声が多く聞かれるようになりました。

一方で、「トイサブ!」は自宅での親子時間に焦点を当てたサービスなので、コロナ禍の「おうち時間を楽しもう」という社会全体の雰囲気が追い風となりました。業界の内外から当社への注目が高まり、前向きな反応も増えていきました。その結果、少しずつですが取引先も増えていったんです。

会社へ出資が集まるかどうかは代表が9割。投資家の共感を得るために工夫していることは?

創業期、法人の会計や決算処理はご自身でやっていましたか?

志田さん:はい。簿記・会計・経理の知識もほぼありませんでしたが、会計ソフトを使って自分で帳簿をつけていました。税務署の方に3時間ほど付き合ってもらって一緒に税務申告をしていたこともありました。訂正印ばかりで、申告書はぐちゃぐちゃでしたよ(笑)。

ただ、やはり申告に必要な証憑の作成や申告の進め方については、専門家にお願いした方が確実性も高いので、ある程度売上が立ってきた3期目から税理士さんにお願いするようになりました。

自己資金のみで運営されてきたところから、資金調達をするようになったのはどういった経緯があってのことだったのですか。

志田さん:周りの方から、「もっと『トイサブ!』を大きくしていけばいい、そのために資金が必要なら出すよ」とおっしゃっていただいたことがきっかけで、資金調達を行うことを決めました。資金調達は過去4回行っていて、投資と銀行融資も受けています。

最初の資金調達は、当時のお客さまと私の知人に出資依頼をしました。その後、事業が伸び、近しい人だけではなく外部企業からの出資も受け入れていくようになりました。出資いただいたお客さまや知人、ベンチャーキャピタル、事業会社のご担当者さまは応援者として当時も今も心強い存在です。銀行とは日頃の取引から発展し、通常の長期融資と異なるスキームを担当される方とつながっていきました。

投資を集める際、意識していることがあれば教えてください。

志田さん:会社のビジョンである「幸せな親子時間を増やそうぜ」のメッセージは必ず伝えています。

一言の短い言葉ではありますが、そこに賛同できる方と一緒にトラーナを大きくしたいと思っています。また、投資には必ずリターンを出さなければならないので、考え得るシナリオを詳細にお話しします。

会社への出資は、代表に投資するのか、事業に投資するのか、会社に投資するのか、とフェーズが変わっていくものです。

会社で実現したい世界観とリターンのシナリオをお話しし、どのくらいの投資家がYESと言ってくださるのか、可否は代表が9割です。会社に投資するフェーズでも代表が可否の9割というのは矛盾するようですが、そのくらいの自己責任意識が無ければ投資は集まりません。代表取締役だからこそできる役割を楽しみながら、投資家とコミュニケーションするよう心がけています。

従業員満足度96%以上!人材育成、マネジメントのツボを押さえた経営とは。

従業員を雇うようになったのはどういったタイミングでしたか。

志田さん:サービス開始より1年ぐらいからパートタイムの方に手伝ってもらうようになり、初めて正社員を採用したのは4年経ったころでした。現在は、正社員が40名弱、パートタイムの方が200名ほどです。今では税理士も監査役もいるので、創業期と比べ物にならないぐらい、盤石の経営体制になりました。

コーポレートサイトを拝見すると、96%以上の方がトラーナで働くことを勧めたいと回答するなど、従業員の方の働く満足度がとても高いことがわかります。

志田さん:ありがとうございます。弊社の離職率はとても低いのが大きな特徴です。パートタイムの採用を始めたころから現在に至るまで勤めてくださっている方もいます。引っ越しで通勤できなくなった方がリモートで働きたいと言ってくれることもあります。

それはすごいですね。どのような工夫をされていますか?

志田さん:特に重視しているのは、定期的に担当者が実施している、従業員との1対1の面談です。さらに、いつもの表情とは違い、辛そうに仕事をしている従業員がいたら積極的に声をかけてコミュニケーションをしています。

出勤して、「しんどいな」と思いながらタイムカードを打刻するのって辛いじゃないですか。どうせ働くなら「よし、やるか」と前向きな気持ちで働けるよう、「タイムカードの打刻が嫌にならない会社」を目指しています。

志田さんが経営者として参考にしている人はいらっしゃいますか?

志田さん:なんとなくではありますが、私は「日本マクドナルド」や「日本トイザらス」の創業者でいらっしゃる藤田田さんのあとを追いかけているような感覚があります。私も学生時代にマクドナルドでアルバイトをしていて、今はおもちゃに関するサービスをやっているという点も、どこか似ているなと。

特に、マクドナルドでのアルバイト経験から、どんな雇用形態の方も会社にとって大切な存在だと学びました。マクドナルドはアルバイトやパートタイマーがいないとお店が回らないので、しっかりしたトレーニングシステムや評価システムが整っているんです。その知見を自社にも取り入れています。

なるほど。だからこそ従業員の方々もイキイキと働けるんでしょうね。それでは、未知の領域に挑戦する志田さんのパイオニア精神の原点は、どこにあるとお考えですか。

志田さん:実はこれまであまり話したことがないんですが、中学生のころに読んでいた『カイジ』という漫画の影響を強く受けているかもしれません。ピンチに陥っても自分の力で道を切り拓いていく主人公の姿に、当時の私はすごく勇気づけられていたんですよね。

その影響もあってか、高校生の頃にはある意味“アンチメジャー”精神と言いますか、それこそ音楽のジャンルで言えばパンクロックやハードコアに傾倒していた時期もありました。振り返ると、私のパイオニア精神の根源はそこにあるのかな、と感じますね。

そうだったんですね!とても興味深いです。

志田さん:ビジネスには「手堅く、再現性の高いビジネス」と「新しく、再現性の低いビジネス」の2つのタイプが存在します。リスクを考えると当然「再現性の高いビジネス」の方が絶対に良い。しかし、本当に売上が立つかどうか、利益が出るかどうかわからない勝負と向き合う場面ってあると思うんですよね。特に新しい文化を作り時代を切り拓いていきたいなら、どうしてもそのリスクと戦う必要があると感じています。

私も大人になりましたし、今はこれだけ規模の大きくなった会社を経営する立場からすると、常に現状の価値観や常識を超えたビジネスを追求するのは簡単なことではありません。しかしその一方で、私が持っているパイオニア精神の原点は、まさにこの漫画にあると感じています。

「幸せな親子時間を増やそうぜ」社名に込めた社会貢献への想い。

社名を「トイサブ!」ではなく「トラーナ」とした理由や、社名の意味を教えてください。

志田さん:「トラーナ」とは、ヒンドゥー語で「鳥居」を意味します。私が通信業界のエンジニアとして働いていたころに仲良くなったインド人の友人たちから、「トラーナ」がヒンドゥー語で神聖な意味を持つ言葉であることを教わりました。

鳥居は、私にとっても大きな意味を持つものだったんです。私の曾祖父は山形県で国会議員を務め、川の氾濫に悩む地元住民のために奔走し、大きな功績を残しました。その功績が讃えられて、地元には今でも曾祖父の名前が刻まれた鳥居が立っています。その曾祖父への敬意や、曾祖父のように社会貢献したい、という想いを社名に込めました。

創業当初から、「幸せな親子時間を増やそうぜ」をビジョンとして掲げ、おもちゃのサブスクリプションサービス以上の事業展開も見据えていたので、社名を「トイサブ!」にしなかったという理由もあります。

素敵なエピソードですね。現在注力していることや、今後の展望について教えてください。

志田さん:「トイサブ!」サービス開始当初は単純に月齢、年齢別におもちゃを選定していました。しかし、子供の発育状況や興味関心はそれぞれ違います。そのため、私たちはお客さまからのご意見を大切にし、データも活用しながら、1人1人のお子さまの発育に合わせたおもちゃが届くよう、サービス改善を繰り返してきました。これからも、選ばれ続けるサービスになるよう、その精度を高めていきます。

さらに今後は自社開発の製品にも力を入れ、幸せな親子時間を増やすためのサービスを強化していきたいです。

自社製品としては、現在おもちゃのプライベートブランドも展開しています。これまで「トイサブ!」を通じて集まったお客さまの評価を基に、耐久性やメンテナンス性も徹底して追求したブランドです。

従来のおもちゃ市場においては、メーカー側の意向ばかりが商品に反映され、お客さまの声を集めて商品開発されることは少なかったんです。一方で私たちのもとには、これまでに多くのお客さまからいただいた声という資産があります。多様なご意見がありますが、私たちは「あらゆる人は正しい」という価値観のもと、お客さまの声を大切にし、その想いや背景を想像しながら対応していきます。

「トイサブ!」から派生した新しいサービスも拡大させていく予定です。直近では、親子教室の通信教育版のような新事業をスタートさせ、親子が一緒に成長できる場を提供しています。

幸せな親子の時間を増やし、社会に貢献する。そのために、私たちはこれからも邁進していきます。私たちのビジョンとミッションに共感し、支えてくださる皆さまとともに、一歩一歩前進していきたいと思います。

取材協力:創業手帳
インタビュアー・ライター:間宮 まさかず

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