CAから起業家に転身。事業立ち上げに失敗した経験が、私を原点に立ち返らせた。

起業時の課題
事業計画/収支計画の策定, 集客、顧客獲得, 製品/サービス開発, マーケット・ニーズ調査

株式会社STYLECは、研修事業やメンズスキンケアブランド「ROGEN(ロージェン)」の事業などを通じて、ビジネスに取り組む男性ビジネスパーソンを支援する事業を幅広く展開されています。

代表取締役の八木理恵さんは新卒で客室乗務員(以下、CA)として全日本空輸株式会社に入社され、機内でのとある体験をきっかけに国際イメージコンサルタントとして独立されました。しかし道のりは平坦ではなく、手痛い失敗も経験されたそうです。そして現在では、男性のビジネスパーソンをメインにイメージ向上のサポートをされています。

今回は、そんな八木さんに個人事業主から事業を拡大し法人化に至るまでのストーリーや、化粧品事業を拡大していったプロセスなどをお伺いします。

会社プロフィール

業種 サービス業(その他)
事業継続年数(取材時) 2年
起業時の年齢 40代
起業地域 大阪府
起業時の従業員数 1人
起業時の資本金 300万円

話し手のプロフィール

会社名
株式会社STYLEC
代表
八木 理恵
株式会社STYLEC代表取締役
大学を卒業後、全日本空輸株式会社のCAとして勤務。退職後、アメリカ本部の国際イメージコンサルタント協会(AICI)の試験に合格し、イメージコンサルタント・講師として独立。約10年の個人事業主を経て、法人化。印象管理の視点からメンズスキンケアブランド「ROGEN(ロージェン)」をリリース。サービス×プロダクトでビジネスパーソンの印象向上やブランディングのサポートを行っている。

目次

夢だったCA時代に学んだ“ホスピタリティ”が、いまの事業の発端

現在の事業内容を教えていただけますか?

八木:研修・セミナー、イメージコンサルティング、エアラインスクール、化粧品の企画・販売の4つの事業を行なっていますが、中でも男性ビジネスパーソンの印象向上をサポートするための事業をメインに展開しています。特に力を入れているのが、セミナー事業と化粧品事業です。

セミナーと化粧品の企画・販売を両方手がけているのは珍しいですね。

八木:どのように男性ビジネスパーソンの印象向上ができるか、と考えたときに、ビジネスパーソンの身だしなみを啓蒙するセミナーと、スキンケア商品販売の両方を手がけることで、シナジーを生むことができると思ったんですね。ですから、セミナー事業と化粧品企画・販売事業はどちらも欠かすことができません。

八木さんは、もともとCAとしてキャリアを積まれていらっしゃるんですよね。昔からCAに憧れを抱いていたのですか。

八木:はい。小学校1年生のときに人生で初めて飛行機に乗り、そのときに出会った女性のCAの方がとても素敵だったんです。私に微笑みかけながらキティちゃんのポシェットを優しくお土産としてかけてくださって。そのときのことは今でも覚えています。そのときに乗ったのが海外便だったので、海外にお仕事で行けることも魅力に感じました。そこからはずっとCA志望です。

CAになるために、大学3年生のときにはエアラインスクールにも通っていました。そこで学んだ内容は今でもセミナーなどで直接役立っています。

子供のころからの夢を叶えられ、晴れてCAになったんですね。

八木:はい、実務や研修を通して、接遇のスキルを徹底的に磨くことができました。立居振る舞いだけではなく身だしなみも重要なので、メイクの仕方についてのレッスンもあり、先輩たちから指導を受けていました。

指導の中で何か印象に残っているものはありますか?

八木:入社した初日に研修所でお手洗いに行ったんです。先輩のトレーナーが中にいたのですが、その先輩がお手洗いの手洗い場を使った後でサッと拭いたんです。「そこまでするんだ」と非常に驚き、私が先輩を見ていると、その先輩が「後で使う方のことも想像できないと、お客さまの対応なんてできないですよね」とおっしゃって、「なるほど」とまた感銘を受けました。

それくらい、CAはお客さまのことを考え、もてなすことにかけては徹底しています。CAを長年やっていくと、だんだんそうしたことも当たり前になっていきました。お客さまからお褒めの言葉をいただいても、「これくらい普通のことなのに、これでお褒めいただけるなんてありがたい」と逆に思うようになっていきました。

当たり前のレベルが高い環境だったんですね。

八木:そうですね。職場は魅力的な先輩が多く、身近な方から日々学べるため、お客さまに対する接遇術のレベルは自然と上がっていったように思います。厳しい指導にも感謝しています。非常にありがたかったです。

「男性の“印象”を向上させ日本の経済発展を!」憧れだったCAを辞め、起業を決意

CAになる夢を叶え、CAとして順風満帆に勤務されていたのだと見受けられますが、いつごろから方向転換されたのでしょうか?

八木:まだCAとして働き始めてすぐのころ、東京から大阪に行く夕方のフライトに搭乗したときのことです。アメリカ人の男性ビジネスパーソンの搭乗客の方が話しかけてきてくださって、日本のことやビジネスのことなどについてお話しいただきました。その方がものすごくカッコよくスーツを着こなしていらっしゃったので、感動しました。いかにも「できる」ビジネスパーソンといったイメージでした。すごくハツラツとしていらっしゃった。

一方で、日本の男性ビジネスパーソンはいかがでしょうか。全員がそうというわけではもちろんありませんが、そのフライトに搭乗していらした方々は、少なくともそのアメリカ人男性の方よりも、あまり身だしなみに気を遣われていなさそうな印象を抱きました。

私は昔から非言語コミュニケーションについてすごく関心があって、大学の卒業論文でテーマにしたくらいです。そんな私から見て、このアメリカ人男性と日本人男性の身だしなみ、非言語コミュニケーションの印象の差は日本全体にとっても大きな損失なのではないか、と仮説を立てました。

日本の技術やビジネススキルは世界的にも評価されていると常々感じていたので、印象の底上げをすれば、もっと日本は世界で存在感を発揮できるのではないかと考えていました。

確かに、日本のビジネスパーソンはそこまで身だしなみに気を遣っている印象はないかもしれません。

八木:ずっとそのときの体験が心に引っかかっていました。また、私自身CAになる夢を叶えてしまったので、逆に「何かやらなければいけない」という思いが湧いてきたんですね。CAになってすぐのころから、いろいろなお稽古事をやるようになりました。当時、CAで定年まで勤め上げた人が少なかったのと、私自身ずっと何かの活動を続けていきたい性格であったことから、次の職業の可能性をお稽古事をしながら探そうと思ったんです。

そんな中、ある社外のセミナーで国際イメージコンサルタントとして日本の第一人者でいらっしゃる先生に出会いました。先生の講座を受けて、「国際イメージコンサルタントになれば、私が感じていた日本のビジネスパーソンの課題を解決できる」と気付きまして。その方は、グローバルに活躍されるビジネスパーソンや政治家の方、就職活動中の学生の方など、さまざまな方々のイメージ向上をサポートしていました。「この仕事だ!」と思ってからは、すぐに資格取得の勉強を始めましたね。関西に住んでいたのですが、学校は東京にあったので、休日に勉強のために東京に通っていました。

「ビジネスパーソンの課題を解決したい」という思いから行動したんですね。

八木:そうです。私が社会に出た当時は働く女性がまだまだ少なかったこともあり、「日本の男性のイメージを向上させることで、日本のビジネスをもっと発展させたい」。そんな壮大なことを考えていました。1年間イメージコンサルタントの勉強を重ねて、国際イメージコンサルタントの協会の試験を受けようと思ったのですが、当時、試験はアメリカでしか受けられませんでした。ですが、試験日に有給休暇を取れない可能性がありました。ただ、その試験を逃してしまうと次の試験は1年後。どうしても早く資格を取得したかったので、躊躇しましたが、考え抜いた末、CAを辞めることにしました。小学生からずっとなりたかった職業だったので迷いましたけど、もう国際イメージコンサルタントになりたい気持ちを抑えられなかったんです。ありがたいことに試験には無事合格し、国際イメージコンサルタントとしての第一歩を踏み出せることになりました。

退路を断つ勇気がすごいです。国際イメージコンサルタントとしての資格を取得されてから、すぐに活動を開始されたのでしょうか?

八木:はい。試験合格後、友人や知人に紹介してもらって、少しずつですが、イメージコンサルティングの仕事を受けるようになりました。CAの先輩を通じて研修講師の仕事を紹介してもらったりもしました。研修事業ですから、在庫もないし固定費もかからない。低リスクで始められたのは良かったと思います。

独立して最初から紹介を受けられたのは、八木さんの信用があったからだと思います。CAの方同士のネットワークのようなものもあったのでしょうか?

八木:そうですね。CAの先輩や元同僚の紹介などからつながっていきました。本当にありがたいことに、広告や宣伝をしたことがなく、集客はすべて紹介によるものでした。大手企業の新卒採用のサポートを担当させていただく仕事も経験しました。

新規事業で手痛い失敗。そこで学んだこととは

順調に事業を拡大されていったんですね。

八木:個人事業は上手くいっていました。もともとビジネスのアイデアを考えたりすることも好きで、そのアイデアを試すチャンスをうかがっていました。

その一方で、2012年から大学でキャリアデザインの講師を続けていたこと、また、日本経済新聞さん主催のアカデミーの講師なども担当している中で、たくさんの学生さんと話してきました。その中で、やりたいことがあって才能もある学生の多くが、結局はやりたいこととはあまり関係のない大手企業に就職するケースを何度も見てきました。もちろん進路選択は、その人が正解にしていけばよいのですが、一方で、「もったいないな」と感じたこともありました。そういった学生が、適切に才能を発揮できる機会に巡り会えるように支援したいなという思いが強くなっていきました。

そこで私は、人材紹介事業を通じてそうした若者たちを支援できないか、と思い立ちまして。ただ、人材業界の経験が全くなかったので、当時関西のHR業界で有名だった方に相談に行きました。想いを理解していただけたこともあり、その方に人材面と資金面で支援してもらうことが決まり、事業を立ち上げました。

それは今の法人とは別の会社ということですか?

八木:そうなんです。正確には、完全に独立した形ではなく、相談しに行った方の会社の新規事業として立ち上げ、私がジョインした形にはなるのですが。私としては、男女関わらず若者の転職支援を行いたかったのですが、「まずは、八木さんの強みを生かしてみたら」とメンターの方にアドバイスをいただき、若い女性、特にCAからの転職を考える女性の転職サポートを中心に支援し始めました。

私が主に支援していたのは、20代後半から30代前半の女性です。しかしその年代って、ちょうど結婚や出産といったライフイベントが重なるんですよね。そこで、恥ずかしながら1年ほど成果が出せずにずっと赤字でした。

大変な時期があったのですね。

八木:どうしようかなと思い、とある人材会社の支社長経験者であったメンターの方に相談しに行きました。そうしたら、「ハイクラス転職したい人のイメージコンサルティングをやってみたら?」とアドバイスをいただきました。

そこでもう一度「自分の強みって何だろう」と考え直したときに、やはりそのメンターの方がおっしゃってくださったように、「イメージコンサルタントの仕事で得た能力を活かそう」と思ったんです。

人材紹介会社では、私は社員という立場にしていただいていたので、成果を出せていないことにはもがきましたが、最終的に代表にも相談をし、退職いたしました。

原点を振り返り、化粧品販売事業を開始

人材紹介事業を辞めて、セミナー事業を再開されたのでしょうか?

八木:そのときは単に個人事業主に戻るよりも、何かビジネスをする中で人を輝かせたいなと思っていたんですね。ちょうどメンズスキンケアが流行ってきていたこと、お客様からもオススメ商品について質問があったこともあり、プロダクト作りをやってみようと思い立ちました。ちょうどその時期に知り合った美容関連事業を展開されている社長の方に話してみると、「今の時代のニーズと合っているし、想いとも合致するから可能性があるんじゃないか」とご理解いただき、化粧品のOEM会社を紹介していただけました。

  • OEMとは…製品を自社で作るのではなく、委託先の製造企業に頼んで作ること。企画だけ持っていても自社工場がない小資本の企業などが、OEM先に商品の製造を委託するケースが多い。受託する側の企業をOEM企業と呼ぶ。「Original Equipment Manufacturing(Manufacturer)」を略してOEMと呼ばれる。

資金調達は「借りられるときに借りておいたほうがいい」

そこで化粧品販売事業をスタートされたのですね。経験が何もないところから立ち上げるのは大変だったかと思います。

八木:そうですね。化粧品作りについては本当に何もわからないところからスタートしたので、最初は「化粧品 作る 会社」と検索したところからスタートしたくらいです(笑)。

OEM会社の工場まで自分の足で何度も出向き、ペルソナの肌の状態について知るために多くの男性にヒアリング調査などをしながら、化粧品を作っていきました。

最終的に、「女性にはない男性特有の肌の悩みを解決したい」「ビジネスや人生を豊かにする一助になる商品を」という思いから、メンズスキンケア業界初の国際イメージコンサルタントが立ち上げた「オールインワンタイプの無添加オイルリッチローション」を完成させることができました。

“Road to Gentleman”を短縮して、「ROGEN(ロージェン)」というブランドネームにしました。ジェントルマンへの道をサポートしたいとの想いを込めた30歳からの、「本物」を知る男性のためのブランドです。

どのように販路を拡大されていったのでしょうか?

八木:PR TIMESのスタートアッププランを使い、毎月プレスリリースを積極的に発信していたこともあり、百貨店などのお客さまからお声掛けいただくことも多かったです。他にも、法人化前にりそな銀行と関西みらい銀行が共同運営している「ビジネスプラザ大阪」という創業スクールにも通っていたので、そのつながりで販路をご紹介いただくこともありました。

最近は百貨店や老舗の高級ホテルなどにも商品を置いていただけるようになってきましたが、まだまだこれからです。

資金調達などはされているのでしょうか?

八木:日本政策金融公庫などから借入しています。新型コロナウイルスが流行してきたころに、「借りられるときに借りておいた方が良い」といろいろな方にアドバイスをいただき、最初は400万円の融資からスタートし、その後1,000万円以上融資額を増やしました。研修事業のみであれば在庫もなく、それほど融資の必要性はなかったのですが、化粧品ビジネスは在庫もあるうえに、販売にかかる広告宣伝費など、思った以上の出費が続くこともあり、事業を継続し、安定させるまでは融資に助けられております。

でもそこで大きく融資を受けていなかったら、もっとピンチに陥っていたかもしれません。私はあまり資金調達などのファイナンス知識が少ない状態で起業してしまいましたが、起業前にもっと勉強しておけば良かったな、と今でも思っています。

何度もピンチを迎えられてきた八木さんですが、なぜそこまで頑張れるのでしょうか?

八木:仲間の存在やお客さま、ビジネスパートナーなど、人との関わりが大きいですね。そうした人たちの期待に応えたいと思うから頑張れるのだと思います。

あとは、やはり社会で輝く人の縁の下のサポーターでい続けたいという想いからでしょうか。

起業したい人へのアドバイスをお願いします。

八木:やりたいことがあるなら、まずはやってみていただきたいですね。やってみると大きな壁にぶつかることも多いのですが、意外とコツコツと行なっていることは誰かが見ていてくれて、助けてくださったり、何より、土壇場だと底力が湧いてきてなんとか乗り越えられる、ピンチがチャンスに変わることもあります。

人生は1回限りです。失敗できるうちにチャレンジしてみたら良いのではないでしょうか。人生は長いので、再チャレンジもできますしね。まずは一歩を踏み出し、諦めずにやり続けることが重要かなと思います。私もまだまだこれからですので、同じ起業家仲間の皆さんと共に頑張りたいです。

取材協力:創業手帳
インタビュアー・ライター:樋口 正

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